避難民たちのテント生活をあまり長引かせるのは良いものではない。という黒川と志乃の連名で意見具申を受けた伊丹はアルヌスの丘から南に約2キロ。その中のコダ村からの避難民である子ども達や老人達のキャンプを建設することにした。
実際に建設するのは、施設科の隊員たちである。しかし、彼らを手配するのは色々と手間がかかった。だが始めると早いというのが自衛隊である。瞬く間に森を切り開き、重機で地面をならす。そして簡易的であるが家が建てられていく。そんな光景をレレイは口をあんぐりと開けて見ていた。
「なんじゃこれは?」
「私たちの家を建てているらしい」
「ほお・・・・・これでやっと荷車から荷物を下ろせるわい。儂はもう寝る」
レレイはテントに消えていく師匠に大いに同意したかった。知識のない老人や子どもなら素直に驚けている。素直に感心し、そう言うものだと納得していた。なまじ、多くの知識を有しているが故、理解の難しい非現実的な出来事にレレイの頭脳はオーバーヒート寸前だった。
レレイもテントに戻ろうかと思っていると、エルフの姿を見つけた。エルフも茫然と家が建てられていくところを見ていた。
「どうかしたか?」
「いえ・・・・こんな凄い光景見逃したなんて知ったら、お父さんきっとがっかりするわね。あとで教えてあげなきゃ・・・・」
すると、作業をしていた人に「危ないから」と言われその場をあとにした。
アルヌス基地にはお風呂も設置され、隊員や避難民も含め利用可能になっている。咲人も風呂に入るため訪れていた。
「咲人、これからお風呂?」
女湯の前で良からぬヤツが入らないように警備している志乃である。
「まあ、そんなとこかな?」
「そう言えば少し前に伊丹二尉が入ってったけど」
「へぇー、姉さんは入らないの?」
「わたしはここの警備だから忙しいの」
すると防護服にガスマスクという異様な出で立ちの人が近づいていてきた。志乃はとっさに身構える。
「誰か!?」
マスクを外すと防護服の人はレレイだった。
「外を調べに出ていた。これは借り物、汗かいた」
そして、そのまま中へ入っていった。
「すっかり日本語覚えたのね」
「ほんと凄いスピード、俺も頭良くなりたいわ」
「あたしたちには縁のない話ね」
「"たち"ってなんだよ。姉さんと一緒にしないでよ」
「あんたはわたしの弟なんだから似たようなもんでしょ!?」
「俺は姉さんみたいに脳筋じゃないから」
その言葉で志乃が切れることは咲人も予想していたため、すぐさま男湯の脱衣場の中へ避難した。予想していたなら言わなきゃいいのにというツッコミはなしだ。ここなら安全っとほっと息を吐いたが背後の凄まじい殺気に気付く。後ろ振り向くと姉がいた。
「ちょっ、何で入って来てんの!?」
「中にはあんたしかいないって知ってるからよ」
「伊丹二尉がいたらヤバかっただろ」
「この時間ならとっくに湯船に行ってるわよ」
「だからって倫理的に・・・・・うぉっ」
襟を掴まれ外に引きずり出され、そのまま姉の制裁が始まる。いくつかの絞め技が休む間もなくお見舞いされる。コダ村の避難民や隊員を含め、まるで見せ物のように集まっていた。隊員からしたらそろそろ見慣れた光景だか、コダ村の人は本気で咲人を心配していた。
姉の制裁が終わり、見物人も去っていく。咲人もよろよろと立ち上がって男湯へ入る。体を洗って湯船に浸かると先に入っていた伊丹に話しかけられた。
「外騒がしかったけど、何かあったのか?」
「いやっ特には・・・・ちょっと姉に痛くされただけです」
「って、お前らほんと仲いいな」
「そうっすね。そこいらのきょうだいより仲はいいと思いますけど」
「そう言えば最近、コダ村の人たちと良く一緒にいるけど何してるの?」
「レレイたちに日本語教えてるんですよ。おかげでレレイに関してはだいぶ話せるようになりました」
「へぇー、そいつは凄いな」
間の抜けた声で伊丹が答える。
「そう言えば二尉、テュカについて何か聞いてます?」
「いや、俺は何も。テュカがどうかしたのか?」
「自分もよくわからないんですけど。姉さんたちが話していたので」
「なるほど、まあ何かあれば報告が来ると思うからそれからだね」
「そうですね・・・・」
咲人と伊丹は二人で風呂から上がり、それぞれ宿舎へと戻っていった。
この作品としては日常回を挟みつつ、物語を進めていきたいと思っていますので、本編の進行スピードは割りとゆっくりです。
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