記憶喪失な雪風と勇者王(改訂中)   作:蒼妃

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第2話

 

雪風 Side

 

 

わたしたちの訓練が始まってから、すでに2週間が経過しました。

最初は、午前は海上訓練を、午後は座学というスケジュールで進んでいたのですが、もう座学の方は終了し、午後も訓練に充てられるようになりました。

 

今日も初霜さんと一緒に、訓練なのですが……今日はいつもと違います。

いつもは訓練海域で訓練を行うのですが、今日の訓練の部隊は夢幻島にある山です。

 

 

「「ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ……」」

 

 

「ほら、休んでる暇はないわよ。」

 

 

「「は、はい……」」

 

 

わたしたちは、夢幻島で一番高い山を登っている最中です。

でも、ただ登るだけではなく、四方八方から来るトラップを潜り抜けなければなりません。満潮さんが言うには、危険感知能力と危険にすぐさま対応できる能力を鍛える特訓だそうです。

 

それで、だいだい山の中腹まで来たのですが、もうボロボロです。

制服もあちこち破けてしまって、肌は土汚れが一杯です。

 

 

「ほらほら。ちゃんと付いてこないと、迷子になるわよ。」

 

 

そう言って、満潮さんは木の枝を足場の代わりにして、上へ上へ進んでいきます。

何でも、この山はきちんとしたルートを通らないと迷子になってしまう不思議な山だそうです。なので、満潮さんの姿を見失うと一大事です。

 

 

「初霜さん、急ぎましょう!!」

 

 

「えっ、ええ。」

 

 

初日から何となく分かっていましたが、満潮さん、結構スパルタです !!

しかも、できるギリギリのラインの訓練を課してくるので、できないと言い訳できません。本人曰く、これでも甘い方らしいですが、そんなのは絶対に嘘です!!

 

 

「わっ!!」

 

 

あ、危なかったです……。木の根っこに引っ掛かって転ぶところでした……。

 

 

「だ、大丈夫?」

 

 

「大丈夫です!! それよりも早く追い掛けましょう!!」

 

 

満潮さんの背中が随分、小さくなっています。

これ以上、遅れてしまうと、本当に見失っちゃいます!!

 

 

「脚部に霊力を集中……脚力最大強化!!」

 

 

2週間に渡る訓練の間に身に付けた霊力のコントロール。

霊水晶(セフィラ)から生み出される霊力は、普通全身を巡っていますが、一点に集中させて身体能力を引き上げることができます。

GGGに所属する艦娘には必須の技能らしいのですが、わたしがこれを習得できたのは昨日です。初霜さんはもう少し早く習得できていましたが。

 

 

「よっ、はっ」

 

 

限界まで強化した脚力を活かして、山道を駆け上がります!!

 

 

「ちょっ、ちょっと待ってぇ~」

 

 

初霜さんも私と同じように身体能力にブーストして追い掛けてきます。

―――っと、また弓矢が飛んできました。段々、トラップが多くなっていますね。

 

 

「雪風さん、後ろ!!」

 

 

「?……うえっ!?」

 

 

目の前には、紐で吊り下げられた一本の丸太。

って!! 満潮さん!! これは流石に危ないと思いますよ!?

 

 

「せりゃぁ!!」

 

 

飛んで来た丸太は、初霜さんの回し蹴りで別の方向に飛んでいってしまいました。

一緒に訓練している間に気付きましたが、初霜さん、大人しそうな雰囲気とは裏腹に結構アグレッシブです。攻撃する時とか容赦がありません。

 

 

「すいません、初霜さん。」

 

 

「守るのが私の役目ですから。それよりも、急ぎましょう。」

 

 

「はい!!」

 

 

 

・・・

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「「ぜぇ、はぁ……ぜぇ、はぁ……」」

 

 

「40分。まあ、初めてにしては、悪くないタイムね。

 私の姿を見失うようなこともなかったし。」

 

 

「「あ、ありがとうございます……」」

 

 

し、死にそうです……誰か、水を……

 

 

「はい、どうぞ」

 

 

「うう~ありがとうございます……」

 

 

あ~……冷たい水が五臓六腑に染み渡ります~。

普通の水がこんなに美味しく感じたのは、初めてかもしれません。

 

 

「はい、満潮もどうぞ。」

 

 

「んっ。」

 

 

「相変わらず、厳しい訓練してるわね。そのうち、新人が付いてこなくなっても知らないよ?」

 

 

「大丈夫よ。できるギリギリのラインをやらせてるだけだから。」

 

 

ふぅ……ようやく落ち着いてきました。

それにしても、山の頂上にこんな神社が建っているとは……。

満潮さんと話している薄い赤毛の女の子は、この神社の巫女さんでしょうか?

 

 

「アンタたちにも紹介しておくわ。ここ、龍神(たつがみ)神社の巫女、イムヤよ」

 

 

「八雲 イムヤよ。あんまり会う機会はないかもしれないけど、よろしく。」

 

 

 

「「よろしくお願いします。」」

 

 

「イムヤは、籍は入れてないけど、GGGの協力者よ。

 占いで敵の侵攻を予測したり、敵の拠点を占ってくれたりしているわ。」

 

 

「まあ、百発百中じゃないから、よく当たる占い程度の信頼性だけどね。

 それよりも、満潮。ちょっと大事な話があるの。」

 

 

「ん。分かったわ。アンタたちは、少し休んでなさい。

 水が欲しいなら、あっちに水飲み場があるから。」

 

 

そう言って、イムヤさんは満潮さんを連れて、神社の方に入って行きました。

む~……話の内容はすっごく気になるのですが、動く元気がまだありません。

ここは、大人しくしておきましょう。

 

 

あ~水が美味しいです。

 

 

 

■    ■    ■    ■    ■

 

 

 

Another Side

 

 

 

一方、その頃。

 

日本本土に存在するとある鎮守府。

大本営には第4鎮守府として登録されているその鎮守府で怒号が響き渡る。

 

 

「雪風はまだ見つからんのか!!」

 

 

声の発信源は、白を基調にした軍服を身に纏ったまだ若い男性だ。

その眼前には奇抜な衣装を身に纏った少女が2人と黒を基調にした制服を身に纏った少女が1人。その背に背負う武装から彼女たちが艦娘であることが分かる。

 

 

「貴様ら!! まさか、わざと見逃してるんじゃないだろうな!?」

 

 

「「「……」」」

 

 

男性の怒声を聞いても、三人は怯むこともなく、一言もしゃべらない。

ただ、彼女たちが男性に向ける視線は敵意を孕んでいるのは明確だった。

 

 

「その気になれば、俺の一存で解体することもできるんだぞ !? 」

 

 

「好きにすれば ? 姉妹を売るくらいなら、解体される方がマシよ。」

 

 

脅迫してきた男性に対し、水色の髪の少女が強気に言い返す。

その態度がさらに男性をイラつかせるのだが、次の言葉を遮るように部屋に備え付けられた黒電話が鳴り響く。

 

 

「ちっ……もう下がって良い。」

 

 

男性がそう言うと、少女たちは無言で部屋から出て行く。

そして、足音が聞こえくなるほど離れた所で男性は受話器を取った。

 

 

「私だ。――ああ、お前か。残念だが、雪風の奴はまだ見つかっていない。

 こちらも全力で探しているが、何処に消えたのか見当もつかん。

 

 分かっている。あいつが持っている情報が外部に漏れるのは面倒だからな。

 

 それで、そちらの首尾はどうなんだ? ―――― ほう、そうか。」

 

 

受話器の向こう側からもたらされた情報に男性は口を歪める。

 

 

「ああ、分かった。そちらに視察に行かせてもらおう。」

 

 

そう言って、男性は電話を切った。

男性は白い提督服の上から茶色のコートを羽織ると、足早に部屋から出て行くのだった。

 

そして、照明も消え、薄暗く静かになった刹那、天井の板が外されて誰かが降りて来た。

短めの黒髪に橙と白を基調にした衣服を纏うその姿は忍者を彷彿とさせる。

そして、首に巻いたマフラーの端にはGGGのロゴが刺繍されていた。

 

 

「川内さん参上、てね。」

 

 

『バカなことやってないで、さっさと仕事しなさい』

 

 

「はいはい。分かってるよ。」

 

 

右の耳に装着したインカムから聞こえてくる声に忍者風の少女―川内は緊張感のない返答を返す。

 

 

「じゃあ、さっさと済ませようかな。」

 

 

そう呟いて、川内は男性が業務で使っている机の中を物色し始める。

几帳面な性格だったのか、書類はファイルに綴じられて引き出しに収納されていた。

ファイルを一冊ずつ確認していく川内が、収められている書類は至って普通の物だ。

 

 

「う~ん……ほとんど普通の書類かぁ。分かりやすいように隠してて欲しいなぁ」

 

 

そう呟きながら物色を続ける川内。

そして、ファイルを全て取り出した所で、彼女はあることに気付いた。

 

 

「はは~ん、二重底になってたのか。その中身は……」

 

 

引き出しは二重底になっており、一番下には黒いノートパソコンが隠されていた。

川内はノートパソコンの電源を入れ、中身を確認するが、パスワードによるロックが掛けられていた。

 

 

「まあ、そう簡単に中身は見せてくれないか。」

 

 

そう呟き、川内はUSBメモリ型の端末を取り出し、ノートパソコンに接続する。

 

 

「夕張、ロックの解除とデータの抜き取り、任せたよ。」

 

 

『りょーかい。ちょっと待っててね。』

 

 

パソコンの方をインカムの向こうに居る相棒に任せて、川内は物色を続ける。

しかし、ノートパソコン以外に見つかったのは普通の書類ばかりで必要とする情報を見つけることはできなかった。

 

 

『データは全部コピーしたわ。撤退するわよ』

 

 

「オッケー。」

 

 

川内はパソコンに差したハッキング用の端末を回収し、物色した痕跡を消すと屋根裏へと戻って行った。

さらに、侵入する時に使ったルートを遡って、鎮守府の外へと脱出する。

人目に付かないように行動し、川内が向かったのは第4鎮守府の近くにある森の中だ。

 

 

「ボルフォッグ」

 

 

刹那、何もなかった筈の森に一台のパトカーが姿を現す。

 

 

『ここに。潜入ご苦労様です、川内隊員』

 

 

「これくらい余裕よ、余裕。」

 

 

川内が助手席に乗り込むと同時にパトカーは出発し、鎮守府からどんどん離れる。

そして、その運転席――実際に運転している訳ではないが――では、川内の相棒が愛用のノートパソコンと睨めっこしていた。

 

 

「夕張、そっちはどう ? 」

 

 

「パッと見た感じはプライベート用の端末っていう感じね。

 でも、不審はいくつもあるから、要調査ね。」

 

 

『一度、GGGに帰還しましょう。猿頭寺オペレーターの手を借りれば、何か分かるかもしれません。』

 

 

2人が乗車するパトカーに備え付けられたスピーカーから男性の声が響く。

 

 

「そうだね。ついでに陽炎たちと合流しようか。」

 

 

「―――という訳でボルフォッグ。一先ず、別働隊と合流しましょ。」

 

 

『了解しました。ウルテクエンジン、全開 !! 』

 

 

いつの間にか海岸線に出ていたパトカーは砂地を諸ともせず、海に飛び出した。

そのまま海の底に沈んでしまうかと思いきや、パトカーは海上を走り、やがて周囲の景色と溶け込むようにその姿を消すのだった。

 




GGGの諜報部のメンバーは川内、夕張、ボルフォッグの三人以外にも居ます。他のメンバーは別の仕事を進行中です。

ボルフォッグをはじめ、勇者ロボ軍団は先の戦いでボロボロになっていますが、妖精さんのおかげで修理が終わっています。
妖精さんの設定はこの作品独特のモノになっています。


2016.4.16改訂
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