記憶喪失な雪風と勇者王(改訂中)   作:蒼妃

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第4話

雪風 Side

 

 

龍神祭。

それは夏と秋に行われる夢幻島唯一のお祭りです。

夢幻島とその周辺の島の守り神である龍神様に感謝を捧げる行事が時代と共に変化して、今に至るそうです。

その規模はとても大きく、龍神神社の参道から境内まで屋台がズラリと並んでいます。

島の人はわいわい騒ぎながらこのお祭りを大層、楽しんでいるみたいです。

 

 

「にぎやかですねぇ。」

 

 

「ええ、本当に。警備担当に充てられなくてよかったわ。

 こんな風にのんびりとお祭りを楽しめるのも雪風さんのおかげね。」

 

 

「運が良かっただけですよぉ。」

 

 

この龍神祭の日は、GGGにある任務が入ってきます。

内容はお祭り会場の警備。まあ、警備と言っても主な仕事は酔っ払いの対処や迷子の対処なんですが。

ただ、この警備任務は基本的に進んで受託する艦娘が居ないので、基本的にジャンケンで警備担当が決められることになります。それで第7戦隊からは私が代表として出て、見事勝利を収めたので、こうやってのんびりできるわけです。

 

 

「普段お目に掛かれないものばかりで楽しいですね♪」

 

 

「そうですね。でも、食べ過ぎはダメですよ ? 」

 

 

「分かってますよ、初霜さん。あむっ」

 

 

ん~♪ このリンゴ飴、美味しいです♪

ちょっと高かったですけど、それだけの価値はあります。

 

 

「あっ、甘い匂いが……あの夜店ね。」

 

 

「ベビーカステラですね。」

 

 

「2人で分けて食べましょうか。」

 

 

「賛成です !! 」

 

 

―――という訳で、人の波を潜り抜けて“ベビーカステラ”という看板が掛かった夜店に突撃します。

 

 

「すみません、1000円の袋一つお願いします。」

 

 

「ちょっと待っててね。もうすぐ出来上がるから。」

 

 

夜店を仕切っているのは、私とそう変わらない背丈の女の子でした。

はて ? 声に聞き覚えがあるような気が……短め茶色の髪に同じ色の瞳、やっぱり覚えがあります。GGGのどこかで会ったことがある筈なのですが……

 

 

「あれれ ? まだ気づかないのかにゃ ? 」

 

 

「その特徴的な喋り方……あっ、思い出しました !!

 第3戦隊旗艦の睦月さん !! 」

 

 

「正解だよぉ。やっと気づいたね。まあ、会う機会なんてほとんどないし、仕方ないのかな。」

 

 

どことなく猫を彷彿させる彼女は遠征を主任務とする第3戦隊の旗艦、睦月さん。

元になった艦が、旧式ということもあって、睦月さんも他の駆逐艦娘には劣るそうですが、Gウェポンの扱いに関しては第8駆逐隊に匹敵するそうです。

実際に戦ってる姿を見た訳ではないので、どれくらいの実力を持っているのかは分かりません。

 

 

「そういえば、第3艦隊の人は夜店を出しているんでしたね。」

 

 

「そうだよ~。この夜店以外にも、もう1つ屋台出してるの。

 そっちは夕立ちゃんと吹雪ちゃんが中心にやってるけどね。」

 

 

「この夜店は睦月さん1人でやってるんですか ? 」

 

 

「ううん。睦月以外にも弥生ちゃんと卯月ちゃんが手伝ってくれてるよ。

 今はちょっと用事で離れちゃってるけどね。―――――はい、どうぞ。」

 

 

「ありがとうございます。」

 

 

お代を払って、ベビーカステラが大量に入った袋を受け取ります。

そして、次の場所へ行こうとした時、すぐ近くで何やら人だかりができていました。

 

 

「何かやってるんでしょうか ? 」

 

 

「あー、うちの卯月ちゃんだね。さっき、射的の助っ人頼まれたから。」

 

 

「射的、上手なんですか ? 」

 

 

「上手いなんてもんじゃないよ。目視できる範囲なら、百発百中。

 射撃の腕前ならGGGでナンバーワンじゃないのかにゃ ? 」

 

 

「それはすごいですね……」

 

 

「うん♪ 長女として鼻が高いよ♪

 ――――っと、次のお客さんが来てるから、お話しはここまで。」

 

 

「あっ、お邪魔してすみませんでした。」

 

 

「失礼しまーす。」

 

 

商売の邪魔をする訳にはいきませんからね。

あっ、このベビーカステラ焼きたてで美味しいです♪

 

「この後、どうします ? 」

 

 

「そうですね……取り合えず、神社の方に行ってみましょうか。」

 

 

「あっ、いいですね。」

 

 

・・・

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「うわ~境内も夜店が出てますね !! 」

 

 

山頂にある龍神神社の境内も夜店とお祭りの参加者で一杯でした。

さい銭箱にお賽銭を投げいれて手を合わせてる人、食べ歩きしてる人、知り合いと雑談してる人。こうやって見ると、この島も結構大勢の人が住んでるんですね。

 

 

「あっ、あなたたちも来てたのね。」

 

 

「イムヤさん。そちらの仕事は大丈夫なんですか ? 」

 

 

「ええ、今は休憩中だから。」

 

 

食べ歩きしている人の中に紛れ込んでいたのは、龍神神社の巫女、イムヤさんでした。

今回は赤と白の巫女服に身を包んで、その手には……手羽先 ?

 

 

「やっぱり、こういう場所で食べる物って格別ね。もぐもぐ」

 

 

「汚しても知らないですよ。」

 

 

「何かしら食べとかないとやってられないわよ。それに、予備の服はちゃんとあるし。」

 

 

そう言いながら、イムヤさんは2本目の手羽先を食べ始めます。

この姿を見ていると、島の守護神たる龍神様に仕える巫女とは思えませんね。

 

 

「それじゃあ、私はもう少し食べ歩いてくるわ。一緒に来る ? 」

 

 

「止めときます。ここに来るまでに結構食べましたから。」

 

 

「雪風も今回は遠慮します。」

 

 

「残念。じゃあ、私はもう少し楽しんでくるわ。」

 

 

そう言って、イムヤさんが人ごみの中に入って行きました。

―――が、そのすぐ後、何かを思い出した可能ように戻ってきました。

 

 

「そうそう。言い忘れてたことがあったの。

 2人とも、私が占いできることは知ってるわよね ? 」

 

 

イムヤさんの言葉に私たちは頷きます。

的中率はよく当たる占い程度なのですが、長官も一目置いているそうです。

過去には、この占いのおかげで敵の大規模侵攻を防げた事例もあるらしいです。

 

 

「その占いがあまり良くない……いえ、過去最大級に悪いモノだったわ。」

 

 

「……その話、長官には ? 」

 

 

「まだ伝えてないわ。ついさっき占ったばかりだし。

 必ず的中するとは限らないけど、一応伝えておいてくれる ? 」

 

 

私たちに伝言を託すと、イムヤさんは今度こそ人ごみの中に入って行きました。

 

 

「過去最大級の悪い占い……過去にあった大規模侵攻よりも悪いんでしょうか。」

 

 

「それは……当たって欲しくないですね。」

 

 

GGGの戦力が整ってきた頃に起こった深海棲艦の大規模侵攻。

それはとてもし烈な戦いでGGGもかなりの被害を被ったと聞いています。

その時に比べると、GGGの戦力は増していますが……

 

 

「当たってくれないことをお祈りしましょうか。」

 

 

「それは良いわね。」

 

 

しかし、この2日後。

雪風と初霜さんの祈りも届かず、イムヤさんの占いは当たってしまうのでした。

 

 

 

 

■     ■    ■    ■    ■

 

 

 

Another Side

 

 

夢幻島がお祭りで賑わっている頃、最前線の鎮守府に大勢の艦娘が集まっていた。

各地の鎮守府から集められた主力の艦娘たちであり、人類側の全力と言っても過言ではない。それだけの戦力が一か所に集まっているのは、宵闇に紛れて敵に奇襲を掛けるからだ。

 

 

「あ~……やっぱり実行に移しちゃったか。」

 

 

鎮守府の上空で飛行するガングルーの中で陽炎は呟いた。

本土での諜報活動に従事している第4戦隊は、大規模反攻作戦の情報を入手し、こうやって張り込んでいたのだ。

 

 

「こちら、陽炎。艦隊の出撃を確認しました。」

 

 

『OK。こっちも長官から新しい指令が来たよ。

 そのまま艦隊に気付かれないように監視を続けろ、だってさ。』

 

 

「まあ、そうなりますよね。取り合えず、一旦戻ります」

 

 

『りょーかい。気を付けて帰っておいでよ。』

 

 

川内との通信を切った後、陽炎はため息を吐いた。

 

 

「本当なら、お祭りに参加できる筈だったのに……」

 

 

本来の予定では、陽炎たちはお祭りの時期に合わせて島に帰還する筈だったのだが、大本営の大規模反攻作戦の発令を受けて、第4戦隊は休日を返上することになったのだ。

 

 

「まあ良いわ。代わりに給料せしめてやるんだから。」

 

 

コックピットで1人呟くと、陽炎は操縦桿を握りしめて、拠点へ戻るのだった。

 




今回で日常パートは終了。
ぶっちゃけると、章の始まりからがっつり戦闘に突入するつもりだったのですが、さすがに展開が早すぎると思って、数話の日常パートを挟んだだけ。



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