伊丹は朝から携帯でお気に入りのサイトのネット小説を読んでいた。
「おぉ繋がった!特地にアンテナ設置されたって本当だったんだ。うあ更新されてるチェックチェックぅ」
「あのー?」
「うおぁ! これは保存せねば、やべえ危うく見逃すところだったぜぇ」
「あのー」
「ったくweb小説はいつ消えるか分からないからなあ」
「隊長」
「隊長!!」
「隊長さん呼ばれてますよぉ?」
志乃は伊丹の下腿をつま先で蹴りつけた。伊丹は唸り声をあげた。振り替えると志乃と黒川がジト目で見ていた。
「く、栗林いたなら早く言ってよ!?」
「ずっといました」
「隊長話を聞いて下さいませんか? テュカの様子がおかしいんです」
これを聞いて伊丹はふと先日風呂場で咲人と話したことを思い出す。おそらく咲人が言っていたことだろう。
「食事、衣類、居室全て二人分要求します。ですが一人分は全く手を着けないんです」
「個人的に欲張りなだけじゃないの? エルフが食欲魔神っていう設定とか?」
「違います。食事だって二人分というのは二人分の量ではなく、食器2セットの二人分なんです」
「誰かに食べさせてるとか、ペットを隠れて飼っているとかは?」
「1セット分は手をつけずに必ず廃棄しています。衣類だって余分に要求するのは男物です」
「念のため咲人に居住地の周辺を探させましたがペットなどはいなかったそうです。他の住民にも聞きましたがペットなどは見てないそうです」
伊丹はしばし黙って思案する。
「ふーん。で、理由は聞いたのか?」
「一番言葉の分かるレレイちゃんに同席してもらったのですが、まだ日本語も十分じゃないので要領を得なくて」
「もしかして脳内彼氏でも飼っているとか?」
伊丹は茶化すように言った。しかし、伊丹の期待した反応は帰ってこなかった。彼女らもそれに近いものを疑っていたのだ。
「はっきり言って、それならいいのですが」
「レレイの師匠・・・・カトー先生に尋ねてみてはどうだ?」
「尋ねてみました。カトー先生も同じような見解だそうです。テュカはエルフの中でも稀少な存在だそうで良く分からないと。わたくしとしては正直判断に困っています。あまり打ち解けてくれないので」
「わ、わたしはそんな感じはないです。第一、わたしにはカウンセリングとか出来ませんし。心理学とかよくわからなくて」
伊丹は確かに志乃では無理だなと思い、素直に頷いた。
「分かった。あとで俺からも話してみよう」
会話がここまで進んだところで、廊下から桑原曹長の声が聞こえてきた。
「隊長、そろそろお時間です。黒川、栗林、お前らも早く来い」
いそいそと伊丹たちは廊下へ出ていった。
志乃たちが伊丹と話している間、咲人はレレイとカトー先生にドラゴンの鱗について聞いていた。三度のアルヌスの戦闘によって死んだドラゴンの鱗はレレイたちが一枚一枚、剥ぎ取って回収していたのだ。
「ドラゴンの鱗ってどれくらいで売れるんだ?」
「この鱗、一枚でデナリ銀貨三十~七十枚くらいなる、らしい」
まだ完璧ではないがレレイの日本語は十分なほどであった。
「らしいっていうのは?」
「私、商人じゃない。だから値段、分からない」
「なるほどねぇ」
デナリ銀貨一枚は節制すれば一人で五日は食べられるらしい。レレイ達は計二百枚ほど集めていたため、相当な額になるだろう。
「売れない鱗とかって貰えたりする?」
「傷ついているけど、それでもいい?」
「十分十分、そういうので構わないから」
「わかった。後で取りに来て」
「サンキュー」
咲人はドラゴンの鱗に興味を持っていた。あとで色んな人に自慢もできるという、不純な動機もあったが。
「やっばそろそろ時間だ。それじゃあまた後で」
レレイたちと別れ、咲人は武器庫へと走っていった。
「武器搬出!!」という号令と共に、502中隊の隊員が小隊ごとに列を作って武器庫へと入っていく。第三偵察隊の面々も列に続き、武器庫から銃を取り出していった。
隊員たちは計一二〇発の弾と手榴弾が配られた。勝本が小銃の他にパンツァーファウストⅢを受け取っていた。そして、咲人は小銃と1つのハードケースを受け取る。ハードケースを早々に自分の乗る七三式トラックに積み込み、咲人は自分の小銃にスコープを取り付けた。その他積み込みの作業を終えると全員が武器を携行する。そして、桑原曹長の号令で素早く隊形組む練習をした。
その後、避難民の居住地まで赴いてレレイ、ロゥリィ、テュカを乗せイタリカへと向かった。車内では咲人の受け取ったハードケースについて質問が飛んでいた。
「どうしてそれ持ってこれたのよ?」
「要望を出したら、通った」
「なんであんたなんかの要望が通るのよ!? 意味が分からない」
「別に俺が特別ってわけじゃないさ、他の部隊にもいくつか渡ってるみたいだし。まあこれを実際に使う時が来るか分からないけど」
伊丹率いる第三偵察隊がアルヌスを出発してから少したった。すると前方に煙があがっているの見つけた。
「またドラゴンか!?」
「となるとやっかいだけど」
一度、炎竜を撃退しているとは言えあの大きな図体である。全く怖くないと言ったら嘘になる。車内の空気は少し張りつめていた。
煙の発生源は第三偵察隊が向かっているイタリカの方向である。そして伊丹からの無線が入った。
「周囲の警戒を厳にして、街へ近づくぞ。特に対空警戒を怠るなよ」
少なからず伊丹もドラゴンを警戒しているようだ。七三式トラックの中では左右の警戒、及び上空への警戒を始める。
そして車列は再び走り出し、イタリカへと向かっていく。
さて次回はイタリカ攻防戦です。お楽しみに!
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