《1》
「ネギ先生よ、あのエヴァンジェリンに一泡吹かせるならまずは仮契約だ!」
「か、仮契約ですか……?」
次の日の夜、覇吐はネギが滞在している神楽坂明日菜と近衛木乃香の部屋にいた。
ここはあくまで女子寮、男子禁制だが不法侵入を得意とする覇吐は易々とこの部屋まで入ってきた。ドアを開けるや否や明日菜の飛び蹴りが顔面に炸裂したが、鼻血を垂らす程度で済んだ。
そして警察に通報される前に理由を簡潔に話した。
それはエヴァンジェリンの果たし状の対策である。
今日の朝、ネギは子供じみた――実際は10歳の子供だが――駄々をこねベッドから出ようとしなかった。エヴァンジェリンに会いたくないためである。それを明日菜が強引に学園に連れてきたのだ。
そして悩みでもあるパートナーだが、憂鬱なあまり生徒たちにパートナーはいますか? 僕とパートナーになりませんか? などと聞き回った。子供がゆえに許させる行為だが、これを覇吐がすれば懲役は確実だ。
同時にネギに元気がないことに感づいた3-Aの面々は、意気軒昂の盛り上がりでネギを元気づけた。
それによりある程度、気を持ち直して今に至るのである。
「ねぇ、その仮契約ってなんなの? パートナーの仮契約ってそのままの意味で受け取っていいの?」
明日菜が疑問に思ったことを口にする。
「ああ、そうだな。本契約とは違う、まぁお試しのようなもんか」
「それでネギと仮契約をしたら、あのヱヴァンジェリンと戦えるってわけ?」
「勝率は格段に上がる。つか、仮契約をしたパートナーがいないと、どう足掻いても勝ち目はねえよ」
「そ、そうなんだ」
「お、何だよアスナちゃん。仮契約したいのか? いいぜ、やり方を教えてやろうか。簡単だからよ」
「べ、別にしたいとか言ってないわよ。けどまぁ、方法くらいは聞いておくわね。どうするの?」
「キッスだよ。チッス。ネギ先生とチューするわけよ」
「はあ!? そんな方法で仮契約するの!? あくまで仮でしょ!? てか言い方がきもい、おじさんみたいな言い方しないで変態先生!」
「せっかく教えてやったのに、その言い草はねえだろ」
ちょっと傷つく覇吐。
キスと言う方法に、盛大に顔を赤らめた明日菜はまだまだ初心のようでネギと顔を合わせられないでいた。
「とにもかくにも、とりあえず仮契約でパートナーを見つけれねえと話にならねえ。そこはネギ、お前さん自身が一番よく分かってると思うぜ」
「はい。昨日の戦いで嫌でも実感しました」
「だろ。なら善は急げだ。仮契約システムを使って
本契約との違いは、仮契約だと色々と制限がついてしまう欠点はある。
しかしネギ先生くらいの子供が本契約をするには、年齢的にもまだ早い。それで作られたのが仮契約システムだ。
「けど、そんな気軽に決めていいのでしょうか? 生徒さんにもしっかり相談しないとだし」
「固いねぇネギ先生。とりあえずサクッとアスナちゃんとしちまいな。ブチューっとさ」
「いい加減なこと言わないで変態先生!」
明日菜の拳が覇吐の顔面にめり込む。
「何だよ、中三にもなってキスしたことないのか。俺がお前さんくらいの年にはキスの一つや二つ……」
あれ、あったっけ? あ、幼い頃を思い出すのはやめよう。
自分で傷口を広げるぞ、と覇吐の心の危機管理が働き思考を停止した。
「まぁそれはいいとしてだ。アスナちゃんだってネギ先生のこと助けてやりたいだろ? ならネギ先生には
「何かむしょうにムカつくわね」
相手はあの吸血鬼エヴァンジェリンと肩を並べるほどの賞金首ーールサルカ・シュヴェーゲリンだ。実力的にも予想にはなるが、吸血鬼とほぼ互角と見ている。
しかもタチが悪いことに、恐らくルサルカは子供だからと容赦はしない。
「……分かったわよ。けどちょっと待ってよ。きゅ、急には無理だから! せめて、明日、明日その仮契約ってのをやりましょ!」
「あ、アスナさん! あ、ありがとうございます!」
「べ、別にパートナーとかそんなのは一回切りだから! あんたには一応、テストの時なんかも助けられたし。だから、しょうがなくよしょうがなく!」
「お、いいツンデレだぜアスナちゃん。俺にグッと来た」
「ちょっと変態野郎は黙ってて」
そして冷たくあしらわれる覇吐であった。
*
そして翌朝、覇吐とザジ•レイニーデイは 藤井蓮とエヴァンジェリンに会うためいつものエヴァ宅もといログハウスに足を運んでいた。
軽く今後の予定と前回の一件の事も踏まえてである。
「さて、いちいち終わった出来事をネチネチ言うのはお互いやめようぜ。ちょっと何で俺の姿で生徒を襲わせてるんですか!?」
「おいツッコミをさせようとするな」
まず開口一番に言葉を発した覇吐だが、それは直ぐに蓮により打ち切られた。
「あの時、色々と情報伝達をせずに動き出したみんなが悪い。ルサルカ然り、エヴァ然り、覇吐然りだ。あんなの失敗して当然だろう」
「それについては弁明の余地はない。まぁ、先の件はお互いなかったことにしよう。過失相殺というやつだ」
「ちょっと違うと思うぞエヴァ」
特に謝る気配を一切見せないエヴァジェリン。
しかし覇吐が本当に言いたいのはそこではない。
「そんなことより俺はな、ザジ。お前がそんな簡単に買収される奴とは思ってなかった」
「…………」
あの時、ザジはお笑いライブの特等席のチケットで買収されていたと記憶している覇吐。
悲しいことに覇吐よりもお笑いライブに天秤が傾いたことに、一言二言は文句を言いたいのだ。
「愚問だね。なら覇吐は人を心の底から笑わせることができるのかい? 少なくとも私の知っている覇吐には無理。けどお笑いライブは違う。人を笑わせるのが好きな芸人達が、一生懸命に舞台の上でコントを繰り広げ、観客を笑顔にしてくれる。そんな素晴らしい方達のいるところにいけるチケット……覇吐の邪魔をするだけで手に入るなら安いもの!」
「お、おう、何かすまん」
「こいつ、いつも表情を変えないくせに意外にお笑い好きなんだよな」
「サーカス好きなら分かるけどな」
ザジの熱弁に蹴落とされる覇吐。それを聞かされていたエヴァンジェリンと蓮が最もな感想を述べた。
「ま、まぁ、いいか。問題をすり替えられた気がするけど、本題に戻るか」
「ああ、ネギとルサルカだな」
正面から果たし状を叩きつけたので、ここからは正々堂々。
決闘の日程までに覇吐はネギのパートナー(仮)を見つけ、そこそこ強くするのが目的。対してエヴァンジェリンは居候を戦わせ、呪いを解くのが目的。
目的はどうあれ、絶対的に不利な事柄が存在する。
「なぁ、例えネギ先生にパートナーが出来ても、数百年を生きるやべぇ魔法使いに勝てるとは思えねえんだよ」
「確かにな。けど、お前にしては珍しく弱気じゃないか」
「俺がやるならまだしも、ネギ先生はまだおつむの取れたばかりの子供だぜ。悔しい話だが、勝てる見込みがねえ」
現実的な問題。
ネギ先生は魔法の才能はあるものの、まだまだ子供だ。
その相手がエヴァンジェリンと並び称されるほどの悪名高い魔法使い。
最早、ババアが子供を喰おうとしている絵にしかならないのは必然だろう。
それを黙って聞いていたエヴァンジェリンは顎に手を当て、
「何だ、つまりハンデが欲しいのか? まぁ聞いてやらなくでもない。言ってみろ」
「パートナーの一人にこいつを指名する」
覇吐は隣に座るザジの頭に手を置いた。
「……ん?」
「ほう……」
え、何をふざけたこと言ってるのこの変態、と言う目をするザジ。それとは逆にエヴァンジェリンは興味深そうにした。
「ザジを一時的にだけど、ネギ先生の
「そうだな、そのくらいなら許容しよう」
「お、いいのか?」
「ああ。私自身、ザジの力には興味がある。それを見れるのなら、良しとしよう」
「よっしゃ」
上手く事が運んだことに喜ぶ覇吐。
ここでザジをネギ側に付ければ勝機は見える。後は何人か見繕えば、勝率はグングンと鰻登りだろう。
「……私は了承しないけど?」
「え?」
そんな希望の光が見えた途端、ザジから拒否の声が上がった。
「なに驚いてるの? まさか私が頷くとでも思った?」
「でもお前、一応ネギの生徒だろ。困った先生をこのまま放っておいて良心が痛まないか?」
「そのニュアンスだと、普通は先生が生徒を助けるんだけどね」
「くそ、なら最後の手段だ。エヴァンジェリン」
「しょうがない」
覇吐はエヴァンジェリンに視線を送り、それを察してか彼女は懐から一枚の封筒を取り出す。
「次回行われる大物芸能人達が集結するテレビ局の観覧チケットだ。これで手を打とうか」
「了解。ネギ先生の一時的なパートナーを了承する」
ザジはそれを受け取り、エヴァンジェリンと握手を交わした。よほど嬉しかったと見える。
「……なんか釈然としねえよな」
そんな、もやもやとしたものを抱えながら、覇吐の1日は過ぎ去った。
*
「後はアスナちゃん、君が契約したら万事OKだ。ささ、遠慮なくブチューとやっちゃって」
「ホント、いつか冗談抜きでセクハラで捕まるわよアンタ」
次の日の放課後、ことの経緯をネギと明日菜に話した。
ザジがパートナー(仮)でこちら側につくこと、エヴァンジェリンが仕向けてくるのが年のいった面倒な魔法使いだと言うこと。
そして明日菜が仮契約してくれないと勝てないということ。
「けど確かにそんな相手だと、一人でもパートナーが欲しいですね。えっとザジさんはどれくらい強いんですか?」
「そうだなー、俺よりは弱いけど、そこそこ強いぜ」
「そうですか……」
特に参考にならない覇吐の評価に、ネギはどこか陰鬱な表情となった。
相手はエヴァンジェリンと並び称されるほどの魔法使い。緊張と不安で一杯なのだろう。
そんな表情を見た明日菜が大きなため息をつき、
「分かったわよ! やってやるわよ! やればいいんでしょやれば!」
頰を恥ずかしそうに赤く染めながら、明日菜が諦めたかのように声を上げた。
その言葉にネギよりも覇吐の方が明るくなる。
「本当か! よっしゃなら善は急げだ! アスナちゃんの気が変わらないうちにやるぜネギ先生!」
「え、は、はい! お、お願いしますアスナさん!」
「しょ、しょうがないわね。一回だけだからね」
観念したかのように明日菜は、意を決してネギと向き合う。
そこで覇吐は即座に
魔法陣から眩い光が放出され、それが明日菜のスカートをひらりと持ち上げられるようになる。
それを寸でのところで抑える明日菜だが、それ以上にこの光が妙に気持ち良かった。
今まで感じたことのない感覚に狼狽える明日菜だが、それよりも今から人生初のキスをすることの方が緊張を増し増しにさせていた。
「ほ、ほら、行くわよネギ!」
「は、はい!」
両者、顔が赤くなる。
少年と少女の接吻シーンを傍で見ている覇吐は、どこか興奮した面持ちで生唾を飲み込んでいた。
ファーストキスはレモンの味と言うが、それが本当なのかも聞こうと、覇吐は心の中で思う。
そして――明日菜が目を閉じながら一気呵成の勢いでネギとキスを交わした。
「あ……」
唇と唇、その二つが重ね合わさった、かと思われた。
しかしそうではなく、明日菜の唇はネギの幼い唇を奪うことはなく、ネギのおてわこに成されてしまった。
「え、えーーーーっ!! アスナちゃん何でおでこなんだよ!?」
「い、いいでしょ何でもーっ!」
「ちっ、しょうがねえな! 仮契約成立だ!『神楽坂明日菜』!」
こうして明日菜との仮契約が成立したのだった。
*
「展開が早いのは嫌いではありませんが、本当に急ですね」
そうして仮契約を終わらしたネギと明日菜は覇吐に連れられ、少し広めの平原へとやって来た。
そして時を同じくして、覇吐に連絡を入れられ一歩遅れて来たザジの姿もあった。
「ザジさん、本当に魔法関係者だったんだ。うわ~、うちのクラスって本当に変わった人多いよね」
「これはこれは姫……じゃなかった。神楽坂さんも本当にネギ先生の
「え、ち、違うわよ! 一回、一回だけの期間限定よ!」
「そうなんですか」
「えっと、ザジさんもネギと仮契約っていうの、するんだよね?」
「はい、私も期間限定ですが」
二人の会話を聞いて覇吐は思った。
「何ていうか、罰ゲームで彼女にさせられました~みたいなノリだな。泣いていいぜネギ先生」
「いえ、二人に無理なお願いをしているのは僕の方ですから。とてもありがたいことです」
「は~、その年でそこまで達観できてりゃ、将来大物になるぜネギ先生」
「覇吐は少しネギ先生のことを見習った方がいい」
「おいザジ、お前もみんなの前では先生を付けろよ」
急に割って入ってきたザジに、覇吐が突っ込む。
「へー、やっぱりザジさんと覇吐先生って仲がいいのね。噂の一つで付き合ってる、なんてのもあるし」
明日菜の発言に、乾いた風と静寂な時間が流れた。
「……あれ、私なにか余計なこと言っちゃった?」
「覇吐先生、本日より学園では私から半径5メートル以内には近づかないでください」
「酷ェ! いやそもそも何でそんな下らねえ噂が流れてんだよ。誰だよ流したやつ! 誰だー!」
「いや、何ていうのかな。ずっと一緒にいること多いから、自然とそういった噂ができたみたいな?」
「覇吐先生、本日より私の視界に入らないでください」
「おいもうそれ以上なにも喋るなアスナちゃん。俺はもう限界だ」
ザジからジト~とした冷たい目で見られる覇吐。
何も悪くないのに世知辛い世の中である。
「僕は正直、ザジさんは覇吐先生の
「覇吐先生、死んでください」
「直球で言ってきやがった! あとネギ先生、もうその話はなしにしようぜ」
この話が続けば、ザジが覇吐の命を狙うのも時間の問題になる。
覇吐は咳ばらいをし、改めて切り出す。
「さて、ここにみんなを集めたのは他でもねえ。今から実際にお――」
「私とネギ先生、そして神楽坂さんで模擬戦をしてみるということです」
「あれ言われちゃった!」
それを聞いたネギは、
「確かに本番前に試してみたいですね」
「そうね。私もどんなものか体で覚えたいし」
「では私がお相手を務めますので、実際にやってみましょう」
「あれ、もう俺、必要ない感じ?」
事はスムーズに進み、ネギと明日菜はザジから距離を取る。そんな二人を、いつでもどうぞと特に構えもせず棒立ちのザジ。それを離れたところから見守る覇吐。
「……いつでも構いません。さぁ私を倒す気概でかかってきてください」
「ザジのやつ、結構ノリノリだな」
表情は無のままだが、長年の付き合いがある覇吐には分かるのだ。
「では、ザジさん。行きます!『
「んっ……」
ふわりと明日菜の身体に魔力のようなものが纏われる。
そしてネギが呪文を唱えると、明日菜がザジに特攻を仕掛けた。
(わ、何これ! 体が羽みたく軽い……! これが契約の効果ってこと!?)
人間離れした跳躍と加速、陸上選手も涙目なその速さに明日菜自身が一番驚いた。
そして慣れた体捌きで、鋭い蹴りを振り放つ。
「素晴らしいです神楽坂さん。初めて仮契約した人は、最初にその身軽さに躊躇うものなのですが、その順応の早さには感嘆とします」
放たれた蹴りを、張り手の要領で弾き後退する。
「そして、だからこそ加減は無用です。今のあなたでも、私にはまだまだ及びませんから」
「だったら!」
身軽さを活かした足技蹴り技、次は殴打技と連続して繰り出す。
風を切る勢いで放たれる、明日菜の近接格闘技。一般人なら1発でクリーンヒットからの失神に追い込める技も、ザジには1発たりとも当たらない。
「いい動きです。自衛隊の徒手格闘、あとは米国のMCMAPのような構えですね。何かに影響されましたか?」
「最近見た映画よ! あれカッコいいから真似てみたかったの!」
「重畳です。流石な身体能力。見様見真似でその域までに動けるのは、あなただからでしょう」
軽いステップからの拳と蹴り、視線を逸らしての死角からの攻撃。
いくらネギの契約の力があったとしても、ここまで近接に優れているのは天賦の才といっていいだろう。
それでも尚、ザジには全て躱され見切られている。
「ですが、まだまだ実戦向けではありませんね。その程度では、これから戦う魔法使いには傷一つ付けられませんよ。ええ、あくまで子供の真似事ですね」
分かりやすい挑発行為。
しかしザジの言っていることは真実。今の明日菜では、ザジに一打を加えることは至難の業。
そう、一人なら不可能なのだ。
「光の精霊11柱……」
明日菜が猛攻を続ける中、ネギが呪文を詠唱していた。
契約者が対象と戦う最中に、魔法使いが呪文を詠唱するのが元来の戦い方である。
「『
11の光の矢が、追尾性を持ってザジに襲いくる。
「……ふむ、齢10でこの魔力と魔法の精度は満点を上げたいレベルですね」
平然としつつ、ネギにより放たれた魔法弾を全て両手で弾き飛ばしていく。
並外れた動体視力と、魔力のコントロールにより成される力である。
「そんな……っ!? 今のをそんな簡単に!」
「ほら、驚いている場合ではありませんよ。常在戦場、気を張っていないとやられますよネギ先生」
ザジの軽やかなステップで、気づけば瞠目しているネギの眼前へと移動していた。
そして軽くデコピンをネギの額に当たる。
「うっ!」
「ネギ!」
「はい、今ので一回、あなたはやられました。これが戦場ならただの戦死ですよネギ先生。二階級特進は与えられませんね」
ザジは後退すると、明日菜が一歩遅れてネギを守るように前に立つ。
「ちょっとネギ大丈夫!?」
「は、はい。大丈夫です!」
安否確認からの、明日菜は構え直す。
しかし身体の軽さはなく、契約の力が切れていると思われる。
「さて、今のはウォーミングアップというところでしょう。ネギ先生、神楽坂さん、次はもっと私を見て動いてください。ネギ先生は神楽坂さんがいるからと油断し切って呪文を唱えず、神楽坂さんは自分より私を後ろに移動させないこと。まずはこの二点を心掛けてください」
「おーおー、あのザジが先生みたいなこと言ったらぁ。これも俺がザジの成長を見守ってきたからか?」
「それ以上口を開きやがると張り倒しますよ」
ザジは先生のような物言いに覇吐が茶々を入れてきたが、そんなことはどうでもいい。
ネギと明日菜はザジの投げかけを受け止め、
「もう一度行きます明日菜さん!『
そして再び契約の力が発動される。
ネギは後ろに跳び、明日菜は前に出た。
「さぁ来なさいザジさん! 次こそ当ててやるわっ!」
「良い発破がけです。ではお言葉に甘えて」
地面を一蹴りすると、一気に明日菜との間合いを詰めた。
そしてフェイントをかけ、明日菜ではなく後ろにいるネギを狙おうとしたが、
「ここッ!」
「っ、おっと」
「抜けさせないわよ! 今度こそネギを守ってみせるんだから!」
相手から目を離さない。
さながらコンバット格闘術のようなその動きに、ザジは引きを余儀なくされた。
「ゼロレンジですか。格闘技が好きなんですね明日菜さん」
「そうね、だってカッコいいじゃない。広く浅く噛もうと思うけど、何か一つ極めたい心境よ」
「そうですね、強味があるのはいいことです」
そして、その間にもネギは呪文を唱えていた。
「『
雷の属性を帯びた17の矢がザジに繰り出される。
バリバリッと生理的に不快な雷鳴を響かせながら、全てザジにロックオンされた。
「次は違う魔法ですね。ですが、先と同じ手は――」
「私を見なさいよねっ!」
気が一瞬そっちにいったザジに対して、明日菜が低姿勢からのショートアッパーを繰り出していた。
「おっと、そうきますか」
上体を反らして回避するザジだが、続け様に胴廻し回転蹴りを綺麗なフォームで放つ明日菜。
後ろに一歩跳び退き、ザジはそれを避け切るもその次に目に入ったのは複数の雷の矢だった。
「避け切るのは難ですね」
腕を交差し、魔力を込めてガードする。
同時に凄まじい爆破音と雷鳴を轟かせながら、衝撃波により周囲の地面も含めて破壊していく。
腕から伝わる衝撃にザジは顔色一つ変えない。それどころか地面に足が縫い付いているのか、前方から襲いくる攻撃に1ミリたりとも後退していない。
(悪くない魔法ですが、やはり錬磨された大人の魔法使い達には遠く及ばない。これではネギ先生の魔法はあの魔法使いに届くことなく……)
そして止んだ魔法に対し、土煙が舞うなか前方を見据えると、
「おりゃーーっ!!」
飛び蹴りを繰り出してきた明日菜が、そこにはいた。
「っ――」
同じく腕を交差して防ぐ。
しかしその蹴りは、ザジごと後ろに軽く吹き飛ばしてしまった。
「ッ、痛いですね」
直ぐさま体勢を整えて着地するも、腕がピリピリと痺れて少し痛みが走っている。
(今のは、成程。初めて見ましたが、
腕を振り、初めて実感したその力に少し感動と、来たる戦いに対して攻略法を見出す。
そして当の明日菜は喜びのあまり感極まった声を上げていた。
「やった! ネギやったよ! ザジさんに一撃与えれたよ、どうよ!」
「はい、おめでとうございます明日菜さん!」
「これも私がアクション要素の多い映画やドラマを見ていたお陰ね!」
満面な笑みの明日菜。
ああ、確かにこんなに早く一撃を加えられるとは僥倖だと踏むザジ。
「いいですね。今の動きを忘れないでください。そして更に次のステップへ自身で課題、思考してください」
ザジは二人に歩み寄りながら、
「次は私からも攻撃を加えます。時間はないですよ。しっかりと特訓には付き合いますので」
「「はい!」」
二人は返事をし、魔法戦の特訓が深夜まで続いていく。
覇吐は完全に蚊帳の外に押しやられてしまった。
*
「で、お前は少し身体を動かさなくて大丈夫なのか?」
「えー、だって相手はあのちっちゃいガキんちょでしょ? 大丈夫大丈夫。軽く叩いて終わりよ。それともまさか、私の心配してくれてるの蓮きゅん!」
エヴァンジェリン宅にて、椅子に座ってクッキーを頬張ってテレビを見ているルサルカに声をかける藤井蓮。
やることはやった上での態度なので、特にとやかくは言わない。
だが、近々ネギとの戦いが控えているので少しはやる気を出して欲しいところである。
「心配はしていない。けどお前、あんまり油断してると足元掬われるぞ。窮鼠猫を噛むって言葉がこの世界にはあるからな。慢心は後悔に繋がる」
「あははっ、有り得ないって。本当に蓮きゅんは心配性ね。私が10歳そこらの魔法使いに負けるわけないじゃない」
「そうだな」
何を言っても意味はないと蓮は思い、これ以上は何も言わない。
「全く、貴様はお兄ちゃんの有難い言葉を無碍にするとは。一度痛い目にあった方がいいんじゃないか」
「はぁ~、ないない。蓮きゅんは心配性なだけだし、それに私が負けるわけないじゃない」
代わりにソファで横になっているエヴァンジェリンが、ルサルカの方は見ずに言葉を交わす。
「言ったけど、ネギの
「ザジって、あの変態野郎と一緒にいる女でしょ? ないない、確かに魔力は感じるけど、そんな大した力持ってそうにないし私の相手じゃないわよ」
「その自信はどこから湧いてくるんだ?」
これで負けてくれたらどうしようか、何か罰ゲームを考えておくかと思うエヴァンジェリン。
(ザジ、か。俺もよく知らないんだよな。別に興味もなかったし。それに神楽坂明日菜、か。妙な運命だな。これは本当に、油断してると負けるかもなコイツ)
ルサルカの物言いに、蓮はどこか敗北の二の字を予感させた。
そうして日数は流れ、約束の日が来るのであった。