《1》
――時は直ぐにやって来た。
エヴァンジェリンに指定された場所は、学園でも広大な敷地を誇る広場で、人払いをしているのか誰もいない。
そこにネギ・スプリングフィールドと神楽坂明日菜が顔にガーゼ、腕や足には包帯を巻いた状態で現れた。厳しい修行を耐え抜いてきたことを物語っている。
その後ろには煙管を加えた大柄な男こと坂上覇吐と褐色の女生徒ことザジ・レイニーデイが控えていた。
「約束通り来たようね。恐れをなして来ないのかと思ったわ」
「小便ちびらしてやるから覚悟しとけや。あんたのヒーヒーした情けねえツラ、楽しみにしてやるからよ」
「随分と口が悪くなったわねコイツ」
対する目の前に現れたルサルカ、エヴァンジェリン、茶々丸、蓮の四人。
ルサルカが開口一番に挑発するも、覇吐が中指を立てながら汚い口で言い返した。
「コラ覇吐、建前は一応先生なんだから、そんな言い方しないの」
「痛いッ! お母さんッ!」
ザジが覇吐の尻に蹴りを入れる。
「……へぇ、少しはマシになってるじゃない。どんな特訓をしたのかは知らないけど、観戦のし甲斐はありそうね」
「文字通り血反吐を吐く特訓をしたからな。今の二人は俺が言うのもなんだが強いぜ。まぁお陰で授業が疎かになった部分はあるけどな」
ネギは授業中すこし眠そうだったし、明日菜に関しては完全に机に突っ伏していた。
その光景をエヴァンジェリンと茶々丸は呆れながら見ていたので、すごく厳しい訓練をしているんだな~とは思っていた。
「強くなったからなに? 別にアンタ達の魔力、そこまで上がってるように感じないわよ。残念だけど、もう既に私が勝つビジョンが見えるわ」
傲岸不遜な態度がお似合いな魔女、ルサルカが一歩前に出て値踏みするような視線を向けてくる。
「少し厳しい特訓をしたから何って感じ。私からしたら前からの違いが全然分からないわね。子供が少し背伸びした程度でしょ?」
そのセリフにネギと明日菜の表情が険しくなった。
短期間ではあったが、覇吐から見てもかなり阿鼻叫喚、艱難辛苦な修行だった。自分が二人の立場なら根を上げていたのでは、と思うほどである。
だからこそ、覇吐は胸を張って言い返せた。
「言っとくがな、今の二人は俺なんかよりも、諦めないド根性を持ってるぜ。舐めてかかると、痛い思いをするから気を付けるこったな」
「へぇ~、言うじゃない。いいわ、さっさと始めましょうか? この戦いに勝てば、今日蓮きゅんがディナーを奢ってくれるからね」
「おい、そんな約束してねえよ」
そしてネギと明日菜が前に出る。その姿勢たるや威風堂々とした
「さっきから黙って聞いてたら、好き勝手言ってくれるじゃない。ネギ、あのクソ生意気な女に一泡吹かせてやりましょ」
「明日菜さん、口が悪いですよ。けど、そうですね。僕たちの努力の結果、見せてあげましょう!」
二人の挑戦じみたセリフを聞いたルサルカは、眉をひくつかせ、それから口元を歪めて笑った。
「たった少し努力しただけで、100年以上を生きるこの私に勝てると思ってるわけ? へそで茶が沸くっての。そうね、大人としてここは理想ばかり夢見る子供に、現実ってのを教えてあげるわ」
ルサルカも前に出て、不敵な笑みを浮かべる。
確かに的を射た意見だが、そんな常識で測れるほどこの二人、もとい三人は甘くないと、覇吐は思った。
「私も、います。相手が相手なので、隙があれば加減無用で叩きます」
やる気を感じさせない声音で、ザジもネギと明日菜に並ぶようにして前に出る。
「例え何人いようとも関係ないわ。私は、私の前に立つ小生意気な連中を叩きのめすだけよ」
ルサルカの目が鋭利なナイフのように妖しく光る。
文字通り邪悪そうな魔力が燃える炎のように揺らめき、ルサルカの両手に幾何学模様の魔法陣が展開された。さながら格の違いを見せつけるように、出力されている魔力はネギとは桁違いである。
「言っておくけど、手違いで死んじゃっても文句言わないでよ。私の魔法って、手元が狂っちゃったら対象を殺しちゃうかもだから」
「そうなったら、その時に考える。早くやれ」
念のためにルサルカは、最悪のパターンを想定してエヴァンジェリンに釘を刺しておく。
そして了承も得たので、名乗りを上げた。
「私は
「ネギ・スプリングフィールドです。こちらも全力で受けて立ちます」
「神楽坂明日菜よ。あんたも、あんまり舐めた口きいてたら、痛い思いするわよ」
「ザジ・レイニーデイ」
各々が戦闘の構えに入る。
短期間ではあったが、ネギと明日菜の修行の成果を出す時である。相手にとって不足なしなゆえ、全てを出し切れるいい機会だ。
「では、私を飽きさせない面白い戦いを期待している。では――勝負開始だ!」
そしてエヴァンジェリンが開始の合図をした。
《2》
「行きます!『
ネギの仮契約の力により、明日菜が一気にルサルカに向けて跳躍する。
一度地面を蹴っただけで、瞬く間にルサルカとの距離を縮めた。だが、それがあだとなる。
「甘いわね、甘々よ。考えなしに近づいてくるなんて愚の骨頂じゃない」
憫笑にも似た笑みを浮かべる。
そしてルサルカの展開した魔法陣から現れたのは、黒く長い歪な鎖。まるで獲物を狙う蛇のように、鎖が明日菜を捕らえんと迫りくる。
四方八方、疾駆した明日菜を上回る速さで鎖が取り囲んだ。
逃がさない、必ず捕まえるという情念が形となったかのような複数の鎖。それを確認したネギは逡巡することなく、魔法を撃ち放つ。
「『
総数にして17の雷の矢が迸り、ルサルカの鎖を破壊していく。
まるで舐められているように、その程度の鎖くらい突破して見せろと言わんばかりに粉々に砕けていく。
初めは鎖の軌道を外させればいいとだけ思ったが、ここまでくるとかなり下に見られていると感じる。
「この……舐めてんじゃないわよ!」
野生の本能めいた直感でそう感じた明日菜が、怒り心頭な物言いでルサルカに迫ると肉薄する。
徒手空拳、明日菜は修行にて鍛え上げた格闘技術を駆使しルサルカに重い拳を突き放つも、
「なに怒ってるのよ? 淑女にあるまじき顔をしているわよ。もっと優雅に戦えないわけ?」
「ッ!?」
ルサルカの姿はそこにあらず。
代わりと言わんばかりに、眼前に現れたのは無数の鋭い棘。しかもそれはよく見ると、観音開きした冷たい鉄の銅像だった。
明日菜は何かの漫画で見た知識でこれが何かを瞬時に理解した。
「
少女を象った鋼鉄製の人形。開いた内側は棘でびっしりであり、この内部に人を入れて閉じ、串刺しにしてしまう有名な拷問器具。
そしてそれが勢いよく閉まり始めるのを察知した明日菜は、後方に跳躍して難を逃れる。
しかし逃がさないと言わんばかりに、無数の鎖が再び展開され明日菜に向けて接近してきていた。
「っ! 小細工が好きなようね全く!」
「明日菜さん上にいます!」
ネギが叫び、明日菜が上空を見るとルサルカが空に浮いていた。
文字通り見下された立ち位置に明日菜は舌打ちしつつ、鎖を躱していく。
「へぇ、いい動きするじゃない。けど、回避だけ得意なんじゃ、私には指一本触れることができないわよ」
鎖、だけではなく先の鉄の処女が明日菜を喰らおうと追尾してくる。
そして更にそれだけではなかった。
明日菜の左右に石の壁が出現していた。その表面には棘が槍衾のようにびっしり備えられており、それが左右から閉じるように明日菜を襲う。圧殺の刺殺、その両方を兼ね備えられていた。
驚きよりも先に、明日菜は足に力を入れ、渾身の跳躍で避けきる。
そして、それだけではない。その跳躍は上空にいるルサルカに向かって跳んでおり、同時に拳を強く固めた。
「この私を絶対に落とす、と言った心意気かしら。その闘争心は評価してあげるわ」
「なッ!?」
しかし余裕綽々な態度のルサルカは、自身の眼前に鎖を展開した。
空中での回避は不可能であるがため、明日菜の身体を捕らえるのはいとも容易く行われる。
「なッ、コラ離しなさいよ!」
両腕両足を鎖により巻き付けられ、身動きが取れなくなる。強度が高いのか、今の明日菜の力をもってしても引き千切ることができない。
「明日菜さんッ! いま助けます!」
箒に乗ってネギが、空中へと飛翔していた。
同時に片手に持つステッキを掲げる。
「『
11の光の矢が放たれ、明日菜に絡みついている全て砕いていく。
「ラス・テル マ・スキル マギステル
そしてそれだけで終わらない。
ネギは全霊の力を込めて呪文を唱える。
「へぇ、悪くない魔力。それにその魔法、その年で放てるなんてなかなかやるじゃない。エヴァンジェリンが見込んでいる魔法使いなだけはあるわ」
「行きます!『
泰然としているルサルカに放たれたネギの魔法は、まさに雷の嵐を顕現させていた。雷を纏った強力な旋風はルサルカを穿ち貫くため、真っすぐ放たれ被弾する。
雷と風にとり耳をつんざく爆発音が轟き、爆煙が舞った。
「ありがとうネギ。これで、やったのかな?」
「いえ、恐らくまだです。けど手ごたえはありました」
地面に着地する二人。
疑問を口にする明日菜、しかし直ぐに空中から着地するルサルカを見て霧散した。
無傷、痛痒一つ感じていないルサルカは悠然とした表情をしている。
「そんな……確かに当たったはずなのに!?」
「ええ、当たったわよ。いい命中精度だったわ。けど、残念なことに私とあんたでは魔力の総力が段違いなの。だから格下の魔法の攻撃を防ぐなんて、簡単にできちゃうわけ。学校で習わなかった? 常識よ」
愕然とするネギに、ルサルカは教鞭を振るうように説明した。
実際、この戦いは火を見るより明らか。長い年月を生きる魔法使いと、子供の魔法使いでは歴然たる差がある。明々白々とした勝負になるのは分かり切っていた。だからこその助っ人がいるのだ。
「ネギ先生、明日菜さん。とてもいい動きでした。修行の成果ですね」
ここでザジが、ネギと明日菜と並んで立った。
今まで何をしていたんだと突っ込みたいところだが、戦況を観察したかったのだろう。故にザジは二人に告げる。
「短期決戦で行きます。戦いが長引けば長引くほど、言わずもがなだと思いますがこちらが不利になります。だから、修行の一番の成果でもある、あれを使う時です」
淡々と述べるザジ、ネギは意を決したかのように頷く。
「ザジ・レイニーデイ、だったかしら? あんたの力は未知だけど、魔力を見れば分かる。私の方が上、間違いないかしら?」
「はい、そうですね。私やネギ先生が組んでも、勝つ見込みは薄いでしょう。けど、負けると分かっていてこの戦いに挑んでいるなどと、熟年の魔法使いなら思っていないでしょう?」
「切り札があるっていいたいわけ?」
「その通りです」
瞬間、ネギは一枚のカードを取り出した。
それは神楽坂明日菜がイラストとして映し出されているカード。大剣を持った制服姿の明日菜がプリントされている。
「仮契約カード……」
仮契約カード――仮契約をしたパートナーだけが使える専用アイテムを宿したカードであり、仮契約をした証。これを使えば、少なくとも今よりは強くなれる。だから勝機を見出せるなら、これしかない。
「明日菜さん、一気に攻めます。大丈夫でしょうか?」
「なに言ってるわけネギ、ようやくあのムカつく女に一矢報いれるチャンスなのよ。早くしてちょうだい!」
「はいっ!」
ネギは再び契約執行の魔法を行使する。
同時に、
「『
それを唱えるとカードが神々しく光り、それが明日菜の手元に集約されていく。
そしてそこから現れたのは――スチール製のハリセンである。
「……は?」
ルサルカが唖然としたかのように口を開く。
どこからどう見ても、大きなハリセン。手元あたりがちょっと金属性を帯びてそうだが、どう見ても芸人が使うようなハリセンであった。
しかしネギと明日菜は真剣である。
「――アーティファクト『
「分かってるわ!」
明日菜は地面を蹴り、ルサルカに颶風の勢いで突貫を仕掛ける。
「え、え、ホントにそれがあんたの専用アーティファクト? ただのハリセンじゃない。大層な名前がついているみたいだし、何かもう滑稽ね」
ルサルカが噴き出しそうな口を手で押さえながら、涙を浮かべている。笑ってしまいそうになるも、どうにか頑張ってこらえる。
その時だった。
「後ろです」
誰よりも速く動いていたザジが、ルサルカの背後を捉えていた。
そして凄まじい蹴りを振り放つも、鎖でどうにか防御する。
「速いわね、それに加減もない。いいわね、面白いじゃないあなた」
「油断大敵です」
そしてその間に明日菜の攻撃範囲にルサルカが入っており、手に持った大きなハリセンが振るわれた。
「あら、何その攻撃。さっきの拳のほうがまだ脅威を感じたわよ」
しかし身を翻して軽々と避けるルカルカ。
だがザジも、そして明日菜も追随して怒涛の攻撃を仕掛ける。
明日菜はハリセンを、ザジは徒手空拳で巧みな連携により瀑布の勢いで攻撃速度を上げつつ襲撃していった。
「ほらほら、どうしたの。全然当たらないわよ」
「ったく、すばしっこいのよアンタ! ゴキブリかっての!」
「口の悪さも達者ね」
ルサルカが避けながら魔法陣より鎖を、明日菜たちの背後からは鉄の処女を、そして自分たちの左右からは棘の壁を一気に展開した。
それに驚くのも束の間、ネギが後ろから魔法を唱えていた。
「『
ネギの姿を模倣した風の精霊の力が複数現れ、それらが展開されたルカルカの魔法を破壊していく。
ルサルカがそれで少し眉を顰めるも、次はザジが片手に魔力を込めた。
するとそこからは人間のものとは思えない、さながら悪魔のような腕へと変化した。爪先は鋭く鋭利に伸び、赤い模様のようなものが浮かび上がっている。
ルサルカはその手を見ると、初めて驚きのあまり目を見開いた。
「あんた、それってまさか!?」
「みんなには内緒です」
言うや否や、ザジはその手で相手を引き裂くように振るう。
回避を諦めたルサルカは魔力障壁を張り、何とか防御に身を転じてその一撃を防ぎ切った。
「ッ、今のは少し驚いたわ。けど、もうそんなーー」
「隙ありっ!」
今の攻防の間に、明日菜は横合いからルサルカにハリセンを振り翳そうとしていた。
同じく回避は困難と悟るルサルカだが、これは脅威に値しないと踏む。
見た目はただのハリセンな上、さしたる魔力も感じない。仮契約の力で、岩くらいは容易に破壊できるだろうが自身の魔力障壁はその程度で突破できるほど安くない。
よってルサルカは特に構えず、逆にその後に倍返しのお返しを与えてやろうと魔力を込めた。
そしてーールカルカにとって全くの予想外の展開が起きた。
明日菜の勢い良く振るった渾身のハリセンが、ルサルカの右頬にクリティカルヒットしたのだ。
文字通りの意味で、魔力障壁など全く意に介さず、ルカルカの頬にハリセンがめり込む程の威力で当たった。
「ぶへぇえッッ!!」
そして滑稽な声をあげなら呆気なく吹き飛ばされるルサルカは、痛みよりも混乱の方が優っていた。
自分の張っていた魔力障壁が、まるで無かったかのように貫通された。故に明日菜の膂力と契約執行の力により、何の守りもない状態で当てられた。
ーー何、何をしたのあの女!?
湧き上がる疑問、しかし回答など出るはずもない。
垂れてきた鼻血を拭いながら、問いただそうとしたが、それは何もかも遅かった。
ネギが眼前にまで距離を縮めていたのだ。
「ちょっ!? まだ魔力障壁をーー」
「させません!」
ネギは手のひらをルサルカに向け、
「――『
雷電が放出され、ルサルカを雷が包み込んだ。
苦悶の声を上げながら、総身に電気を浴びるルサルカは逃げるように後ろに跳んだ。
魔法障壁も張っていない状態で受ける電流は、ルサルカでも多大なダメージを負ってしまう。
「……っ、やってくれるじゃない。せっかくのヘアスタイルがめちゃくちゃよ」
少し黒焦げになったルサルカは、自分の髪を弄りながら恨めかしそうに呟く。
「どう、もう舐めた口は叩かせないわよ。私たちはかなり厳しい修業を積んだんだから、そんな簡単にやられないわよ」
「はい、僕たちはまだまだやれます!」
ネギと明日菜は威風堂々と言う。
それに対し、ルサルカは哄笑に近い笑みを浮かべ、
「ははは、いいわ! だったら少し本気を出してあげる! あんた達のその修行が、どこまで無意味だったかを証明してあげる!」
瞬間だった。
ルサルカから禍々しいまでの魔力が噴き出してきた。
大気が一気に張り詰める、呪いにも似た濃密な魔力が辺り一面を包み込む。魂が震える、全身が強張る。冷汗が流れ、悪寒が全身を駆け巡る。
来る、逃げろ。今すぐ勝負を放棄しろと警報を鳴らしている。
もはや小細工など一切通じない。
「
魔女が祝詞を唱える。
異質な声音に、それを聞いているだけで魂が震える。剣呑として悲鳴を上げそうになる。
「
今までの戦いなど稚拙なものだと、お子様レベルの戦いだったと思わせるほど、別次元の力を放出し始めた。
そして本能で理解した。
ああ、これは勝てないと……。そう理解した時だった。
「ch hebe den Kopf――痛ァア!」
祝詞を唱えているルサルカの、その頭に拳骨が落とされたのだった。
呆気にとられるネギたち、そしてそれを行ったのは、
「ちょっと蓮くん! なにするのよ!?」
「何するんだはこっちのセリフだ。お前、なに使おうとしてんだよ。そんな力、こんなところで使っていいもんじゃないだろうが」
藤井蓮がルサルカを説教していた。
張り詰めた空気はどこへやら、元のプレッシャーも全て霧散していた。
「はぁ~、全く興醒めもいいところだ。この足引きババァめ、詰まらん幕引きだ」
エヴァンジェリンがゆっくりと茶々丸を引き連れて歩み寄って来る。
「あ、あの、どういうことですか?」
「あらかじめ、こちらで決めていた約束事をこの魔女が破ったんだ。流石にその力を使われては、多方面から苦情がくるからな。それに、奴も動くだろうし」
エヴァンジェリンがネギの後方に視線を向けると、覇吐が背負っている大剣を抜こうとしていた。
それ程までの洒落にならない魔法を、ルサルカが使おうとしていたと言う事である。
「えっと、この場合って勝敗はどうなるの?」
「……不本意だけど、今回の戦いはそちらの勝ちで構わない。本当、呆れる幕切れだった。だが、良い戦いだった。あそこまで奴と戦えるとは、少しはやるようになったじゃないか」
「あ、ありがとうございました!」
ネギはエヴァンジェリンに頭を下げた。
「何のお礼だ? 褒めたつもりはないぞ。こんな不完全燃焼な決着で、まさか満足でもしているのかネギ・スプリングフィールド」
「いえ、だってこれで悪いこともやめて、ちゃんと僕の授業も受けてくれるんですよね!」
「しっかり覚えておったか……全くもう」
深々と溜息をつき、諦めたかのように頭を掻く。
「分かった、私から言い出した取り決めだからな。従ってやろう」
「それにエヴァンジェリンさん、あなたの呪いはきっと僕がマギステル・マギになって必ず解いてみせますから」
「……ふ、面白い、期待して待っているぞネギ先生」
そして踵を返してエヴァンジェリンは歩いていく。
それに付いていくように茶々丸が、そして藤井蓮と引きずられていくルサルカが続いていった。
その最中、
「いいわ、今回だけは負けを認めてあげる! けど、私が本気を出したらもっと強いんだから! それだけは覚えておきなさいよー!」
ルサルカがネギたちに言い聞かせるように吠えて、四人は姿を消したのだった。
「何だったの、アイツ?」
「それは僕にも分からないです……」
こうして、ルサルカとの戦いは幕を閉じたのだった。