記憶喪失な雪風と勇者王(改訂中) 作:蒼妃
雪風 Side
「さて、待たせたね。」
「うう……負けちゃった……」
ひと段落したのか、響さんと潮さんがようやくこっちを向いてくれました。
「歓迎するよ、雪風に初霜。第77駆逐隊へようこそ。」
「今日からよろしくね。」
「「よろしくお願いします !! 」」
「さてと、取り合えず色々決めないとね。
2人は畳かベッド、どっちが良い ? 私たちは畳みで寝てるけど。」
「雪風は畳の方が良いです。初霜さんは ? 」
「私はどちらでも構いませんよ。」
「じゃあ、全員畳だね。模様替えする必要がなくて助かるよ。
布団はあそこの中に人数分入ってるから。」
そう言って、響さんは扉のすぐ横にある押入れを指差しました。
「それから、私物も押入れの中に入れるように。
空きが足りなくなったら買い足すけど、今は押入れで。」
「2人の荷物ってどれくらいあるの ? 引っ越しとか手伝うけど……」
「ほとんどありませんよ ? 座学で使った教本ぐらいです。」
潮さんの質問にそう返事をすると、響さんも潮さんもビックリした表情を浮かべました。
わたし、何か変なことを言ったでしょうか ?
「えっと……初霜ちゃんも ? 」
「はい。」
「……2人とも空き時間とかどうしてたの ? 丸一日訓練って訳じゃないよね ? 」
「部屋で座学の復習とか予習とか」
「あとは霊力のコントロールの練習ですね。」
「―――ということは、町に出ることもなく、給料は手つかずの訳か。」
「そうですね。着任してからは訓練以外で外に出たことはないです。」
別に基地から出てはいけないという規則はありません。
夢幻島にある町に行けば、いろいろなモノが買えるそうですが、わたしも初霜さんも特に欲しい物がある訳ではなかったので外に出なかっただけです。
あっ、補足しておきますと、わたしたちはきちんとお給料貰ってますよ ?
補給とか艤装の整備はタダでできるので、今まで使ったことはありませんが。
「……潮、明日の予定は ? 」
「午前の訓練だけですね。受注してるクエストもありませんし。」
「じゃあ、午後からの予定に外出って付け加えておいて。」
「分かりました。」
「雪風と初霜も明日の午後は空けておくように。これは旗艦命令だよ。」
響さんが有無を言わせないような雰囲気でそんな命令をしてきました。
そして、その直後。ベイタワー基地全体に緊急事態を報せるアラートが鳴り響きました。
『緊急事態発生 !! 海上機動部隊隊員は至急ビックオーダールームに集合してください !! 』
「やれやれ。今日はゆっくりできると思ったんだけどな。」
「仕方ないよ、響ちゃん。雪風ちゃん、初霜ちゃんも行くよ。」
「「はい !! 」」
■ ■ ■ ■ ■ ■
Another Side
――GGGベイタワー基地 ビックオーダールーム――
「長官。一体、何があったんですか?」
「うむ。つい先ほど、輸送船の護衛に出ている部隊から緊急連絡が入った。
姫級の深海棲艦をリーダーとする敵の艦隊が久野島へ向かっている。」
長官の報告に緊張が奔る。
何故なら、久野島はGGGにとって重要な拠点の1つであるからだ。
久野島は夢幻島から数海里離れた場所に存在する無人島であり、その島では潤沢な資源を手に入れることができる。その島から得られる資源はGGG海上機動部隊の運用に使われる他、民間企業を介して本土へ輸出される。
なので、そこを奪われると、いろいろと問題が発生してしまう。
「長官、追加の連絡です !! 護衛対象の輸送船が逃げ遅れているみたいです !!」
「ふむ……猿頭寺くん。護衛艦隊から敵の編成に関する情報は ? 」
「現時点で駆逐級が3隻、重巡級が2隻、戦艦級が2隻。
それ以外にも、3隻の空母級と姫級の深海棲艦が確認できるそうです。」
「elite個体やflagShip個体は?」
「戦艦級及び空母級はflagship個体、重巡級及び駆逐級はelite個体とのことです。」
「向こうも本気ね。それだけ、あの島の資材が欲しい訳か……」
猿頭寺の報告に満潮は呟く。
深海棲艦には、通常個体の他に赤いオーラを纏った個体――elite個体、黄色いオーラを纏った個体――flagShip個体っといった上位の個体が確認されている。
上位個体は、通常個体に比べると全体的に能力が向上しており、戦艦級のflagShip個体にもなると、かの有名な大和型戦艦でも一発で大破させる可能性がある。
そんな個体が徒党を組んで、1つの島に向かっているのだ。
深海棲艦が、久野島の存在をかなり重要視しているのが分かる。
「第1艦隊は第3艦隊と共に輸送船の防衛、深海棲艦の撃滅に当たれ !!
大鳳くん、君も出て貰えるか ? 」
「はい。」
長官の秘書を務めている大鳳に出撃命令が下る。
ちなみに、彼女はGGGの艦娘の中で唯一、海上機動部隊に所属していない。
普段は秘書をしており、戦力が必要な時にピンチヒッターとして、参戦する。
大鳳も古参に分類される艦娘な上、GGG海上機動部隊唯一の空母娘なので、居る居ないの差は大きい。
「長官、第77駆逐隊も第2艦隊として出撃させても構わない ?
護衛に出てる艦隊と一緒なら、素人が入っても大丈夫な筈だし。」
「うむ、許可しよう。」
「ありがと。さぁ、全員さっさとタケミカズチに乗りなさい !! 」
―――了解!!―――
満潮の言葉を皮切りに命令を受けた面々は行動を開始する。
素人の雪風と初霜は響と潮が先導してタケミカズチへ乗り込み、他の面々もタケミカズチへ乗り込む。
そして、ビックオーダールームにGGGオペレーターの面々と陸上機動部隊の隊長である凱だけが残された。
「卯都木くん、満潮くんに通信を繋いでくれ。」
「はい。」
機動部隊のオペレーターを務める女性、卯都木 命は満潮に秘匿通信を繋げる。
すると、スピーカーから不機嫌そうな声が発せられる。
『何か用? こっちは出撃準備で忙しいんだけど。』
「すまないな。雷牙博士からの伝言を伝えておくのを忘れていたんだ。
『まったく……あの爺さんも心配性ね。』
スピーカー越しに呆れの感情が交じった声が聞こえる。
『大丈夫よ。私の身体のことは、私が一番分かってるわ。
前に使ってから十分休憩も摂ったし、何の問題もないわよ。
じゃあ、そろそろ出撃だから。』
そう言い残して、満潮は通信を強制的に切断する。
「スワンくん。“Gアーマー”の開発状況はどうなってる。」
「難航してマース。少なくとも、あと2カ月は掛るそうデース。」
「そうか……」
「大丈夫ですよ、長官!! 本当に危なかったら、私と凱が止めますから!!」
「ああ、頼んだぞ。」
■ ■ ■ ■
――高速射出甲板空母タケミカズチ内部――
雪風 Side
「今回の作戦を説明するぞ。」
タケミカズチがベイタワー基地を出ると同時に作戦会議が開かれました。
艦橋には、満潮さんが旗艦を務める第1艦隊、私と初霜さんが所属することになる第77駆逐隊。そして、ピンチヒッターの大鳳さんが集まっています。
「久野島周辺の海域では、すでに戦闘が始まっている。
今は、護衛部隊が島と輸送船の防衛に当たっているが、そう長くは持たないだろう。」
メインモニターには、目的海域の情勢が映し出されています。
敵の艦隊は駆逐級と重巡級を先頭に出して、防衛部隊と戦闘と繰り広げていますが、制空権を取られている上に物量的にこちら側が不利です。。
「そこで第1艦隊は敵背後に展開、第2艦隊は護衛艦隊と合流。敵艦隊を挟撃する。
重要なのは第1艦隊が迅速に敵艦隊を撃滅することだ。満潮、できるか ? 」
「誰に言ってるのよ。30分以内に終わらせるわ。」
「火麻参謀、私はどうすればいいでしょうか ? 」
「大鳳は第1艦隊の援護に入ってくれ。」
「了解しました。」
「よし !! 全員、気を抜くんじゃねぇぞ !! 」
―――はい!!―――
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
「ううっ……緊張します。」
「そういえば、2人は今日が初出撃だったね。」
「はい。今までは演習ばかりだったので……」
「―――ってことは、あんまり艦娘の戦闘に慣れてない訳か。」
響さんの言葉に頷きます。
「どうします?」
「まあ、大丈夫かな。私たちは今回、護衛艦隊の手伝いだし。」
そう言いながら、響さんはリフトに乗りこみました。
私たちも続いてリフトに乗ると、4人を乗せたリフト上へ上へと昇って行きます。
そして、到着したのは広い円形の通路。
「第77駆逐隊、出撃するよ。」
響さんの声に反応して、天井からわたしたちの艤装が降りてきました。
艤装を装着し、準備完了です !! ―――っと言いたい所ですが……
「あの……響さん、潮さん。その手に持ってる武器はなんですか ? 」
響さんと潮さんはわたしたちとは少し違う武装を持っていました。
響さんは赤色の宝石がはめ込まれた白い籠手に錨のような武装。
潮さんは金色のドリルが付いた黒い槍のような武装をそれぞれ持っています。
「ん ? Gウェポンのことは習ってないのかい ? 」
「ああ、それがGウェポンなんですね。初めて見たので分かりませんでした。」
GGGの艦娘の切り札、Gウェポン。
詳しいことはわたしも知りませんが、特殊な宝石を動力源とする武装の総称だそうです。
中には戦艦級深海棲艦の装甲を容易く貫けるような武器も存在するらしいです。
『おい、準備はできたか ? 』
「―――っと、火麻参謀がお待ちだ。準備完了だよ。」
『よし。今から射出するが、すぐに戦闘になるからな。気をつけろよ。』
「了解だよ。」
刹那、銀色の粒子がまるでボールのように私たちを包み込みます。
「第77駆逐隊、出るよ。」
物凄い加速度を感じた刹那、銀色の粒子がはじけ飛んで、外の様子が確認できるようになりました。視界に飛び込んできたのは、蒼い海と砲撃によって次々に水柱が立ち昇る光景。どうやら、もう戦闘が始まっているみたいです。
「――――って、此処空中じゃないですか!!」
「そうだよ。」
「私たち、落下傘なんて持ってきてませんよ!?」
いきなり空中に放り出されたことに慌てる私と初霜さん。
一方で響さんと潮さんは、こんな状況に慣れているかのように落ち着いてます。
「うん。上手く着地しないと、結構痛いから気を付けてね。」
「これに関しては私たちも補助できませんからね。」
「「へっ?」」
次の瞬間、私たちは海面に墜落し、特大の水しぶきを上げることになったのは言うまでもありません。
久野島という地名はオリジナルです。
この作品では、一部の地名を除いてオリジナルで行こうと思っています。実在の地名を使うと、いろいろ面倒になりそうなので。(主に位置とか面積で)