弟は姉と彼の地にて斯く戦えり   作:バラナリ

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第二十一話 シスコンは狙撃勝負する

アルヌスの難民キャンプが一つの大きな町へと発展し、日本が帝国との講和に向けて動き出している頃、アルヌスの基地で非番のため暇をしていた栗林咲人の携帯が鳴った。画面を見るとメールが一件表示されて、内容確認する。

 

『すぐに射撃訓練場まで来い。 的射』

 

何とも簡潔的な文章である。

 

『了解です。すぐ行きますね。 咲人』

 

咲人は特に疑問もなくすぐに返信してその場所へ向かった。

 

 

 

とぼとぼと歩いて訓練場へ向かい、少し先に見えてきたところで何やら人がたくさん見えてきた。他の部隊が訓練しているというわけでもない。そして、なぜ的射がこんなところに呼び出したのかを考え始める。なぜ射撃訓練場なのか、などを考えながら歩いていると、距離が近くなり当然ながら人の顔もはっきりと見えて来るわけだ。そして見知った顔を見つけ嫌な予感がして、やっぱり引き返そうとした時、見知った顔に声をかけられてしまった。

 

「よ~咲人。待ってたぜぇ」

 

と何とも嫌な笑みを浮かべている。

 

「お久しぶりですね、渡辺さん。っていうか待ってるのは的射さんです。渡辺さんにご用はないですよ」

「それがそうでもないんだな~。まあまあこっち来いって」

 

日本での伊丹たちの国会議事堂周辺の防衛、ホテル監視で咲人と一緒だった特戦群の渡辺だ。そしてここにいる人は咲人以外は特戦群である。渡辺についていくと呼び出した的射の姿があった。

 

「急に呼び出してすまなかったな」

「ほんと何のために呼んだんですか。カツアゲしようたってそうはいきませんよ」

 

小柄な咲人を屈強な男が周りを囲む姿はまるでそれを思わせる。

 

「カツアゲじゃないが、ちょっとした賭けだな」

「賭け? まさか金を賭けろと!?」

「そんなことはしないさ。負けたら罰ゲームを受けるだけだから」

「嫌な予感的中かぁ。それでなにで勝負するんです?」

 

すると的射が射撃場の円状の的を指さす。

 

「射撃対決だ。ルールは簡単、お前と俺で5発撃って的に当てた点数の高い方が勝ちそれだけだ。そして、その他はどっちが勝つかってのを賭けるってなわけだ」

「それで罰ゲームの方の方は?」

「勝ったら腕立て100回、負けたら腕立て500回だ」

「勝っても負けても結局やるんですね・・・。これって訓練か何かですか?」

 

その質問を待っていたとばかりに渡辺と的射が前に出たきた。

 

「暇を持て余した──」

「特戦群の──」

「遊び──」

 

的射と渡辺が手の甲を前で組んだポーズをとっている。ネタ合わせをしていたと思わせる完璧な流れだった。渡辺はともかく普段、出来る男を醸し出す的射の姿は何ともシュールであった。そしてそんなこんなで、的射vs咲人の対決が始まった。

 

 

 

 

咲人は武器庫から持ってきたM24を二脚で立て伏せ撃ちの体勢で構えていた。先攻は的射で見事に中央の5点を5発とも撃ち抜いていた。そして、約七割の特戦隊員は的射が勝つと賭けている。おそらく絶大な信頼から、残り三割の変わり者は過去の的射を負かした実績から咲人を選んだのだろう。

スコープを覗き、目標を捉える。目標からの距離は500m。狙うは中央の5点のみ。

 

意識を集中させる周りの音が遠くなり、自分の心臓の音だけが咲人の中でこだましている。息を止めレティクルが的の中央を捉えたその瞬間に引き金を引く。銃声が響くと同時に溜まっていた息を吐き出した。レバーを持ち上げて前に引いて薬莢を出し、新しい弾を装填する。

 

これを5度繰り返し、咲人の射撃は終わりを告げた。

 

弾痕の命中位置を知らせる小火器射撃評価システムによって手元の映像装置に結果が映し出される。結果は5発中5発ともに中央を捉えていた。

 

そしてこの段階で両者引き分けとなるのだが、これではつまらんとのことで延長戦のサドンデスが決まった。延長戦は弾薬の節約のため1発を交互に撃つ形になり、先ほどと同じように的射からだ。的射が射撃姿勢をとって目標を狙う。その目標を狙う目はまさしく『鷹の目』を彷彿とさせた。それを少し後ろで見ている咲人は隣の渡辺に小声で話しかけた。

 

「そもそも勝負がしたいなら的射さんと渡辺さんでやればいいじゃないですか。渡辺さんだって腕の立つ狙撃手でしょうに」

「俺じゃ的射を負かせられないんだよ。いっつも僅差で負けちゃうからさぁ。たまには的射に危機感を与えないと張りがないだろ」

 

かくいう渡辺も立派な狙撃手だ。特戦群の中でも的射に次ぐ二番手でもあり、実はすごい人なのだ。すると銃声が響き、的射の結果が出される。やはり的の中央を捉えていて、その実力を発揮していた。的射が撃ち終わり、咲人の番となった。

 

 

 

 

 

延長戦に入ったものの、計10発目の段階まで互いに中央を捉え続け勝負が決まらなかった。10発目、的射はまたもや中央を射抜き、咲人を見た。そして、的射は勝負に出た。的射が咲人に近寄っていく。

 

「さすが的射さん。ここまで来ても集中途切れさせないなんて」

「まあな、お前もなかなかやるじゃないか」

「絶対負けませんからね。見ててくださいよ!」

 

意気込む咲人を的射が潰しにかかった。

 

「そういえば、お前のインタビュー見たんだけど」

「えぇ! あれ見てたんですか!?」

「ああ、なかなか楽しませてもらったぞ。おまけにあの後お前に付いた異名も聞かせてもらった」

 

これを聞いて咲人は嫌な記憶がよみがえる。最近ではあの不名誉な異名で呼んでくる人はほとんどいなくなり、やっと落ち着いてきた頃なのだ。あの放送の後、彼女持ちの同期などから散々笑いのネタにされ意気消沈していた時期もあったくらいには気にしていた。

 

「そ、そんなの。き、気にしてなんていませんから。ええ、これっぽちも」

 

半ばやけになって返したが、完全に動揺していた。自分の順番が回ってきたが心をは完全に大荒れである。射撃姿勢をとってスコープを覗き、意識を集中させるが全く集中できずにいた。心臓の音もいつもより早く、さらに集中を妨げた。「気にするな、気にするな」とつぶやき、自分に喝をいれるが効果もない。荒れるレティクルが中央を捉えた時、引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

腕立てが半分を超えたところで、一休みしようと体を地面に預ける。

 

「こら休むんじゃない!」

 

頭上から声が飛んだ。見上げると的射の姿があり咲人を見下ろしている。

 

「ちょっとだけ・・・休憩を・・・」

 

息を切らせ這いつくばっている咲人の横腹をつま先でつつく。

 

「あと250回あるぞ。さっさと終わらせろ」

 

ここまでくると勝敗がわかったであろう。最後の一発はわずかに中央をそれて4点に命中し、勝敗が決した。的射が特戦群で叩きこまれた『どんな手を使っても任務を成功させる』という精神が上回った結果である。実際のところ長引かせると弾薬の消費がすさまじくなるという判断もあったのだが、そもそも入隊して数年の若手に精神攻撃に耐えろというのも酷な話だ。

 

「次こそは負けませんよ。今回は動揺して勝ちを譲りましたが二度と同じ手が通用すると思わないことです!」

「そいつは楽しみだな。お前が特戦群に来たらいくらでも戦ってやる」

「やってやろうじゃねぇですか!! 今に見てて下さい、そんな涼しい顔が出来ないようにしてやりますよ!!」

 

咲人自身としても今回の敗北は屈辱極まりない、まさか的射が精神攻撃を仕掛けてくると思ってもいなかったのもあり、悔しさを爆発させていた。

 

他の特戦群の隊員たちはすでに罰ゲームを終えてそれぞれが帰り始めている。咲人に懸けた隊員も500回を終えていた。その中、少し遅れて腕立てを終えた咲人は仰向けで夕刻の空を眺めていた。そして、どこからか水の入ったペットボトルが飛んできた。ペットボトルをキャッチして、飛んできた方を見ると的射の姿があった。

 

「お疲れさん。これでも飲んどけ」

 

お礼を言って咲人は蓋を開けて喉へ水を流しこんだ。

 

「この後、町の方で飲みに行かないか?」

「まあ、いいですけど。大丈夫なんですか?」

「何が?」

「いや、明日任務とかあるんじゃないのかなって」

「ん? あぁそれは気にするな、酔うほど飲むつもりもない」

「それじゃあの店でいいですかね」

 

そうして、咲人と的射はアルヌスの町へと出向くのであった。

 

 

 

 

 




大変お待たせいたしました。更新が止まってしまい申し訳ありまんせでした。
咲人の過去については次回にさせていただきます。

いつものように感想、アドバイスを募集しております。
特に戦闘シーンなどについて頂けると今後の改善に役立つのでお気軽にお聞かせください。
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