記憶喪失な雪風と勇者王(改訂中)   作:蒼妃

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第12話

―――GGGベイタワー基地 秘匿区画―――

 

 

GGGベイタワー基地には、GGG隊員のみが立ち入ることを許される秘匿区画が存在する。

特殊な方法でのアクセスしかないため、艦娘も秘匿区画のことは知らず、知っているのは、長官の秘書艦である大鳳と海上機動部隊の隊長である満潮だけだ。

その秘匿区画をリフトで下っていくのは、GGGを纏める大河 幸太郎長官である。

長官を乗せたリフトは、秘匿区画最奥へと導く。

 

 

秘匿区画の最奥は、巨大な工場のようになっており、大きなハンガーでは赤、青、緑、黄色、ピンク、黒のロボットやモグラ、イルカ、翼竜を模したロボットが整備を受けている。

そして、その中央では、GGGの協力者である科学者―ソールがコンピューターと睨めっこしていた。

 

 

「ソールくん。人造艦娘製造計画の被験者は無事に救助したよ。」

 

 

「そうか、良かった―――っていう訳ではなさそうだな。何があった ? 」

 

 

「…………研究所で艦娘の遺体が確認された。しかも、かなり大勢の。」

 

 

発見したのは、凱と朝潮。

そこに廃棄されていた艦娘の遺体に共通していたのは―――

 

 

「そして、その遺体は全て霊水晶(セフィラ)を抜かれていた。違う ? 」

 

 

「知っていたのかい ? 」

 

 

霊水晶(セフィラ)の製造と管理は妖精たちが行っている。

 だから、人間たちが自由に使える物は存在しない。なら、艦娘から調達しかない。」

 

 

そう言いながら、ソールは机を思いっきり叩いた。

 

 

「同胞が裏切っていた方が、どれだけ気が楽だったことか…… !! 」

 

 

艦娘を艦娘たらしめる霊水晶(セフィラ)は、ソールの同胞である妖精しか作れない。

また、艦娘から霊水晶(セフィラ)を取り出すと、艦娘は普通の少女に戻ることができる。

大本営では、それを“解体”とよび、“建造”と同じように妖精にしかできない。

 

 

では、妖精の手を借りずに艦娘から霊水晶(セフィラ)を取り出すとどうなるのか ?

艦娘から無理にそれを取り出した場合、取り出された艦娘は死んでしまうのだ。

ボルフォッグが発見した艦娘の遺体は、無理に霊水晶(セフィラ)を取り出された結果なのだ。

 

 

「ああ、すまない。取り乱してしまった。

 被験者の受け入れ準備は整っているから安心して欲しい。」

 

 

「……ソールくん。1つ聞いてもいいかな ? 」

 

 

「なんだい ? 」

 

 

「数年間、君に接してよく分かったことだが、君は犠牲の上に何かを得ることを嫌う。

 だからこそ、私は不思議なのだ。何故、君があの再生計画に賛成したのかが。」

 

 

「……まあ、そう捉えるのも仕方ないか。何せ、ソール11遊星主の中枢とも言える物質復元装置を作ったのは、他でもない私なんだから。」

 

 

ソールは苦笑いを浮かべながら呟いた。

 

ソール11遊星主というのは、かつてGGGと敵対した組織である。

組織と言っても厳密にいえばプログラムであり、今は滅びてしまった“三重連太陽系”という太陽系の再生と守護を目的としていた。

しかし、その目的を達成するためには、GGGの母星が存在する宇宙が犠牲になってしまうため、GGGと敵対することになった。

 

その中枢は、“パスキューマシン”と呼ばれる物質復元装置であり、それを作り上げたのが目の前に居るソールなのだ。

 

 

「長官。そもそもパスキューマシンを作った目的は太陽系の再生なんかじゃない。

 パスキューマシンの役目は本来、重要な文化財のバックアップ。」

 

 

「バックアップ ? 」

 

 

「白の星にもロストテクノロジーと呼ばれる産物は存在した。

 パスキューマシンはそういう物が失われないようにするための物。

 現物が無くなれば、ロストテクノロジーを解明することもできなくなるから。」

 

 

「それがなぜ三重連太陽系の復元に……」

 

 

「すべては赤の星の指導者、アベルとそれに賛同する奴らのせい。」

 

 

「 ? 」

 

 

三重連太陽系の事情にそれほど詳しくない大河長官は疑問符を浮かべた。

 

 

「当時、三重連太陽系は寿命を迎えつつあった。

 そこで緑の星の指導者カインと赤の星の指導者アベルの意見が対立した。

 カインは新しい太陽系の移住を提案し、アベルはソール11遊星主を提案した。」

 

 

ソールの昔話は続く。

 

 

カインとアベルの主張が食い違い、11の遊星はカインの派閥とアベルの派閥に分けられた。

しかし、時が経つにつれてアベルが提唱した三重連太陽系再生計画は無理が生じた。

計画の要になる物質復元装置を作成することができなかったからだ。

 

だがしかし、アベルがその程度で諦める筈がなく、アベルはソールが作り上げたパスキューマシンに目を付けた。

一方で、ソールも悪用されることも考え、セキュリティーとしてパスキューマシンの管制人格を取り付けた。ソールの思考パターンを模して作り上げたその人格は、ピサ・ソールと名付けられた。

 

 

「それで安心していた部分もあったんだろうね。

 ある日。パスキューマシンが何者かによって盗み出されたのさ。」

 

 

「まさか…………」

 

 

「十中八九、アベルとそれに賛同する奴の仕業だろうね。

 アベルは目的のためなら、手段を選ばないような奴だったし。」

 

 

「その後はどうしたんだい ? 」

 

 

「もちろん、カインと一緒に抗議したよ。でも、アイツは知らぬ存ぜぬの一点張り。

 そして、ソール11遊星主の計画を止めることができないと悟った私とカインは……」

 

 

「ソール11遊星主に対抗するためのアンチプログラムを作った。」

 

 

「そう、それこそがジェネシックガオガイガー。

 だけど、ソール11遊星主が本格稼働する前に紫の星でZマスタープログラムが暴走。

 その混乱に乗じてパスキューマシンを回収するつもりだったんだけど、ね。」

 

 

「何かあったのかい ? 」

 

 

「機械昇華の速度が予想より早くて、回収する余裕がなかったのよ。

 これでも私は白の星の指導者で住人を守る義務があったからね。」

 

 

「そして、この星にやって来たのか……」

 

 

「そういうこと。さて、長官の疑問は晴れた ? 」

 

 

「ああ。すまないね、こんなタイミングに。」

 

 

「別に構わないよ。Gライナーの帰還予定時間まで十分時間があるから。」

 

 

「では、私はこれで失礼するよ。」

 

 

そう言って、大河長官はソールの城から退室しようとする。

その直前、ソールは思い出したかのように彼を引きとめた。

 

 

「ずっとお礼を言ってなかったけど、娘を止めてくれてありがとう。

 多分、あの子もアベルの道具にされて悲しんでいた筈だから。」

 

 

パスキューマシンの管制人格のピサ・ソール。

ソールの人格を模しているため、普通はソールと同じようにソール11遊星主に賛成する筈がないのだが、アベルによってプログラムが書き換えられ、彼女に従順な存在に作り変えられてしまったのだ。

 

 

「ソールくん。お礼は、彼らに言ってあげてくれ。

 君の娘を止めたのは、我らが勇者たちだからな。」

 

 

大河長官は大きなハンガーで眠っているロボット群を見詰めながら呟いた。

 

 

「…………ああ、そうだったね。早く目覚めて欲しいものだ。」

 

 

 

 

■    ■    ■     ■     ■

 

 

 

その頃、雷牙博士の研究室にて。

 

 

「どうじゃ ? その左目には慣れたかの ? 」

 

 

「はい。」

 

 

雷牙博士と面会しているのは、緑色の着物を身に纏った少女。

髪は紺のセミロングで日の丸を意識した鉢巻を巻いており、瞳は赤く垂れ目。

どことなくおっとりした雰囲気を纏っているが、その瞳は確固たる意志が感じられる。

 

 

「ほれ、これが改修した艤装じゃ。

 飛行甲板には開放型ミラーカタパルト、主機も改良して29ノットは出せるぞ。」

 

 

「ありがとうございます、雷牙博士。」

 

 

お礼を言って、少女は改修された艤装を受け取り、装着する。

外見上は大した変化はなく、変化した所と言えば、飛行甲板に開放型ミラーカタパルトが搭載されたことと矢筒が1つから2つに増えたことぐらいだ。

 

 

「なに、これが僕ちゃんの仕事だかんね。」

 

 

「それでも、です。雷牙博士におかげで私はもう一度戦場に立てますからか。」

 

 

「君も物好きじゃのう。あれだけボロボロにされてまだ戦うのか。」

 

 

「はい。私は、艦娘ですから。」

 

 

 

■    ■    ■    ■    ■

 

 

 

―――???―――

 

 

「ククク……ハハハハッ !! ついに、ついに完成したぞ !! 」

 

 

薄暗い空間で白衣を着た男性は、歓喜に震えていた。

 

 

「随分ト楽シソウネ。」

 

 

「ヘンダーか。」

 

 

男性の背後に、真っ白なボディスーツを着用した女性が現れる。

アルビノのように純白の肌と長い白髪に真っ赤な瞳を持ち、右手は機械の義手のようになっている。そして、何よりも目を惹くのが滑走路を携えた巨大な艤装である。

 

 

「ああ、楽しいよ。苦節10年、ついに完成したよ。

 これさえあれば、艦娘も人も滅ぼすことなど容易い。」

 

 

「ヘェ……ソレガ例ノ物ナノネ。」

 

 

「ああ。それと、ヘンダー。その面倒な喋り方はしなくてもいいぞ。」

 

 

「あらそう ? じゃあ、そうさせてもらうわ。

 それよりも、それが完成したということは、ついに始まるのね。」

 

 

「その通りだよ、ヘンダー。差し当たっては、海域に展開している深海棲艦を集めてくれ。」

 

 

「人間共が調子づいて攻めてくるわよ。」

 

 

「それが目的なのさ。」

 

 

「ふーん……まあいいわ。貴方が何の考えもなく、そんなことをするとは思わないし。」

 

 

「ああ。その代わりと言ってはなんだが、君に渡しておこう。」

 

 

そう言って、白衣の男性は立ち去ろうとする女性に紫の石を渡した。

それは女性の体内に吸い込まれて行き、完全に一体化してしまった。

 

 

「―――ッ !! へぇ、確かにこの力があれば、なんでもできるわね。」

 

 

「気に入ってくれてうれしいよ。艦隊の件、任せたぞ。」

 

 

「ええ。」

 

 

短く返事すると、ヘンダーと呼ばれた女性は姿を消した。

 

 

「さぁ、始めよう。この青き星の機界昇華を !! 」

 

 

薄暗い空間の中で宣言する男性。

その下には、紫色に光り輝く石が無数に存在していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

GGGの隊員が見れば、すぐにその正体を看過しただろう。

なぜならば、その石はもう1つの地球において、GGGが設立する切っ掛けになったモノであり、遠い宇宙から飛来したオーバーテクノロジーの産物。

 

 

 

その名は……ゾンダーメタル。

 




第1章、完 !! 次回から第2章突入です。


分かりやす過ぎる伏線を張った通り、第2章では深海棲艦の他にもゾンダーが出現するようになります。さて、誰が核になるのかぁ ?



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