記憶喪失な雪風と勇者王(改訂中) 作:蒼妃
雪風Side
私が所属する第7戦隊に龍鳳さんという新しい仲間が加わって、2日後。
私を含めた第7戦隊の皆は夢幻島近海に設置された演習海域で待機していました。
響さんが艦隊間演習の申請をしたので、その相手を待ってるんですが…………
「遅いですね~。もうすぐ演習の開始時間ですよ ? 」
「そうですね。もしかすると、誰も受理してないなんてことは……」
「それはないよ。ちゃんと、命さんから何処かの艦隊が受けたって連絡が来たから。」
「演習も自主性なんて、本当に自由な鎮守府ですよね。」
まだ演習相手も来てないので、ここでGGGの演習形式を説明しましょう。
基本的には任務と同じで、任務関連を管理してる命さんに申請。
あとは何処かの艦隊がそれを受理するのを待つだけです。
非効率的かもしれませんが、やる気がある艦隊が受けるので充実な演習になります。
「待たせたわね。5人編成だから、メンバーの選抜に手間取ったわ。」
「あっ、来たみたい……です……ね。」
「「「…………」」」
「??」
振り向けば、そこに居たの満潮さん率いる第1戦隊の4人。
GGGに存在する七つの艦隊の中でもトップクラスの実力を誇り、さらにはGGGの艦娘の中で最強と謳われる満潮さんが籍を置く艦隊でもあります。
来る可能性はありましたけど、できれば遠慮したかった艦隊です。
「えっと……本当に第1艦隊が今回の演習相手なのかな ? 」
「ええ。」
「最近、出撃がなくて暇を持て余していたので受けさせて頂きました。」
「言っておくけど、手心なんて加えないわよ~ ♪ 」
「作戦会議は10分。近接武器持ちは、寸止めを心がけてね。
勝敗条件は相手の艦隊の降参、もしくは全員の戦闘不能判定だよ。」
「戦闘不能判定は、火麻参謀が行うわ。じゃ、よろしくね。」
ルールを確認にすると、作戦会議のために第1戦隊は離れて行きました。
龍鳳さんは暢気によろしくお願いします、と挨拶してましたが、私たちにそれだけの余裕はありません。
「ど、どうするんですか !? 第1戦隊が相手なんて聞いてないですよ !? 」
「こっちも予想外だよ !! 」
「フルボッコにされて終わりそうですね~」
「う、潮さん !! しっかりしてください !! 」
「え、えっと……相手は駆逐艦のみですよね ?
それに、向こうは1人少ないのにどうして…………」
まあ、第1戦隊の……それも第8駆逐隊のことを知らないなら、そうなりますよね。
第8駆逐隊の4人は駆逐艦ではありません。駆逐艦の皮を被ったナニカです。
空を飛び、上空から攻撃を仕掛けてくる大潮さん。
装甲も砲弾も切り裂きながら敵に切り込む朝潮さん。
あらゆる攻撃から仲間を守護する荒潮さん。
そして、いかなる状況にも対応し、勝利をもぎ取る満潮さん。
そんな規格外の駆逐艦で構成されたのが第8駆逐隊なのです。
私は直接見てはいませんが、響さんや潮さんが言うにはかなりの武勇伝を残しているそうです。
「それからもう1つ悪いお知らせ。満潮、Gウェポンを持ってた。」
「勝機が少数点ぐらいからゼロになりましたね。」
「あの……満潮さんのGウェポンって、黒い爪なんじゃあ」
「あれは衝撃から身を守るための防具に過ぎないよ。
彼女が持つGウェポンは、巨大な戦斧。使ってるのを見たのはほんの数回だけどね。」
「まだ艦娘が少なかった時はそれを携えた満潮ちゃんが深海棲艦の大艦隊を1人で殲滅したなんて武勇伝も残ってるぐらいだよ。」
そんな相手と今から戦うんですよね……今すぐ逃げたいです。
「とにかく、作戦を考えよう。せめて一矢報いたい。」
響さんの言葉に全員が頷きます。
しかし、10分後。私たちは第8駆逐隊の実力を思い知らされることになるのでした。
Another Side
10分後。火麻の号令と共に第8駆逐隊と第7戦隊の演習が開始された。
先手を取ったのは、航空戦力を有する第7戦隊。
龍鳳から飛び立った艦載機が第8駆逐隊を発見し、先制攻撃を仕掛けようとした。
「無駄よ~。」
荒潮のボルティングドライバーからオレンジ色の波動が発せられると、龍鳳航空隊の機体が内部分解を引き起こし、艦載機は全滅。先制攻撃は失敗に終わった。
そして、第7戦隊の先制攻撃を防いだ第8駆逐隊は速度を上げ、突進していく。
「大潮、アンタは艦載機の迎撃と援護に専念しなさい。」
「りょーかい。」
「朝潮姉、私で前衛。荒潮はバックアップ。」
「は~い ♪ 」
「――――というわけで朝潮姉。突撃するわよ。」
「わかったわ。」
朝潮は第1世代型Gウェポン、ウィルナイフを展開し、満潮は巨大な黒い斧を展開する。
黒の中に明るい黄色の紋様が施され、中心部分にGストーンを嵌めた戦斧こそ、満潮のGウェポンである。
「…………っ !! 」
突然、足を止めて戦斧を振り抜く満潮。
Gストーンから放たれるエネルギーは電気へと変換され、遠方から飛来した何かを破壊する。
「満潮 !! 今のは…………」
「雪風のGウェポンね。迎撃しなかったら、至近弾か直撃ね。」
雪風たちが居る方向を見詰めながら満潮が口を歪めて、笑みを浮かべた。
「ちゃんと成長してるみたいじゃない。」
――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ―――
「あう~……防がれました。」
砲弾が飛んで来た方向には、腰を落として重砲形態のG-サイズを構えて雪風の姿があった。
重砲形態は彼女たち駆逐艦娘が持つ主砲よりも射程距離が長く、火力が高い砲弾を撃ち出すことができる。
「でも、狙いは良かったですよ。初弾で当てるなんて、そうそうできる芸当じゃありません。」
龍鳳のほめ言葉を聞きながら、雪風は砲弾をリロード。
トリガーを引き、第8駆逐隊に向かって再び砲弾を発射する。
「じゃあ、私もそろそろ…………」
そう呟いて龍鳳は和弓に矢をつがえ、力一杯引き絞る。
同時に矢がミラー粒子によってコーティングされ、放たれる。
放たれた矢は艦上爆撃機となって第8駆逐隊の許へと向かっていくのだった。
「響さんと潮さんは大丈夫でしょうか ? 」
「どうでしょうか。第8駆逐隊は、1人1人が強いですから……」
「そろそろ接敵する頃ですよね。こっちもそろそろ…………っ !! 」
スコープで敵を探していた雪風は、浅い部分を進む黒い物体を見つけた。
その正体がなんなのかすぐに察した彼女は、でんぐり返しのように海上を転がり、ソレを避ける。
大きな爆発が起こったのは、雪風が避けた直後だった。
(時限信管式の魚雷…… !! 発見が遅れていたら当たってました。)
「雪風さん !! 1発だけじゃないです !! 」
「っ !! 」
時間差で襲いかかって来た魚雷は、すでに目と鼻の先にまで迫っていた。
「プロテクトシェード !! 」
雪風の危機を救ったのは、龍鳳の守りに付いていた初霜だった。
盾形のGウェポン、プロテクトシェードが空間湾曲によって海面を荒らし、魚雷の方向を狂わせる。
「へぇ……良い判断ね。魚雷の弱点を的確に突いたわね。」
「満潮、私は空母の方をやるわ。」
一息ついたと思いきや、ウィルナイフと黒い戦斧を展開した2人が迫る。
朝潮は龍鳳を狙い、満潮は雪風を狙う。初霜はすぐさま龍鳳の護衛に戻らざると得なくなった。
「せぇぇいっ !! 」
「くぅ !! 」
振り下ろされる戦斧を大鎌形態に戻ったG-サイズの柄で受け止める雪風。
そして、脇がガラ空きになった雪風に満潮の蹴りが叩きこまれる。
その反動で雪風は吹き飛ばされ、海の上で2回ほどバウンドする。
「いったぁ~……っ !! 」
起き上がろうとした所に戦斧が振り下ろされる。
雪風はそれを間一髪回避するが、今回はそれで終わらなかった。
「ああぁぁっ !! 」
回避した雪風に襲いかかるのは、電撃。
スタンガン並みの威力がある雷撃は雪風の動きを止めるのに十分だった。
そして、その首筋に戦斧の刃が当てられる。
「まだ接近戦に不慣れみたいね。対処の仕方がまだ甘いわ。
それにせっかくのGウェポンもきちんと使いこなせてない。」
戦斧を肩に担ぎ、満潮は雪風の問題点を列挙していく。
「いずれは戦艦クラスの深海棲艦とやり合う機会も出てくるわ。
そういう奴に対処できるようにしておきなさい。練習相手が欲しいなら、凱にでも頼むと良いわ。」
「わ、わか、りまし、た。」
「痺れが取れたら、安全な場所で待っておきなさい。」
そう言って、満潮は演習に戻っていくのだった。
演習結果
駆逐艦 響:荒潮により、撃沈判定。
駆逐艦 潮:荒潮・大潮のコンビネーションにより、撃沈判定。
駆逐艦 初霜:朝潮・満潮のコンビネーションにより、撃沈判定。
駆逐艦 雪風:満潮により、撃沈判定。
軽空母 龍鳳:初霜撃沈後、降参。
第7戦隊 D敗北。
これ、要るの?って思うかもしれない艦隊間演習回。
目的は満潮のGウェポン公開と雪風がとある人物と接点を持たせるためのきっかけ作り。このままだと、彼が空気だからね(笑)
それから満潮のGウェポンは黒い戦斧です。
ナックルガードはヘル・アンド・ヘブンの衝撃から身体を保護するのがメインなので、厳密には武器ではありません。
なお、戦斧の名前はケラウノス。
それから1つ伝言があります。
多分、気付いている読者の方もいらっしゃると思いますが、私の作品、結構矛盾している部分があります。
私も設定集を書き上げるために過去に投稿している話を再読した時に気付きました。
というわけで、時間がある時に少しずつ修正していきます。
物語の展開が変わる訳ではありませんので、安心してください。