「私が高坂穂乃果でー」
「私が園田海未で……」
「私が南ことりです、話はお母さんから聞いてるからね~」
放課後の屋上で、のほほんとした穂乃果、警戒心剥き出しな海未、にこやかで肯定的なことりと、二年生組が三者三様な感情を覗かせて冷泉と向かい合う。
「ども。ところであの、話を聞いてるってどこまで……」
「私はことりから『今日から人が増える』としか聞いていませんが」
「私も~」
「実はその、『詳しくは冷泉君に聞いて』って言われてて……」
「えぇ俺に丸投げ……あぁ、じゃあ一からやり直しましょうか」
ゔゔっん゙と咳払を挟んで一から自己紹介をし直す。
「俺は一年生の冷泉忠介です。帰宅部だった俺の学校生活を豊かにするため、今が旬のスクールアイドルをサポートしてはどうかと理事長から勧められました。よろしくお願いします」
と言って頭を軽く下げる。まるで食材を見繕いに来た料理人のような紹介の仕方だ。
しかし彼の入学理由を知る皆からしてみれば分かるだろう、当然彼の発言は嘘である。しかし、理事長はこれで口裏を合わせるよう指示してきたのでこの嘘を貫き通すしかない。
「てことで、他に何か聞きたいことあったらどうぞ」
「では私から……貴男はサポートをすると申し出てくれましたが、一体何をサポートする気なのでしょうか?」
警戒心強めに語気を強めて海未が聞く。
「何を……うーん、俺も具体的にあーしろこーしろって言われたんじゃなくて、とりあえず先輩達をサポートしろってだけ言われましたから」
冷泉は困った様に腕を組み思案する。理事長は何一つ抽象的な指示を出さず、かなり曖昧な指示を出したのだ。まぁガッチガチに制約されない口約束な分仕方ないのだが、一応は生徒と教師という立場らしく、自分で物事を考えて行動しろという意味も含まれているのだろう。
「スクールアイドルの練習内容なんてちょっとしか知らないし……当面は資金援助中心になりますかねー」
「資金援助!?」
「……言っておきますけど資金元は南理事長ですからね。スクールアイドルに関係してない物にお金は出さないみたいなんで、そこんとこ理解してくださいよ」
「わ、分かってるよーヤダなぁ」
真っ先に食い付いてきた穂乃果に釘を刺しながら制すが、勿論これも口裏を合わせた嘘である。
金の出所は冷泉からのポケットマネーだが、冷泉の両親はそこそこ有名な実業家であったし、冷泉自身も極一部では名の知れた資産家であったために、彼の名前で検索をかけられると一発で身元がバレかねない。『冷泉のお金はどこから出ているのだろう?』なんて疑問を持たれたら終わり!閉廷! 絶対面倒な事になるゾ。
……とはいえ、冷泉は彼女達の私生活面における援助も、ある程度はするつもりでいる。勿論それはスクールアイドル活動に支障を来さないようにとの配慮ではあるが、資金援助以外にバックアップする事の無い彼成りの誠意でもあった。
「勿論、スクールアイドルに関する勉強はこれからしますので、そっち関連も安心してください。……園田先輩これで良いですか?」
「そうですね、一先ずは良しとしましょうか」
特に角の立たない説明をする冷泉に、どこか釈然としない様子で頷く海未。ことり母からの推薦とは言え、父親以外の男という生き物に慣れていない海未からしてみれば、男を自分達の側に付けるのはそこそこ抵抗があったのだ。
現に名前を呼ばない辺りそのきらいが見え隠れする。
当初のラブライブにあった『歳の離れた弟』なんて設定は存在しないのだ。
最も、スクールアイドルをやっていく上でこれは致命的と言わざるを得ないような気がするが……。
「はいはい次は穂乃果! この後冷泉君暇でしょ? 親睦会も兼ねてファミレスでも行かない?」
「穂乃果!」
「良いじゃん海未ちゃん! これから一緒に頑張って行くんだし、仲良くなるのは大事だよ」
「分かりやすい人だなぁ」
「ダメ?」
「ダメじゃないですけど……」
正直、穂乃果のこの発言は読めていた。仲良くなるためと名目があれば、お金は理事長から出るだろうという非常に推察し易い行動原理であるが、仲良くなりたいから食事に行こうと言われると、冷泉はあまり強く出られないのだ。
というのも、実業家や株仲間と親睦を深める場合、一番心が弛まる食事会が会合先の鉄板だからである。
しかしサポートに徹すると言った手前ここで了承すると非常にまずい。
「確かに俺は暇ですけど先輩達時間無いんじゃなかったんすかね」
「あっ、それは……」
何がまずいって時間がない。ダンスの振り付けも曲も満足に仕上がっていない……どころか基礎体力すら全くない穂乃果達。
それに比べ、本番は一ヶ月を切っている。彼女達にとっては一日だって惜しいはずなのだ。
やはり冷泉が最初に会ったとき見抜いたとおり、穂乃果は楽観的で、心のどこかでどうにかなると思っている節があるようだ。
その証拠に、海未が『全くもう……』と言わんばかりに顔を片手で覆ってヤレヤレしている。
しかし今のやり取りで冷泉を常識人枠として認識し始めたのは確かだ、これで距離が縮まるのは時間の問題だろう。やったぜ。
「冷泉君、私からも質問いーい?」
「どうぞどうぞ」
「衣装作りに、生地とかボタンやリボンの雑貨を買おうと思ってるんだけど、これは資金援助に含まれるのかな?」
「あぁそれなら必要経費で落ちますよ。今度買った物のレシート見せに来てくださいね、使った分のお金渡しますから」
「はぁい」
これで質問は済んだと見た冷泉は、この後のスクールアイドル活動について、当たり障りのない質問をチョイスしてを聞いみる。
新入生歓迎会で披露する曲のダンスや歌の目処は立っているのか、とか、グループの名前は決まっているのか、とか、新入生歓迎会のライブが終わったらどうするのか、とか。
が、帰ってきた返事は酷く曖昧なものだった。曲は未だに無いが作れる人に心当たりはあるだの、グループの名前は決まってないけどお昼に募集をかけただの、新入生歓迎会が終わったらその後はその時また考えるだの。
まぁ最後を除けば、昨日の今日でスクールアイドルをやってみようとした人たちだ、当たり前と言えば当たり前である。
そこら辺も冷泉は、自分がサポート出来るようになれば先輩達の負担が減ると、時間の無さに一人だけ危機感を抱いている海未に内心同情していた。
その後は連絡先を交換し、後日穂乃果の家でミーティングを行おうと盛り上がってその日は幕を閉じる。
ちなみに出会って間もない男を家に呼ぶのは良いのかと聞いてみたが、無害そうなので問題ないらしい。この人の行動力と判断力は類い希なる物だと、最早呆れを通り越して感心するばかりの冷泉だった。
次回のラブライブ!
「どう? 曲のアイディア出そう?」
「出そうと思えば……」
「ホ、ホ、ホアッー!」
「誰がそんな発声練習しましょうって言いましたオォン!?」
「俺知ってるんですよ~生徒会長さんが必至になって廃校阻止しようとしてるの」
※次回予告は内容とほぼ全部異なります。