記憶喪失な雪風と勇者王(改訂中)   作:蒼妃

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第10話 

Another Side

 

 

―――日本本土 某所―――

 

 

 

「はぁっ、はあっ、はあっ !! 」

 

 

広葉樹林が生い茂る森の中。

人の手で整理されることもなく、草木が自由に茂る獣道を駆け抜ける1つの影があった。

もうすぐ日が暮れそうな時間帯に森の中を走るのは、十代前半の幼い少女だ。

そのくすんだ銀色の髪は汗で肌に張り付き、むき出しの足にはいくつもの切り傷ができている。

 

 

「きゃっ……」

 

 

可愛らしい悲鳴と共に転んでしまう少女。

足元を見ると、地面から露出していた樹の根っこがあった。

 

 

「はぁっ……はぁっ……いたっ !! 」

 

 

立ち上がろうとすると、少女の左足に痛みが奔る。

転んだ時に堅い地面に擦れてしまい、傷口から出血してしまっていた。

応急処置をしようと衣服の裾に手を掛けた時、後方から犬の鳴き声が微かに聞こえてきた。

 

 

「まだ、追ってくるのね……」

 

 

少女は小さく舌打ちすると、応急処置を中止。すぐに立ちあがって、再度走り始める。

 

 

「絶対に……逃げ切ってやるんだから !! 」

 

 

そう呟きながら、少女は逃亡を続けるのだった。

 

 

 

■    ■    ■    ■    ■

 

 

 

「とんでもない山奥に研究所を作ってるわね……」

 

 

整備されていない山道を走りながら陽炎は呟いた。

周囲には、背の高い木々が鬱蒼と生い茂っており、人の手が入り込んでいないため、まともに走行できるのは獣たちが作った獣道ぐらいだ。

 

 

「不知火 !! そっちはどう !? 」

 

 

『見つけました。座標から考えて間違いないでしょう。』

 

 

「研究所の様子は ? 」

 

 

『慌てているようでね。こちらの存在にも気付かないくらいに。』

 

 

「――――って、ことは脱走者はまだ捕まっていないわね。」

 

 

そう呟いて、陽炎は一度バイクを止める。

太陽はすでに沈み始めており、東の空には月が昇っているのがはっきり分かる。

鬱蒼と生い茂る木々のせいで、照明が無いと周囲の様子がはっきりと分からない。

 

 

「先に保護するのが先決ね。」

 

 

懐中電灯を取り出し、周囲を照らす陽炎。

 

 

(何かしらの手がかりとか無いかしらね~……およ ? )

 

 

陽炎が見つけたのは、一頭のドーベルマンの死体だった。

脳天から血を流していることから、頭に何かしらの攻撃を受けてやられてしまったのだろう。そして、その死体の近くには硬そうな木の枝が転がっていた。

 

 

「野生のドーベルマン……じゃないわね。首輪も付いてるし。

 ―――ということは、少なくともこの先に行ってる訳か。」

 

 

陽炎は、このドーベルマンが脱走者を追い掛けていたと決め付け、再びバイクを走らせる。

 

 

「不知火。研究所の方に変化は ? 」

 

 

『特にありません。陽炎の方は何か見つけましたか ? 』

 

 

「ええ。アンタはそのまま研究所を見張ってて。」

 

 

『了解しました。』

 

 

「さてと。ここは、これの出番かな? 」

 

 

そう呟いて、陽炎が装着したのは大型のヘッドマウントディスプレイ。

 

 

「おっ、見える見える。あっちの方向に行ったのは間違いなさそうね。」

 

 

陽炎が使っている装置は、『霊力センサー』という物だ。

霊力は使用すると、残り香のようにその場に独特の波長が残される特徴がある。

『霊力センサー』はその波長を読みとることができる装置であり、GGG諜報部しか保有していない。

 

 

「私が到着するまで捕まらないでよね?」

 

 

そう呟き、陽炎はバイクを発進させるのだった。

 

 

________________________________________

 

 

そして、陽炎が脱走した被験者を確保するために動いている頃。

ボルフォッグから研究所発見の報告を受けたGGGも行動を開始していた。

GGGベイタワー基地メインオーダールームには、第8駆逐隊の面々が集められ、長官が現状の説明と今後の方針について話していた。

 

 

「君たち第8駆逐隊は諜報部隊と協力して、被験者の救助及び研究所の破壊を任せたい。」

 

 

「研究所の破壊、ね。だけど、人的被害はゼロに。難しい任務だわ。」

 

 

「でも、できなくはないわね~。」

 

 

「長官の命令とあれば、この朝潮、全力で取り組みます。」

 

 

「うーん……今回は大潮の出番はなさそうでうね。」

 

 

「それから建物内の戦闘もあるから、皐月も連れて行くべきね。」

 

 

そう言って、満潮は右耳に装着したインカムを操作。

数回のコールの後、呼び出した人物が通信に応じる。

 

 

『ふわぁ……なんだよ、満潮。』

 

 

「ちょっと緊急の任務が入ったの。協力しなさい。」

 

 

『ええー。僕、今日は非番なのに』

 

 

「……そう。手伝ってくれたら、何か奢ってあげようと思ったけど仕方な『3分で用意するから待ってて !! 』……チョロイわね。」

 

 

「長官、俺も同行します。」

 

 

同行者に凱が立候補する。

長官も特に拒否する理由がなかったので、彼の同行を承認した。

 

 

「では、全員装備を整えて第2格納庫へ集合するように !!

 それから、満潮くん。残念ながら、特別艤装はまだ修理中なんだ。」

 

 

「深海棲艦を相手にする訳じゃないし、大丈夫よ。」

 

 

そう言って、満潮は第8駆逐隊の面々と凱を連れて、第2格納庫へ向かった。

 

 

________________________________________

 

~GGG第2格納庫~

 

 

一方、第2格納庫の方では着々と出発準備が整えられていた。

第2格納庫は海を埋め立てた建設された施設であり、外部からは島の一部に見えるようにカモフラージュされているのが特徴である。

その内部にあったのは、黒いSL機関車とその列車と思われる乗り物だ。その機体の周りでは、整備員がチェックを行っていたり、GGG隊員が荷物を運びこんでいる。

そして、機関車の操縦席には夕張が座り、発進の時を静かに待っていた。

 

 

「GSライド、正常稼働。ウルテクエンジン、問題なし。」

 

 

モニターに表示される情報に目を通し、各部分の異常の有無を確認する夕張。

整備部の面々や研究開発部の面々がこの日のために入念なメンテナンスを行っていたので、目立った異常は報告されない。

 

 

「良し、異常なし。ティエラ、そっちも問題なし ? 」

 

 

夕張の言葉に反応して、モニターが展開される。

その中には、黒い髪の少女が映し出されていた。

 

 

『はい。各列車とのリンクも問題ありません。』

 

 

「1号車は私が操縦するけど、それ以外はティエラ任せだからね。ヘマしないでよ ? 」

 

 

『分かってます。あの人の顔に泥を塗る訳にはいきませんから。』

 

 

「なら、良し。乗組員の方々、全員揃ってますか ? 」

 

 

『全員乗り込んだわよ。いつ出発しても大丈夫よ。』

 

 

インカムから艦娘たちのリーダー、満潮からの返答が聞こえてくる。

さらに、ティエラと呼ばれた少女の隣に大河長官の姿が映し出される。

 

 

『夕張くん。聞こえるか ? 』

 

 

「はい。」

 

 

『作戦の確認をしておこう。今回の作戦は、人造艦娘製造計画の研究所の破壊、及び被験者の救助が目標だ。先行している諜報部と協力して、作戦にあたってくれ。』

 

 

「分かりました。」

 

 

『うむ !! Gライナー、出撃承認 !! 作戦行動を開始せよ !! 』

 

 

「了解 !! Gライナー、発進します !! 」

 

 

Gライナー専用の出撃ゲートが開き、固定具が解除される。

同時にウルテクエンジンが稼働し、黒い機体がレールに沿って進み始める。

夕張が操縦する1号車を先頭に全部で5台の列車が連結し、目的地に向かって発進した。

 

 

 

Gライナー。正式名称は、多目的多機能輸送列車ガジェット・ライナー。

外見はSL機関車を模しており、動力源にはGSライドを用いている他、推進機関としてウルテクエンジンを採用することで水上航行、飛行を可能にしている。

列車を入れ替えることで様々な目的に対応することができるのが最大の特徴であり、どんな場所でも着陸することができる。また、特殊な金属を使う事でレーダーに感知されない。

 

閑話休題

 

 

「熱光学迷彩、展開。」

 

 

夕焼けの空を飛行するGライナーの姿が周囲の風景と一体化するように消える。

機動部隊を乗せた列車は諜報部隊が待つ研究所へと向かって、車輪を回すのだった。

 

 

 

■     ■     ■     ■     ■

 

 

 

Gライナーが目的地へ向かっている頃、人造艦娘製造計画の研究所から逃走した少女は、未だに追手を振り切れず、森の中を駆けていた。

 

 

「しつこい…… !! 」

 

 

少女を追い掛けるのは、ドーベルマン5頭。

研究所で施された処置のせいで身体能力は同等ぐらいになっているが、体力の方はそうはいかない。現に少女の呼吸が乱れている。

 

 

「これでもくらえ !! 」

 

 

少女は、道端に落ちていた小石を拾って投擲。

ちょうど真ん中を走っていたドベールマンの額にヒットするが、残りの4頭が追跡を続ける。

そして、鬼ごっこを続けている間に少女は森を抜けることに成功するが、森を抜けた先は逃げ場のない断崖絶壁になっていた。

高さは目測で10m以上あり、崖の下は木々が密集している。一方、森の出口はドーベルマンによって塞がれており、少女に逃げ場はない。

 

 

「…………」

 

 

チラッ、と崖の下を見る少女。

いくら肉体が強化されていても、清水の舞台と同じか、それ以上の高さから飛び降りれば、無傷では済まないだろう。しかし、追手から逃げ切ることはできる。

 

 

「ここで捕まったら、申し訳ないよね。」

 

 

少女の頭に浮かんだのは、脱走に協力してくれた2人の姿。

失敗すれば酷い目に合うことは間違いないのに、少女を信頼して手助けしてくれた。

ここで捕まってしまうのは、覚悟を決めた2人に顔向けできない、と少女は思った。

 

 

「アーイ……キャン……フラーイ !! 」

 

 

覚悟を決めて、崖から勢いよく飛び降りる。

重力に引き寄せられて、速度を加速させながら地面に向かっていく少女の身体。

襲いかかってくるであろう激痛に備えて、目を瞑る―――が、その時はいつまで経ってもやってこなかった。

 

 

「……… ? 」

 

 

瞼を開けると、少女の身体は木々の数m上で静止していた。

 

 

「追手から逃げ切るためとはいえ、思い切ったことするわねぇ。」

 

 

少女の手を掴んでいたのは、ガンドーベルを操る陽炎だった。

見事に飛び降りた少女をキャッチした陽炎は、ゆっくりと高度を下げて着陸する。

 

 

「うわぁ、傷だらけね。ちょっと待ってなさい。」

 

 

そう言って、陽炎はガングル―から救急箱を取り出して、少女の応急手当てに取り掛かる。

 

 

「あ、あのっ !! 貴女は……」

 

 

「GGG諜報部の陽炎よ。安心して、研究所の関係者とかじゃないから。」

 

 

「GGG……?」

 

 

「簡単に言えば、正義の秘密結社よ。もちろん、『軍』とも無関係だから。」

 

 

「そんな組織がどうして此処に……」

 

 

「確か、人造艦娘製造計画だっけ? それをぶち壊すためにね。

 ほい、これで手当て終わり。消毒は済ませたから化膿することはないわ。」

 

 

「あ、ありがとございます。」

 

 

「どういたしまして♪ ――――って、ヤバッ!! もうすぐ作戦開始じゃない!!」

 

 

現在時刻を確認した陽炎は、慌てて少女をバイクの後部座席に乗せ、ガンドーベルを発進させる。

 

 

「運転しながらで悪いわね。私は陽炎、アンタの名前は?」

 

 

「あっ……と、土佐です。加賀戦艦2番艦、土佐の転生体です。」

 

 

「………はい?」

 

 

 

 




タグに「オリジナル艦娘」を追加しました。

賛否両論があると思いますが、未完成艦の艦娘を登場させます。
登場が確定しているのは、未完成艦の土佐、天城、伊吹。単純に姉妹艦との絡みを書いてみたいというのが一点とこの3隻はある程度船体が完成していたので採用しました。
今後登場するオリジナル艦娘は、改大鳳型や改大和型のような起工すらしていない未完成艦ではなく、ある程度船体が完成していた艦に限定します連合国の艦とかは未定です。出すとしても米国の艦艇(ガオガイガー勢には、米国出身が居るから)

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