波旬兄弟と蓮親子がネギまの世界へ   作:ディーン・グローリー

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エクシズ様、AST様、軍勢様、赤の人様、感想ありがとうございます。

今回はネギまのキャラを登場させました。時間があまりなかったため、誤字脱字があるかもしれません。




第二歌劇【出会い】

《1》

 メセンブリーナ連合の本国首都であるメガロメセンブリアにやって来た二人の人物。

 一人は魔法世界最強であろう人物――黒マントことメルクリウス。

 一人はそのメルクリウスの息子である――藤井蓮。

 二人はこの戦争の中、メセンブリーナ連合に付くため本国まで足を運んだ。

 運んだのだが……メルクリウスの女神に対する奇行により、連合側の兵士に拘束されてしまったのだ。遅かれ早かれ怪しさだけで捕まっていたであろうが。

 その時に藤井蓮は事情を適当に兵士に説明をしたが、メルクリウスの怪しさにはどんな言葉を適切に並べても効果はなく、最終的にメルクリウスだけ連行されてしまった。本来ならメルクリウスの力で楽々どうとでも出来たのだが、何もしなかったとこを見るに恐らく何か考えがあってのことだろう。

 

 そんな訳で、蓮は一人、街中に残されてしまった。

 藤井蓮――イケメンに部類されるであろう顔立ちだが、どこか女性めいた顔立ちもしている。

 そんな藤井蓮は連行された片割れに対して呆れていた。

 

「いつかは通報されると思ったけど、まさかこんな早く通報されるなんてな」

 

 街中を適当に逍遥としながら、連行されたメルクリウスに対してため息をつく。

 日時は昼頃。

 戦争中にも関わらず街は活気であり、戦争と言う雰囲気をほとんど醸し出してはいない。平和のように感じる。

 蓮は街を見渡し、

 

「さて、どうするか」

 

 多分だが、どこかでメルクリウスが動き出すだろう。それを合図に自分も動けば良い。そもそもそうするしかできないし、それ以外する気が起きない。

 だったら今この瞬間、自分なりの日常を過ごそうと思う。

 藤井蓮は誰よりも〝今〟を大切にする。しかし、この〝今〟とは何の変哲も刺激もない平凡な日常のことを指す。それを円環の如く繰り返す日常……藤井蓮はこの刹那を何よりも愛しているのだ。

 それ故、面倒事や揉め事に争い事などの非日常を嫌う。この戦争も明らか日常から掛け離れた非日常だろう。だから蓮自身も――メルクリウスとは理由が全く違うが――この戦争がとっとと終わることを願っている。

 だけどまさか、自分自身から戦争に参加する羽目になるとは思ってもいなかった為、現在はどちらかと言うとご立腹状態だ。

 

「時間も時間だし、まずはどこかで飯でも食うか」

 

 現在は昼時。まだ昼食を摂っていないが故、少しだけ腹が空いている。

 街中の本格的な散策は後にし、先に食事をすることにした。

 

「とは言っても、どこで食うかな。無駄に店が沢山あるし」

 

 流石は首都と言ったところだろうか。

 様々な飲食店が建ち並んでおり、なるべく安価で腹を満たせる店に行きたい蓮に取っては面倒なのだ。

 通貨だが、父親に当たるメルクリウスがアイドルのマルグリッド関連に時間のほとんどを費やしている為、ニート状態も良いところだ。……ダメ親父の典型である。その為、お金がほとんど無いのだ。先でメルクリウスはマルグリッドのグッズを大量に所有していると言ったが、新商品が発売するや否や何処からか不気味なくらいの大金を持ってくるが、この件には触れないでおいている。

 そして蓮は自分の金を稼ぐため、適当な店の手伝い(俗に言うバイト)や、小さい村の依頼(盗賊や魔物退治など)などをして生計を立てている。

 特に悪竜退治なんかでは大量の賞金を稼ぐことが出来ていた。故に蓮の懐は暖かいのだが、もしもの時の為になるべく多く残しておきたい。金は貯金派だ。

 

「安い飯屋はっと」

 

 歩みを進めながら色んな飲食店を見ていく。

 そんな時だった――

 

「おい、そこの貴様」

 

 ふと、背後から誰かに声を掛けられた。

 声音からして女。それも少女くらいの幼い声だった。

 迷子かと思い、後ろを振り返った藤井蓮の目に映ったのは、目立たない外套で全身を包み、フードを深く被った少女だった。

 迷子……ではない。

 ……異様だ。外套で姿を隠しても、その異質性までは藤井蓮の目から隠すことが出来ない。

 まず感じたのは魔力。隠しているつもりだろうが、蓮ほどの実力者ならそれを見通すことが可能だ。そしてこの目の前の少女の魔力はそこらの魔法使いより桁外れに高い。

 次に感じたのは異質性。ただ魔力が高いだけではなく、別の何かを感じる。それが何なのかは分からないが。

 

「随分と面白い魔力をしているな。貴様、何者だ?」

 

 少女がフードの影から鋭い眼光を発し、上から目線で尋ねてきた。

 その質問に、蓮は少し訝しむ。

 ――こいつは、俺の力に感づいたのか?

 今まで蓮の未知なる力に感づいたものなど、ごくごく少数である。

 

「他人のことを聞く時はまず自分からだろう」

 

 少女の眼光……並の者なら怯み上がるであろう威圧感だが、蓮にはそのような威圧など通じず、逆に言い返した。

 

「ほう、この私の圧力に一切慄かないか。やはり、ただ者ではないな。良いだろう、教えてやる。私の名は――」

 

 少女は笑みを零しながら、悠然と名乗る。

 

「エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル――知らないとは、言うまいな」

 

    ( `Д´)=>)3')シンニアイスルナラコワセェ

 

 蓮が少女――エヴァンジェリンと対峙している頃、大人しく連行されたメルクリウスは兵士達を束ねる兵士長と対面していた。

 何やら豪勢な甲冑を身に纏っており、若干ながら凄みがある。

 確かに戦いの長には相応しい人物だろう。

 いち不審者にわざわざ兵士長が出向いているかというと、兵士たちでは尋問したところで時間の無駄だと判断された。何を聞いても女神がーや、味方に付くとかーである。

 そして何より兵士たちでも感づく、内包された魔力の凄まじさ。まるで底が見えない、深い深淵のような魔力をみな感じ取っていたのだ。

 よって力も権力もそこそこある兵士長が直々に対面している。

 

「ふむ、お主がさきほど通報された者か。なるほど、不審な点だらけだが、それに見合わない素晴らしい魔力を持ってるようだ」

 

 物々しい態度で目の前に立つ黒マント――メルクリウスに語りかける。

 現在メルクリウスは軍備施設の一室に居た。コンクリートむき出しの部屋であり、壁のところどころに眼球のような魔道具が設置されている。

 

「如何にも。ですが私はあなた方の思うような怪しい者ではございませんよ」

 

 慇懃な態度で答えるメルクリウス。怪しさ満載だ。

 

「どちらかと言いますと、私はあなた方の味方側になります。ああ心配せずとも、敵国の諜報機関や密偵などではございませんので安心してくれたまえ」

 

 そのセリフに兵士長が眉を顰める。

 この怪しい者が、急に自分達の味方と言いだした。一体どういうつもりなのか、いまいち解せない。

 

「我らの味方とな。それは本日から我々と共に戦うということかな。それは願ってもないことだ。確かに我々はいつでも兵を募っているからな」

「然り。その為、この地を訪れたのですが、まさかこのような粗放な扱いを受けるとは思いませんでしたよ。随分とお暇と見えますな」

 

 物々しい態度とは逆に、戯れているような口調で答える。

 その態度に苛立たないのは、流石は兵士長と言ったところだろう。

 

「ふむ、ではお主の名を聞こうか」

 

 最初は間者と一瞬だけ疑った兵士長だが、直ぐに氷解した。

 もしこいつが間者なら、こんな通報されるレベルの目立った姿で首都には来ないだろう。だが、目立つと言う行為が布石かもしれない。こいつ自身が欺瞞に満ちた存在なら、危険だ。即刻排除したいところだが、本当にただ入隊したいだけかもしれない。

 それに男には黙っているが、この部屋には数々のスパイを見破る魔道具が設置してある。それが反応しないのを見るに、恐らく間者などではない可能性が高い。

 なら、後は示してもらう他ない。

 

「カール・クラフト=メルクリウス。無名の魔法使いですよ」

「そうか。確かに聞いたことのない名だ。……と、申し遅れた。私は第二師団長を務めるギルベルトと申す」

 

 お互い名乗る。

 そして再び兵士長ギルベルトが質疑する。

 

「メルクリウスよ、お主が本当に我が連合の兵になるのなら、その忠誠を見せてみよ。お主ほどの力の持ち主なら、良い仕事が一つある」

 

 実際自身ですらメルクリウスの底が全く見えない。

 故に、それに並びうる力の持ち主たちと一度、仕事をさせてみる。

 

「良いでしょう。して、その内容とは?」

 

 常時、慇懃な態度で兵士長に答え続け、遂に最後の言葉を吐く。

 こんなに早く最後に至るのには、もう一つ理由がある。端的に言うと、一人の魔法使いにそれ程時間を費やしたくないからだ。今は戦争中。無駄な時間は災禍を漏洩させる。

 

「現在、優秀な戦士であるナギ・スプリングフィールド、フィリウス・ゼクト、青山詠春、アルビレオ・イマ、ジャック・ラカンの精鋭五名が連合側で起きている、奇怪な戦を抑制しに向かっている」

 

 連合側で起きている戦……奇しくもそれは波旬と覇吐の単なる兄弟喧嘩なのだが、遂に国が動き出す程のレベルに達しているようだ。

 

「お主には、そこへ向かってもらう」

 

    (∴)

 

 ほぼ同時刻、ナギ一行はその戦の地へ赴いていた。

 場所は連合南部、エリジウム大陸のケルベラス大樹林だ。広大な大樹林で、人間世界のアマゾンなど目じゃない広さと自然を誇る。綺麗な湖や滝などもあるが、野生の飛竜や魔物も沢山いるため、危険が伴う場所だ。

 現在、そんな場所で戦をしている馬鹿共を抑制するため、ナギ一行は向かっているのだ。

 

「ったく、帝国からの侵攻を阻止し破壊した途端にこんな任務かよ。いい加減、少しは休暇がほしいぜ」

 

 ナギは飛行しながら愚痴を零す。

 実際、アルギュレー・シルチス亜大陸侵攻の阻止任務をほとんど休み無しでやり通し、結構疲労も溜まっていたのだ。愚痴の一つや二つ、仕方ないだろう。

 

「フフ……まぁそう言わずに。これも裏を返せば、私達は随分と連合側に信頼されていると言うことですよ」

 

 アルがナギを慰めるように言う。

 

「なら、信頼されすぎるってのも困りもんだな。こんなことなら任務の一つや二つは失敗しておくべきだったか?」

 

 冗談のようで冗談ではないように言うので、対処に困る。

 瞬間、後ろから張り手よろしく後頭部をドスンと叩かれた。

 

「いてぇっ! 何しやがるジャック! 今の結構痛かったぞオイ!」

 

 涙目で叩かれた後頭部を摩りながら、ラカンに怒鳴るナギ。

 ラカン――ヘラス族の傭兵剣士。今はナギ達と共に戦う一人である。筋肉体質であり、それに見合った実力を持つ。ナギとはライバルと言う仲だ。

 そして叩いた本人であるラカンは笑いながら答える。

 

「無駄だぜナギ。俺が居る限り、例えどんなことがあろうとも、失敗なんて二文字は報告させねえよ!」

「あぁ、何言ってやがる! 今までの任務のほとんどの功績は俺のお陰じゃねえかよ!」

「はぁ!? 嘯ってんじゃねえぞ! 俺が居なきゃ今頃お前なんざ、病院のベッドの上でおねんねなんだぜ!」

「ああ! だったらてめぇなんて俺が居なきゃ今頃棺桶の中で永眠してるぜ!」

「言うじゃねえかよ。だったらお前なんざ今頃天国に――」

 

 ラカンとナギが見苦しい争いをしている中、詠春は頭を抱えていた。

 ――これから戦場に行くというのに、一体何をしているんだこの二人は?

 

「緊張感がないのじゃ。いつものことじゃよ詠春。気にするな」

 

 詠春の心中を察し、ゼクトが言葉を吐く。

 ゼクト――身体は10歳前後といった少年だが、齢は百を超える。ショタジジイと欲に言う。しかも彼はナギの師匠でもあり、最強に部類される魔法使いだ。

 

「そうなんですがね。しかし戦いの前の緊張感は、戦士にとって大切なもの。……そう、この二人は戦士にとって大切なものを一切分かっていないんだ。何度この二人に言っても分かろうとしない」

 

 詠春は頭を痛め、

 

「たく、こうなったら、ちょうど良いでしょう」

 

 急に声色は氷点下に変わり、

 

「ブチ殺……間違った。粛清しましょう」

 

 瞬間、詠春が野太刀――夕凪を抜き闘志を燃やす。

 詠春――神鳴流剣士の使いであり、実力はラカンにも劣らない。別称は鍋将軍であり、鍋を詠春と食す場合、詠春に逆らうことができない権力を持つ。

 そんな詠春が刀を手に、一閃……ラカンとナギの合間に斬り込む。

 

「うおっ、何しやがる詠春! 危ねえじゃねぇか!?」

 

 ナギが少し後ずさりながら喚声を上げる。

 後少し前に動いていたら、今の一太刀で真っ二つだったのかもしれないのだ。

 

「フ……フフ……前々から思っていたのですよ。お前達には少し、否徹底的に灸を据えた方が良いとな!」

 

 黒い影が詠春の面を覆い尽くした。

 どうやら頭が沸騰したようだ。

 

「おいおい待てよ。今は身内で争ってる場合じゃないだろう」

 

 対してラカンが随分と理屈にあった発言をする。

 流石のラカンも詠春の恐ろしさは熟知している。逆に言えば弱点も知っているが、同じ手が何度も通じる相手ではないだろう。故、もし暴れたら止めるのに手こずる。

 

「遅い。反省なら後でしろ」

 

 言った刹那、詠春がナギとラカンに襲いかかった。

 

「一度熱くなった詠春は止められませんね」

 

 アルが微笑みながら、三者の争いの光景を眺める。

 アルビレオ――年齢不明。後記より600は超える。悪ふざけが好きで、何を考えているか分からない。慇懃な態度を取るが、その裏かなりエッチな性格をしている。

 

「阿呆共が。詠春まで暴れては、意味がないじゃろうに。斡旋すると思ったが、まぁ半分は予想通りかの」

 

 ゼクトは無表情で、バカを見るような目でバカ共を見る。

 それにアルが楽しそうに答える。

 

「まぁよろしいではないですか。ちょっとした休暇ですよ」

 

 

 《2》

 

 藤井蓮はメルクリウスから何らかのアクションが起こるまで、自由気ままに街を散策していた。途中、現在が昼頃だと気づき食事を摂るため、飲食店を探し歩いていた。そんな時だった――

 蓮に普通ではない、ある少女が接触してきたのだ。

 一体誰なのかも、何の目的があって接触してきたのかも不明。

 そんな怪しい少女と蓮は現在……流暢にも同じ飲食店のテーブルで食事を摂っていた。

 

「……ん」

 

 蓮は適当に皿に盛られた料理を食しながら、目の前の少女を見る。

 フードはさっきよりも浅くなった御蔭で顔は見える。外套で隠れて分からないが、恐らく金髪のロングだろう。本当、まるで人形のような美しさがあり、欠点がまるで無い。顔立ちと体格からするに10歳程度だろうが、何らかの魔法か特性でこんな姿になっているのだろう。何故なら――

 エヴァンジェリンと、この少女は名乗った。エヴァンジェリンと言えば魔法世界では「闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)」、「人形使い(ドール・マスター)」、「不死の魔法使い(マガ・ノスフェラトゥ)」、「悪しき音信(あしきおとずれ)」などの様々な異名を持ち恐れられている。しかも600万の賞金首でもあり、まず魔法世界では知らぬ者が居ない程の悪名高い魔法使いだ。そういうのに全く興味のない蓮でも知っているくらいなのだ。

 だが、そんな賞金首がこんなとこで、しかも自分に声をかけてくるとは、一体どういう了見なのだろうか?

 

「なぁ、流れで一緒に食事をしているけど、一体俺に何の用なんだ?」

 

 蓮は口の中の食物を飲み込み、エヴァンジェリンに向かって口を開く。

 対するエヴァンジェリンはステーキを一口サイズの大きさに切り、それを頬張る。そして咀嚼した後、胃に通し、蓮の質問に答える。

 

「ふむ、当然の質問だな。だが、今は食事を楽しもうではないか。食事中に、そのような質問に回答を出すのは好きではないのでな」

 

 再び肉を慣れた手つきで切り、口に運ぶ。

 

「……なら食事中に話すに相応しい話題を出してやるよ」

 

 蓮はお冷を一飲みし、口を開いた。

 

「お前の趣味は何だ?」

「……随分と面白くない話題だな」

「いいから答えてくれよ。お前みたいな遍歴の持ち主が何を嗜むのかに興味があるんだ」

「成程、まぁ興味を持つのも無理はないだろうな」

 

 最初は陥穽に巧く陥れるつもりの質問が来るかと思ったが、随分と唖然とさせる話題を持ち上げたのに多少驚いたエヴァンジェリン。

 この程度なら答えてやっても良かろう――と、エヴァンジェリンは飲み込み答える。

 

「そうだな、最近は旧世界の日本と言う和の国に興味がある。日本の景色……あれは中々捨てたものではない。この私の心を和ませてくれるからな。他にも日本独特の茶や囲碁も愛好している」

「日本か、聞いたことのない国だな。そんな良い場所なのか?」

「ふむ、まぁ悪くはないとだけ言っておこう。興味があるなら一度行ってみると良い。さて、次は私が質問をしようか。逆に貴様の趣味は何だ?」

 

 質問返しとはこのことだ。

 蓮は特に趣味が無いため、答えれるとしたら一つだけだ。

 

「小遣い稼ぎ……かな。暇な時に適当な店の手伝いとか、小さな村の依頼を受けて賞金稼ぎ何かをしているくらいだ」

「ほう、小さな村の依頼は大抵危険な物が多いと聞くが?」

「まぁ悪竜退治や盗賊退治あたりは危険だろうな」

「成程、確かに危険だ。して、その依頼成功率は?」

「今のとこは100%だ」

 

 軽い調子で蓮は答える。

 悪竜退治なんかを単体で成功させる魔法使いはそう多くない。故、それだけで蓮の実力は推測できるだろう。

 エヴァンジェリンはそれを聞き、笑みを零す。

 

「フフ。やはり、ただ者ではないな小僧」

 

 エヴァンジェリンはナイフとホークを置き、布巾で軽く口元を拭う。

 食事が終わったようだ。

 

「さて、食事も終えたことだし、先の質問に答えてやるとしよう」

 

 先の質問……それは自分に一体何の用なんだと言う問いだ。

 食事中には答えたくないとのことだったが、食事が終わったため答えてくれるようだ。

 

「貴様に接触した理由はただ一つだ」

 

 エヴァンジェリンは一拍の間を置き、口に出す。

 

「貴様は――メルクリウスと言う男を知っているか?」

 

 その質問に蓮は眉を顰めた。

 自分の親父と言う点もあるが、それ以上に少女はメルクリウスの名を口にした途端、一瞬だけ殺気を放っていたのだ。

 まるでメルクリウスが忌名でもあるかのように。

 恐らく自分が一瞬だけ眉を顰めた為、少女エヴァンジェリンは何かに感づいたであろう。正直に自分の親父と言うのは危険だと察知した蓮は、途端に出た嘘を答える。

 

「知っている……と言いたいところだが、生憎と名前しか聞いたことはない」

「……本当に、それだけか? 隠すとためにならんぞ」

「何でそこまで追求する?」

「そうだな。端的に言うと私にとって、あの男は私の全てを狂わせた男だからだ」

「……どういう意味だよ」

「いや、知らないのなら話す意味はなかろう。今の話は忘れてくれ」

「だったら、どうして俺に接触したんだよ。メルクリウスって奴のことを聞きまわるなら、俺なんかと食事する意味なんて無いだろ?」

 

 メルクリウス……自分の父に当たるアイツがエヴァンジェリンに何をしたのかは分からないが、それを聞くためだけに自分と食事をしたと言う理由だけでは全く釈然としない。

 他に理由があるはずだ。

 

「そうだな、今のは適した回答にはなっていないだろう。まぁ答えなど簡単だ。奴が貴様にソックリだったからだ」

 

 その台詞に、蓮の心の中で何かが壊れる音がした。

 ――似ている? あの変人と自分が似ている……?

 確かに父に当たる人物だから多少似ていても仕方ないと思っていたが、正面からいざそう言われると落ち込み度合いが洒落にならない。

 だがそこで表情に出したら何かを勘付かれかねない。だから外面には出さず内面で盛大に落ち込む。

 

「まぁ他人の空似と言うやつだ、気にすることはない」

「あ、ああ、そうだな。気にすることなんて……ないよな」

 

 そうだ、気にすることなんてない。例え似ていても、あくまで外見であって質は全く違う。

 人付き合いは良いとは思わないが、小さな村での依頼を成功する毎に色んな村人と信頼関係を得ることは出来ている。あんなアイドルの尻ばかりを追いかけている親父とは違うのだ。

 

「……貴様、先程から随分と心を乱しているようだが、もしや何か知っているのではないか?」

「ッ!」

 

 ――しまった、動揺しすぎたか!?

 蓮は強引に、あくまで平静を装いエヴァンジェリンに向けて咄嗟の言葉を吐いた。

 

「いや、ちょっとある事を思い出したんだ。昔、村人からメルクリウスって野郎に苦しめられた人が居るって話を小耳に挟んだことがあったなって」

「そうか、その人には多少同情するな。あの男は正に下衆と言う単語が服を着て歩いているような奴だ。この私ですら吐き気を覚えさせるほどのな」

 

 どんどんメルクリウスが悪者になっていく。

 だがまぁ、元々良い人間ではなかったから、全く心が痛まない息子――蓮であった。

 

「……なぁ、お前はメルクリウスに何をされたんだ?」

 

 ここまでメルクリウスを憎んでいるには、何かとんでもない理由があるのだろう。

 そうでなければ、魔法世界の大犯罪者に恨まれることなどないはずだ。

 

「ふむ、貴様にこれ以上のことを言う筋合いは無い……が、そうだな、貴様、明日時間はあるか?」

「え、多分……」

「そうか。もし時間があれば、明日の夕刻に本国東の外れの広場に来るが良い。面白いものを見せてやる」

「面白いもの?」

 

 では……と言い、エヴァンジェリンは立ち上がる。そして伝票を持ち、

 

「ここの支払いは私がしておこう。勝手に食事を共にした埋め合わせだとでも思ってくれ」

 

 男らしい台詞を残し、そのまま行ってしまった。

 一人残った蓮は、さてどうしたものかと頭を悩ます。

 恐らく時間はあるだろう。そして気になる。あの魔法界で恐れられるエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルに自分の親父であるメルクリウスが一体何をやらかしたのかが。

 だが相手は大量殺人鬼。もし、無いと思うが、エヴァンジェリンが自分を殺そうと襲いかかってきても、対抗できる自信は充分にある上、最後に言った面白いものってのも気になる。

 日常を非日常に自分から変えてしまうのも癪だが、時既に遅い。

 だったら――行ってみる価値はあるだろう。

 

 こうして、藤井蓮の心は決まったのだった。

 

   (∴)

 

 ナギ達が喧嘩という休暇を始め、約一時間……

 ようやく歩みを再び進め、抑制の任務を再開した。

 距離にして後数百Km。普通なら何日と掛かる距離だが、この五人からしたらそんなに無駄な時間なぞ掛からない。

 故――到着までに言うほどの時間はかからないってことになるのだ。

 

 

「……島がなくなってやがる」

 

 まず皆が感じたのは敵の恐ろしさ。まだ通達されてそれ程の時間は掛かっていない。なのにエリジウム大陸に沢山点在する小島が次々と無くなっているのだ。

 元は無人島だった為、人身による被害はないだろうが、放っておけばエリジウム大陸そのものが危うくなる。

 これは急いで抑圧せねばならない。

 そして同時に五人は見た。

 一つの島で戦り合う二人の男。

 一人は赤毛で麻呂眉が特徴的の、体格の大きい男。片手には自分の背丈くらい大きい大剣を手に持っている。魔法界では見ない豪奢な服装をしている。

 もう一人は、片方とは対照的な痩身の男。緩やかな白い衣だけを身に纏い、金髪の髪が炎の如く逆だっている。そして何より目に付くのは、額にある三つ目の瞳。三つ目なら魔法界では珍しくないが、あれからは何か得体の知れない何かを感じる。

 そんな二人が、二人だけで一対一の戦いをしているのだ。

 魔力は感じない。あの赤毛の方からはとんでもない魔力を感じるが、逆に痩身の方からは一切何も感じないのだ。

 解せない。あれは一体何だ?

 五人は今まで出会ったことのない未曾有の敵を前に、臨戦態勢に入る。

 そう、分からないのなら、戦って知れば良い。

 

 ――さぁ、任務開始だ。

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