結構遅くなりました。多忙な為。しかも最後の方はむちゃくちゃかな。
ネギまは未回収の伏線が多いですので、そこらはボク独自の考えで回収していきます。
《1》
「う~、つ、疲れたぞお兄ちゃん」
吸血鬼少女――エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルはお気に入りの天蓋ベットで横たわった。
あれから食器洗い、部屋掃除、洗濯、植物への水遣り、料理まで様々な仕事をこなしてきたのだ。いつもなら魔法でどうこうできてしまえるのだが、慣れないことをすると、流石の吸血鬼も疲れ果ててしまう。
元よりこのような広い別荘を、一日で上記の事をしようと思うと丸々一日は消費してしまうであろう。だがそこは、吸血鬼の身体力とメイド人形の手伝い及び適切な指導により一日でやってしまえた。
「慣れないことを無理してするからだろ」
呆れ半分に――藤井蓮は言葉を投げかける。
まさか本当にあんな約束を鵜呑みにし、更にはここまで真面目に働くとは思ってもみなかった。まるでゲームを買ってやると約束をした親の気分だ。
「しかし、私は一度、お兄ちゃんと一戦交えたいのだ。なら、どんな試練でも乗り越えてみせるさ」
疲れの色MAXでエヴァンジェリンは蓮に答える。
今まで吸血鬼がここまで疲れた姿を拝見した者は、この世の中にいるだろうか?
(下手な約束、するんじゃなかったな)
何て後悔する。
もうメルクリウスの対策云々の問題なぞ、蚊帳の外にやってしまっている。
「とりあえず早く浴場に行ってこい。そして今日は早く寝ろ」
何て親めいな台詞を言う蓮。
エヴァンジェリンはそれを聞き、
「後で入る。今は少し休ませてくれ」
本当に疲れているご様子。このまま寝ても不思議ではないが、疲れた汗を拭き取らないと風邪を引いてしまう恐れがある。
仕方なく蓮は、
「分かったよ。じゃあ先に入るから、ちゃんと後で入れよ」
と母親のような台詞を言い残し、蓮は浴場へと向かった。
(∴)
別荘の浴場は南国リゾートに見合った作りをしている。装飾も広さも申し分ない。しかも周囲にはヤシの木を生やしている。
藤井蓮が初めてこの浴場を見たとき、純粋に驚いた。いつもは普通の、別に広くも狭くもない語るに語れない浴場に入っていたため、これほど広い浴場は驚かずにはいられない。
そして驚きの次に抱いた感情は、こんな広くなくても良いよな? と言う疑問だった。確かに広い浴場ってのは、どこか貫禄を感じるしこの別荘には釣り合っている。だがエヴァンジェリン一人のためにこの広さは異常だ。
「一日デ御主人ノ人格ニ異変ヲ生ジサセルトハ、中々ノヤリ手ダナ」
「どんな褒め言葉だ。別に俺はそんなつもりで言った訳じゃない」
「謙遜スルナヨ。調教ノ腕ハカナリノ物ダゼ」
「あー、もう好きに言え」
蓮は何を言っても無駄だと思い勝手にさせる。
現在、藤井蓮はバスチェアに座り、チャチャゼロに背中を泡の篭ったスポンジで洗ってもらっている。
こいつに背後を取られているのは何処か不安があるが、流石にここでは何もしないだろう。
正直一人で浴場でゆっくりしたい派の蓮だが、エヴァンジェリンがそれでは駄目だと主張した。理由を聞いてみると、一人で背中とかどうやってきれいに洗うんだとかだった。
確かに魔法とか使っても、背中をちゃんと洗えないが、一般人は一人で洗っている。ここらは価値観の違いだろう。そこで女型のメイドドールと一緒に入ることになったのだが、流石にそれはヤバいと言い仕方なしに性別の概念がないチャチャゼロとなった。だがやはりチャチャゼロも外見が少女と変わらないため、どこか忸怩としている。
ちなみにチャチャゼロも裸だが、人形なため、しかも中性なため特に描写すべき点はない。
「そういえばチャチャゼロは、メルクリウスって野郎のことを知ってるのか?」
「イイヤ、知ラネェヨ。ソノ男ガ最後ニ御主人ト会ッタノハ、事実御主人ガ十ノ時ダカラナ」
「そうか。じゃあチャチャゼロは別にメルクリウスのことをどうとも思っていないんだな」
「ソウダナ、ドウデモイイ存在ダ」
と言うことは、現状この場でメルクリウスを恨んでいるのはエヴァンジェリンのみとなる。
この場ではだが。世界中を探せば、大変なことになる。
「タダ、少シハ感謝ノ念ヲ抱イテンダゼ」
「は?」
耳を疑った蓮は、もう一度聞き直す。
「ダカラヨ、感謝シテルッテ言ッテルンダ」
「いや待て。それは無い絶対に無い。あいつが誰かに感謝されるなんて、世界が引っ繰り返っても有り得ない」
「? 何ダ、随分トメルクリウスノコトヲ知ッテル風ニ言ウナ」
「え、ああ……あれだ、メルクリウスって奴からは悪い酷評しか聞かなかったからな」
――危なかった。
あと少しで、自分がメルクリウスのことをバリバリ知る者だとバレるとこだった。
蓮は胸を撫で下ろし、悟られないため話題を変える。何で感謝しているか気になるが。
「そう言えば、エヴァンジェリンって風邪とか引くのか?」
「魔力ガ弱ッタ時クライダナ」
「そうなのか、なら安心か」
エヴァンジェリンは汗をかいたまま、疲労しきった体でいた。そのまま寝たら風邪を引く恐れがあったが、大丈夫かもしれない。
「何デソンナコトヲ聞クンダ?」
「慣れないことして疲れていたからな。あんな状態で、しかも汗をかいたまま寝たら風邪を引くかもしれないだろ」
「マルデオ母サンミタイナコトヲ言ウナ」
「せめてお兄さんにしてくれ」
男なのにお母さんは嫌だ。
「まぁエヴァンジェリンが風邪を引かないのは良かったけど、やっぱり浴場にはちゃんと入って欲しいよな。体とか汚いし。あのまま寝てしまったらどうしよう?」
何て心配をしてしまう。
友達を案ずるのは当たり前のことだろう。
「お兄ちゃんよ、その心配はいらん。何故なら今、私も浴場に推参したからだ」
瞬間だった。
出入口から浴場の湯気に包まれた、一糸まとわぬエヴァンジェリンが堂々と入ってきた。
「ッ! エヴァンジェリン……!」
突発的な登場に蓮は驚く。
白い肌に、全く実っていない果実を連想させる容姿、端的に言うと出ているところが出ていない体だ。幼女体とまではいかないが、少女体? なのかな。
肩から腕、そして胸……お尻へかけて、優しい曲線を描く身体のラインが否応なく目に入る。
可愛らしい胸は、あまり成長しておらず、その一方でお尻の丸みが際立っている気がする。
「ふふ、嫌だなお兄ちゃん、そんなに見つめられると照れるぞ」
「ッ、ち、違う! つうか堂々と入ってきたやつに言われたくねぇ!」
顔を赤らめながら蓮は言う。
と、エヴァンジェリンは何の恥じらいもみせず、蓮の言葉を無視して口を開く。
「この前見た書物に、友達同士背中を洗いっこすると、友情をより深められると記されていたのだよ。故、問われる前に答えておこう。私はお兄ちゃんと友情を深めるため、浴場に今入ってきた」
ないに等しい胸を張りながら、羞恥一切なしに言う。
何とも男らしい。
いや女だけども、性的刺激があまり無いのは、蓮が少女愛好家ではない証左にもなる。
だが、やはりエヴァンジェリンは女だ。あまり女に対しての免疫が無い蓮にとって、例え外見が少女でも、どこか激するとこはある。
「いやお前、羞恥心ってやつはねぇのかよ」
「羞恥心? 年下のお兄ちゃんに見られたところで恥ずかしくもない」
年下のお兄ちゃんとは、随分と妙なニュアンスだ。
てかエヴァンジェリンより年上など、この世にいるのだろうか。……メルクリウス以外に。
「さぁ背中の洗いっこをしようではないか、お兄ちゃん」
「既にチャチャゼロに背中は洗ってもらったから」
「なら前を洗おう。ごしごしと、綺麗にしてやる」
「前?」
想像してみる蓮。
すると、まぁ事案になりそうな絵面が展開されたため、首を横にふる。
「駄目だ。明らか場面的にヤバい」
「心配するな。もう隠す仲でもないだろう?」
「曝け出す仲にもなった覚えはない」
「ああ言えばこう言うの。なら私の背中を洗ってくれ。それなら良いだろ?」
「まぁ、その程度なら」
大丈夫だろう。
妹の背中を洗うだけと考えたら健全だ。いや、妹の背中を洗うなんて須くして当たり前の所業の一つ。何を恥じることがある。
何て言葉が蓮の頭を支配してしまった。
エヴァンジェリンはバスチェアに座る藤井蓮の前にバスチェアを持っていき座る。
「……」
目の前に白い肌で、まるで人形のようにシミも何もない美しい肌、柔らかそうな身体がアップで映らせる。
特にこの幼そうな肩甲骨が何とも可愛らしい。
「ふむ、洗って良いぞ」
「ああ」
蓮は泡のたったスポンジを手に、エヴァンジェリンの小さい背中にあてがう。
まるでガラス細工を取り扱う慎重さで、ゴシゴシと非常に優しく丁寧に、上下にスポンジを動かす。
「結構あれだな、普通の少女と変わらないよな、お前の肌って。弱々しくもどこか強い芯の通ったっていうか、吸血鬼独特の美しさって言うか」
蓮はどこか変な語彙になりつつも、エヴァンジェリンの肌の綺麗さには本当に見蕩れている。
と、蓮が心奪われていると自然に擦る力が強まり、
「はふぅ、ん、んあ、あぁん」
何て艶かしい声をエヴァンジェリンは上げた。
それに対し蓮は驚き、
「な、何変な声出してんだよ」
少し顔を赤らめて言う。
「いきなり力を強く入れるからだろ。さすがの私もビビッたぞ」
まぁ半分マジ、半分わざとだがと、エヴァンジェリンは心中呟く。
今のエヴァンジェリンは何故か蓮を弄りたくて仕方ないのだ。
そんなことを知らない蓮は、
「わ、悪かった。次はもう少し優しくする」
再びエヴァンジェリンの背中をスポンジで目に見えない汚れを落とす。
弄りたくて仕方ないエヴァンジェリンは再び同じく艶かしい声を、半分は本気で上げる。
「あ、あん……ふあっ、あぁぁ」
「だから何なんだよその声は! 結構優しくしただろ?」
「だって、気持ちよかったんだもん」
「何がもんだ。アタマ大丈夫かお前」
つかキャラ崩壊というより、キャラが全然定まってねぇしと、蓮は毒づく。
そんな中でもエヴァンジェリンの背中を洗っているのは、蓮が律儀だからだろう。
「もういい、お前が何を言っても突っ込まねぇ」
こいつはどうせ何を言っても基本効かないことを把握している蓮は、止めるのを諦め背中を洗うことに集中する。
だがエヴァンジェリンは蓮の言葉など知らぬ風に、まだ続ける。
「ひゃあんっ、んや、あ、あんっ……お、お兄ちゃんの好きにして、いいよ。どんな風にされても、感じるから」
これの何がタチ悪いかと言うと、半分は本気で感じているとこだ。
「あぁ、やぁっ……ああぁぁぁああああん!」
「…………」
こいつ、規制くらわないかなと、蓮は心底願ったのだった。
(∴)
時刻不明……坂上覇吐は、何やら薄暗く静謐に満ちた寂しい空間にいた。遺跡なのか、石造りが目立つ場で随分と古びている。
目の前にはフードを深く被った少女のような者がおり、そいつが黙々と奥の方へと歩み続ける。
「……なぁ、あんた一体俺を何処に連れて行きたいんだ?」
覇吐はここに入ってからの沈黙に耐え切れず、口を開いた。
此処に来るまでは、「我に付いてこい」や「我の目的の成就は、世界を護ることと同義じゃ」などと一方通行の如く会話が紡がれていた。だが此処に入るや否や、急に黙りだしたのだ。
そんな顰蹙な展開のせいで、覇吐は言った。
しかし予想外にも、フードの少女は逡巡なく答える。
「我の現状の維持区……と言っても分からんじゃろ? 案ずるな、もう直ぐ着く」
「本当にもう直ぐかよ。入って一時間は経つぜ」
覇吐は思った。
こいつは婆口調だ。外見年齢と精神年齢は大幅に違う亜人だろう。
そうなら、こいつの言う直ぐは1時間を経つかもしれない。年寄りの直ぐは若者からしたら遅い。
「おい。今とても失礼なことを考えなかったか?」
「! いや、何も考えてねぇぜ。そのフードの下が気になるなと思っただけだ」
内心読まれ、覇吐は少しギョッとする。
そして途端について嘘で誤魔化す。
「フードの下? 成程、確かに気になっても仕方がないか」
そう言って、少女はフードに手をかける。
「別に隠す必要ないしの」
と、フードを掴んだ手を引っ張り下ろし、少女の顔がさらけ出される。
若干ピンク色を帯びた赤色の髪に、翡翠色の大きな瞳が覇吐を見た。
「これが我だ。しっかりと脳裏に焼き付けておけよ」
「…………」
覇吐は予想に反して、心を奪われてしまった。
見た目は少女だが、その威圧感は王妃を思わせる程のオーラを発している。
顔立ちは整っており、修正点が一切思いつかないくらいだ。
「それと自己紹介がまだじゃったの」
少女は歩みを止め、覇吐の方を向き名乗る。
「墓所の主であり――ウェスペルタティアの者じゃ」
これが覇吐とウェスペルタティアとの邂逅となる。
そしてこの展開が、これからの物語を大きく変えることとなる。
《2》
「彼がガトウ・カグラ・ヴァンデンバーグです」
紅き翼の一人――アルビレオ・イマが一人の中年男性をメルクリウスに紹介した。
タバコを咥えており、メガネを掛けている。無精髭を生やしており、どこか警察の警部さんの匂いを漂わせている。
「そしてこの少年がタカミチ。ガトウの弟子らしいです」
ガトウと呼ばれた中年の傍らに、どこかガトウ似の少年が立っている。
だが正直、メルクリウスはこんな二人などどうでも良いので、心底適当に答える。
「私はメルクリウス。適当に覚えておくと良い」
まるでそこに自分がいないような、空虚な形で言った。
事実、メルクリウスにとって、この二人の存在……否、マルグリッド以外ただの目障りな存在でしかない。
「これからは仕事を共にする仲になるだろう、俺の方もよろしく」
ガトウは会釈だけする。
どうせ握手を交わそうにも、目の前の男はそれに答えないだろうと思ったからだ。
「して、早速で不躾だが、一つ聞いて欲しい」
ガトウはメルクリウスに言うことがあった。
既にナギ達には言い終えたこと、それをメルクリウスに言う。
それは――
「秘密結社『完全なる世界(コズモエンテレケイア)』について」
「……」
完全なる世界――現状、未だ謎に包まれた組織。まだ憶測になるが、組織の者が連合・帝国の中枢に入り込んでいると思われる。これが戦争が続く原因。そう、戦争があると儲かる奴らが作った組織だと。現在はこの程度の詳細しか分からないが、日に日にそれが確証に近づいている。
だがメルクリウスにとっては、本当に他人事。
完全なる世界? 頭に留めておく価値もない程度だ。
「この事をもう一人の少年にも伝えて欲しいんだ」
ガトウが言う。
そのもう一人とは藤井蓮のことを指す。
「ああ、会ったら伝えておこう。では、私は多忙なため失礼するよ」
慇懃な態度で、メルクリウスはその場から去っていく。
多忙と言ったが、それはストーリー制作のため。次作、Dies iraeの為だ。
だが戦争が終わらないければ上映されないため、戦争に対して若干奮起しているのもある。もしそうでなければ、ガトウなどに会いにこないだろう。
「師匠、僕はあの人が苦手になりました」
「いきなりだね」
突然、弟子のタカミチがそんなことを言った。
「あの人は見るからに怪しい。多分、あの人に命を助けられても好感は持てないと思います」
「確かに俺も、辛気臭い男ではあると思うが、見た目で判断したら駄目だろう。ちゃんと皆で笑い合える男かもしれん」
メルクリウスが皆と笑い合っている姿を……想像できないのはどうしてだろうか?
未知すぎるからだろう。
「では俺たちも引き続き『完全なる世界』について調査を進めよう。全てが終わる前に」
(∴)
蓮は浴場から出ると、完全にのぼせてしまっていた。誰かさんのせいでだ。
同時にエヴァンジェリンも蓮を弄るので必死になり、同じくのぼせてしまった。これは自業自得だ。
チャチャゼロはチャチャゼロで、いつの間にか浴場から上がっていた。何やらしていたが、気にはしなかった。
「う~、あ、熱いぞ」
エヴァンジェリンがソファに横になり、グッタリとしている。
湯気がたっており、どれくらい長く浴場にいたかを物語っている。
「お前がバカな真似するからだろ」
蓮も同じく体から湯気が立ち込めている。
これは決して湯に浸かり過ぎたせいではない。女に免疫がない蓮に対し、エヴァンジェリンの艶かしい声を聞き続けたせいだ。初心に近いだろう。
「後悔している。まさかここまで疲れるとは思わなかったんだ」
エヴァンジェリンはゆっくりと腰を起こし、ソファにもたれる。
「それじゃあ、私はもう疲れたから、寝てくるとする」
ゆっくりとエヴァンジェリンは立ち上がろうとする。
その瞬間……チャチャゼロが二人のもとにやって来た。
「ヨォ御主人、藤井蓮。チョットイイモノヲ持ッテキタゼ」
と、片手に持っている黒い録音機のような物を見せつける。
そして間髪いれず、それのスイッチを入れた。
ザザザと言う機械音と共に、そこから藤井蓮とエヴァンジェリンの声が聞こえてきた。
『もう少し優しくする』
『あ、あん……お、お兄ちゃんの好きにして、いいよ』
『そうかよ、じゃあ好きにする』
『ひゃあんっ、んや、あ、あんっ……ああぁぁぁああああん!』
浴場でのセリフを音声編集して作られた声だった。
しかも背景音や音量調整なども巧く作り変えられている。まさに超技術だ。
蓮はそれを聞かされ顔が青ざめた。
「ドウダ、音声ダケ聞イテルトヤバイダロ?」
「……何が目的だ?」
これは脅迫に間違いない。
こんなものを流出させられた暁には、もう街を堂々と歩けない。
紅き翼の一人がロリコン疑惑……などと言う噂が出回る。こんなことになったら、日常には永遠に帰れないだろう。
最初は壊そうとも思ったが、恐らくバックアップは既にあるだろうから、意味はない。
そしてチャチャゼロがその目的を言った。
「御主人ト戦エ」
それがチャチャゼロの目的だった。
「ソウスレバ、コノ録音機ハ永遠ニ封印スル」
とのこと。
蓮は仕方なく溜息をつきながら首を縦に振ろうとした瞬間――
「おいチャチャゼロ。私はそんなことをしてまで、お兄ちゃんと戦いたくないぞ」
まさかのエヴァンジェリンから援助がきた。
「私は私の力でお兄ちゃんを頷かせる。そんな醜い手など使わずにな」
「……」
「それにそんな手を使えば、友情に罅が生じる。私はそんな下らぬことで、お兄ちゃんとの絆を崩したくないのじゃ」
「エヴァンジェリン……」
何か少し感銘を受ける蓮。
まさかここまで自分のことを大切にしていてくれているとは思わなかったのだ。
「仕方ネェナ。今回ハ諦メルカ」
今回はとは、まだ諦めていない証拠だ。
また何をされるか分かったものではない。
故、蓮は無意識に笑みを浮かべながら、エヴァンジェリンに言う。言ってしまった。
「しょうがない。明日、お前と一戦交えてやるよエヴァンジェリン」
それを聞いたエヴァンジェリンは、
「ま、待て。私はまだ何も良い子になってないぞ」
当惑した面持ちで言う。
だが蓮は、
「いや、お前は既に良い子だったよ。だから約束通り、交えてやる」
エヴァンジェリンはポカンとした顔になり、どう答えて良いか分からなくなった。
「何だよ、嫌になったのか?」
「い、嫌なわけないじゃろ! ただ嬉しすぎて答え方が見つからなかったのじゃ!」
声を荒らげて言った。
老人口調になったのは、本当にノリなのだろうか?
「じゃあ明日、下の浜辺でな」
「うむ、分かった」
――こうして明日、藤井蓮とエヴァンジェリンが模擬戦を始めるのだった。