元資産家がμ'sに関与する   作:宇賀神

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やたら長くなっちゃったからどっかで齟齬が発生してるかも。
ペース遅い……遅くない?


四話目

 

 

「西木野、頼むこの通り!」

「ううん……」

 

音楽室で、ピアノの椅子に座った真姫に手を合わせて頼み込む冷泉。若干嫌そうな顔で髪の毛をクルクルと指で遊びながら足を組み、ジト目で冷泉を睨む真姫。

 

どうしてこうなったのか、事は前日まで遡る。

 

 

 

 

 ---------------------

 

 

 

 

「園田先輩、俺、高坂先輩の実家が和菓子屋なんて聞いてなかったんですけど……」

「聞かれませんでしたからね……何か不都合が?」

 

 二人は『穂むら』と木彫りの看板が掲げられた民家の戸口に立っていた。

 ここは穂乃果の実家なのだが、冷泉は一度近場のデパートに寄ってから、海未は部活が終わってからという事情が重なり、穂乃果に告げられた集合場所の高坂家にてバッタリ鉢合わせたのだが、冷泉には町名番地しか知らされなかったのが仇となり、デパートで買ってきたであろう紙袋の中身を覗いて渋い顔をしている。

 

「手ぶらで行くのもアレなんで手土産持ってきたんですけど、洋菓子買って来ちゃったんですよね……」

「随分としっかりしてますね。まぁそれなら問題ないと思いますよ、穂乃果なら間違いなく諸手を挙げて喜びますし」

 

 穂乃果は大らかな人柄だから気にするなと諭して、さっさと引き戸を開けて中に入ってしまった、冷泉も続いて入っていく。

 

「あ、あらいらっしゃい」

 

 中ではエプロンを掛けた一人の女性が売り物と思われる団子を頬ばっていた。オーラというか雰囲気で冷泉は見抜く、間違いない、この人高坂先輩の母親だと、果たしてその通りだった。

 

「こんばんは」

「お邪魔しまーす……」

「そういえばあの子、男の子が来るって言ってたわね。冗談だと思ってたのに……。その制服、共学になった音ノ木の生徒?」

「あ、はい」

「へぇ、男子高校生の制服なんて久々に見たわねー」

「えぇと、高坂穂乃果さんの後輩の冷泉です。あのこれ、和菓子屋に洋菓子っていうのもアレなんですけど、もしよかったら」

 

 学校の先輩で、しかも女性の家に上がる事など滅多に無い冷泉は、怖ず怖ずと言った様子で紙袋を高坂母に渡した。

 

「あら、ありがとう、気が利くのねぇ」

 

 どうやら洋菓子はセーフだったらしい。ホッと一息吐くと、海未に目配せして当初の用事を済ませようと促す。

 当初の用事……つまりスクールアイドル1stライブを成功させる打ち合わせだ。

 

「ところで穂乃果は……」

「上にいるわよ、あそうだ、お団子食べる?」

「いえ、結構です、ダイエットしないといけないので」

「あ、俺も大丈夫です、お構いなく」

 

 海未はキッパリと断ると、慣れた様子で『ほ』と書かれた暖簾の前で靴を脱ぎ、奥へと入ってしまった。他人の、しかも営業中している飲食店の奥に入るのに多少気後れしていた冷泉は、もう一度「お邪魔します」と高坂母に一礼し、靴を脱いで続いていく。

 暖簾の奥には裏口と玄関と階段があり、そこに靴置いてから二階へ上がって行くようだ。

 

「こっちですよ」

 

 既に靴を置いていたようで、先に階段を上っていた海未が、下にいる冷泉に声を掛けた。冷泉も靴を玄関に置き、そそくさと二階へと上がっていく。

 冷泉が来ると、海未はガラっと襖を開けた。そこでは下で高坂母が食べていたのと同じ三色団子を、緑茶を入れた茶碗まで用意して呑気に頬ばっていた穂乃果とことりの姿が。

 

「お団子食べるー?」

「今お茶入れるねー」

「あ、どうもありがとうございます」

 

 今度は先輩の好意に甘える形で素直にお茶とお団子を頂く冷泉だが、当然、ダイエットを理由に団子を断った海未は頬を引きつらせるワケで……。

 

「貴女達……ダイエットは?」

「「あっ!」」

 

 しまったと見つめ合う穂乃果とことりに、海未は「ハァ……」と溜息を吐きながら学生カバンを置いて、四角テーブルの空いてる座布団に腰を降ろした。それにならい、冷泉も空いている座布団に座る。

 

「努力する気は無いようですね……」

「そんな事無いけど……ねぇねぇ、冷泉君から見て穂乃果の足って太く見える?」

「ん?」

 

 女子高生の部屋の空気に慣れず、少し緊張していた冷泉への思わぬキラーパスに、ことりが入れてくれたお茶を口に付けたまま、穂乃果の太股を凝視して数秒ほど止まってしまう。マジマジと太股を男性に見つめられた穂乃果は、少し気恥ずかしくなったのかモジモジし出した所で、冷泉はようやく茶碗から口を離して、団子を手にしながら率直な感想を述べる。

 

「いやぁ太くないっすね」

「でしょー! セーフセーフ!」

「確かに太く見えないかも知れませんが、ダイエットしない言い訳にはなりませんよ」

「でも海未ちゃん、男の人から見て太くないならアイドルとしては良いんじゃないかな?」

「ことりまで……」

 

 今までの、のほほんとした雰囲気からは想像も出来ないが、意外にもアイドルらしさを求める議論が始まった。

 ことりの言い分としては、男性をメインターゲットに据えた『アイドル』としてなら最適かも知れない。

 

「いやまぁ太くないとは言いましたけど、俺の意見はあんま参考にしないでくださいね」

 

 冷泉は違ったみたいだが。

 

「はやりダイエットすべきだと思いますよね?」

「もしかして、穂乃果ちゃんを安心させようとして嘘を……」

「いやいや、マジで太くないと思いますよ?」

「えーじゃぁどーゆーこと?」

「ええと……何て言えばいいのかな……」

 

 しばしの逡巡後、一通り纏めてきた今後の自分の身の振り方、ひいては彼女達の感性について話し始める。

 

「まず俺は、先輩達のプロポーション、衣装や小道具、化粧や日常生活には口出ししません。マーケティング対象……と言っていいのか分かりませんが、俺達が売り込む相手は『オタクの男性』ではなく『女子中高生』が中心になります」

「そうなの?」

「普通、こういうのって男の人が対象なんじゃ……」

「そりゃ普通のアイドルならそうなんですけど、スクールアイドルは別で……。というのも、昨日帰ってから色んなスクールアイドルの動画を見たんですが、観客席に映ってたのは所謂オタクな男性よりも女子中高生が多かったんですよ。多分、自分達でもアイドルをやろうと思えばやれるからでしょうね、親近感が沸くというか、手を伸ばせば届く存在というか。だからこそその人気に押されてラブライブが開催されるんでしょうし――――」

「ちょ、ちょっと待って冷泉君」

 

 黙って自分の話を聞いてるもんだから、調子に乗って話しすぎたかと冷泉は内心冷や汗を掻くが、今度は別の意味で冷や汗が出てしまう。

 

「その……ラブライブってなぁに?」

「――――は?」

 

 素で声が漏れて、何言ってんのこの人と言わんばかりにことりをマジマジと見つめた。ことりは眉毛をつり下げて、困った顔をして冷泉を見つめている。まさかと嫌な予感を過ぎらせて海未と穂乃果を見るも、はやり同じ表情をしていた。

 

「……ちょっと待ってください、先輩達はラブライブを知らない?」

「私は初耳ですが……穂乃果は?」

「穂乃果も初めて聞いたよ」

「ナ、ナイスジョーク」

「ジョークじゃありませんよ」

「えぇ……、じゃあ逆に聞きますけど、先輩達ってスクールアイドルをどうやって知ったんですか?」

「えっとねー、UTXを見に行ったらモニターでアライズが踊っててそれで……」

 

 軽く呆れている冷泉に穂乃果がビビリながら答える。やはりというか、流石というか、行き当たりばったりでスクールアイドルをやろうと決めた穂乃果に、諦めたように首を振りながらラブライブについての説明を始めた。

 

「高坂先輩って携帯持ってます?」

「うん、持ってるよ」

「ネットできます?」

「それくらいできるよ!」

「『スクールアイドル』で検索してくださいよ」

「したよ……あっ」

「「あっ」」

 

 正面の穂乃果だけではなく、両隣からも声が漏れた。ことりと海未も携帯を片手に時が止まっている。

 検索の上から3~4番目くらいに、ニュースの記事として『ラブライブ(仮) スクールアイドルの祭典となるか!?』との見出しが載っていた。

 ラブライブと言えば、今年から始まると噂されているスクールアイドルの夏の甲子園的な催し物で、スクールアイドルをする側からは切っても切れない祭典になるはずだ。

 てっきり、学校を建て直すためにラブライブで優勝するのが最終目的だろうと踏んでいた冷泉からしてみれば、一体どうやってスクールアイドルとしての成功を手にするつもりだったのだろうかと問いたい位である。

 

「……ま、話を振った俺が言うのもなんですけど、メインターゲットが男じゃないから俺の意見は半々に聞いておくって事と、ラブライブに関しては各自で調べておくとして、とりあえず目先の事に集中しときましょうか」

 

 画面を食い入るように見だした三人を現実に引き戻すために、一ヶ月と迫っている新入生歓迎会へと話題転換した。

 

「それで、楽曲の目処は立ったんですか?」

「あ、う、うん、一年生にすっごくピアノと歌が上手な子がいてね」

「一年生でピアノと歌が上手い子ですか……、それ、もしかしたら俺のクラスの子かも知れませんね」

「本当!?」

「思い当たるのはウェーブのかかったショートの赤髪で……」

「そうそうその子!」

「やっぱ西木野か」

 

 穂乃果の相づちに、合点が行ったように数度頷く。週に二度ある音楽の授業で何度かクラス全員で歌ってきたのだが、他の生徒よりもハスキーで綺麗な声の子がいるなぁと感じており、音の出所を歌いながら確認してみると、それが西木野という赤髪の女の子だったから記憶していたのだ。

 それに加え、西木野が昼休みになると一人で音楽室に行く姿が度々目撃されたと、クラスメイトが噂をしているのを耳にしていた。

 

 ちなみにだが、音楽の授業で一番目立ったのは冷泉である。理由は単純で、女声に混ざった男声だったからだ。

 

「一回スクールアイドルに誘ったんだけど、キッパリ断られちゃって」

「へぇ……、それで、西木野は作詞作曲できるんですか?」

「それはその……ね!」

「要するに知らないんですね……じゃあそれも追加で聞いときましょう」

「でも作詞の心配はいらないよ!」

「そうなんですか?」

「うん、作詞ならどうにかなるんじゃないかなって、さっき穂乃果ちゃんと話し合ってたの」

「ねー」

「ねー」

 

 仲良く顔を見合わせることりと穂乃果に、まさか自分に作詞をしろと強請って来るんじゃなかろうかと冷泉は身構えるが、もう一人の人間が身を強ばらせていた。

 

 そう、海未だ。

 

「海未ちゃんさぁ、中学の時ポエムとか書いた事……あったよねぇ?」

「読ませてもらった事もあったよねぇ?」

「穂乃果、ことり! それは……!」

 

 嫌な予感は的中し、声を荒げる海未だがもう遅い。

 

「マジっすか! 園田先輩ポエム書いてたんすか!」

 

 ギギギと首を捻らせて冷泉を見ると、目を光らせた冷泉が団子を頬ばりながら食い付いてきた。

 一生の中で人に知られたくないことは墓場まで持って行くと言うが、中学の時に書いていたポエムが彼女にとってのそれだ。

 そうと知ってか知らずか、穂乃果はうんうん頷いてドンドン風呂敷を広げていく。

 

「そうなんだよ、私達中学の時に読ませてもらったんだけど、ポエム書けるなら作詞とか行けそうじゃない?」

「うーん、でもポエムの内容にも寄りますよね。硬派な感じだとアイドルっぽくなくてダメな気がするし……」

「そ、そうです! 私が書いたポエムなど華の女子高生が見るに堪えない――――」

「平気だよ、乙女チックなのも書いてたし」

「こ、ことり!!?」

「マジ!? お堅いイメージのあった園田先輩が乙女な、ぽっ、ぽえっ、ぽえむふっ」

「何も笑うことないでしょう!! 冷泉貴男は最低です!!」

 

 言い終わるや否や、羞恥から顔を真っ赤にさせた海未は機敏な動作で腕を水平に構えて、含み笑いをした冷泉の頬を目掛けて思い切り振り抜く。

 スパァンと乾いた音と「おわああっ!!」という冷泉の雄叫びが高坂家に響いた。

 

「いってぇ!! 先輩いくらなんでもガチビンタはねぇっすよ!!」

 

 ギリギリで頬をガードした手の甲が真っ赤になっている。叩かれた手をヒラヒラさせながらぼやく冷泉だが、客観的に見て8割くらいは笑ってしまった冷泉が悪い。

 

「おぉ、反射神経いいね!」

「ふむ……まぁまぁですね」

「わぁー冷泉君凄い」

「そこ? 注目ポイントそこなの? 先輩達的に今のは日常的に起こるの?」

 

 しばらくして海未が落ち着くと、冷泉は気まずそうに謝る。やはり彼も、流石に含み笑いしたのは不味かったと罪悪感に苛まれたようだ。

 

「まぁちょっと笑ったのは俺が悪かったですよ、ごめんなさい……」

「分かれば良いんです。それと、今聞いたこと全てを口外しないと約束しなさい」

「しますよ約束、当たり前じゃないですか」

「というか、そうですよ、作詞こそサポートすべき貴方の仕事では無いのですか?」

「だからさっき言ったでしょう、女子高生の心を掴むのは同じ女子高生なんですってば。俺じゃ到底無理ですって、今ので分かったでしょう」

「うぐっ……、しかしやはり私は……」

「海未ちゃん……」

 

 反論の出来なくなって尚も渋る海未に、ことりが胸を押さえて準備をし、目を潤ませてから顔を上げてトドメを刺しに行った。

 

「お願ぁい!」

「うあぁ……!」

 

 間の取り方、おねだりのポーズ、簡潔な台詞、どうやらこれら全てが海未にクリティカルヒットしたようで、さっきまでいきり立っていた海未は諦めたように肩をガックリと落としてしまった。

 

「もう……ずるいですよ、ことり……」

 

 結局、このまま作詞をする事は了承し、アイドルの練習メニューは現在も弓道部に在籍している海未が仕切る交換条件でその場はお開きとなった。

 だが、冷泉にとって今日一番の収穫は――――。

 

(この人、小悪魔って奴だ……)

 

 ことりの人柄・キャラクター性を知れた事だった。 

 

 

 

 

 ---------------------

 

 

 

 

 そして冒頭に戻るのである。

 

 ちなみに、冷泉は、真姫に作曲能力が有る事は把握済みだ。

 噂を聞いて昼休みになってから音楽室に入った時に「愛してるバンザーイ」と真姫がピアノを弾きながら歌っていたのだが、その曲は、彼女が作詞作曲を手がけた完全オリジナル曲らしい。

 冷泉が「良い曲だね、聞いたこと無いけど何処の曲?」と褒めながら聞いたら、ちょっと自慢げに自作だと教えてくれたのである。

 

「勿論、作曲してもらう以上お金は出すよ、キチンとした汚くないお金」

「別に、お金なんて要らないわよ」

「うーん、じゃあ株……は株式会社じゃないから無理だし、これからのライブチケットの優先権……そもそもそのライブすら難しいワケで」

 

 ところが、今の真姫はどうだろうか。うんうんと唸る冷泉にジト目で睨みながら、足をトントンさせて待ち惚けている。この仕草を客観的に見るならば、イライラしているだけだ。

 

 しかし、冷泉はここまでのやり取りでほんの少しだけ引っかかっている事があった、『何故ハッキリと断らないのか』。

 真姫は他の一年生より大人びた風格をしており、学力もそうだがそもそもの賦質の違いで頭一つ抜けている存在だったため、クラスメートの関係でしかない冷泉ですら、真姫の性格を簡単に汲み取ることが出来ていた、彼女は『NO』と言える日本人であると。

 事実、先輩である穂乃果がアイドル勧誘をしたが、即行で袖に振られたらしい。

 

 であればだ、彼女は作曲するのが嫌なら『NO』とハッキリと言う筈、どうしてまだ居座ってくれているのか疑問だ。同じクラスメイトで、即断ったら顔を合わせると気まずくなるのが嫌になるからという可能性もあり得るが、やはり気になるの事は気になる。

 

「その、さ、ハッキリと断らないって事は、ちょっとは『やってあげてもいい』って思ってくれてる?」

「……」

 

 当てずっぽうで聞いたが返答は無言、冷泉はこれをYESと捉えた。

 

「えぇっと、色々報酬を提示してきたけど、もしかして見返りとかもいらない……とか?」

「……」

 

 再び無言。

 となれば、断らないのも見返りがいらないのも、彼女の物怖じしないチャレンジ精神から来ているのではと冷泉は推測する。ベンチャー企業で成功してきた人間の殆どは、目先のお金よりも、自分のアイディアを成功させて世に知らしめたくて起業したケースが多いと聞く。

 

 自分の曲が何処まで通用するのか試したみたい、だから断らない。

 自分の曲を試せる機会を提供してくれる、だから見返りはそれで充分。

 そう考えれば、前述のそれと重ねてみると、それなりに辻褄は合うはずだ。

 

 けれども真姫は未だに渋っている。

 

 他にも色々と質問を投げたかったのだが、これ以上質問攻めにしてしまうと彼女が不機嫌になる可能性が高いので、ここで冷泉は一つの結論に至った。

 

(もしかして園田先輩と似たようなもんかな)

 

 先日、海未が作詞をするしないのやり取りで『恥ずかしい上に大衆の目に触れるからヤダ』と抵抗していたが、本人はただただ恥ずかしかっただけであって、別に歌詞は書いても良いという感情がどこかにあったから最後に首を縦に振ったのだ。

 しかし、最後の一押しとなったのはことりの『潤み目+お願ぁい』コンボがヒットしたからであって、真姫はそう簡単にはいかない。

 

 おまけに、彼女は『恥ずかしい』から作曲をしたくないのでなく、自分の曲が否定されるのが『怖い』からではと考察していた。

 恥ずかしいだけならば、さっきまで弾き語りしていた曲を自分が作詞・作曲しましたなんて言わないだろう。冷泉が素直に「今の良い曲だった」と褒めたから、冷泉は自分の音楽を否定しなかったから、だから自分が作詞作曲したと打ち明けたのだろう、と。

 

「あ……っと、その……」

 

 最後の一押し、ほんの少しだけ背中をソッと押してあげればいい、彼女の恐怖心を取り除ければ、それだけで彼女は作曲に応じてくれるだろう。

 だが、冷泉が投げかけようとする言葉は、どうやっても背中に触れる前に払われるイメージしか浮かばない。

 そもそも、二人は同じクラスメートという関係性なだけであって、真姫が冷泉の言葉を信用するような二人の間に信頼関係は築けていないし、かと言って逆転の発想で煽ったら煽ったで彼女を不機嫌にして終わりだろう。何て言えば正解なのかコレガワカラナイ。

 

(……ここまでかしら)

 

 しばらくして無言の時が続くと、真姫は自分を後押ししてくれる『何か』を冷泉は持っていないと判断し、椅子の足に立て掛けていたカバンを肩にかけた。

 

「私、帰るわね」

 

 短くお別れを告げる真姫、その表情は少しがっかりしたように冷泉に映った。このまま帰らせたら作曲の話はもう終わり、そう直感した冷泉は思わず引き留めてしまうワケで――――。

 

「ま、待て! 待ってくれ、西木野!」

 

 現雇い主である穂乃果達のオーダーは何が何でも完遂する、それが理事長との約束だ。

 彼女が作曲してくれないとなると、既存の曲をコピーして踊ることになってしまう。もしも穂乃果達のオーダー通りにラブライブ優勝を目指すのであれば、他のアイドルと曲が被るのは非常にマズイ、歌って踊る曲に関してはオリジナルにして差別化を図らなければ。

 だが、引き留めたは良いが生憎と続く言葉が浮かばない。金ならやると言いそうになるが、それはさっき試したので意味がない。

 

「えっと……そう、毎日! 毎日神田明神って神社の階段で朝練と夕練してるから、少しでも気になったら見に来て! お願い!」

 

 ようやく口にしたのが、せめて練習風景だけでも見てから決めてほしいという、半ば強制的なお願いだった。

 もしも、穂乃果達の練習を見て、それが作曲に挑戦したくなるような刺激になれば、それが彼女にとっての最後の一押しになってくれるのではないかという、希望的観測に基づいた一言でもあった。

 彼女だって自分の曲を試してみたい気持ちは有る筈なのだ、そうでなければあの表情に納得がいかない。

 

 しかし真姫は、ウンともスンとも言わずに楽室を出て行ってしまった。果たしてこれが吉と出るか凶と出るか。

 

「ハァ……理事長の取引と言い、なんか女性関係はスマートにいかねーなぁ……」

 

 空席になったピアノを見つめて、誰もいない防音の音楽室でただ愚痴る、これが今の冷泉に出来る精一杯だ。

 




次回のラブライブ!



「先輩なにサボってんすか練習よぉ~、アァン?」



「でも外雨で……」



「ホントだ、降ってる(素)」




「まずウチさぁ、室内練習できるんですけど……やっていきません?」



「ホントォ?」



「やっぱできませんでした(小声)」




※次回予告は内容とほぼ全部異なります。
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