記憶喪失な雪風と勇者王(改訂中) 作:蒼妃
雪風Side
「―――という訳で、今日から第7戦隊に配属された龍鳳だよ。」
「初めまして……っていうのも変ですね、軽空母の龍鳳です。よろしくお願いします。」
秋が深まるある日。急に呼び出されたと思ったら、新しい艦娘を紹介されました。
深緑色の着物に独特な迷彩が施された飛行甲板を身に付けている空母さんです。
……どこかで見たような覚えがあるんですが、気のせいでしょうか ?
「それから、雪風さんと初霜さんはありがとうございました。」
「「…………??」」
「えっと……覚えていませんか ? 私、海を漂っていた所を助けてもらった艦娘です。」
「「…………ああ !! 」」
思い出しました !! どこかで見たと思ったら、あの時助けた艦娘です !!
助けた時と身に付けているモノがまったく違うので、分かりませんでした。
妖精さんと雷牙博士に任せた後、会う機会がなくて忘れていました。
「すみません、すっかり忘れていました。」
「いえ、思い出していただけて何よりです。
本来なら、もっと早くお会いする予定だったんですが、治療が長引いてしまって……」
「それってつまり……高速修復材で治せない怪我を ? 」
初霜さんの言葉に龍鳳さんが頷いて、今まで閉じていた左目を開きました。
瞼の下に隠されていたのは、黒い瞳ではなく、真っ赤な瞳。
さらに言えば、その瞳はどことなく無機質な感じがしました。
「私は敵の攻撃で左目の視力を失ったんです。
今の左目は雷牙博士特製の義眼です。その調整のために、着任が遅れたんです。」
「どうしてそこまで……」
「果たしたい目的が、守りたい者が居るから。それだけですよ。」
艦娘の怪我は高速修復材と呼ばれる特殊な薬品で治せます。
ですが、満潮さんみたいに左腕を失ったり、龍鳳さんみたいに視力を失くした場合はどうやっても治すことはできません。
そういった重度の怪我が原因で引退する艦娘も多いそうです。それでも、艦娘であることを望んだということは、龍鳳さんには、それだけの目標があるみたいです。
「あの、響ちゃん。龍鳳さんが着任したのは分かったけど、どうして第7戦隊に ? 」
「ああ、最初は主力艦隊の第1戦隊に配属される筈だったんだけど……」
「「「だけど ? 」」」
「第1艦隊の旗艦がね、断ったんだよ。別に新しい空母は要らないって。」
「「「あ~……」」」
満潮さん率いる第1戦隊は駆逐艦のみで構成されていますが、あの艦隊には荒潮さんが居ます。そして、荒潮さんのGウェポン―ボルティングドライバーは“空母殺し”という異名を持つほど防空能力が高いのです。
それに、どうしても空母が必要な場合は大鳳さんが第1艦隊に編入されるので、龍鳳さんの出番がほとんどありません。満潮さんが断るのも納得です。
「ああ、それと龍鳳の件とは別に重要な報告があるんだ。
この後、簡単な任務を受けようと思ったら、今日は任務が入ってきてないんだ。」
「珍しいですね。依頼が1つも入ってこないなんて」
「じゃあ、今日はお休みですか ? 」
「そうなるね。だから、この時間を利用して、龍鳳に町を案内しようと思う。
反対の人は挙手。」
響さんが採決を取りますが、誰も手を挙げません。
「はい、決定。じゃあ、30分後に町の入り口で集合ね。」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
そして、60分後。
私服に着替えた私たちは、町を散策していました。
もっとも着任したばかりで私服を持っていない龍鳳さんは、戦闘用の着物ですが。
「この町が活気がありますね。本土とは大違いです。」
「本土は違うんですか ? 」
「場所によりけり、かな。でも、ここまで賑わっていないね。」
「響ちゃんの言う通りです。何せ、本土は慢性的な物資不足ですから。」
本土を知る響さんと龍鳳さんが言うには、物資は国防の要である鎮守府に優先的に回されるため、民間の方はかなり物資が不足しているそうです。
夢幻島はどうなのか、ですか ?
この島は特にそんなことはありませんね。人口がそんなに多くないのも理由の1つですが、それを賄えるだけの生産力もあります。
だから、人々の心に余裕があり、こうして活気のある町が作り上げられている訳です。イムヤさんの受け売りですが。
「もぐもぐ……そういえば、もうすぐお祭りの季節だね。」
「お祭り、ですか ? 」
「うん。島民、艦娘全員参加可能の大規模なお祭りが来週あるんだ。」
「夏と秋の年2回行われるんだよ。島民だけじゃなくて、艦娘がお店を出したりするんだ。」
そういえば町の至る所にチラシが張ってありますね。
えっと……場所は龍神神社境内。日時はちょうど一週間後ですか。
緊急出動がなければ、行けると思いますが、こればかりは当日にならないと分からないですね。
「確か、GGGからも夜店を出す人が居るはずだよ。」
「第5戦隊と第3戦隊の人たちですね。何でも準備のために一週間の休暇を申請したそうですよ。」
「そして、そんな要望を通した我らが長官。」
響さんの言葉に全員が揃って苦笑いを浮かべました。
大河長官に申請すれば、結構な確率で休暇申請が通ります。当然ながら正当な理由が必要なのですが、GGGではお祭りの準備ですら正当な理由になります。
「楽しみですね~、お祭り。」
「警備任務に割り当てられたら、あんまり楽しめないけどね。」
「GGGって、基本的に立候補制ですよね ?
誰も立候補しなかった場合はどうなるんですか ? 」
「手が空いてる艦隊の各旗艦が話し合って決めるよ。
まあ、話し合いで決まることなんてないから、ジャンケンで決めることが多いよ。」
「何というか……自由ですね。」
「やりたい人にやらせるのが基本方針だからね。
まあ、私もGGGに着任した時は龍鳳と同じような反応したよ。」
「あの~……皆さん ? 龍鳳さんに町を案内するという話はどうなったのでしょうか ? 」
今まで会話に入ってこなかった初霜さんがそんなことを言いました。
「さっきから食べ歩きしてるだけのような気がするんですが……」
「失敬な。これから案内しようと思ってたところだよ。
――――というわけでまずはあそこに行こうか。服は絶対必要だからね。」
そう言って、響さんが指さしたのはこの町で一番規模が大きい呉服店です。
昔ながらの衣服から古今東西の洋服などなど幅広い品ぞろえが魅力的なお店です。
そのうえ、品質も良いので私服をここで買う艦娘も多いです。
その代わりにお値段も少し張ってしまうのが玉に瑕ですが。
「ほら、行くよ。」
響さんは龍鳳さんを引っ張って、さっさと中に入って行ってしまいました。
「追いかけましょうか。」
「そうですね。」
「えっと……雪風は遠慮します。あのお店には、ちょっと嫌な思い出があるので」
「あれは災難でしたね……」
あれは初めて町に来た時のことです。
まだ私服がなかったので、このお店で私服を買うことになったのですが……店員さんに着せ替え人形にされたんですよ。ゴスロリ服とかミリタリードレスとか色々と。
イムヤさんが助けてくれるまでそれが続きました。
ちなみに、見繕ってくれた衣服はいくつか購入しました。
「―――という訳で雪風はこの辺りをうろついてきます。」
「分かりました。潮さん、行きましょう。」
初霜さんは潮さんを連れて、お店の中へと入って行きました。
さて、何処で時間を潰しましょうか……。
記念すべき第2章の第1話は日常編です。
もう少し日常イベントを追加するつもりでしたが、思い浮かばなかったので省略しました。シリアスパートのネタなら、色々思いつくのに。