やはり俺の日常は酷くまちがっている。   作:あきさん

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原作での時系列的には、バレンタインイベントのほんの少し前と考えるといいかもですね。


そして、鶴見留美は不意に総武高校を訪れる。

  ×  ×  ×

 

「八幡」

 いつものように読書をする時間――ではなく、奉仕部の活動を終えて帰路につこうと自転車を押して校門を出たところで、普段ならば絶対に聞くはずのない声の持ち主が俺を呼んでいることに気付く。

 俺を"八幡"と呼ぶ人間は二人しかいない。もう一人いた気がするが、まぁいいか。

 そちらへ視線を向けると、そこには赤いランドセルを背負った小学六年生の女の子、鶴見留美が校門を背にして立っていた。

 ――この子こんなとこで何してますのん?

「お、おお? ほ前ひゃんでこんなとこいんの」

 予想外の事態に動揺して噛んだ上に声が若干裏返ってしまったような気が……いや間違いなく噛んだし裏返ったわ。

「お前じゃない。しかもなんかキモい」

 なんでそれだけで罵倒されてんの俺。しかもなんかちょっとぞくぞくしちゃうからやめて。

 目の前で不貞腐れて少しだけ頬を膨らませながら俺を罵倒する少女の言わんとすることを噛み砕いて言い直す。

 ――つまりはあの時と同じ言動をとればいいんだな?

「ルミルミ、こんなとこで何してんの」

「それほんとやめて。キモい」

 おふぅ……。このぞくぞく感、なんだかくせになりそうです。おっと、いかんいかん俺はロ○コンじゃない。小学生は最高とか思わないからな俺は。

「お、おう。……留美?」

「ん」

 そうして小さく頷いてくれた留美はじっと俺の方を見つめてくる。小学生とはいえ流石に女の子に見つめられるのはやっぱり気恥ずかしい。

「八幡、この後暇だよね」

 どうして雪ノ下も、由比ヶ浜も、一色も、小町も、そして何故か留美までもが俺が暇だという前提で話を進めようとするのん? 俺にはごろごろしながら本を読み、その後に戸塚で妄想するという今すぐ帰宅しなければいけない理由がある。

「いや俺この後アレだからな。アレしてアレしなきゃいけないから忙しい」

「アレってなに」

 忙しい理由を一応は聞いてくれるあたりはまだ可愛げがあんな……特に一色なんかは俺の話を聞こうとすらしないどころか逆に脅してくるからな……。

「いやまぁ、その、アレはアレだ。それにもう遅いからまた今度な」

「……もういい。じゃあ連絡先教えて」

「連絡先? それくらいならほれ」

 そうして携帯を留美に手渡すと、自分の携帯を取り出していじくり始めた。

 やっぱり最近の小学生でも携帯って持ってるんだな……しかも最新機種かよ。

 若干不慣れな手付きで自分と俺の携帯をぽちぽちとしている様子を見ながらそんなことを思っていると――。

「電話帳少ないね。……でも、女の人ばっか」

 そう言いながら留美がジト目を俺のほうへ向ける。なんで? 俺何も悪いことしてないよね?

「いやまぁ、否定はできんが知らずのうちにそうなってたんだよ」

 素直に答えたつもりなのだが、留美のジト目は変わらないままだった。やべぇ何か目覚めちゃいそう。やっぱり小学生は最高かもしれない。

 そんないかがわしいことを考えていたせいで後ろから近づく足音にまで注意が回っていなかったことに気付く――が、遅かった。

「比企谷くん? そんなところで何をしているのかしら?」

「あれ? ヒッキー先に帰ったんじゃないの?」

「せんぱーい? あっ、もしかしてわたしを待ってたんですかー?」

 幸いにも、敵はまだこちら(留美)に気付いていな――かったが、校門の影から留美がぴょこっと顔を出し、三人と目が合ってしまった。

 

 ――そして、世界が凍りつき、止まった。

 

  ×  ×  ×

 

「……さて、何か遺言はあるかしら? 通報する前に一応理由くらいは聞いてあげるわ」

「ヒッキー……。ちょっとそれは、流石に……キモすぎるよ……」

「先輩……。年下好きなのはわかってましたが、流石にそれはキモいを通り越して本気で幻滅します」

 俺と留美の姿を見て暫くの間フリーズしていた雪ノ下、由比ヶ浜、一色の三人は再起動した直後に、それぞれ携帯をすぐさま取り出しながら俺へ軽蔑の眼差しを向けた。

「待て。言いたいことはわかるが携帯をしまえ。俺は何もしていない」

「そんな言い訳は通用しないわ下衆谷くん。あなたのおぞましい劣情を何も知らないいたいけな少女にぶつける前に止めることは社会にとって必要不可欠なことなのよ」

「いやお前理由聞くって言ったじゃねぇか。それに、お前らは全員こいつを知ってるからな?」

 知っている、と明言した後に真っ先に反応したのは由比ヶ浜だった。

「あれ? よく見たら留美ちゃんじゃん」

「あら本当ね。鶴見さん、だったかしら?」

「……こんにちは」

「わたしはこんな子知りませんよ?」

 雪ノ下や由比ヶ浜は留美を認識した中、一色だけがきょとんとした顔をしていた。

「いやお前、海浜総合高校とのクリスマスイベントん時にこいついただろ……」

 俺の横で二度もこいつ呼ばわりされた留美が不満げな顔をしているが今はそれどころじゃない。

「んー……そうでしたっけ?」

 お前同性に興味なさすぎだろ……と思っていると、顎に指をあてる仕草をして考えていた一色が「あっ」と声をあげた。

「そういえば、先輩と一緒に作業してた子ですよね? 先輩と、二人で、一緒に」

「ねぇなんでそういう言い方したの? 普通に劇の主役だった子っていえばよくない?」

「ヒッキー……?」

「やっぱり屑谷くんは屑谷くんなのね。やはり腐った目と同様に情状酌量の余地はなかったわね。由比ヶ浜さん、通報を。」

「おいお前ら携帯を取り出すのはやめろ。それと一色もわざと誤解を招く言い方するな」

「てへっ」

「あのね、今はそういうの求めてないからね? 何でも可愛いから許されると思っちゃダメだからね?」

「……はっ! もしかして先輩今わたしのこと口説いてますか気持ちは嬉しいですけど特殊性癖持ちは流石に無理ですごめんなさい」

「いや違うから……。どう解釈したらそうなるんだよ」

「八幡」

 いわれのない罵倒が三方向から俺に向けられる中、留美が俺の制服の裾をくいくいと引っ張りながら俺を呼ぶ。いつ一色みたいなスキルを身につけたのん? あざとさって百八式あるの? それ留美がやると一色と違って純粋に可愛いからやめてね?

「あん? どうした留美」

「「「……えっ……」」」

 

 ――この状況下で留美の名前を自然と呼んでしまったことを、俺は後に死ぬほど後悔した。

 

  ×  ×  ×

 

「八幡、もういこ。……じゃあ、失礼します」

 お互いに名前で呼びあっている事実に固まってしまった三人へ向けて留美はぺこりと頭を下げ、俺の裾を上目遣いでくいくい引く。くそ、やっぱ可愛いなこいつ。

 留美を放置する訳にもいかないのでこの場は戦略的撤退だ。逃げてしまえば勝ちだと自分に言い聞かせる――まぁ、この場で三人を納得させることができなかった時点で既におもいっきり負けてるんだけどな。

 翌日、学校で納得がいくまで追及され続けることになるのは間違いないだろうが、最悪警察のお世話になるかもしれないという不安が現実味を帯びてきて冗談抜きで怖い。具体的に言えば雪ノ下と一色、あと平塚先生あたりが怖い。由比ヶ浜は話せばわかってくれる……と思いたい。

 そんな不安に駆られる俺とは対照的に隣にいる留美はどこか上機嫌に見えるのは気のせいだろうか。

 まぁ、折角俺に会いに来てくれたのだし、邪険に扱いすぎるのも流石に悪い。

 ――そういえば、結局こいつの用件聞いてなかったな。……後で聞いてやるか。

「留美」

「なに?」

「後ろ、乗るか? 送ってくぞ」

「……うん」

 俺の自転車の後部座席は小町以外乗せるつもりはないのだが、あいつらとの面倒くさい応酬に巻き込んでしまったのは俺にも責任がある。……それにこいつも妹みたいな年齢だし、ノーカンだノーカン。

「ちゃんと掴まっとけよ」

「ん」

 後ろを向いて留美の安全を確認すると、ぎゅっと遠慮がちに俺の腰を掴みながらも、少しばかり頬が赤くなっているように見えた。なんだかこそばゆい。

 普段大人びている少女の年相応の一面を見てしまったことに少しばかりの罪悪感を覚える。

 そうして、留美の道案内を頼りにしながら幾らか自転車を走らせていると、留美がくいくいと裾を引いてくる。

「このへんでいい。もう近くだから」

「あいよ」

 留美が転落しないようにブレーキをかけて自転車を止めると、後ろに感じていた重みがなくなった。や、全然重くなかったんだけどね。

「ありがと」

「おう。そういや俺に何か用があったんだろ? なんだったんだ? 聞くだけなら聞いてやらんこともないぞ」

「……ううん、いい」

「は?」

「もう、済んだから」

 留美が言わんとしていることはよくわからないが、留美が満足そうに笑っているからいいか。

「よくわからんが……まぁ気をつけて帰れよ」

「うん。またね八幡」

「おう」

「メールするから、ちゃんと返してね」

「……善処する」

「ばいばい」

 控えめに手を振った留美に軽く手を上げ、それに応える。

 留美の後ろ姿はどんどん小さくなっていき、次第に見えなくなったことを確認した俺は再び自転車に乗り、急いで帰路につく。

 大分遅い時間になってしまったが、たまにはこんなことも悪くない――そんな風に思いながらやっとのことで自宅につき中に入ると、先程感じていた不安が見事に的中していた。

「待っていたわよ逃げ谷くん。それで、小学生に手を出したことは揺るぎない事実となってしまったのだけれど、最後に言い残すことはあるかしら?」

「ヒッキー、ちゃんと説明してね。何で名前で呼び合ってるの? どういう関係なの?」

「ねぇ、先輩? あの子と二人でどこへ行ってたんですか? 何をしてたんですか?」

「ゴミぃちゃん、流石に小学生に手を出したのは小町もドン引きだよ……」

「では比企谷、犯罪に手を染めてしまった理由をきちんと説明してもらおうか」

 雪ノ下、由比ヶ浜、一色、小町、平塚先生が俺を待っていた。全員が静かに、無表情で。

 ちなみに俺はこの日の、この後の出来事を一切覚えていない。

 

 ――はっきり覚えていたのは、全員の目から明るさが消えていたということだけだった。

 

 

 

 

 




衝動的にルミルミの話を書きたくなったので書きました。

私自身あまりルミルミの話を目にしていないので、雰囲気を出せたかどうかは自信が無いですが楽しめて頂けましたら嬉しい限りです。
誤字脱字等ありましたら、教えて頂けると助かります。

そして、もし私の本編の方も読んでくださっている方が居ましたら、そちらも併せてよろしくお願い申し上げます。

※おかしな表現があった箇所をちょいといじくりました。
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