記憶喪失な雪風と勇者王(改訂中)   作:蒼妃

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第9話

―鎮守府。

それは深海棲艦に対抗するため、各地に建てられた軍事施設である。

そこを拠点として、艦娘は提督の指揮の下、深海棲艦と戦っている。

鎮守府の上には、大本営という組織が存在しており、その機関が鎮守府を取りまとめているのだ。

 

 

本土にある鎮守府の1つ、第5鎮守府。

 

 

そこは四方の内、三方向を山に囲まれている天然の要塞とも言える場所に建設された鎮守府であり、人格者として知られる提督が担当している。

また、民間人と艦娘の関係を重視する傾向にあるせいか、民間人との衝突もなく、平和なのが特徴と言える。

 

 

そんな第5鎮守府の一角では……

 

 

「ああもう !! アンタたちはどうしてこんな無茶な使い方するのよ !! 」

 

 

紫っぽい髪を一本に纏めた少女が怒声を浴びせていた。

怒声を浴びせる対象は、目の前で正座している活発そうな少女と無表情な少女。

 

 

「不知火が悪いのよ !! 私が大事に取っておいたシュークリームを……」

 

 

「いえ、悪いのは陽炎です。大事なモノなら、さっさと食べてしまうべきです。」

 

 

「だからって、人の物を食べるのは常識外れでしょうが !! 」

 

 

「あれは陽炎に落ち度があります。名前を明記しておかなかったのですから。」

 

 

「ふんっ !! 」

 

 

言い争う2人―――陽炎と不知火―――に向かって振り下ろされる拳骨。

鐘を突くような音が聞こえてきそうな一撃を受けた2人は、その痛みに悶える。

 

 

「たくっ……怒ってるのもバカらしくなったわ。

 長官に配置替えしてもらおうか……」

 

 

「それは止めて欲しいわね。この2人を私1人で面倒見ないといけないじゃない。」

 

 

第5鎮守府の一角に集まっていた3人組に新しく2人の少女が合流する。

1人は灰色の髪を片側で一本に結った勝気な目つきの少女。もう1人は黒いセミロングの髪で物静か印象を抱かせる少女だ。

 

 

「ああ、帰ってきてたのね。霞、霰」

 

 

「ええ。お説教はもう終わり ? 」

 

 

「怒る気も失せたわ。」

 

 

そう言って、ポニーテールの少女はため息を吐く。

 

 

「曙……疲れてる…… ? 」

 

 

「そこに居るバカ2人のせいで仕事が増えたからね。」

 

 

テントに中から道具箱を引っ張り出して、陽炎と不知火の艤装を開ける曙。

 

本来なら、艤装の整備は専門の妖精や整備員が行うのだが、彼女ら――GGG諜報部隊には艤装のメンテナンス程度で夢幻島にあるベイタワー基地に戻っている余裕はない。

そこでGGG諜報部隊員の艤装メンテナンスを担当するのが綾波型駆逐艦の3番艦、曙である。彼女は、GGGの整備員や妖精から手解きを受けて、艤装のメンテナンスからGウェポンの整備までこなすことができる。

 

 

「ボルフォッグも悪いわね。ちょっと後回しにさせてもらうわよ。」

 

 

『構いません。今回の案件、主だって動くのは貴方たちですから。』

 

 

「それなのに、今回みたいな騒動を起こしたバカ2人がそこに居るのよね……」

 

 

「手伝う。」

 

 

「ありがと、霰。そっちのスパナ取って。」

 

 

「ん。」

 

 

「それにしても、何も情報が入ってこないわね。」

 

 

霞は鎮守府近くの街で買って来た飲み物に口を付けながら、そう言った。

 

鎮守府統括組織――大本営が秘密裏に行っている非人道的プロジェクト。

その情報を掴んでから2週間程度経っているが、一向に研究所の所在を突き止めることが出来ず、困り果てていた。ベイタワー基地の方でも突入準備は整いつつあるのだが、研究所の所在が分からない限り、どうすることもできない。

 

 

「川内さんと長月の2人から報告もないから、あっちも上手くいってないみたいね。」

 

 

「研究所と、鎮守府の間に……連絡があれば一発。」

 

 

「その機会が中々巡ってこないから困ってるのよ。」

 

 

「まあ、待つしかないわね。―――という訳で、ちょっと街に降りてくるわ。」

 

 

痛みから復活した陽炎が言う。

 

 

「行くならついでに長月も探してきなさい。」

 

 

「はいはーい。不知火も行く ? 」

 

 

「いえ、不知火は夕食の準備に取り掛かります。」

 

 

「そっか。今日は不知火が当番だったわね。」

 

 

本来、艦娘にとって人間と同じ食事は嗜好品になる。基本的には燃料があれば、空腹は解消でき、弾薬があれば深海棲艦と戦うことができる。

しかし、人間と艦娘の格差を広げることを良しとしない長官の方針でGGGでは艦娘も人間と同じように食事を摂る。その習慣は、基地の外に出ても変わらず、GGG諜報部隊では食事当番を決めて毎日、食べているのだ。

 

 

閑話休題

 

 

「じゃあ、行ってくる―――って、あら ? 」

 

 

街へ降りようとした陽炎の視界に複数の人影が映る。

1人は、緑色の長髪に黒い制服を着た少女――GGG諜報部隊の一員、睦月型駆逐艦 長月。もう1人は白い装束に身を包み、腰に軍刀を携えた長身の男性だ。

その背後には、黒いフードで口元以外を隠した2人組が居る。

 

 

「住吉提督じゃない。どうしたの ? 」

 

 

「君の所の迷子を連れて来たのと……」

 

 

「ちょっと待て !! わたしは別に迷ってなどいない !! 」

 

 

「ああ、帰りが遅いと思ったら迷子になってたのね。」

 

 

「待て、陽炎 !! わたしは本当に迷子になってなどっ !! 」

 

 

「はいはい。それでもう1つの要件って ? 」

 

 

同僚の言い訳を無視して、陽炎が提督に話の続きを促す。

 

 

彼、住吉 神功は第5鎮守府の提督を務めている。そして、彼は満潮の前提督だ。

その繋がりを利用して、GGGと第5鎮守府は裏で同盟を締結し、諜報部隊の活動拠点として場所を提供してもらう代わりに、新米艦娘の教導を引き受けたりしている。

しかし、表向きには部外者を装う必要があるため、接触する機会は最低限に抑えている。この場所にこうやって提督が訪れるのは、珍しいことなのだが……

 

 

「実はこの2人を預けたい。2人とも、フードを取れ。」

 

 

「「……はい。」」

 

 

抑揚のない声で返事をする2人は、提督の指示に従ってフードを取り去る。

フードの下から出てきたのは、陽炎や不知火よりも幼い顔立ち。そして、栗色の髪と灰色の髪が露わになる。

 

 

「朝雲、姉さん…… ? 」

 

 

「それに、山雲じゃない。でも……」

 

 

2人に反応したのは、姉妹艦である霞と霰だった。

しかし、霞と霰の2人は姉の2人の様子に戸惑っていた。いや、彼女らの様子には諜報部隊の面々も同じような反応を示していた。

 

 

「「…………」」

 

 

無言で突っ立っている朝雲と山雲。

その瞳にはハイライトはなく、一切の活力が宿っていない人形のような瞳だった。

明らかに異常な状態の2人を見て、陽炎は視線で続きを促す。

 

 

「この2人は、うちの子が街中の路地で見つけて保護したんだ。

 所属を聞いても答えてくれないけど、僕の指示には従ってくれる。」

 

 

「…………それで ? 」

 

 

「これは僕の推測……いや、限りなく正解に近い推測なんだけど、2人は所属していた鎮守府で提督の命令に従う人形に調整されたんだと思う。2人とも身体に夥しい数の傷痕があったからね。」

 

 

「その鎮守府の場所は ? 」

 

 

陽炎の短い質問には、明確な怒りの感情が籠められていた。

いや、彼女だけではなく、この場に居る艦娘たち全員が強い怒りを抱いている

冷静なのは、ボルフォッグぐらいだろう。

 

 

「分からない。この手の輩は巧妙に悪事を隠すからね。」

 

 

「…………分かった。引き受けるわ。GGGには、姉妹艦も大勢いるしね。」

 

 

「頼んだ。2人が所属していた鎮守府についてはこっちでも探ってみる。」

 

 

「くれぐれも無茶はしないように。満潮が悲しむよ ? 」

 

 

「ああ、分かった。」

 

 

そう言って、住吉提督は自分の鎮守府へと戻って行った。

 

 

「さて、と。こうなると一度、ベイタワー基地に戻るしかないかな ? 」

 

 

『いえ。どうやら、その余裕はないようです。』

 

 

「どういうことよ ? 」

 

 

『先ほど川内隊員から連絡がありました。研究所の座標の特定に成功した、と。』

 

 

ボルフォッグを通じてもたらされた報告に全員が反応する。

 

 

「曙 !! 私と不知火の艤装は !? 」

 

 

「戦闘なら問題ないわよ。」

 

 

「私と霰は此処で待機しているわ。姉2人を放置しておく訳にはいかないし。」

 

 

「OK !! 不知火、先行するわよ !! 」

 

 

「はい.。」

 

 

陽炎と不知火は、曙が簡易メンテを行った艤装を背負い、黒と白のヘリコプターとバイクにそれぞれ乗る。

 

 

『川内隊員からの追加報告です。研究所から脱走した被験体が居るそうです。』

 

 

「じゃあ、取り合えずその子を保護するのが先ね。」

 

 

黒と白の大型バイク型マシン――ガンドーベルに跨った陽炎は、転送された座標を頼りにマシンを発進させる。そして、それに続くようにヘリコプター型のマシン――ガングルーに乗り込んだ不知火も飛び立った。

 

 

『私たちも急ぎましょう。長月隊員、乗ってください。』

 

 

「ああ。」

 

 

同じように艤装を身に付けた長月が乗り込むと、ボルフォッグも2人を追い掛けるのだった。

 

 

 

 




改訂前と大幅に変更。

諜報部のメンバーがあまりにも少ないと感じたので、増員。
ちなみに、メンバー構成は「陽炎、抜錨します。」からちょっと弄った感じ。

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