波旬兄弟と蓮親子がネギまの世界へ   作:ディーン・グローリー

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第二十歌劇【修学旅行】

《1》

 

「京都・奈良に修学旅行だぁ?」

 

「はい。クラスの総意でそうなりました」

 

「何だよ、うちの学校ってクラスごとでの選択式だろ。ハワイとか、もっといいところがあっただろうが」

 

「3-Aは留学生が多いし、ネギ先生が日本の文化を学ぶのにもいいかなぁと、委員長が言ってましたね」

 

「くそっ、今年の修学旅行はワイハでビキニギャルを口説く予定だったのに。俺の作戦が遂行される前に泡沫と消えちまったぜ」

 

 エヴァンジェリン宅にて、テーブルに座りながら茶々丸の入れた紅茶を飲む覇吐とザジ。

 紅茶を飲む二人の姿は、客人と言うより我が家の一員のように溶け込んでいた。

 それに対して藤井連は苦言を呈した。

 

「おい、お前ら最近当たり前のようにうちに来るが、少しは遠慮しろよ。厚顔も甚だしくなって来てるぞ」

 

「いや、ここに呼ばれて来ることが多くなって、何だかセカンドハウスのように感じるんだよ。悪いな蓮さん」

 

「そうですね、覇吐がこうなったのはそちらにも落ち度はあります。あ、紅茶のおかわりを頂いても?」

 

 空になったザジのティーカップに茶々丸が紅茶を注ぎ入れた。

 蓮は眉間にやや皺を寄せながら、溜め息混じりに言う。

 

「百歩譲って覇吐は認めても、お前が堂々としていい理由にはならないけどな」

 

「そこは懐の深さを見せてください藤井蓮さん。覇吐のものは私のもの、私のものは私のものです」

 

「何そのジャイアニズム初めて聞いたんだけどザジ!」

 

「覇吐先生、紅茶の減りがよろしくないのですが、粗茶に致しましょうか?」

 

「あ、マジで。気が利くな茶々丸。残った紅茶はザジ、お前に上げる」

 

「覇吐の飲み残しなどいらん」

 

「俺のものはザジの物なんだろ。だったら飲め」

 

 そんな他愛のない日常を繰り広げる一同。

 時刻は午前、学園は休日であるため悠々と過ごせていた。

 

「朝から騒々しいな。何だこれは、何の集まりだ?」

 

 2階から寝起きの家主ことエヴァンジェリンがパジャマ姿で降りてきた。

 

「ようやく起きてきたか。もう昼前だぞ」

 

「徹夜でポ〇モンをしててな、気づいたらいい時間になってて寝るのが遅くなったのだお兄ちゃん」

 

 俗世に染まっているなぁと思いつつ、茶々丸の入れてくれた茶を飲む覇吐。

 

「おはようございますマスター。ザジさんと覇吐様がおくつろぎに……失礼しました訂正します。御用があると、朝早くからお越しになられています」

 

「私はないぞ。早々にお帰り願え」

 

「おいおい、そんな連れねえこと言うなよ。俺たちの仲だろうが、少しくらい茶を共にする時間を割いてくれよ」

 

「何だコイツ、何でこんなに馴れ馴れしいんだ? 寝起きから暑苦しい顔を見せおってからに、ここで八つ裂きにしてやろうか?」

 

 マジの殺意を感じ取った覇吐は口を結び、静かに茶を飲む。

 

「覇吐はくつろぎにだけど、私は違う。修学旅行先の京都について、情報共有がしたくて来た」

 

「京都? ああ、修学旅行の行先だったな。何だ、学園を出られない私へのあてつけか?」

 

 エヴァンジェリンはナギの『登校地獄(インフェルヌス・スコラスティクス)』という呪的な魔法により、力を抑えられた上に学園の外に出ることができない。

 ネギを襲って解呪を試みるも、最終的には失敗に終わった。

 大前提に、他の仲間達の力を借りれば解呪もできそうだが、そこはエヴァンジェリンのプライドが許さないらしい。

 よってエヴァンジェリンは、今回も修学旅行には参加をしない。

 

「被害妄想です。私が言いたいのは関西呪術協会の件です」

 

「ああ、あそこか。相変わらず今もいがみ合っているのか。下らん軋轢だ、いい加減どうにかしたら良いものを」

 

「お前がそれを言うのか……」

 

 覇吐が唖然としながら呟くと、エヴァンジェリンの睨むような視線を受け口を真一文字に閉じた。

 この麻帆良学園の学園長をしている近衛近右衛門は、学園長とは別に関東魔法協会の理事も務めている。

 そんな関東魔法協会と関西呪術協会は仲が悪く、京都の修学旅行に難色を示しているらしい。よって何かしらのトラブルは必然的に起こると考えられる。

 

「諍いは少なからず起こるだろうが、その辺は学園長が手腕を見せてくれるだろう。全く、この学園から出られん私にアドバイスを求めるとは、嫌味以外に受け止められんな」

 

「へぇ、修学旅行に行きたかったのか?」

 

「そういう訳ではない。だが、もしかしたら少々人の話を聞かん無粋な連中が手を出してくるかもしれん。そこはネギのぼーやとお前で対処すれば問題ないだろう。その体はお飾りではないだろうしな?」

 

「おうよ、いつ俺にも春がきていいよう筋トレは欠かさずしてるぜ」

 

「無駄な努力だな。お前の体は盾として役に立つ程度だと踏んでいる」

 

「酷い吸血鬼様だな。こう見えて、俺のこの筋肉には一定の需要があると思ってるんだぜ」

 

「こいつは本当に自信だけは一丁前だな」

 

 エヴァンジェリンは覇吐の謎の自信に溜め息をついた。

 実際、関西呪術協会はネギ達にいらぬ手を出してくるだろう。そこら辺はネギと覇吐の力を持ってすれば問題ないし、あのクラスにはそこそこ力のある者が多い。

 だからこそ心配はいらないだろうと、エヴァンジェリンは踏んだ。

 

「それで、話はそれだけか? なら早く帰れ。寝起きから濃いツラを見せられて、目覚めが悪い」

 

「それには同感。同情する」

 

「ザジ、いいかげん俺に対してもっと優しさを見せてもいいんだぜ?」

 

 

   ***

 

 

 そして遂に修学旅行の日がやって来た。

 行先は京都。

 埼玉の某駅にみんあ集合し、そこから新幹線で京都へ向かう日程となる。

 3-Aの生徒たちがその駅に集まり、各々の班に分かれて集まっていた。

 

「麗しのしずな先生、是非とも京都ではこの俺、坂上覇吐がえすこーとさせて頂きます」

 

「エスコートはご遠慮しますので、生徒たちから目を離さないようにお願いしますね坂上先生」

 

 集合場所で早々、覇吐はしずな先生に振られてショックを受ける。

 生徒たちの前で風紀も道徳もあったものでないが、もはやそれは伝統と化していた。

 

「あーまた覇吐先生がしずな先生に振られてるー」

 

「もう諦めたらいいのにね」

 

「うるせぇチンチクリンコンビ。お前らはあと10年は歳取らねえと相手にしてやんねえからな」

 

 鳴滝姉妹もとい生徒にとんでもないことを吐き捨てる覇吐。

 

「けど覇吐先生のその派手な和服と下駄は、京都ではいい意味で浮きそうですね。海外の人から写真撮影とか求められそうですわ」

 

「お、マジか。なら海外の美女限定で狙っていくか」

 

「それでは節操がないと思われますわよ?」

 

「既に周知の事実だと思うよ、ちづ姉」

 

 しかし千鶴の言葉は的を射ていると思った。

 覇吐の格好は確かに京都では違和感がなさそうだし、海外の人からは人気が出そうだ。まさに日本の和を体現している服装だからだ。

 そう、あくまで格好だけである。

 

「覇吐先生じゃ、下心が見え透いていて誰も近寄ってこないネ」

 

「だろうね~。まぁもしその機会があったら、私が激写してあげるよ」

 

「くッ、麻帆良のパパラッチがいたんじゃ下手なことはできねえか」

 

 朝倉の手に持つカメラが、こちらを見てきているような気がして身震いする。

 そんなやり取りをしている内に出発と時間となった。

 

 ネギが最後に到着し、班ごとに分かれることとなった。

 全5班で行動することとなるのだが、ここで刹那とザジが二人きりになった。それは本来、全6班の予定だったが、エヴァンジェリンや茶々丸、相坂さよが欠席のため刹那とザジが見事に二人きりとなってしまったのだ。

 ネギの采配で刹那は近衛木乃香のいる班へ、ザジは雪広あやかの班に移動となった。

 

「良かったな。ぼっちにならなくてよ」

 

「……はっ倒すぞ」

 

 覇吐がポツリと言った言葉に、ザジが殺意マシマシで答えた。

 

「しかしネギ先生もまた面白いことを。桜咲刹那と近衛木乃香を同じ班にするなんて。狙っているとしか思えませんが、その辺はいかに?」

 

「偶然だろうよ。ネギ先生は二人の関係を知らねえはずだからな。知っていたら、とっくに介入しているはずだろうしよ」

 

 覇吐とザジは、刹那と木乃香の関係を聞いている。

 二人が幼馴染であり、仕える従者と姫という間柄と言うこと。そして過去のとある出来事を境に、刹那は木乃香と距離を置いたこと。

 他にも諸々、出自や経緯も聞いてはいるので、二人が京都と縁深いことも当然知っている。

 

「これは一波乱ありそうな予感。覇吐、少しは先輩教師らしく行こうね」

 

「当たり前だろ。俺はクラスメイト達の護衛も兼ねてるんだからよ。下手なことをして、俺の保健体育の担当教師になるっつう崇高な夢が途絶えたら、目も当てられないぜ」

 

「あ、それまだ夢見てたんだねドン引き」

 

「ドン引くんじゃねえ。あと先生を付けろよザジ」

 

 などと言う、いつものやり取りをして生徒達を乗せた新幹線が走りだしたのだった。

 

 

 

《2》

 

 新幹線の中では、それはもう混乱を極める事態が発生した。

 生徒たちが新幹線の中で和気藹々と過ごしていると大量のカエルが発生したり、かと思えばネギが学園長から預かった親書が式神に盗まれたり、解決したと思えば何やらネギが刹那を関西からのスパイと疑ったり。

 様々なことが休む暇もなく起こり、それは京都に着いてからも変わらなかった。

 

 しかしそんな中で覇吐は特に手を貸すことはなく、自身の任務を遂行していた。

 

 

 ――清水寺にて。

 

「知ってますか、しずな先生。清水の舞台から飛び降りても生存率は高いらしいですよ。今から俺が飛び降りて、しずな先生に俺の覚悟を見てもらいてぇんですが、いいすか?」

 

「ええ、決してしないでくださいね坂上先生。冗談だと受け取りますから」

 

 顔は笑ってるけど目は笑ってないしずな先生を前に、手すりに手をかけていた覇吐は踏みとどまった。

 そして生徒たちに目を配りつつ、しずな先生は覇吐から離れていく。

 

「ああ、どうしてしずな先生は振り向いてくれねえんだ。俺はただ、しずな先生とあばんちゅーるな一時を過ごしてぇだけなのに」

 

「使い慣れていない横文字を使うのを止めるところからした方がいいんじゃない覇吐」

 

 いつの間にか自分の横に立っていたザジが、冷めた口調で言った。

 

「何だよザジ、お前はみんなと行動しなくてもいいのか? 普段クラスでも浮いてんだから、こう言う時にクラスメイト達と混じってねえと友達できねえぞ」

 

「私の心配をする暇があるのなら、自分の心配をした方がいい。先生の中で間違いなく一番浮いてるから」

 

「いっそ浮いたもの同士で仲良くしようぜ」

 

「じゃあ私は班のところに戻るね」

 

「一瞬で裏切りやがったな」

 

 そそくさと去っていくザジの背中を見送ると、それと入れ替わるようにして別の生徒が覇吐の前に現れた。

 

「好かれているのか、それとも嫌われているのか、二人のご関係は分かりませんね」

 

 桜咲刹那、現在ネギにスパイだと思われている女生徒だ。

 

「何だよ、俺からすりゃ近衛の嬢ちゃんとおたく、仲がいいのか悪いのかはっきりさせて欲しいけどな」

 

「やはりご存知なんですね」

 

「学園長の爺さんから色々とな。他にも情報網はあるけどよ」

 

 刹那は手すりを掴み、清水寺から京都の自然、山、街並みを眺める。

 端正な顔立ちをしつつ凛とした佇まいをする、まさに大和撫子を彷彿とさせる刹那の横顔に、覇吐はドキッとしてしまった。

 しかし相手は中学生であり、覇吐の好みの体型ではないので頭を振って邪念を振り払った。

 

「私はここで長に拾われ、神鳴流を学び、そしてこのかお嬢様と出会いました。お嬢様はご自分の身分など鑑みず、私のことを友達と言ってくださり分け隔てなく接してくださりました」

 

「はあ……」

 

「私はそんなお嬢様をお救いできなかった瞬間がございます。それ故に今も面と向かって話すことすら憚られる次第です」

 

 おいおい何やら語り出したぞと、覇吐は哀愁漂わせる刹那にそんな無粋なことを思ってしまった。

 あ、今の人とても美人だったな、などと通行人に目を走らせている時だった。

 

「覇吐先生。ネギ先生はまだまだ未熟です。隙だらけな上、予期せぬ火急の事態の対応も杜撰と言わざるを得ません」

 

 そこまで言うかね、ああ見えてルサルカと言う魔女に一矢報いたんだぞと言いたかったが、現に今は覇吐の目から見ても隙だらけなので特に何も言い返せなかった。

 

「そこでお願いがあります。覇吐先生、恐らく関西呪術協会の一部勢力である『呪符使い』が手を出してくるかもしれません。いえ、既に動いています。ですから覇吐先生、私と共にお嬢様を狙う輩と戦っていただきたい」

 

「え、俺が?」

 

 急な頼み事に唖然としてしまう覇吐。

 確かに生徒の頼みを聞くのは先生としての立場では当然のことだが、そこまで手を貸してしまうと覇吐は大手を振って京美人とお近づきになる計画が藻屑となってしまう。

 悩む覇吐に、刹那はその邪な気持ちを看破したのか釘を刺した。

 

「脅すつもりはないのですが、ナンパが出来なくなるという理由で断るようでしたら、然るところにご報告させてもらいます」

 

「なッ! 俺の生き甲斐を人質にとるんじゃねえ!」

 

「清々しいくらい認めましたね」

 

 刹那は溜息をつく。

 本当に頼っていいのか不安がよぎるが、実力は本物だ。実際にこの目で確認しているので、そこは信頼をおいていいだろう。

 しかし人間性に難がある不安は拭いきれなかった。

 

「……ちっ、分かったよ。ただし条件がある」

 

「はい?」

 

「お前ここで育ったんだろ。なら京美人を一人や二人紹介するなり、学園で俺の評判を上げるなりしてくれよ?」

 

「……結果次第、でお願いします」

 

 生徒にとんでもない見返りを求めつつ、二人は修学旅行のあいだ手を結ぶこととなった。

 

 

   ***

 

 

「目的は例の嬢ちゃんや。みな、分かっとりますな?」

 

 とあるビルの一角にて、眼鏡をかけた和服美人が三人の少年少女に声をかける。

 

「分かっとるわ。確認せんでもえーで。それに俺は、その中にいるゆう西洋魔術師にしか興味あらへん。戦いやったら任せぇや」

 

「ウチ、その噂の剣士はんと戦ってみたいので、そこは譲れませんよ~」

 

「…………」

 

 異色を放つ三人、中でも黒髪の少年とロリータファッションに身を包む少女は戦意を剝き出しにしていた。

 一般人でないのは、雰囲気だけで理解できる。

 

「案ずる必要はあらへん。邪魔をしてくるんは火を見るよりも明らかや。その時は好きなだけ暴れなはれ」

 

 鼓舞するように言うと、和服美人の視線が空へと移る。

 そこにはもう一人、別の人影が見下すようにした屋上に立っていた。

 

「情報提供、感謝させてもらいます。こっから先はこちらでやらせてもらいますさかい、そちらさんは手出し無用で頼みますえ」

 

「……分かっちょるわ。好きにせェ」

 

 男は煙管をふかしながら、清水寺の方へと目を向ける。

 

「じゃけぇ、あのジャリども相手に無様晒すんやったら、話は変わる。気ィ付けて挑めや」

 

「……肝に銘じとくわ」

 

 男の言葉を聞くと、その場で四人は姿を消した。

 そして男も同じく、不敵な笑みを浮かべると空間に溶け込むようにして消えたのだった。

 

 

   ***

 

 

 夜――京都嵐山のホテルにて。

 麻帆良学園の生徒たちは本日、このホテルで宿泊することになる。

 

 清水寺でも関西呪術協会の悪戯程度の妨害を受けてきたが、何とか無事に夜を迎えることができた。

 だが、このホテルでも工作してくるかもしれないので油断はできない。

 そんな状況下で、何の危機感も抱かず欲望の赴くままに動こうとしている男が一人。

 みんなが今日の疲れを露天風呂で癒す中、覇吐は一人ロビーにて、あることを決行しようとしていた。

 

「やるぜ――覗きだ」

 

 そして覇吐は女湯へと勇往邁進するのだった。

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