理事長に交渉を持ちかけてから一日が経った、今日も今日とて冷泉は奇異の目に晒されながらの授業を終える。
何でも先日、音ノ木が廃校になると発表された途端にショックでぶっ倒れた先輩が現れたらしい。このまま廃校の騒ぎが大きくなれば理事長も焦ってまともな判断が出来なくなるだろう。
冷泉は自席で、俺が海外バカンスをする日が近いと、顔に出さずに心の中で静かにほくそ笑んだ。
が、彼の思惑とは別に現状は急展開を迎えていた。
下校時刻も過ぎ、生徒も疎らになった教室で帰り支度を終えた冷泉は、少なくなったクラスメイトにバイバーイと別れを済ませて下駄箱へと向かう。
当然ながら、移動ルート上ロビーを通らなければならないのだが、そこには茶髪サイドテールの女生徒と、ふんわりした雰囲気の女生徒が掲示板に何かを貼っている最中だった。作業をしている女生徒二人をよく見れば、蝶ネクタイの色が赤、つまりは二年の先輩だ。
何の気なしに冷泉は、チラッと流し目で作業している内容を見る。
先輩達が貼っていた紙の内容は――――。
「……あの、『初ライブのお知らせ』ってコレ、なんすか」
「何ってスクールアイドルのライブだよっ! 今度新入生歓迎会でやるんだ!」
思わず声をかけてしまった冷泉に、茶髪サイドテールの女生徒……もとい高坂穂乃果が元気良く答えた。いやそんなのは分かっている。壁に貼られたプリントにデカデカと書かれた『初ライブ』の文字に、頬を引きつらせながら心の中で毒づいた。
「んなアホな……スクールアイドルって、確かこの学校には無かったはずじゃ」
「えっとね、スクールアイドルをすれば廃校をどうにかできるんじゃないかなって」
「は……まさか新学期始まってから結成したんすか!」
「うん」
ほんわかした雰囲気の先輩……南ことりがニッコリと笑って答えた。掲示板に貼られた紙をよく見れば『グループ名募集』と書かれている。新学期が始まってからって、まだ1ヶ月も経ってない日数なんですがそれは……行動力ありすぎィ!
(っつーかこっちの先輩どっかで見たことあるような……、いやそれよりも)
一人の先輩に既視感を覚えるが今はそれどころじゃない。先輩達が始めようとしていたスクールアイドルだが、ぶっちゃけた話、結果次第で廃校なんざどうにでもなる。
冷泉の考え得る中で、音ノ木を延命させるのに莫大な金を積む以外で一二を争う即効性がある手段。ソレがこれ、『学校から有名人を輩出する』。
高校進学を控えた中学生は思春期真っ盛りで、多感な彼らないし彼女らは周囲の環境にかなり敏感である。流行りそうな物を流行らせるのは、先輩や後輩や同級生に置いて行かれないよう常にアンテナを張っている10代前半の存在だ。
しかし流行を作るとは言えども中学生はまだ子供、情報を取り込んだは良いが上手に捌けず、逆に情報にいいように操作されるのが関の山。
だからこそ、中学生というのは大体が目先の物に流されているケースが多く、将来について明確なビジョンを抱いていない。親の跡を継ぐと言った見据えた将来設計を建ててない限り『有名人のいた音ノ木のような一般学校を選ぶ中学生が多くなる』だろう。
そうした話題作りに打って付けなのが、高校生なら誰でもなれる憧れの存在『スクールアイドル』なのである。スクールアイドルと言えば大成功したアライズを要するUTXがあるが、あっちは競争率がかなり高いと聞いた。もしも音ノ木でスクールアイドルが成功したなら、UTXを受けるのに自信が足りない生徒はこっちに流れてくるだろう。
ま、つまりだ、長すぎるので纏めると、彼女達がスクールアイドルとして成功すると冷泉の計画がパーとなる。だから彼は渋い顔をしたのだ。ヤベェよヤベェよ……どうする……。
「クッソ……マジで……いやでも、スクールアイドルなんてよく学校側が許可出しましたね……」
「実はまだ正式な許可は下りてないんだけどねー」
穂乃果があははと苦笑いで誤魔化すが、それとは対照的に「あぁやっぱりか」と少しだけ安心する冷泉。
彼は事前の下調べで、以前に音ノ木でスクールアイドルをやろうとした生徒の存在を知っているし、自然消滅したのも知っている。だからスクールアイドルをやろうとしても、学校が二の轍を踏まないように許可を出さないだろうと考えていたのだ。最も、反対しているのは生徒会長ただ一人だけだが。
「へー、まだ許可下りてなかったんすか、の割りに準備は着々と進んでるみたいですけど」
「うん、穂乃果ちゃんがやるって決めたからね」
「そうだよっ! スクールアイドルやるったらやるの!」
「そ、そうっすか……」
鼻息荒く意気込む穂乃果と、もう穂乃果ちゃんったらと微笑むことり。
この先輩二人は行動力が鬼のようにあるが、あまりにも楽観的で計画性が無さ過ぎる。廃校寸前の音ノ木を持ち直せるまでの逸材にはならないだろうと冷泉は判断し、安心してその場を離れることにした。
「そうっすか、許可下りたらいいですね、じゃ俺はこれで」
「うん! 絶対見に来てね!」
「予定が入らなければ見に行きますよ」
見に行かない8割、見に行く2割という角の立たない便利な方便で返し、半ば安心したまま帰路に着く冷泉であった。
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しかし場面は再び急展開を迎える。
『冷泉忠介君、理事長室へお越し下さい』
後日の放課後、校内放送で呼び出しを食らって理事長室へと通された冷泉は、前に座ったのと同じソファに腰を降ろしていた。
「お待たせ、珈琲しか無かったけどいいかしら」
「あぁお構いなく」
給湯室に寄り道でもしてきたのか、湯気の立ったマグカップを片手に理事長が部屋に入ってきた。おかしいと訝しみながら、冷泉は珈琲に砂糖とミルクを入れてかき混ぜ、飲む。
冷泉と理事長の関係は冷泉の立場が強かったはずだ、普通なら二日前と同じく嫌な顔の一つでもするもんだが、その顔はどこか明るい。憂いを帯びた影が一つ二つ取れている感じだ。
「……本題に入りましょうか、俺を呼び出したのは先日の件ですよね?」
「えぇ、あれから色々考えたのだけれど、昨日ある有用な情報を耳にしてね」
「昨日……いや……まさか……」
「折角だけど、貴男の提案は飲めないという結論に至ったの」
「マジっすか!!」
聞けば昨日、理事長の娘さんから、音ノ木の男子生徒が掲示板の前で『スクールアイドル』に興味を示したと言う話を聞いたらしい。勿論、娘さんはことりで男子生徒は冷泉の事だ。
更に言えば、スクールアイドルの単語を聞いた瞬間かなり渋い顔をし、許可が下りてないことを話せばホッとしたとも付け加えたんだと。
その情報から推察するに、冷泉の中においてスクールアイドルは特別な存在ではと一夜で緻密に推理し、鎌をかけたのだ。 冷泉は見事に首を刎ねられたわけだが。
「痛いですね、これは痛い……。そうだ思い出した、掲示板前の先輩に既視感を覚える人物がいたと思ったら……アレって理事長の娘さんですか!」
「ご明察」
「片方は穂乃果と言う女生徒らしかったんですが、そっちじゃない方?」
「そっちじゃない方ね」
「やっぱ誰かに似てると思ったんだよなぁ……」
半分ほど減ったあまーい珈琲牛乳を飲みながら、背中を丸めて思考を張り巡らす冷泉。
「そこで私から提案があるの」
だが、先に口を開いて主導権を握ったのは理事長だ。
「提案っすか」
「えぇ、貴男が彼女達を、スクールアイドルをサポートしてくれれば、今学年は無理だけれど残り2年についてもう一度話し合いましょう」
折衷案だ。少なくとも音ノ木に一年は通い彼女達に助力すれば、残り二年は通学せずとも卒業証書は受け取れる……可能性が残る。
当然また一からの話し合いになるわけだから、これからの足場作りは考えただけでも怠くなるが、それでもこのまま意味もなく目的もない学院生活を送っても仕方ないだろう。
ふむむと少々思案する。
「……考えましたね。悪くない、悪くないですが良くもない、ベストじゃないけどベターって感じ」
「どうかしら?」
「ん~これ以上ごねて変に遺恨残すのもアレだし、ここらがターニングポイントっすかねぇ」
口約束ではあるが、二人の取引は『その場凌ぎの先延ばし』ということでお互い了承、そこそこ無難な結果で幕を引いた。
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「てことで今日から先輩達のサポートに回ることになった冷泉忠介です」
「嘘ォ!?」
「どういうことか全然分かりません!」
「お母さんから聞いてるよ、よろしくね~」
(先輩達キャラ濃いなぁ……)
次回のラブライブ!
「金!金!金! 金!金!金! って感じ」
「はえぇ~すっごいお金持ちなんだね……」
「どうして男なんですか……」
「ことりはぁ、こういう男の子も有りだと思いまぁす」
「イミワカンナイデッショー!」
※次回予告は内容とほぼ全部異なります。