記憶喪失な雪風と勇者王(改訂中)   作:蒼妃

12 / 24
第7話

雪風 Side

 

 

初出撃から数日が経過しました。

久野島の防衛戦以降、夢幻諸島に深海棲艦が大規模侵攻してくることはなく、穏やかな日々が続いてしました。

 

あっ。でも、小規模な編隊と出くわすことはありましたよ ?

おかげで、哨戒任務に手が抜けないです。今も哨戒任務の真っ最中ですし……

 

 

「雪風さん !! ボーとしないでください !! 」

 

 

「あっ、ごめんなさい !! 」

 

 

危ない危ない……いくら、敵が駆逐級だけとはいえ、油断するのは良くないです。

駆逐艦の砲撃でも、直撃すれば大破しかねませんからね。

 

 

「てーっ !! 」

 

 

「撃ちます !! 」

 

 

12.7cm砲弾は、敵にヒットしましたが、直撃にはなりません。

でも、それでいいのです。私たちの目的は、敵の注意を引くことなんですから。

 

 

「もう一回。てーっ !! 」

 

 

今度は掠ることもなく避けられましたが、深海棲艦は突如爆発。

そのまま沈んでいってしまいました。1隻だけで来るからそうなるんです。

 

 

「ふぅ……戦闘終了ですね。」

 

 

「ええ。それにしても、その魚雷、便利ですね。」

 

 

「無理を言って、回して貰った甲斐がありましたよ~。」

 

 

背中に背負った四連装魚雷に装填されてるのは、61cm酸素魚雷ではありません。

先日、開発された61cm零式自動追尾酸素魚雷。半径100m内の敵の霊力を探知して、自動的に追尾してくれる画期的な魚雷です。

ついさっき、深海棲艦を倒したのもこの魚雷による雷撃です。

 

 

「それよりも初霜さん。電探の方はどうですか ? 」

 

 

「周囲に感なし。警戒線に入って来たのは、あの1隻だけみたいね。」

 

 

初出撃からわたしたちの装備もいくつか更新されました。わたしの場合は、搭載している魚雷が強化されましたが、初霜さんは索敵方面が強化されました。

22号水上電探G型。22号電探をGGGの技術者と妖精さんが改造したレーダーで、初霜さんに支給された新しい装備になります。

外見は同じですが、その性能は比べ物になりません。それに、使いやすいです。

 

 

「あっ、ちょっと待って。10時の方向に感あり、数は1つ。」

 

 

「距離は ? 」

 

 

「えっと……ここから25kmね。ゆっくり近づいてきてるけど、敵かしら ? 」

 

 

「うーん……何とも言えないですね。確認しに行きましょうか。」

 

 

「そうですね。一応、響さんに連絡をいれておきますね。」

 

 

「お願いします。」

 

 

響さんと潮さんは、基地を挟んだ島の反対側を哨戒しています。

ベイタワー基地がある夢幻島は、深海棲艦の勢力圏のすぐ近くにあるので、響さんと潮さんが哨戒している場所の方が深海棲艦の侵入が多いです。

私たちでは、まだ練度不足なので敵の侵入が少ない方の哨戒を任されています。

 

 

「雪風さん。響さんが確認してきて欲しいって。」

 

 

「分かりました。先導、お願いします。」

 

 

22号水上電探G型は高性能なのですが、まだ量産が進んでいません。

そのため、第77駆逐隊でこの電探を持ってるのは初霜さんだけ。

だから、索敵は初霜さん任せになっています。

 

 

「方位、速度変わらず。もうすぐ接触するわ。」

 

 

「うーん、それっぽいのは見えませんが……」

 

 

双眼鏡で覗いてみても見えるのは穏やかな海だけ。

木片とかは漂っていますが、電探に引っ掛かるようなモノは見受けられません。

ん ? 木片に何か引っ掛かってるような……

 

 

「―――― っ!! 初霜さん、電探に引っ掛かったのは遭難者です !! 」

 

 

「分かったわ !! 第5戦速 !! 」

 

 

航行速度を巡航速度から30ノットに引き上げます。

それに伴って燃料の消費も増えますが、救助のための必要経費として大目に見て貰いましょう。

 

 

 

・・・

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「初霜さん !! 見つけました !! 」

 

 

「艦娘……どうして、こんなにボロボロの状態で……」

 

 

丸太に掴まっていたのは、なんと艦娘さんでした。

ですが、身に纏っている艤装はボロボロで衣服もかなり焼けてしまっています。

飛行甲板らしき艤装の残骸が見えるので空母の方だと思いますが……

 

 

「この様子だと、主機もやられてるみたいね。」

 

 

「急いで基地まで運びましょう !! 」

 

 

「ええ。―――っ!! 電探に感あり !! 数は5 !! 距離は10000 !! 」

 

 

―――っ!! なんてタイミングの悪い時に……。

今まで22号水上電探G型に反応がありませんでした。つまり、敵は自然発生した深海棲艦。艦種は分かりませんが、駆逐級5隻でも曳航しながら逃げるのは難しいし、動けない艦娘を守りながら戦うのも難しいです。

 

 

「初霜さん !! そっちから支えてください !! 」

 

 

「分かったわ !! 」

 

 

1人が曳航して、もう1人が敵に対処するのが理想なんですが、この体格差で1人で曳航するのは無理があります。かと言って、この傷付いた艦娘さんを置いていくことはできません !!

 

 

「きゃっ !? 」

 

 

「初霜さん !! 」

 

 

敵の攻撃が早すぎます !! それに、あの水柱……もしかして、戦艦級が ?

私の予想が当たっているなら、本当に運がないです!!

 

 

「っ !! また……」

 

 

戦艦の砲撃がまるで雨のように降ってきます。

その内の一発が真っ直ぐわたしたちの方へと向かってきました。

 

 

「プロテクトシェード !! 」

 

 

砲弾が炸裂する寸前、初霜さんが張ってくれた防御膜が守ってくれました。

防御に特化したGウェポン―――〈プロテクトシェード〉。

原理は知りませんが、戦艦級の砲撃も無力化する防御壁を作り出すそうです。

但し、張れる範囲が狭いのと移動しながら使えないのが欠点です。。

 

 

「助かりました、初霜さん。」

 

 

「守護が私の役目ですから。それより、どうします ? 」

 

 

初霜さんは防御膜を張りながら、尋ねてきました。

<プロテクトシェード>の防御膜はそう簡単に破れることはありませんが、このままだとわたしたちも動くことができません。

その間に周囲を囲まれたら、一環の終わりですし……賭けに出ますか。

 

 

「初霜さん、守りは任せます。雪風は敵の相手をしてきます。」

 

 

戦艦級深海棲艦が居る以上、至近弾1発で大破。

砲弾の雨を無傷でくぐり抜ける自信はあんまりありませんが、何とかしましょう。

 

 

「刀身展開。」

 

 

わたしの音声に従って、Gウェポン―<ガジェットシザーズ>が形を変えます。

プラズマと呼ばれる物質によって、刀身が形作られて、まるで死神が持っているような大鎌のような形状になりました。

元のハルバート形態よりも堅い装甲を切り裂くことができる形態です。

 

 

「気を付けてくださいね。 」

 

 

「了解です !! 」

 

 

足に霊力を集中して……一気に駆け抜けます !!

攻撃がまだ初霜さんに集中してる間に近づきますよ !!

 

 

(見えた !! )

 

 

敵は、戦艦ル級1隻に重巡リ級1隻、軽巡ホ級1隻、駆逐イ級の後期型が2隻。

ル級はelite個体ですが、他は通常の個体のようですね。

これならわたし1人でも何とかできそうです。

 

 

「(狙いは、戦艦ル級 !! ) いっけぇ !! 」

 

 

背中の魚雷発射管を戦艦ル級に向けて、先制雷撃です !!

残ってた魚雷を全部使い切ったことになりますが、これで少なくとも戦艦ル級は倒せるはずです。初霜さんに向けて砲撃を行っていた戦艦ル級の足元に魚雷がたどり着くと同時に大爆発を引き起こしました。

 

 

「仕留められませんでしたか……」

 

 

煙が張れると、戦艦ル級は健在でした。ですが、両手の砲はボロボロで使えそうにありません。

 

 

「てぇいっ !! 」

 

 

 

一番近くに居た駆逐イ級に向かって、大鎌を振り下ろします。

黒い装甲をバターのように切り裂いた後、そのまま軽巡ホ級の方へ向かいます。

 

 

「これで2隻目 !! 」

 

 

駆逐イ級と同じ要領で軽巡ホ級を撃沈。

残るは、重巡リ級だけ。ちょっと離れた位置に居ますが、その距離は〈ガジェットシザーズ〉の射程範囲の中ですよ !!

 

 

「それぇ !! 」

 

 

〈ガジェットシザーズ〉の刃はブーメランみたいに飛ばせるんです。

さすがに12.7cm連装砲より射程は短いですが、その反面、威力は戦艦級の火力にも匹敵します。まあ、当てるのが難しいのが一番の欠点ですが。

 

 

「あとは、大破したル級ですね。」

 

 

主砲を損傷した戦艦ル級は戦闘海域から離れようとしていました。

ですが、最初の雷撃の影響か、航行速度はかなり落ち込んでいるみたいです。

 

 

「形態変化、火砲。」

 

 

わたしの命令に従って、〈ガジェットシザーズ〉が大きく姿を変えます。

ハルバート、斧槍と呼ばれる形態から大きい口径を携えた一本の火砲へ。

 

 

「えっと……マガジンをセットして、ここをこうして……」

 

 

実を言うと、この形態を使うのは今日が初めてなんですよね。

一応、説明書には目を通しましたが、実際に使ってみると、すんなりセットできないんですね~。――――っと、これで準備OKです。

 

 

「当たってください !! 」

 

 

引き金を引いて、戦艦ル級に向けて発砲します。

結果として戦艦ル級は撃沈できましたが、専用の砲弾を10発も使ってしまいました。

うぅ・・・・・・やっぱり狙撃の練習が必要です。

 

 

 

 

■     ■    ■    ■    ■

 

 

 

―――GGGベイタワー基地 食堂―――

 

 

「――――っていうことがあったんですよ~」

 

 

「それは災難だったね。」

 

 

自然発生した深海棲艦を撃滅した後、さしたる問題もなく、基地に帰投することができました。無駄撃ちしたせいで報告書の枚数が増えましたが……。

救助した艦娘は雷牙博士に預けて、今はお昼の時間です。

 

 

「それにしても、どうして空母の方があんなボロボロの状態で……」

 

 

「不思議ですよね。大きな海戦でもあったんでしょうか ? 」

 

 

「それなら良いんだけどね……」

 

 

「何か、含みのある言い方ですね。」

 

 

私がそう言うと、響さんがフォークを置きました。

 

 

「雪風や初霜は知らないかもしれないけど、GGGには3種類の艦娘が居る。

 GGGの工廠で建造された艦娘、傷付いた所を救助された艦娘。

 そして……人によって心に傷を負った艦娘。」

 

 

「心に傷を負った…… ? どういうことですか ? 」

 

 

「そのままの意味だよ。そして、GGG(ここ)には、そんな艦娘が何人も居る。私のように、ね。」

 

 

「響さん……こんなことを聞くのも失礼かもしれませんが、響さんはどうしてGGGに ? 」

 

 

「…………あれは、今から10カ月程前のことだ。」

 

 

 




2016/5/15 改訂

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。