記憶喪失な雪風と勇者王(改訂中)   作:蒼妃

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第3話

雪風Side

 

 

「いや~……フルボッコでしたね。」

 

 

「ある意味わかりきってた結果だね。」

 

 

第8駆逐隊との演習が終わった後、私たちは第7戦隊詰所で反省会をしていました。

演習の結果は惨敗。かすり傷一つ負わせることもできませんでした。

 

 

「彼女たち、本当に駆逐艦なんですか…… ? 」

 

 

項垂れた龍鳳さんがそんなことを呟きました。

そんな彼女の言葉に私たちは苦笑いを浮かべることしかできませんでした。

それは私たちも常々疑問に思っていることですから。

 

 

「分類上は駆逐艦だよ。その範疇から逸脱してるように見えるけど」

 

 

「その証拠に霊子力は私たち同じぐらいしか使えませんから。」

 

 

一般には認知されていませんが、艦娘の艦種は霊水晶(セフィラ)が生み出す霊子力の量によって決まります。

私たちのような駆逐艦はそれほど多くの霊子力を生み出せませんが、戦艦とかになると倍以上の霊子力を生み出すことができます。その分、武装に回せる霊子力が増えるので、主砲の威力も増します。

ちなみに、GGGに所属する艦娘以外は霊水晶(セフィラ)のことはおろか、霊子力のことも知りません。当然ながら霊子力のコントロールもできないです。

 

 

「それにしても、どうやって彼女たちはあれだけの力を出してるのでしょうか。」

 

 

「こっちが知りたいよ。」

 

 

そう言って、響さんはグラスに入ったお酒をぐいぐいと飲んでしまいます。

えっ ? お酒なんて飲んでいいのか、ですか ? 別に問題ないですよ。

艦娘は基本的に成人と同じ扱いを受けるので、お酒もタバコも大丈夫です。

まあ、タバコを吸う艦娘はそうそう居ませんが。

 

それよりも、です。

響さんが飲んでるお酒のラベルに「VODKA」って書いてあったような気がするのですが、気のせいですよね ?

 

 

「あっ、そういえば火麻参謀からこんな物を貰ったんです。」

 

 

初霜さんが取り出したのは……DVD ?

 

 

「今回の演習の一部始終を記録した物だそうです。

 これを見て、自分に何が足りないのかじっくり考えろ、とのことです。」

 

 

そういうわけで、演習の記録を全員で鑑賞することになりました。

 

 

「改めて見ると、見事に慢心してるね。」

 

 

「うん。あんな使い方をしてくるなんて思いもしなかった。」

 

 

ちょうど映像には、響さんと潮さんが荒潮さんに向かっていく姿が映し出されています。

対する荒潮さんは、ボルティングドライバーをまるで突撃槍のように扱って、大立ち回り。

大潮さんが潮さんを妨害してる間に響さんを撃破しました。

 

 

「あとは2対1の状況に持ちこまれて、敗北。

 多分、最初から全力で掛って来られたら、もっと早く負けていたね。」

 

 

「ほんと、ここの駆逐艦ってぶっ飛んでますね。

 普通なら、殴り合える距離まで近づくことにも戸惑うのに。」

 

 

DVDを見ながら龍鳳さんは呟きました。

 

私にはよく分かりませんが、艦船時代の記憶を持つ艦娘は本能的にクロスレンジまで近づくことを避ける傾向があるそうです。

なので、GGGの艦娘のように積極的に近接格闘戦を繰り広げるのは異常なことらしいです。

 

 

「あっ、今度は私たちの演習風景ですね。」

 

 

「あっという間に終わりましたけどね。」

 

 

改めて見ると、満潮さんとの格の違いを思い知らされます。

身体全体を武器のようにして戦う満潮さんに対して、武器の性能に頼る形になっている私。

私に足りないのは、技術と実戦経験。それに尽きます。

 

 

もっともっと強くなりたいです。

 

 

今度こそ(・・・・)、みんなを守れるように。

 

 

今度こそ(・・・・)、失わないようにするために。

 

 

「すみません、雪風、ちょっと行く所があるので失礼します。」

 

 

「ん。今日は任務を受けるつもりもないから、気にしなくていいよ。」

 

 

満潮さんに言われた通り、彼の所に行ってみましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くぅっ !! 」

 

 

「反応が鈍ってきてるぞ !! 」

 

 

私がクロスレンジ戦闘の師事を仰いだのは、GGG陸上機動部隊隊長の獅子王 凱さん。

満潮さんにクロスレンジでの戦い方を教えたのも凱さんらしいです。

それで早速訓練を受けているのですが…………

 

 

「そんな大ぶりな攻撃じゃあ、当たらないぞ !! 」

 

 

「は、はい !! 」

 

 

訓練の内容はひたすら実践を繰り返すだけの簡単なモノです。

でも、私の攻撃は当たらず、空振りを続けるだけ。

 

 

「はぁっ、はぁっ……」

 

 

「雪風、君の攻撃は力を入れ過ぎなんだ。

 そのせいで攻撃が当たり難いし、無駄に体力を消費してしまう。」

 

 

「は、はい……」

 

 

「君の膂力なら片手で十分振りまわせる筈だ。

 それから、無理して武器で防ぐ必要はない。避けたり、受け流すことも必要だ。」

 

 

呼吸を整えながら、凱さんに言われたアドバイスを反すうします。

確かに両手で扱っていては凱さんのように手数の多い武器に対処できないです。

 

 

「早速やってるみたいね。」

 

 

「満潮。街に行くんじゃなかったのか ? 」

 

 

「これから出かける所よ。通りかかったから覗いてみただけ。」

 

 

「それで私服姿なんですね。」

 

 

今の満潮さんは、朝潮型駆逐艦に与えられる制服ではなく、黒いパーカーに青と白のチェックのスカート。さらに髪はストレートに下しているのでまるで別人みたいです。

 

 

「命がうるさいのよ。非番の時ぐらい女の子らしいおめかししなさいって。

 凱、実戦経験で鍛えるのはいいけど、手加減はしてあげなさいよ。」

 

 

「分かってるって。」

 

 

「じゃあ、雪風。頑張りなさい。」

 

 

そう言い残して、満潮さんは訓練室から出ていきました。

 

 

「さぁ、再開しようか。」

 

 

「はい !! 」

 

 

それから、私はG-サイズで凱さんと切り合いました。

1合、2合、3合、と最初の内は数えていましたが、10合を超えてからは数えるのを止めました。

でも、疲れ方はさっきと全然違います。数えきれないほど切り合っているのに、まだ振り回せます。

 

 

「大分いい感じに仕上がってきたな。」

 

 

「ありがとうございます !! 」

 

 

「今日はここまでにしよう。無理をして、体を壊したら元も子もない。」

 

 

「分かりました。またお願いします。」

 

 

「ああ。満潮と違って、俺は空いてる時間が多いからな。

 事前に連絡を入れてくれれば大丈夫だ。」

 

 

「はい !! 」

 

 

こうして、私のクロスレンジ戦闘の訓練初日は終了するのでした。

 

 

 

◆    ◆    ◆    ◆    ◆

 

 

Another Side

 

 

雪風が凱の手を借りて訓練に勤しんでいる頃。

GGGメインオーダールームでは、本土で諜報活動を行っている艦隊からの定時連絡が行われていた。

 

 

「深海棲艦が戦線を縮小している、だと ? 」

 

 

『うん。偵察機を飛ばして確認もしたから間違いない筈。』

 

 

「ふむ……不可思議な行動じゃのう。」

 

 

雷牙博士がヒゲを触りながら呟く。

 

現在、深海棲艦と艦娘の勢力は拮抗している状況だ。

もちろん物量では深海棲艦側に優位があるが、艦娘側は練度と連携でそれを補っている。

そんな状況で戦線を縮小すれば、艦娘側(つまるところ、大本営)は喜々として進撃するだろう。

 

 

「戦力の補充でしょうか ? 」

 

 

「いや、罠の可能性もあるな。」

 

 

「しかし、深海棲艦にそこまでの知能があるのでしょうか ? 」

 

 

「深海棲艦は学習能力を持ってイマース。罠の可能性も十分考えられるノデース。」

 

 

メインオーダールームに憶測が飛び交う。

そんな中、新しいモニターが開き、本土に居るビークルロボ、ボルフォッグの姿が映し出される。

 

 

「どうした、ボルフォッグ ? 」

 

 

『はい。大本営がこの戦線縮小に乗じて、大反攻作戦を計画していることがわかりました。

 大本営に属するすべての鎮守府の主力戦力を以って、敵を撃滅する作戦のようです。』

 

 

「また無茶な作戦を立てるな。大本営は。」

 

 

「分の悪い賭けにも程があるぞ。」

 

 

メインオーダールームに居る面々は大本営発案の作戦に否定的だった。

 

それも当然だろう。

戦線を縮小しているからと言って、相手の物量が減っているわけではない。

さらに言えば、この戦線の縮小が敵の罠である可能性が捨てきれない以上、闇雲に突撃するのは非常に無謀だ。

 

 

「ボルフォッグ。この作戦の詳細が分かり次第報告してほしい。」

 

 

『了解しました。』

 

 

『じゃあ、私も任務に戻るよ。』

 

 

展開された二つのモニターが消える。

 

 

「最悪の場合、我々が表舞台に立つことを視野に入れる必要があるな。」

 

 

「戦線縮小が敵の罠だった場合、だな。」

 

 

火麻の言葉に大河長官がうなづく。

 

 

「作戦が中止になってくれるのが一番なんだが……」

 

 

ほとんどあり得ないが、彼はそう願わずにはいられなかった。

 




2週間ぶりの更新。このままだと隔週更新になりそう……。



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