波旬兄弟と蓮親子がネギまの世界へ   作:死神一護

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数年ぶりの投稿です。
遅くなり大変申し訳ございません。待っていてくださった方がいるかは分かりませんが、もしいらっしゃいましたら嬉しい反面、申し訳ない気持ちで一杯です。
読んでくだされば幸いですが、相も変わらず駄文です。

次回はなるべく早く更新したいと思います。

黒白のアヴェスターが凄く楽しみな金曜日です。
ちなみにUQ HOLDERはまだ途中までしか読んでいないです。


第十六歌劇【お互いの悩み】

《1》

「ほらほら、ここの汚れが取れてないわよ。もっとしっかり目を開いて掃除しなさい」

「ルサルカさん、モップはもっと腰を使って、あと床を濡らしすぎないようにお願いします」

「おいルサルカ。朝の食器洗いはお前の担当だって昨日話しただろう。早く終わらせとけよ」

「全く、掃除もまともにやれないようでは、私のメイドとして不相応ね。これからが心配で仕方ないわ、このダメイド魔女」

「掃除用具の使い方も一から教えませんといけません。マスター、学校終わり少々お時間を頂く許可を下さいませ」

「そうだな、メイドとしての仕事を会得してくれたら、こっちの仕事も減るし良いんじゃないか?」

 朝のエヴァ宅では下僕もといメイドとして居候することとなったルサルカは、エヴァや絡繰茶々丸、そして愛しい藤井蓮よりお小言を頂いていた。

 白と黒を基調としたよくあるメイド服を着たルサルカは、三人の問答無用な言葉に頭を混乱させている。

「あぁ、もうイヤー! こんな生活! 私はただ蓮きゅんとラブラブでエッチな生活を送りたかっただけなのに~~~~!!」

 持っていた雑巾を床に叩きつけつつ、涙目でルサルカは蓮に抱きつこうとする。

「ヒステリーかよ。おいこら、鼻水垂らして近寄んな」

「おい私のお兄ちゃんに気安く近づくな! そして淫らな発言をするな!」

「これがいわゆる不倫というものですねマスター」

「誰だ茶々丸にこんな言葉を教えた奴は!?」

「私は不倫でも構わないわ! 必ず蓮きゅんを寝取ってみせる!」

「さっきから私のお兄ちゃんをきゅん付けするな、いい年して、この年増魔女め!」

「年増って、あんたにだけは言われたくないんですけど!」

 朝からほんわかな空気を展開するエヴァ宅。

 先日の喫茶店にて、エヴァンジェリンの下僕もとい下婢となったルサルカはハウスメイドのいろはを昨日、茶々丸に叩き込まれた。だが反日程度の時間ではほとんど身に付かず、おぼつかない一方である。

「全く、数百年も生きてこの程度のこともこなせないとは、今までどうやって生きてきたのやら」

 まるで煽るようにため息をわざとらしくつきながら、呆れ顔となるエヴァンジェリン。

「カッチーン! そもそも家事スキルのレベルを高望みしすぎなのよ! 言っとくけどね掃除は人並みにはできるし、料理だって得意だと自負してるんだから!」

「確かに料理の腕前は目覚ましいものでした。高評価に値します」

 ルサルカの発言に、肯定の意を示す茶々丸。

「まぁエヴァに比べたら掃除、炊事、洗濯は圧倒的にマシだしな」

「わ、私は高貴な吸血鬼だから良いんだ!」

「へぇ、これはこれは高貴な吸血鬼様はメイドに全てお任せでいらっしゃるから、なぁんにも出来ないんですね~。麻帆良学園じゃなくてフィニッシングスクールにでも悠々と通ったら? まぁその間に蓮きゅんは私がもらうけど」

「こいつを魔女裁判にかけてやりたいんだが、どこに手続きすればいい?」

 眉間に青筋を立てるエヴァンジェリン。

「そもそもきゅん付けなど古い! いつの時代の言い回しだ全く。私のようにしっかり時代の波に乗れないようでは、程度が知れるわ年増陰険魔女め!」

「うわっ、まるで自分は乗れているかのようなこと言ってるわ。自分でそんなこと言ってるようじゃ、まだまだ年寄り思考ね。普通はね、そんなこと自分で言わないの? 分かる? 本当に乗れている人はね、そんなこといちいち口に出して言わないのよ。まぁ私は時代の最先端を行ってるから、これ以上あなたを陥れるようなことは言わないけどね」

「おい年増陰険淫乱魔女が早口で何か言ってるぞ。お兄ちゃん訳してくれ」

「はぁ!? 全然早口じゃないんですけど! これだから年寄りは。耳が遠くなったんじゃないの?」

 そんな犬猿の仲な二人を蓮は、頭を抱えながら大きくため息をつく。

 ――こんなやり取りがこれから毎日続くのか? 朝っぱらからこんなやり取り、面倒くさくて絡まれたくない。

 とりあえずコーヒーを飲んで、少しでも頭が冴えるようにしようと思い、冷蔵庫の中の市販のブラックコーヒーに手を掛けようとした途端……

「蓮さん大変だ! 俺、もうどうしていいのか分からねえ!!」

 ノックもせず、我が家の玄関を蹴破る勢いで坂上覇吐が現れた。

 それにカチンとくるも、蓮は平常心で応対する。

「おい、もっと静かに入って来い。そうでなくても今ここは、野生の獣が二匹いがみ合ってるんだからよ」

「「誰が野生の獣よ!?」」

 と、エヴァンジェリンとルサルカが同時に突っ込む。息ぴったりだったため、仲がいいのか悪いのか分からない。

「わ、悪ィ。ちょっと焦っちまってよ」

「おはようございます覇吐先生。コーヒーでもお入れ致しましょうか?」

 慇懃な態度で茶々丸が言うも、

「こんな男に飲ませるコーヒーなどない。風呂の残り湯でも飲ませてやれ」

 エヴァンジェリンが酷いことを言う。

 もはや覇吐など人間扱いさせてもらえないエヴァ宅。みんなの浸かった湯船の湯を飲ませようとするあたり、ゴミ処理係もいいとこである。

 しかしそれを聞いた覇吐は真顔で、

「…………ああ、それでいいぜ」

 などと、ほざいたのだ。

 その返答に対し全員があっけらかんとする。

 蓮は誰よりも早く、覇吐の考えを読み取った。

 ――恐らく、女性陣の浸かったお湯を飲みたいとかいう変態思考。少し間があったのは蓮も入っただろうから悩みはしたものの、女性陣の方が割合が多い為、OKしたのだろう。

 気持ち悪く、ドン引きなことこの上ないが、それこそが坂上覇吐。性欲界紳士道を邁進する益荒男である。

「はい、かしこまりました。直ぐにご用意いたします」

「いや用意しなくていいから!」

 茶々丸の行動を蓮は静止させた。

 自分の父親、メルクリウスにも負けず劣らぬ変態ぶりは自明の理。何とも教育に悪い男である。

「つうか、要件を言え。お前をここに置いておくと茶々丸の教育上よろしくない」

「酷いことをサラッと言いますね。そんじゃあ言わせてもらいますね。俺、ネギ先生にアイツの父親のことを喋っちまった!」

 狼狽した様子で話す覇吐。

「学園長にも話すなって言われていたのによ。俺ってば、魔法世界出身ってこととかナギの知り合いってことをコロッと話してよ。やべぇよ、これじゃあ俺の夢、保健体育の先生になる夢も遠のいちまう!」

 わたわたしながら話す覇吐に対して、蓮とエヴァンジェリンは心底興味なさげな表情となっている。ルサルカに至っては既に話すら聞いていない。

 蓮はコーヒーを飲みつつ親切に答える。

「お前の夢はどうでもいいとして、別にそんぐらいいいだろ。それで今の仕事を首になってニートになるわけじゃないしな。それに遅かれ早かれいつかバレるんだから問題ないだろ。逆になんで黙っとかなければいけないんだって話だ」

「そうだけどよ。学園長に媚売っとかねえと俺の夢は叶えられないだろうし」

「間違えなく媚は売れないし誰も買わねえよ」

 消極的に蓮は言い、そのふざけた夢をどう粉々にしようかと悩み始める。

「おいお兄ちゃんよ。どうだ、ここは一つこの下郎に貸しでも作らんか?」

「は?」

 急なエヴァンジェリンの提案に、間の抜けた声を上げる蓮。

「いや何、簡単なことだよ。この吸血鬼である私と、ネギのぼーや、一つ遊んでやろうと思ってな。この下郎に貸しを作ったところで何の価値もないだろうが、暇潰しにはちょうど良い」

「いや本当にメリットがねぇな」

「しかし私が戦ってはつまらん。ここは適役、というより最初の仕事を年増陰険足引BBAに任せるとしよう」

「ちょっとそれ私のこと!?」

 ルサルカが突っ込む。どんどん自分に対する悪口が増していく。

「……てか、今のどういう意味?」

「だから、貴様がネギのぼーやと戦うんだよ。一回で聞き取れ」

 つまりネギとルサルカを戦わせる。

 

 そんな話がネギの知らぬところで進んでいたのだった。

 

 

   (∴)

 

「覇吐先生、大変なことになりました」

「ああ、俺もだ」

 校舎外にて、坂上覇吐とネギ・スプリングフィールドがガックリしていた。

 夕焼けの空の下、儚い茜色に染まった光景にお似合いな二人は、それぞれの悩みを打ち明けていたのだ。

「このままだと僕、この立派な先生にもなれずにクビになるかもしれません~」

「おう、俺もこのままだと立派な保健体育の先生になれねぇ」

 項垂れる二人はそれぞれ事情を言うと、ネギはふと気になる。

「あれ、覇吐先生はどうしてなれないんですか? 僕は課題に失敗したら終わりですけど、覇吐先生は努力すればなれるのではないですか?」

「こっちにも大人の事情ってのがあるんだよ。それに、お前のその課題だって、生徒を信じて諦めずに頑張れば突破できるだろ」

 ネギ先生は午前の時間に、学園長への最終課題が出された。

 現在、ネギ先生はあくまで教育実習生という身の上。よって、出題された課題をクリアしなければ正式な先生として認められないのだ。

 その課題の内容は――

「僕も何とかなりそうだとは思ったんです。課題はあくまで……次の期末テストで僕のクラスが最下位を脱出する、というものでしたから。ですが、今日の授業で確信しました。本気でマズいんです! このままだと僕、故郷へ強制帰国されてダメ先生、ダメ魔法使いになっちゃいます!」

「心配するな。俺にはお前の比なんかじゃねえダメ兄貴がいるからよ」

「覇吐先生は兄弟がいらっしゃるんですね。どんな人なんですか?」

「どんな人……」

 その問いに答えを窮する。

 自分の困った兄こと波旬。一言で答えるなら自分大好きマン。数十年前、各国各魔法使いたちに多大なご迷惑をかけた、口が裂けても自慢の兄とは言えない人物。

 結果、少しだけ脚色して答えることにした。

「そうだな、カレー大好きインド人とでも思っていてくれや」

「カレーが好きなんですね。ですがインド人なんですか?」

「掘り下げようとするなよ。今は目先の問題を解決するのに専念しようや」

 これ以上深く追及されたら、また墓穴を掘りそうになるので覇吐は話題を戻す。

「さてと、ネギ先生はこの後どうするつもりなんだ? 察するに問題はバカレンジャー(明日菜、まき絵、楓、古菲、夕映)だろ」

 そう、意外にもネギ先生のクラス2-Aは学年トップが三人いるものの全体の平均が低く、特にバカレンジャーと呼ばれる5人は酷くテストの点数が低い。

 よって学年最下位なのである。

「はい、そうですね。最初は僕の魔法でどうにかしようと思ったんですが、アスナさんからもっと生徒たちのことを考えてほしいと言われまして……」

 途端、ネギが言い淀み始めたかと思うと覇吐があることに気づいた。

「そういやお前、その手首に付いてる黒い線模様はなんだ?」

「あ、気付きましたか。もっと早く言うつもりだったんですが、なかなか言い出せず……」

 ネギの手首には三本の黒い線が腕輪のように三本引かれており、それぞれにⅠ、Ⅱ、Ⅲと数字が刻まれていた。

「これはですね、三日間ぼく自身の魔法を完全に封じ込める魔法なんです。つまりこの三日間、期末テストまで僕は魔法を一切使えません」

「おいおいマジかよ」

 ようするに、今のネギ先生はただの頭の良い子供と変わらない、と言う事だ。

「僕はアスナさんに気づかされました。生徒の力を信じる。僕は一教師として、安易に魔法に頼らずにいきたいんです」

 決心した表情で言うネギに、覇吐はとても眩しく感じた。自分の下心バリバリの邪な夢が浄化されそうになったのだ。

「あ、そう言えば覇吐先生のお悩みは何でしょうか? よければ僕が力になりますよ!」

「ああ、いやいい。俺の心配はせず、お前は目先の事だけを考えてろ」

 自身の悩み事が、ネギに間違ってナギの知り合いだと言ってしまった事。それにより学園長に目を付けられ、己の野望である保健体育の先生になるという道が更に遠のく恐れがある事。それこそが悩みなのである。

 それプラスで、新たな悩みと言うか、問題ができた。

 朝、助力を得ようとエヴァンジェリン宅に乗り込んで、ナギの事をネギに告げてしまったという旨を説明した。そしてエヴァンジェリンから出た案がこうである。

『ネギのぼーやには近々こちらから遊んでやるつもりだった。ちょうどよいから、そこの足引きBBAにそれを任せるとしよう。そしてぼーやには、こちらから補足を加えといてやる。ナギの件は私が暇つぶしに貴様に話してやった。故にナギのことを知っていたのだと。学園長にも適当に言えば片はつく。これは貸しだ。近い未来、貴様には私の手足となってボロクチャに働いてもらうから、そのつもりでいろよ。ちなみにこの約束を取り消したり、無かったことにしたら、それはそれで貴様には物理的にボロクチャになってもらうからヨロシク』

 若干、脅迫じみた形でエヴァンジェリンがアシストしてくれることとなっている。

 助かるには助かるが、ネギには色々と迷惑をかけそうだし、結果的にエヴァンジェリンが色々と暴走してしまったら自分が責任を負いそうだし、本当に事がうまく運ぶかもわからないしと、苦悩が尽きないのだ。

「さて、男二人がいつもでもここで黄昏てるのも絵にならねえし、そろそろ帰るぜ。ネギ先生はこの三日間大変だと思うし、こんなところでへこたれてる場合じゃねえだろう」

「はい、そうですね! 僕も僕なりに、生徒たちと向き合って頑張りたいと思います!」

 こうして二人は互いに目標に向けて歩みを進めるのだった。

 

   *

 

「さて覇吐先生、言い分は何も聞くつもりはない。じゃから、少し手伝ってもらう」

 歩みを進めようとした覇吐の足を止めたのは、頭が上がらない学園長である。

 あの後、帰宅してエロ本を参考資料に保険の勉学に励もうとしようとしたが、その前に学園長からの呼び出しコールを受けてしまった。嫌な予感をこれでもかと孕みながら、学園長室へ足を運んだ覇吐だったが、その予感は的中していたのだ。

「お主がネギ先生にナギのことについて話したのは知っておるぞ。まぁ話したと言っても、あくまで知っている、ということだけでそれ以上のことを話していなかったのは僥倖じゃったが」

 入るや否や、胸を突き刺すような言葉を頂戴した。

 弁明の余地なし。

 嫌な汗をかいた覇吐に対し、学園長は言葉を紡ぐ。

「別に責めるつもりはない。知ったところでそこまで困る事でもないゆえな。じゃが、ワシとの約束事を破ったのもまた事実。ケジメはつけてもらうぞ覇吐先生」

「何なりと親父」

 なぜか極道じみたやりとりとなったが、覇吐の心臓は不安で鼓動が早くなっている。

「さてそのケジメじゃがの、覇吐先生にはワシが用意したゴーレムを操作してもらう」

「ゴーレム?」

「うむ、図書館島の地下に準備してあるのじゃが、そこで色々と問題を出してほしいのじゃよ」

 ゴーレム? 問題? 一体何を言ってるんだこのジジイと思う覇吐。

 学園長の意図を読みかねていると、水色の綺麗な水晶を机の上に学園長が置いた。

「どうやらネギ先生のクラスの生徒達が、どこから情報を仕入れたかは知らぬが、図書館島の地下に眠る魔法の本を入手して賢くなろう……などと言う、とても教師として看過できん事をしようとしておるのじゃ」

「はぁ……」

「そこで少しお灸をすえようと思う。何も知らずに来た生徒たちに、魔法の本の門番としてゴーレムを配置する。それを覇吐先生が操作して邪魔をするのじゃ」

「ふぅん……」

「しかし、ただ邪魔をするのでは教育者として不十分じゃ。邪魔の仕方、なのじゃが生徒達には問題を出していこうと思う」

「へぇ……」

「数々の期末テストの範囲の問題を出して、生徒たちに一致団結して踏破してもらう。頭も良くなる上、生徒たちの絆もより一層深まると言うわけじゃ。ふむ、流石はワシ、なかなかの策士じゃろ?」

「そうっすね」

 相槌が適当になる。

 色々とツッコミたいところがあるし、こんなこと引き受けたくない。というか図書館島の地下は様々な罠があったりと危険だから、教育者なら止めるよう注意しろよと指摘したい。

 だがここで強く諫言すれば、自分の立場が危うくなる恐れもある。

 よって、覇吐は渋々だがそれを了承することとした。

「分かりましたよ学園長。そんじゃあその依頼、ケジメとして立派にやり遂げて見せるぜ」

「うむ、お主ならそう言ってくれると思っていたぞ。では、これを熟読しておくように」

「何んすか、それ?」

 机の上に、数冊の教科書が置かれる。

「何を言っておる。期末テストから出題する問題を考え出さんといかんじゃろ。ゴーレムで問題を出すのじゃから、覇吐先生もしっかり期末の範囲は勉強しないとの」

「えー! マジっすか!? 学園長が抽出して俺に教えてくれんじゃないんすか!?」

「愚か者め、それをワシがしたらお主に頼んだ意味がないじゃろうが」

「俺がそんな、国語やら数学やら英語やら小難しいもん分かるわけないでしょうが!」

 一応教育者の身分から出るような言葉ではない台詞を口にする。

 実際、覇吐にそこまでの教養はない。

 学園長はため息をつき、困ったように頭に手をやる。

「全く、少しは教員らしく自己スキルのアップに努めてほしいもんじゃわい。仕方ないの。問題に関しては、しずな先生と考えてもらおうかの」

「マジすか!? あのヌキヌキポンな見目麗しいしずな先生とですか! こりゃ俄然やる気が出るってもんですよ流石は学園長!」

「嘘じゃよ馬鹿者め! お主は今から神多羅木先生(グラサンの強面)と共に考えてもらう」

「俺はいつかあんたに復讐してやる」

 上げてから一気に奈落に落とされた気分となった覇吐は、こうして学園長の頼みを嫌々ながら聞くこととなった。

 

 

《2》

 覇吐は学園長室を出た後、神多羅木先生と別室にて早速教科書から問題を抜粋していた。

 正直なところ、あんなヤクザみたいなおっさんと二人きりの空間は空気が重い上、疲労感が尋常ではない。夕刻から夜にかけて行われた作業は、切りのいいところで小休憩とし、神多羅木先生は煙草を一服、覇吐は夜風に当たるため外に出ていた。

 外に出ると同時に携帯電話(学園からの支給品)を取り出し、自身の相方であるザジ・レイニーデイに電話していた。

「もう限界だよザジちゃん! 俺どうにかなっちゃいそう! あんなおっさんと二人きりなんて、もう脅迫を受けている図にしかならない!」

『知らないし興味もない』

「冷たい! けどそんなザジちゃんが好き!」

『気持ち悪い。分かった何があったか聞いてあげるから、その気持ちの悪い声音はやめて』

「ありがとう! やっぱり俺のザジちゃんは最高だぜッ!」

『…………』

 プツンと、通話が切られた。

 プー、プーと、空しい電子音が静寂な夜に小さく響く。

「……切りやがったアイツ! こうなったら何度もかけなおして――」

 と、その時だった。

 言いえぬ剣呑な雰囲気を感じ取ると、次には暴虐じみた殺気が襲ってきた。

 勉強はからきしだが、戦闘という面においては達人を上回る覇吐。それを感じるや否や後方に跳びのき、その殺意の正体を目にする。

 その正体は影。

 街頭に照らされていたおかげで直ぐに理解した。影のようなものが生き物のように動き、自身を喰らうが如く迫ってきていたのだ。影を使った魔法、それを使用した刺客を覇吐は知っていた。

「おいおい、こんな学園内でんな殺気ムンムンに出してよ、出すなら色気だけにしとけ」

 余裕の笑みを浮かべて言う。実際、今のを回避するなど造作もない。

 そして、覇吐の目の前に一人の少女が現れた。

「あんたみたいな野獣に色気なんて出すわけないでしょ。野獣は野獣らしく、大人しく狩られてなさいっての」

 冷徹な物言いをする少女の正体は、ルサルカ・シュヴェーゲリン。現在、エヴァンジェリン宅で雑用をやらされている小間使いだ。

「野獣とは酷ェ。だがまぁ男はいつでも性欲の野獣だからな」

「本当にキモイわねアンタ。私でもドン引きよ」

「けど心配するな。俺はどれだけチンチクリンでも受け入れる寛容な心の持ち主だ。あんたが俺と一夜を共にしたいってんなら、それを拒むつもりはねぇよ」

「なに一人で酔ってんのよ。私があんたに靡くと思ってるのかしら?」

 もはや殺気はどこへやら。ルサルカは意欲を失った表情となると、ビシッと人差し指を覇吐に向けながら言った。

「アンタのせいで、よく分からないガキと戦う羽目になったのよ。それに関して文句を言いに来たの」

 ああ成程と、覇吐は理解する。

 今日の朝、エヴァンジェリンがルサルカにそんなことを言っていた。確かにあれは自分のせいだと、反省はしていないが頷く。

「そういやそうだったな。けどそいつはあんたのところの主が決めたことだろう? 俺に文句言われても困るぜ」

「あんたが面倒事を持ち込んできたんでしょう! そんな時間があるなら、私はもっと蓮きゅんとイチャイチャできたっていうのに!」

「そいつは残念だったな。そして諦めろ。俺だって本当なら今頃、お色気ムンムンな姉ちゃんが一杯載った写真集を眺めていたんだ。それが何の因果か、強面のおっさんと密室で問題を作り、今は色気がほぼないあんたと駄弁ってる。つまり、俺とアンタは今、同じ穴のムジナって訳だ。ここはお互い仲良くいこうじゃねぇか」

「あんたのそれは全部、自業自得でしょうが!」

 怒りを爆発させたルサルカが、再び影のようなものを操り覇吐を襲う。

 もはや投げ槍めいた攻撃だが、並の魔法使いなら一瞬で影に食われてしまう勢いである。しかし覇吐はそれを軽やかに回避すると、ルサルカに背中を向け、

「おっと悪い、そろそろ休憩が終わる時間だ。遅れるとあの強面に何言われるか分からねえからな。少ししか付き合えねぇで悪い」

 逃げ出した。

「あっ、ちょっと待ちなさいっての!」

 ルサルカが追いかけようとするが、

「俺を口説きたいなら、もっと色気ムンムンになるんだな。そうすりゃもっと付き合ってやるよ」

 などと言い残し、覇吐は脱兎の如くその場を後にしたのだった。

 

   *

 

 ――あれから再び神多羅木先生と問題を作成し、遂にそれが終了したのだ。

 抜け殻のようになった覇吐が机に突っ伏していると、神多羅木先生は「お疲れ」とだけ言い帰っていった。そして入れ違うように、そこに学園長が入ってきたのだ。

「ふむ、ようやった。しかし本番はこれからじゃぞ覇吐先生」

「え?」

 突っ伏した状態で顔だけ学園長に向ける。

「事態は次へ次へと進んでおる。端的に言うと、既に図書館島に2-Aの生徒達とそしてネギ先生が乗り込んでおる」

「ネギもかよ」

「うむ、恐らく魔法の本に興味を持ったか、生徒たちが心配だったからじゃろ。さて労いの一つも上げたいところじゃが、早速ゴーレムの操作に取り掛かってもらうぞ。準備はよろしいかの?」

「このまま寝かせてほしいけど、そうはいかねぇよな」

 覇吐は重い体に力を込めて立ち上がる。

「そんじゃあ一丁、揉んでやるか」

「お主がそれを言うとセクハラに聞こえるの」

 こうして、早くもゴレーム操作と生徒一同に問題を出す時が来たのだった。

 

 そしてネギ一行はと言うと。

 バカレンジャーの5人とシェルバ&地下連絡員として木乃香、のどか、ハルナ、そして付き添わされたネギ先生という布陣である。

 地上班であるのどかとハルナを残し、いざダンジョンとなっている図書館島の地下へと向かった行ったのだ。

 しかしネギは魔法が使えないゆえ、こういったダンジョンでは足手まといにしかならない。

 魔法も使えないまま、藤〇〇探検隊の如く地下へ地下へと生徒たちが突き進んでいったのだ。

 数々の罠、道なき道を歩み、苦難の先に見えたのは――物凄くRPGでボスが出てきそうな場所だった。

 そしてその先に、古びた本が一冊あったのだ。ネギ先生が「あれはメルキセデクの書! 最高の魔法書で、確かにあれならちょっと頭を良くするくらい簡単ですよ!」と言う台詞が発破となり、バカレンジャーが一斉に本に向けて駆け出したのだ。

 そこで遂にゴレーム(覇吐の遠隔操作)の出番がやってくる。

『待ってたぜ嬢ちゃん諸君! このさかッ――痛い! あ、すんません間違いました。このゴーレムがいる限り、魔法書はそう簡単に渡さねえぜ!』

 本の前に立ちはだかるゴーレムに、一同驚愕とする。

「せ、石像が動いた!?」

「おおお!!」

「どことなくこのノリに見覚えがあるでござるな」

 バカレンジャーが驚く。

『どうしても欲しいってんなら、この俺が必死で考えた問題に答えてもらうぜ!』

「も、問題?」

『第一問! デデン! Difficultの日本語訳は!?』

「えー何ソレ!?」

「どういうことなのよ!?」

 ゴーレムの急な問いかけに、騒然とする一同。それに対しネギ先生は冷静にみんなに言う。

「皆さん落ち着いてください! きっとゴーレムの問題を解いていけば、この罠も突破できるはずです。床がツイスターゲームのように文字が刻まれているので、それを踏んで答えればいいはずです!」

「そんなこと言われたって!?」

「ディフィなんちゃらって何だっけ!?}

『答えを教えたら失格だぜ』

「あう、え、えっと、easyの反対です! つまり、簡単じゃないってことですよ!」

 若干、答えを教えたのと同義のようなネギのヒントに、バカレンジャー一同が察する。

 各々が協力して、む、ず、い、と手をつけた。

『むずいだ……まぁいっか。正解だ!』

「やったー!」

「これで本GETだね!」

『よし二問目いくぜ! CUTの日本語訳は?』

「二問目!?」

「ちょっとちょっと聞いてないわよ!?」

『誰も一問だけなんて言ってないぜ。ほらほら、別のところに手を付けたら失格だから気をつけろ』

 そうしてゴーレムの問題が続くこととなる。

 次々と出される問題。ツイスターゲームの要領で答えていくため、バカレンジャーの足や手の位置は滑稽な人形のように面白おかしくなる。

「あたたたたたっ!」

「キャーーーー!」

「い、いたいです……」

「死ぬ死んじゃう~~!!」

『……何だこれは、すげぇエロスを感じる。……待てよ考えるんだ俺。こういう時こそクールに、頭を冷やして考えろ。次の問題次第ではもっとエロく、否パンツ丸見えになるんだ! よし、ここは益荒男として必ず成就させねえと。俺には今、試練が課せられているんだ!』

 声高らかにゴーレムが天に拳をかかげた。

「……何か最低なこと言ってるんですけど」

「やはりこの感じ、とても見知っているような気がするでござるな」

「とにかく早く次の問題を出して~!」

 もう限界に近いバカレンジャー達は、次の問題を催促する。

『ん、ああ、そうだな……』

 ここでゴーレムは頭をフル稼働。

 どこに手や足を持っていかせれば見えるか、どこを誰が離して誰が持っていくか、自分の角度や予測などを交えつつ計算する。問題を考える時よりも知恵を絞った結果、ゴレームの目が光った。

『よっしゃ、じゃあ最終問題いくぜ! 最終問題――夜這いの日本語訳は!?』

 ゴーレムの問題に対し、一瞬の沈黙と静寂。そして次の瞬間には羞恥心による怒号が飛び交った。

「そんなの分かるわけないでしょ!?」

「セクハラなんですけど!?」

「最低ですね……」

「この石像ぶっ飛ばしたいアルね!」

「やはりこの石像は覇吐先生に似ているでござるな」

 バカレンジャーから罵声を頂き――一人には正体を看破され――そして気づく。

 怒りで床についていた手や足をもうどけてしまって、崩れてしまっていることに……。

「「あ」」

 真っ先に傍目から見ていたネギと木乃香が気づいた時には時すでに遅く、ゴーレムは持っているハンマーを振り上げた。

『悪いな嬢ちゃんたち、失格だぜ』

 そして勢いよく振り下ろされる。

 破壊力は抜群らしく、ツイスターゲームをやっていた床はいとも簡単に崩れたのだ。そして奈落の底に落ちるように、バカレンジャー及びネギと木乃香は更に地下へと落ちていったのだった。

『……くそッ、残念だったぜ』

 ゴーレムは遺憾の意を示しながら、悔し涙を流した。

 

   *

 

「……とりあえず手筈通り事を進めたぜ学園長」

 覇吐は一服しつつ、学園長室にてソファに深くもたれかかった。

 場所は学園長室。その客用のソファに座りながら、テーブルに置かれた水晶を見つめる。どこか悲嘆な気持ちになりつつ、これでケジメは終わったのだと安堵の気持ちにもなった。

 学園長は椅子に座りながら事の経緯を見届け、初めて労いの言葉を投げかける。

「ようやってくれたわい覇吐先生。ワシだったら最後の問題を解いてもらい、それだけで終わるところじゃった」

「はい? どういうことすっか?」

「ワシがもし問題を出していたら、最後はDISHを日本語訳にしろという問いを行い、それでこの話は終わっていたであろう。それではあの生徒たちは成長せん。もし間違えたら地底図書館まで落とす。そして予め用意しておいた全教科のテキストや食材、キッチンやトイレ、日常品を使ってもらい、テスト期間までそこでみっちり勉強をしてもらう。それでこそ生徒たちは成長するってもんじゃからの」

「DISHなら普通に答えられただろうしな。つまり俺の独断が功を奏した訳だな」

「問題は最低じゃったがの。まぁ災い転じて福となすじゃな」

「いや俺って災い扱いなんすか」

 一服付くと、覇吐は立ち上がる。

「さて、俺はそろそろ帰らせてもらうぜ。これでもう大丈夫なんだろう? 俺の事も、それにネギ先生のことも」

「ふむ、ネギ先生が付いていれば、あそこで授業もできるじゃろうしな。恐らくワシが出した課題も制覇できるじゃろう」

「そいつは良かった。じゃあ帰らせてもらうぜ」

「お疲れ様じゃ。後のことはワシに任せておれ」

 そうして覇吐は学園長室を後にした。

 もう外は深夜となる時間帯。外に出た覇吐は、自分を心配してくれているだろう、いてくれたら嬉しいザジに連絡を入れようとしたが、もう時間が時間だしやめることにした。

 ――とにかく早く帰って寝よう、慣れないことをして疲れがたまっている。

 そう思った矢先だった……。

 夜道を一人歩いていると、一人の女性がこちらにやって来たのだ。

「あらぁ、これはこれは逞しい方ですね。こんな夜遅くに出歩いているなんて、警備員か何かですか?」

 それは赤毛の艶やかなロングヘアーに、深紅の魅惑に満ちたドレスを身に纏った女性。出るとこは出て、引っ込むところは引っ込んでいる、まさに端麗で麗しい女性だった。

 瞬間、覇吐の全身に電流が走る。

「なぁにー! 目の前にヌキヌキポンみてぇな姉ちゃんがッ!」

「あらやだぁ、不粋な殿方ですこと」

「い、いや……」

 覇吐は文字通り背筋を真っすぐに伸ばし、髪形を纏め、

「あなたはどこの麗しいお姉さんでしょうか?」

 自分が出せる最高のイケメンボイスで、相手の顔を見つめる。

「うふふふ、今宵のような静かな夜に野暮な質問はやめましょう」

「それもそうでございます。しかし、一体何の用でこちらに?」

「それは、私の口から言わないといけないのかしら?」

「い、いいえ。これは無礼でした。ごほん、麗しのお姉さん。ここに酒はありませんが、一緒に月明かりの下で耽溺してみませんか?」

「あらぁ誘っているのね。そうね、あなたが極上の酒のお味を教えてくださるのですか?」

「はい。この夜の益荒男と呼ばれたい覇吐。酒も甘いものも好きな両刀使いでございますゆえ」

「それは随分と逞しいこと」

「というわけで――お姉さん!!」

 地面を蹴り、今日一の速さで目の前に女性に飛びつく。

 先までの覇吐からは一転、いつものテンションに戻っている。つまり性欲の権化たる覇吐が我慢の限界となったのだ。

「――かかったわね、この変態!」

 しかしそれが罠。

 魅了という罠に簡単に引っかかった覇吐は、女性の足元から伸びた触手めいた影の怪物に捕まってしまったのだ。

「な、なにッ!? こいつは、いやこの影はまさか!?」

「よくもさっきは逃げてくれたわね。けど、こうして誘惑したら簡単に捕まえられたわ。単細胞で本当に助かったわよ」

 ボンッと煙が女性から上がり、見えなくなる。そしてそこからルサルカが現れたのだ。

「お、お前は!? まさかこの俺を騙したのか!?」

「ええ、その通りよ」

「くそッ! 俺の純情を弄んだってのか。酷ェ、そこまでするのかよ!」

 ドバッと涙を流す覇吐。

「ふんっ、さっきチンチクリンって言った罰よ。それに色気ムンムンで行ったら付き合ってくれるんでしょ? だからご要望に応えてあげたのよ」

「ならせめて色気ムンムンのさっきの姉ちゃんの姿でお願いします!」

「うるさい、立場を考えなさいっての。ほらッ!」

 覇吐を縛っている黒い影のような触手を蠢かし、締めを強くしていく。

「あはん、だめッ、癖になりそう……ッ!」

「きも、まぁいいわ。時間の無駄だし、私の要件に速やかに答えなさい」

「はい……」

「この私が戦わされるネギなんちゃらフィールドについて、どんな奴か教えなさい。あと、その父親のナギってやつもこともね」

 

 こうして、ネギの知らないところで物語が動き出していくのだった。


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