波旬兄弟と蓮親子がネギまの世界へ   作:ディーン・グローリー

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第十二歌劇【第二歌劇の始まり】

《1》

 

「ハァ、ナギの息子の歓迎パーティ? 残念だが、私はそこまで暇ではないぞ」

「いや絶対暇じゃん! これ以上ないくらい暇じゃん!」

 

 ソファに寝転びながら、TVゲームをしている真祖にして最強の吸血鬼――エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルはそう言った。

 100人が見たら100人が暇だろって突っ込むような姿で言い切った。

 

「黙れ変態糞虫が! 私は今、ゼ○ダの伝説に激ハマなのだ。これ以上喚くと殺すぞ! くそっ、貴様のせいで小さなカギを取り忘れたじゃないか」

 

 本気で怒られた。

 まずい、このままだと確実に断られる。

 一体どうしたらと――体育教師補佐の坂上覇吐が苦悩苦心している間に、エヴァンジェリンはゲームに戻る。本当に吸血鬼か?

 

「くそ、こうなりゃ俺の秘策、ザ・土下座を使うか」

「一生秘しておいて」

 

 覇吐の隣で冷たい声を返したのは2-Aであり魔法界生まれのザジ・レイニーデイ。

 褐色の肌に、無表情と無感情が顔を彩っている少女。性格は完全に覇吐とは逆だろう。

 

「それにこの吸血鬼、確実に人に土下座をさせることが趣味の一つって言っても過言じゃないし」

「とんでもねえな。しかしそんな奴も人に土下座をするのが趣味のような奴には会ったことねえだろうぜ」

 

 何て言ってるが、勿論覇吐の趣味が土下座なんて嘘です。

 しかし、ああここで引き下がるは男の矜持が廃れるってもんだ。

 今ここに紳士道益荒男VS真祖吸血鬼の戦いが幕を開けようとしている。

 

「よぉ吸血鬼、んな冷てえこと言うなよ。ここは人類みな兄弟ってノリでいこうじゃねえか。助け合おうじゃねえかよ」

 

 どこぞの通信教育の剣道で三級の腕前の剣士の台詞だ。

 

「人類みな兄弟だと。笑わせるなよゴミ風情が、世界の醜さを全く知らない貴様如きが、この人類を、助け合いなどと言う甘い戯言で片付けようとするな」

 

 睨まれた。

 人を視殺できるかもしれない勢いで、ものすっごい瞳で睨まれた。

 だが覇吐は負けない。ここで引いたら一生こいつには勝てない。

 故に対抗する言葉を覇吐だけに吐く。

 

「だったら世界こそが俺の敵だな」

「おい、私の好きな映画の台詞を引用するな。……さっきから貴様、私に喧嘩を売っていないか?」

「いやいや待て待て。俺は喧嘩腰じゃねえぞ。逆だ逆。俺はお前と友情を同時に築きあげたいんだよ」

「私と友情だと? 舐めているのか。私が真に友情を築くはお兄ちゃんのみだ。それ以外はいらん消えろ。ゴ○マのようにフルボッコしてやる」

「駄目だ。完全にお兄ちゃんっ子だ。ヤンデレの度合いに近づいてやがる」

 

 藤井蓮に心より合掌。

 そして諦めよう。これはもう駄目だ。

 完全にここは二人の愛の巣と言っても過言ではない。動く人形とかロボはいるが。

 

「こうなりゃザジえもん、他を探すぞ」

「まだそのネタ引っ張るんだね」

 

 と、エヴァンジェリン宅を出ようとした瞬間――ちょうど藤井蓮が帰宅した。

 

   *

 

「今日の警備の任、坂上先生と龍明先生、藤井さんの三人と私達二人のようですね」

 

 麻帆良学園中等部2-A、桜咲刹那が確認を取るように言う。黒い長髪をサイドテールに結っている、見た目は普通の少女だ。

 その言葉を聞き及ぶは同じく2-A、龍宮真名。ザジと同じで褐色の肌に、長い黒髪をしている。随分と大人びており、本当に中学生かと突っ込みたくなる程の美人であり高身長だ。

 

「龍明先生は最近鬱気味だから仕事に支障をきたすだろう。故に実質4人と思ったほうが良い」

 

 真名は達観して言う。

 任務までに、仕事までにある程度の憶測をたて挑む。それが当たり前であり必然。

 

「では龍明先生の警備場を、誰かが補う必要がありそうですね」

「ああ、そこを誰が補うかだな。私が穴埋めしても良いが、他の二人の意見も仰ぎたい」

「それに今日の仕事は本来の人数より何人か休むため、もとからかなり空いている状態でもある。今回は一人一人が広い範囲を警備しないといけない」

 

 元来、そのことについて覇吐と蓮が打ち合わせをする予定だったのだが、覇吐がドタキャンに近い行為をしたため直前で決めなければいけない。

 

「まぁそのへんは年配である坂上先生か、藤井さんが解決してくれているだろう」

 

 と、真名はそう思ってしまった。

 

「……前々から思っていたのだが、なぜ坂上先生はあんな派手な着物を着ているのだろうか?」

 

 ふと、真名がそんな疑問を呟いた。

 確かに派手で豪奢。その上、煙管を加え履いているは下駄だ。まるで一昔前の衣装。

 この学園は個性的な人が多いが、覇吐の格好は浮いているかのように目立つ。

 

「随分と急にと言うより今更ですね。私はそんなことより坂上先生のあの魔法……なのかは判然としませんが、先生の力には興味がありますね」

「坂上先生の力? ああ、あの相手の力を押し返すような力か。私も詳しくは知らないが、多少興味はあるな」

 

 まぁ悪く言うと、それ以外興味が無いということなのだが。

 そして真名は続ける。

 

「後、何やら坂上先生は学園の生徒から妙な噂が流れているのを知っているか?」

「いいえ、存じ得ませんが」

「そうか。いや何、下らぬ他愛も無い噂なんだがな。真の敵は身内にありと言うが、中々どうして馬鹿にできない言葉だよ」

「……一体、何の噂なんですか?」

「それはな――」

 

 と、ちょうど狙ったかのようなタイミングで二人の前に女生徒達が通りかかった。

 そこで凄まじいタイミングでその噂を言っていた。

 

「また私、坂上先生に胸元をいやらしい目で見られたわ」

「本当に嫌よね~。私なんてお尻をジロシロ舐め回すような目で見られたの。本当に、キモいよね坂上先生は」

 

 二人の前を通りかかった女生徒が坂上先生に対する苦情を吐いていた。

 それを聞いた二人は、

 

「……真の敵は身内にありですか。あながち間違いではなさそうですね」

「刹那、まだ情報源は確かではないんだ。早合点はよくないと思うぞ。まぁしかし、否定はできないが」

 

 だって、真名も被害者の一人なのだから。

 

   (∴)

 

「…………」

 

 現在、エヴァ宅で覇吐は正座をさせられている。

 キチッと、少しでも態勢を崩せば叱責より先に拳が飛んでくるようなプレッシャーが、覇吐を襲っていた。いや、拳よりギロチンが降ってきそうだ。

 謂わば、正座という名の斬首台に縛られている感覚がする。

 

(それが一番しっくりくるな)

 

 ……そろそろ足が痺れてきた。

 が、崩せない。崩してはならない。例えこの場でとんでもない美人が現れても、動いてはならない。

 何故なら目の前に、若干怒りに満ちた男――藤井蓮が居るからだ。

 本当、リアルにギロチンが飛んできそう。

 

「俺は別に怒ってはいない。ただな、約束を破るってのはどういう了見だ?」

 

 見た目は本当に怒っていない。逆に温厚そうなイメージがある声調に言葉だ。

 

「それに見合った理由と、連絡を寄越さなかった理由を一応聞いとこうか」

「よし来た。今回はちゃんとした理由があるんだぜ」

 

 何故か覇吐は勝気な表情となり、

 

「明日、この学校に新しく来る先生に向けてよ、歓迎祝いの土産を買ってやろうと思ったんだよ。そしたらまぁ頭から清々しいくれぇに、約束のことが飛んじまってたわけだ」

 

 理由を述べた。

 簡潔に、何一つ隠さずに言い切った。

 

「新任教師? ……ああ、ナギの息子か。そういやそんな連絡が入ってたな。確かネギ・スプリングフィールドだったか。まだ10歳くらいの子供だって聞いてるな」

「そうそう。そいつの歓迎土産を買おうと思って街中闊歩してた訳だけど、これがまた中々見つかんなくてよ。んで、最終的にパーっとパーティーを行おうって結論に至ったんだ」

「そこでパーティ会場に打って付けの場所、ここを選んだって訳か。確かにここなら魔法関係の話をしても問題ないからな」

 

 先読みをするが如く、蓮が言ってくれた。

 話が早いとはこのことだ。

 

「だがここは駄目だ。エヴァはナギのことが大嫌いだからな」

「は?」

 

 中々稚い理由を聞いて、覇吐は唖然とする。

 

「過去に何があったのかは言わないが、エヴァはナギのことを復讐したいくらい憎んでいるんだよ」

「おいお兄ちゃん! その話はするなと言っているじゃないか! 私がナギに完敗したなんてバレたら世間の恥だ!」

「おい自分でバラしてるぞ」

 

 いきなりエヴァンジェリンが割って入ったかと思うと、刹那も驚く速さで全てを明かした。

 それを直ぐさま自覚したエヴァは、

 

「くっ、しまった。私としたことが! 貴様謀ったな!」

 

 と言い、正座する覇吐を指差す。

 とんだ責任転嫁だ。甚だしすぎて返す言葉も見つからない。

 

「とまぁそういう訳だ。エヴァはナギに完敗して以来、嫌悪しているから、ここでは無理だ。一応、末代まで恨んでやるって言い張ってたからな」

「…………」

 

 想像してみる覇吐。

 エヴァがナギにフルボッコ→涙目で負け犬の遠吠え……真祖の吸血鬼も落ちたものだ。

 

「おい貴様、今何を想像した」

 

 こめかみをピクピクさせながら、エヴァが言った。

 どうやら覇吐の心を読んだらしい。何てこったい。

 

「チッ、もういい、私は今から自分の部屋でロック○ンでもしてストレス解消してくる」

 

 恐らくこれ以上この場にいたら、自分で墓穴を掘ってしまうと思ったのだろう。長い金髪を揺らしながら去っていく。……黄金の吸血鬼?

 

「……それじゃあ、ついでに今日の警備任務について打ち合わせをするぞ」

 

 今日の警備はしっかりと話し合わないといけない。

 他の魔法先生方は用事などで休み、最終的に蓮、覇吐、刹那、真名、龍明だ。しかも龍明は最近鬱気味なので恐らく任務に支障をきたすだろう。

 故に実質四人と思った方が賢明だ。

 

「学園都市は広い。そこを四人で警備するのは面倒で大変だ」

 

 蓮が色々と面倒そうに発言する。

 確かに、こんな広い学園都市を四人で警備しろと言われれば、中々無理な話だ。

 

「だからこそ、上手く一人一人が動かないといけない」

 

 そうしないと警備に穴が生じる。

 

「と、似合わないことを言ってみたが、お前なら数人分カバーできるだろ? その体、飾りじゃないだろうからな」

「ああ、いいぜ。俺が欠如した連中の分も埋めてやるよ」

 

 この際だから、エヴァンジェリンにも、ここにいるザジにも手伝ってもらえば効率が良いのだが、まぁ断られるだろう。

 故に、こういう時にしか役に立たない覇吐の舞台となる。

 

「その代わり、後で俺と一緒に新任教師の歓迎事について相談に乗ってもらうぜ」

 

 しかし目的は忘れず、そう言い切ったのだった。

 

   (∴)

 

「――たく、何で俺がこんな広範囲を警備しないといけないんだよ」

 

 静寂な夕闇の中、坂上覇吐が不満を呟く。

 それに対し、何故か隣にいるザジが答えてくれた。

 

「はば太(覇吐)が自分で言った。新任先生の歓迎事を一緒に考えてくれる代償に」

「そのはば太(覇吐)ってクズを今すぐここに呼んでくれ」

「何様のつもりですか?」

「ザジえもん風情がこの俺を舐めてるのか? この世界の中心はこのはば太のものだと知れよ」

「えっと……このノリにはいつまでお付き合いしたらいい?」

「そんなもの適当に流してくれ」

「やれやれ、毎日自分を中心に生きているね」

「褒めすぎだ」

「全くこれっぽっちも褒めてませんよ」

 

 とバカな会話を繰り広げる。

 現在、警備の時間になり覇吐とザジは広範囲の見回りをしている。

 しかし嬉しいかな、今のところ学園に特に変わった異常は見られない。

 

「つか、そもそも別に今日侵入者なんかが来るとは限らねえよな。打ち合わせがどうとかって大げさなこと言ってたが、侵入者が現れなかったら今までの時間返せって話だよな」

 

 愚痴る覇吐。

 しかも特に時間は使っていない。

 

「でも、こういう時に限って何か事件が起きる。これ王道」

「同時にフラグを建てやがったな」

 

 もし何かが起きたら、ザジを一発殴り責任を押し付けよう。

 ――警備すること数十分。

 

「…………」

「…………」

「……………………」

「……………………」

「いや何かしゃべれよ! つか本当に何も起きねえのかよ!」

「覇吐うるさい。今何時だと思ってるの?」

「あ、すいません」

 

 ………………

 …………

 ……

 

「なぁ、俺的に今の状況、色々と大丈夫なのかと真剣に思ってきたんだが」

「大丈夫。これが本当のリアルテイストだから」

「リアルねぇ」

 

 あれ、よく理解できないぞと頭を悩ませる覇吐。

 てか本当に侵入者が一人も現れない。

 これでは自分のかっこいい姿が全国の女性に伝わらない。

 そんなことを思っていた瞬間だった――

 

 学園都市の一区画である森林から、殺意にも似た気を感じ取った。

 

 ザッとザジに何も言わずに、その場に駆ける。

 当然だがザジも覇吐に付いていく。

 距離にしておよそ1kmとないだろう。故にそこまで辿り着くのに二人なら一分と満たない。

 陸上選手も涙目になる速さで到着した二人が見たものは……

 

「私は六条。西の大陰陽師――六条シュピ虫。以後お見知りおきを、麻帆良学園の先生に生徒さん」

 

 出会い頭に名乗られた。

 イケメンとは口が滑っても言えないような、残念な顔。魔法界にいる芸能人、シュピーネにどこか似ているような顔つきをした着物姿の男が一人いた。

 

「何、この物語の一話目で主人公に真っ先に倒されそうな雑魚キャラは」

 

 ザジが相手の姿を見て、まずは率直な感想を述べる。

 随分とまぁ緊迫した雰囲気にはなれない相手だ。

 

「言いすぎだぞザジ。そういうキャラって、後々も何だかんだで登場してツンデレながら主人公の手助けをしてくれるパターンもあるんだぜ」

「それはそれで迷惑。あんなのに手助けされたくない」

「……同感と言わざるを得ない、この虚しさ」

 

 初対面にも関わらず罵倒される六条。何とも悲しい男だ。

 しかし相手は敵。そろそろ雑言を止め、語りかける。

 

「よぉあんた、悪いが大人しく出て行ってくれねえか。ここは学園都市だぜ。無垢な子供たちが平和に楽しく生活する世界でよ、不法侵入なんて無粋じゃねぇか」

 

 テメェなんか、子供の悪影響にしかなんねぇぜ……とまで言わないのは、覇吐の優しさだろう。

 

「ほう、この私に意見するか小童。それがどれ程の無道な行為か自覚しとるかの」

 

 常時上から目線であり、人を見下す=息を吸うのと同じくらいの範疇なのだろう。随分と腹が立つ着物不細工男だ。

 

「時代が違えば、即打ち首だぞ貴様。時代に助けられたの」

「うっわ、何か無性に腹立つんだけどこいつ」

 

 波旬とは違う苛立ち。

 あいつはあいつで喧嘩などしてきたが、こいつだけは自分の中では心底救いようもない馬鹿だ。

 

「地に這い蹲るのがお似合いだ。卑賤な下郎」

 

 懐から一枚の符を取り出す。

 あれは式神を顕現させる特殊な霊符だ。

 自分以外の存在を召喚し、使役し、扱う。異物召喚の特殊な力を使う、陰陽師の十八番芸。

 瞬間、即的に何かを唱えたかと思うと、符が変化したかのように物凄く大きな蜘蛛へと変わった。大きさで言うと建物二階分程度。幅はそれに見合う程度で、何より気持ち悪い。

 その大蜘蛛の上に六条が佇む。

 

「でけぇな。つか顔に似合って、中々気持ちの悪い式神を連れてるじゃねぇかよ」

 

 背負っている大剣を手に持ち、六条に向けて構える。

 

「おっしゃ、来いよ侵入者! この俺、坂上覇吐がテメェの相手してやるよ!」

 

 

《2》

 

 覇吐&ザジと六条が対峙したのを、一人……いや二人が建物の屋上から眺めていた。

 2-A 出席番号15番、京都神鳴流の剣士である桜咲刹那。

 と、

 同じく2-A 出席番号18番、龍宮神社の巫女(スナイパー)である龍宮真名。

 この二人がその光景を高見の見物と洒落込んでいるのだ。

 本来ならちゃんと警備任務をしないといけないのだが、ある侵入者用の特殊結界を張っているため、何と侵入者などと言う不埒な輩がいれば直ぐに察知できる。ちなみにこのことについては、仕事が始まる約一時間前に学園長から二人に言われた。

 だったら学園を警備する人間など要らないのでは? と聞きたくなるだろうが、今回は特別だ。

 何たって警備する人間が少ないのだ。これくらいしてもらって当然だ。

 まぁ消費する力が半端ないため、こういった例外なる日でなければ使えない。

 

「坂上先生に、この特殊結界の件を伝えなかったのは、このためなんですね」

 

 刹那が遠目で覇吐を見ながら、隣に立つ真名にそう言った。

 

「ああ、その通りだよ刹那。理解が早くて助かる。やはりな、坂上先生の力をこうして直接見たかったんだ。お前も興味あるんだろう、坂上先生の力に」

 

 実際にこの目ではっきりと、坂上覇吐の力を見たかった。

 例え先生に隠し事をしてでも。

 

「まぁ確かにそうですが、しかしこれは不正行為に近いですよ」

「女子中学生だ。不正行為をしてなんぼだろ。大人になったら、そう簡単には出来ないからな」

 

 ちょっとした可愛いらしい不当な手段。

 

「真名、まさかいつも大人に見られる嫌味か何かですか?」

「何でそうなるんだ? 確かに映画に入場する際、大人料金取られたりして少しばかり悲しい思いをしたのは確かだが、別に八つ当たりめいたことをした訳ではない」

 

 少し饒舌になった真名でした。

 

「――おい」

 

 不意に、達人レベルの二人に気配すら感じさせずに一人の男が背後に立ち声をかけた。

 バッと勢いよく後ろを振り返ると同時に、戦闘態勢に入るが……

 

「藤井さん、でしたか」

 

 臨戦状態を解き、ほっとする。

 そこには同じく警備任務をしている藤井蓮が居た。

 

「何をしてるんだお前たち? こんなところで、サボりか?」

「い、いえ違いま――あれ、そうなります……ね」

 

 蓮の質問に刹那が即座に否定しようとしたが、改めて思うとサボりと変わらなかった。

 

「まぁ別にサボったくらいで叱るつもりも無いし、俺も人のことを言える立場じゃないから言わないが、ここで何を見ようとしていたのかは聞かせてくれよ」

 

 一応、藤井蓮も特殊結界の件は知っている。

 だが張っていても、それぞれの持ち場は決めていた。そこから二人が急に離れて、同じ場所で合流したのを察知した蓮はこの場へと駆けつけたのだ。

 

「私と刹那は少し坂上先生の力に興味があり、ここから隠れて見物をするつもりでした」

「坂上の……」

 

 隠さずに言った真名の言葉に蓮の目線は遠くの、覇吐の居る方へと持っていく。

 そこには巨大な蜘蛛の乗った男と覇吐が対峙していた。

 

「あれか。また随分と弱そうな奴が侵入してきたな。あの程度なら、坂上一人で十二分だろう」

「確かに相手の実力は雑魚に部類されるでしょう。ここから一発狙撃しただけで終わりそうな相手だ」

「まぁ態度だけは誰よりも傲慢ですが」

 

 蓮と真名が六条を嘲罵し、刹那は溜息をつくかのように言った。

 

「しかしあんな雑魚相手でも、坂上先生の力を少しでも拝見できれば嬉しい限りだ」

 

   (∴)

 

 その頃、覇吐VS六条の戦いが幕を開けていた。

 天から降り注ぐは槍。否、槍ではなく大蜘蛛の口から放たれた粘液による糸の槍だ。

 糸を上空で槍のように形成し、文字通り豪雨のように降り注ぐ。

 

「チィッ!」

 

 それは全てを射殺す魔の弾雨。

 覇吐の頭上へと飛来した夥しい数の糸の槍は、大地を抉り、木を破壊し、襲いかかってくる。

 無情に、無慈悲に、情け容赦なく。

 

「少しヤベェな! つか、蜘蛛って口からより尻から粘液吐くんじゃねぇのかよ!」

 

 毒づく覇吐。

 次々と絶え間なく降り注ぐ糸の槍は、隙など全く生じさせない。

 大剣で弾きながら突き進むのも良いが、あの糸は元を言えばベタつく粘液だ。今は鉄の強度を誇っているが、下手に弾いて大剣に絡み付く危険性を孕んでいる。

 故に大剣を使用するのは賢明でない。

 ふと、ザジが心配になり一瞥するかのように見てみると、どこにもザジが居なかった。恐らく上手く逃げたのだろう。

 

「ふむ、さっきまでの威勢は虚勢を張っただけだったのか?」

 

 六条はまるで不格好に踊り狂う子を見るかのような、嘲笑混じりに言葉を吐いた。

 

「滑稽よの。何たる愚弄、何たる脆弱っぷりだろうか。このような詰まらぬ存在が、麻帆良を警備しているとは、呆れてものも言えぬは。趨勢気していたが、憫笑すら溢れるほど落ちたか」

 

 六条の言葉にだんだん苛々してきた覇吐。

 

「さて、そろそろこのような詰まらぬ戰、終わらせるとするかの!」

 

 言うと同時だった。

 豪雨のように降り注いでいた糸の槍が、まるで意思があるかのように覇吐を四方八方から襲いかかった。

 隙間もなく、回避不可の攻撃。

 

「馬鹿な――」

 

 誰もが終わりだと思ったが……

 

「とかいう三下御用達の糞台詞――」

 

 大剣に文字通り力を纏うと同時に、カラクリのように刀身が折れ組み変わる。

 

「言うわけねえだろ、相手見て物言えタコがァッ!」

 

 20の刃節に分かれ、まるで鞭のようになった大剣を振るった。

 弐の型である20の刃に分裂し、射程は変幻自在に伸縮する蛇腹剣。

 それにより糸の槍が潰され、破壊され尽くす。勿論、糸など覇吐の力の前に絡みつくなど有り得ない。

 

「な、なな、ななななな何だと!?」

 

 醜く驚愕の表情を浮かべる六条。こっちの面の方がよっぽどお似合いだ。

 

「よぉあんた、この程度の力で麻帆良に侵入してくるなんて哀れすぎて言葉が出ないぜ」

 

 窮地が逆転し、余裕な態度で話す覇吐。

 

「俺がちょぉっと、やられてる振りしたらいい気になりやがって。調子に乗りすぎるのは、あまり良くないぜオイ」

 

 逆に六条は焦燥と憂虞、忸怩と言った感情が入り乱れていた。

 

「直ぐに倒しちまったら、何か可哀想だから活躍の場を与えてやったが――」

 

 再度構え、

 

「やっぱテメェは見た目通り、やられ役がお似合いだわ」

 

 弐の型、蛇腹剣を振るい大気を引き裂きながら、そのまま大蜘蛛を諸共一閃。

 

「ヒィッ!」

 

 大蜘蛛が黒い粒子となり消滅し、上に乗っていた六条が情けなく落っこちる。

 ああ無様すぎて言葉が出ない。

 

「つう訳で、寝とけ」

 

 ゴツンと、大剣の刀身で六条の頭を軽く叩き昏倒させる。

 とりあえずこいつは後で学園長に任せようと覇吐は決めた。

 

   (∴)

 

 その戦いの一部始終を見ていた三人は――

 

「…………」

 

 言葉が出ない。

 と言うより、相手が弱すぎて何て言ったら良いか分からない。

 当初の目的であった覇吐の力の正体も分からないまま、大蜘蛛の男は無残に散ってしまったのだ。

 

「どうやら、案外物事は上手くいかないように世界は出来ているらしい。残念だ」

 

 真名が少し悔しそうに言った。

 

「まぁいつでもチャンスはありますよ。同じ学園の者なのですから」

 

 それに対して、ほんの少しだけ慰めるように言う。

 確かに機会など、これから何回もあるだろう。

 

「だが、その機会よりも先に、もしかしたら坂上先生がセクハラ行為で警察に捕まる可能性も有り得る。故に一回一回を大切にしたいと思っていたんだよ」

 

 中々リアルな話が出た。

 否、もしかしたら真名は悟ったのかもしれない。

 既に覇吐にはそういった噂(真実)が流れているのだから。

 

「……やはり、配下がいましたか」

 

 唐突に、刹那がそう呟いた。

 その言葉の真相を、二人もほぼ同時に察知する。

 何故なら特殊結界に反応があったから。複数人、恐らく六条の部下が麻帆良学園に侵入してきた。自分らの大将がやられたのを同じく察知したのだろう。最早、強襲に近い。

 

「行くぞ。こればかりは、物見遊山に洒落込めないぞ」

 

 蓮が啖呵を切る。

 本当にサボリになってしまう。

 学園長のじじぃが煩いだろう。

 

「はい、言われるまでもなく」

「そのつもりですよ、藤井さん」

 

 刹那と真名が頷くと同時に、建物の屋上から三人が動いた。

 向かうは烏合の衆の雑魚どもへ――

 

 

《3》

 

 六条の部下が待機していたのは、六条が現れた方角から東の場。

 そこには広場があり、昼間は学生たちがボール遊びなどをしたりしている愉快爽快な場所なのだ。

 しかし一転して夜になると、街灯もないため月明かりのみの薄暗い寂しい感じがする場所へと豹変する。

 静寂な空間に響く、複数の乱れた足音。

 こいつらが六条の部下たちだ。一人一人は六条以下の雑魚に等しいが、塵(ゴミ)も積もれば何とやらだ。

 

「――ここから先へは通さんぞ、愚鈍な侵入者ども!」

 

 その前に桜咲那が立ちはだかり、向かってくる敵に向かって叫ぶ。

 それに続いて藤井蓮と龍宮真名も現れた。

 

「通りたいというなら、私たち三人を退けてみろ!」

 

 愛刀である『夕凪』を引き抜き、威圧感のある瞳で連中を睨む。

 

「何だ、随分と気合入っているな桜咲。まぁ別に構わないんだが、肩に力を入れすぎるなよ」

 

 横目に蓮が呟く。

 懐かしい夕凪を見れて、少し感慨深いものを感じたのは内緒だ。

 そしてそのことについてだが、詠春は刹那に藤井蓮が昔、自分の仲間だったことは告げていない。

 

「敵の数はおよそ20といったところですね。この程度なら、10秒で片付く」

 

 真名が敵の数をこの暗闇の中で把握した。

 恐らくこの中で一番、目が効くのは真名だろう。流石はスナイパーである。

 

「さて藤井さん、一気に決めますか。あなたの実力は学園長から少しばかり聞いています。とても強いらしいですね」

「別に強くはない。学園長が勝手に言ってるだけだ」

 

 謙遜する蓮。

 その間に、六条の配下どもが再び動き出した。

 

「――来ましたよ!」

 

 刹那が構えると同時だった。

 

「あぁもう嫌だ。疲れた。頭グリングリンする」

 

 まるで場違いな、鬱病中の御門龍明先生が放浪者のように現れたのだ。

 

「何でなの、何でこうなったの。詐欺師に騙され、金持ち男に弄ばれ、嫁ぎ遅れた末にようやく教師になれたのに。ああ何で、どうしてこうなったの。ただ私は、陰陽師なんて言う世界から解脱したかっただけなのに。そもそも、私は生まれてきた場所が駄目だったんだ」

 

 周りが全く見えていないのか、ふらふらと千鳥足より頼りない足取りで歩を進める。

 そして流石、名門御門なのか遅れたが、周囲の異常な気にようやく気付いた。

 

「ああ、まさか私を追ってきたの! そうなのね、そうに違いないわ! だから嫌なのよ、名門の家ってやつは!」

 

 まるで狂ったかのような声を上げる龍明。

 

「もう嫌、もう嫌! もう沢山だわ!」

 

 瞬間、自分の不幸を相手にぶつけるが如く、龍明が力を発揮する。

 

「こうなったら全てを燃やす。燃き尽くしてやる!」

 

 六条の配下に向けて、

 

「神火清明、急々如律令」

 

 陰陽の呪を唱えると、紙吹雪のように炎精の霊符がいくつも敵の方に舞った。

 それを見定め、

 

「――オン」

 

 瞬間、炎の華が咲き乱れるが如く、大火力の爆破が起きた。

 鼓膜すら潰しかねない音圧が静寂を消し、赤い紅い熱気を帯びた炎が暗闇を照らし尽くす。

 今の一撃による衝撃に敵陣が全員呆気もなく吹っ飛ばされた。これが鬱真っ盛り中の御門龍明先生の力である。

 

「…………」

 

 その光景に、蓮たち三人は茫然自失としていた。

 いや、まさか龍明先生がここまで強いなんて思ってもみなかったからだ。

 

「あー何だ、とりあえず侵入者は全員撃退か」

 

 とても呆気なく。

 

「……一応、殺さない程度には加減されていたみたいです」

 

 こちらに吹っ飛んできた敵に近づき、刹那が生死の確認を取った。

 数日は起きない程度のレベルだ。

 

「炎も草木などに引火せずにいる。これは驚きだ。並ならぬ才能と練度によって成せる技だな」

 

 真名も感心せずにはいられなかった。

 と、龍明は再びフラフラ状態で何処かに歩き出してしまった。とてもあんな力があるとは思えない、覇気の無さだ。

 そして同時に朝日が昇り始めてきた。

 

「……朝か。仕事の終わりか」

 

 明るい太陽が上がる、警備の仕事が終わる合図だ。

 

「これで日常に帰れる」

 

 蓮は誰よりも日常が大好きだ。

 警備の仕事も日常に入る域だが、やはりこうして普通の人間と違う陰陽師なる者と戦うのは日常ではないだろう。

 故にあまり好きではない。

 

「――さて、学園長に報告して帰るか」

 

 こうして警備任務が終わったのだった。

 

   (∴)

 

「まだこれは終わっちゃねえ!」

 

 蓮がエヴァンジェリン宅に到着し、出入り口の扉を手にし入ろうとした瞬間だった。

 覇吐が後ろから参上した。

 

「何だ坂上か。何か用か?」

「何か用かじゃねぇよ。ほらあれだよあれ。明日来るネギの歓迎……って今日じゃねぇか! まぁ歓迎するのはどうせ夜くらいになりそうだから、まだ時間はあるけどな。いや待て、よくよく考えると夜じゃなくてもいいんだよな、歓迎の仕方によっては」

「一人芝居なら他所でやってくれ。じゃあな」

「いや待てよ。一応約束したろうが。一緒に考えてくれるってよ」

「あー、何かそんな約束したな。分かったよ、考えておいてやる。だから早く帰れ。お前、今日も教員の仕事があるんだろ」

「あ、そうか。んじゃ約束忘れるなよ」

「分かったから、とっとと帰れ。俺は眠い」

 

 上手く追い返した蓮はそのままエヴァ宅へと入る。

 また面倒な約束をしてしまったと軽く頭を抱える。しかし約束は約束だ。承諾した以上、破るわけにもいかないのだ。

 

「うにゅ、お兄ちゃん、帰ったのか」

 

 帰るとエヴァンジェリンが目覚めたとこなのか、寝巻き姿で二階から下りてきた。とても眠そうだ。

 

「ああ、おはよエヴァ」

「うむ……」

 

 すっ、エヴァが蓮に抱きつく。

 

「ふふふ、こうしてハグすると落ち着くよぉ、お兄ちゃんだぁい好きぃ」

 

 と言って頬をすりすりとしてくる。

 こいつはこいつで日に日に幼女化が進んでいるような気がすると、蓮は再び頭を抱えることとなった。初めて会った時とはえらい違いだった。

 ――どうしてこうなったのか?

 

   (∴)

 

 朝――

 麻帆良学園の生徒たちが登校する時間、スピーカーから大放送が流れた。

「学園生徒のみなさん。

こちらは生徒指導委員会です。

今週は遅刻者ゼロ週間。

始業ベルまで10分を切りました。

急ぎましょうーー」

 朝、通勤ラッシュも真っ青になるほどの勢いで、麻帆良学園の生徒たちが駆ける。

 一人一人が戦場を駆ける戦士のような面持ちだ。

 そんな中に随分と不釣りあいな赤毛の少年が一人、驚いた表情で声を上げていた。

 

「わわわ何コレ!? スゴイ人! これが日本の学校か――」

 

 ――この少年こそが英雄であるナギ・スプリングフィールドの息子……ネギ・スプリングフィールドである。

 

 第二幕の歌劇は全て、ここから始まる。

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