弟は姉と彼の地にて斯く戦えり   作:バラナリ

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第二十二話 姉さんはヒーロー

咲人は的射と共にアルヌス共同組合の食堂へと向かっていた。的射は町を見渡して不思議そうにしている。

 

「なあ咲人、特地の町はみんなこんなんなのか?」

「いや、そういうわけでもないですよ。帝都でもここまで賑やかじゃないですし」

「ここが特別ってか?」

「まあ、そうなりますね」

 

迷彩服の二人組は雑談を交わしつつ、アルヌスの町を進んで行く。もう少しで目的の食堂だ。すると前方からとんでもないスピードで走ってくる一人の男の姿を捉えた。危機回避に掛けては右にでる者はいないとされる男である。

 

「伊丹隊長、どうしたんですか? そんなに必死に走って来て」

 

二人の横を走り過ぎた伊丹が戻ってきた。

 

「いやぁ、なんというか。ちょっとトラブルがあってだな」

「トラブル?」

「そうトラブル、決して『ToLoveる』じゃないぞ」

「何を言ってるんですか、隊長」

「分からないならいい、いやお前は永遠に知らなくていい。刺激が強すぎる」

 

後半は咲人には分からなかったが、とりあえず伊丹が何かトラブルに出くわしたということは確かだ。

 

「あの、とりあえず立ち話もなんなんでお店行きましょうよ。隊長も一緒に」

「今からか? 的射も一緒に?」

 

的射が伊丹に軽く挨拶した。

 

「それじゃ、さっさと行きましょう」

「行くってどこに?」

「もちろんあの食堂に」

「あの食堂って、デリラのいる食堂?」

「ええ、もちろん」

 

とたんに伊丹の顔から焦りが見え始めた。

 

「いや、あの食堂は止めよう。絶対にダメだ」

「急にどうしたんですか!?」

「と、とにかく、あそこはダメだ! そ、そうだ最近うまい店が出来たらしいから、そこに行こう。たしか『ボンクラ』とか名前のお店だ」

 

何故か盛大に慌てている伊丹の懇願により、噂の『ボンクラ』なるお店に三人は向かうのだった。

 

 

 

 

 

『ボンクラ』なる店では、迷彩三人組が酒を酌み交わしていた。的射が問いかける

 

「そういえば、どうしてお二人さんは自衛隊に?」

 

最初に答えたのは伊丹だった。

 

「そりゃ、安定してるからだろ。金もそこそこ貰えるし」

 

誰もが予想出来たし、もはや周知の回答である。

 

「自分は姉さんの影響ですかね」

 

もはや言うまでもない。それに対して、伊丹が返す。

 

「ずっと思ってたんだだけど、何でそんなに好きなんだ?」

「それ聞いちゃいます? 聞いちゃいますぅ?」

 

酒が入っているせいか、咲人の口調がおかしくなっていた。

 

「話せば長くなりますけどぉ、そうですねぇ。あれは小学生の時のことです」

 

 

 

 

 

それはまだ咲人が小学校に入って間もない頃だった。当時の咲人少年は気が小さく、それでいて背の小ささも学年一だった。気が小さくて、背も小さい咲人少年は所謂いじめっ子の攻撃対象だった。攻撃と言っても中高生の陰湿ないじめではなく、ドラえもんのジャイアンとのび太のようなものをイメージして欲しい。

 

その日もガキ大将とその他会って数人に公園で泣かされ、泥まみれになっていた。ガキ大将たちはそんな咲人を見てゲラゲラと笑っている。咲人自身は反撃など出来るはすがなく、泣くことしか出来なかった。そうそんな時だった。

 

「ちょっとアンタたちうちの弟に何してんのよ」

 

どこからか現れた姉は弟を守るようにガキ大将の前に立った。当時から相変わらず小さかった長女、目の前のガキ大将は肉付きが良く体格も立派だった。そして数的不利も明らかだ。

ガキ大将たちは小さい志乃を見て、自分たちの勝利を確信していた。自信の満ちた顔からも想像できる。これは誰が見てもガキ大将たちに軍配が上がると思うだろう。

 

しかし結果は、

 

「もう・・許ひ・・・て」

 

志乃がガキ大将に馬乗りになり、顔を殴り付けている。ガキ大将の顔からはもとの自信に満ちた顔は消えうせ、恐怖と痛々しさしかなかった。その他のやつはとっくに悲しいことになっていて、誰一人として助けに来ない。それに対して馬乗りになっている志乃は何故か少し楽しそうなのだ。

一通り殴り終え、本人も満足したのかガキ大将から離れると一言。

 

「次うちの弟に何かしたら、分かってるでしょうね」

 

ガキ大将たちは一目散に逃げ出していった。そして志乃は未だ泣いている咲人に近付いていく。

 

「ほら、いつまで泣いてんのよ。あたしの弟なんだからもっと堂々としてなさい。そんなんだからイジメられらの、ほら家帰るわよ」

 

咲人を腕を引っ張って立たせた志乃は、咲人の顔についた泥をぱっぱと手ではらった。ようやく泣き止んだ咲人の手を引っ張って家への道を歩いていく。

 

「またイジメられたらあたしに言いなさい。あたしが守ってあげる」

 

それ以降、咲人は一切のイジワルをされなくなった。

 

 

 

 

 

 

長々と語った咲人はビールを飲んでいる伊丹を見る。

 

「ってことがあってですねぇ。っていうかちゃんと聞いたましたぁ?」

「えっあぁどこまで話してたっけ?」

「ほぉら聞いてないじゃないですかぁ。まったくもぉ、とにかく俺にとって姉さんはヒーローなんです。正義の味方なんです!」

「咲人にそんな過去があったとは」

 

的射が感慨深そうにしている。そんな中、まだまだ語ろうとしている咲人、しかしそろそろ基地に戻らなければならず伊丹が会計している。

 

「今日は伊丹二尉のおごりってことで」

「流石隊長! 太っ腹ですねぇ」

「んなことあるか割り勘だ、割り勘!」

 

そんなこんなで彼らはまた忙しい毎日へと向かっていくのであった。

 

 




今回は咲人の過去回となりました。たまにこんな感じで過去回を挟んでいけたらと思ってます。
今回の的射さんは陰薄かったですね。これからも的射さんには頑張ってもらう予定です。


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