偽書魔法少女しゅな☆マギカ PSEUDEPIGRAPH PUELLAMAGI SYUNA MGICA   作:ジャックノルテ

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幕間6 隠し事を持っている物ですから 中

 

 わたしが少しがんばって駆け足で暁美さんのアパートに戻ると暁美さんはまだ帰って来て無かった。

 一息付いて落ち着いたわたしは野菜ジュースを冷蔵庫に入れると銅線やはんだ、電池の入った袋をテーブルの上に置いた。

 これで暁美さんに言われた事は終えたのでわたしは落ち着きを取り戻す事が出来た。

 後は暁美さんが帰って来るのを待つだけである。

 その時、玄関のドアを開く音がして暁美さんが帰って来たのがわかった。

「お帰りなさい。暁美さん」

「ただいま。朱奈。これが今日のお昼よ」

 そう言いながら部屋に入って来た暁美さんはテーブルの上にお弁当屋さんのマークが印刷されたビニール袋を下ろした。

 どうやら今日のお昼はお弁当屋さんで買って来たお弁当らしい。

 お弁当をビニール袋から出すと暁美さんは私が買って来た銅線やはんだ、電池の入った袋の中を検分していた。

「ちゃんとメモ通りに買って来た見たいね。じゃあお昼にしましょう。午後からは魔法の訓練をしなきゃ行けないのだから」

 暁美さんは脇のソファーに銅線等の入った袋を避けるとテーブルの上にお弁当を2つ、用意し始めた。それを見るとわたしは台所に向かい、ガラスのコップに野菜ジュースを2杯分注ぐとテーブルに持って行った。

「ありがとう」

 暁美さんがそう答えるのを聞いてわたしは暁美さんと向かい合う形でテーブルの反対側に座った。今日のお弁当は幕の内弁当と書かれている。

「いただきます」

 わたしは丁寧に手を合わせてから食べ始めたけれど暁美さんは黙って食べ始めていた。

 直ぐに暁美さんは幕の内弁当を食べ終えると野菜ジュースを飲み干していた。

 わたしはまだ食べ終わっていなかったけれど暁美さんに志筑さんと話した事を伝え様と話を切り出した。

「あのっ。暁美さん」

「どうしたの。朱奈」

 暁美さんは少し不思議そうな表情をわたしに向けていた。

 わたしが食事の最中に喋り出す事が無かったからだ。

「あのね。わたし買い物の途中で志筑さんに会ったの。午後は暁美さんと魔法の訓練をするって言ったら志筑さんも参加したいと言っているの」

「そう・・・。別に構わないわ。確かに志筑さんにも訓練に参加して貰った方が良いかも知れないわね」

 少し考える様子を見せた暁美さんは志筑さんが訓練に参加する事に異議は無いらしい。

 わたしは少し安心していた。

「それで志筑さんとは何処で待ち合わせをしたの?」

「えーと。スーパーの近くにある公園で1時に待ち合わせを」

 言いながらわたしは壁に掛けられた時計を見た。既に12時40分を過ぎている。

「いけない!速く食べないと!」

 そう言ってわたしは慌てて幕の内弁当を食べ終えようと必死になって食べた。

 何とか12時50分には食べ終わると玄関で待っていた暁美さんの元に急いで向かった。

「行きましょう」

「はい」

 玄関のドアを開いた暁美さんに促されてわたしも玄関を出た。

 黙って前を進む暁美さんに続いてわたしは歩いていた。

 歩いている間、暁美さんは一言も喋らなかったけれど、いつもの事なのでわたしは気にしなかった。

 わたしと暁美さんが公園に着くと志筑さんは既に到着してベンチに座っていた。

「暁美さん!朱奈さん!」

 並んで歩くわたしと暁美さんに気が付いて走り寄って来た志筑さんは先程と違い緑色を基調としたスポーティーなジャージ姿だった。

「志筑さん・・・。えっと・・・。その服装は?」

 少し驚きを見せながら暁美さんは問い掛けました。

「はい。魔法の訓練をすると言う事なので動き易い服装にしたのですけれど?」

 きょとんとした表情を見せながら答える志筑さんを見てわたしは感心していた。

 確かに魔法の訓練をするのなら動き易い服装になる必要がある!

「でも、私達は《魔法少女》なんだから変身すれば良いんじゃ無いかしら?」

「あ!」

「そう言えば、そうでしたわね」

 暁美さんに指摘されてわたしと志筑さんはようやくその事に気が付いた。

(そうだった・・・。《魔法少女》なんだから変身すれば良いんだよね・・・)

「でもジャージ姿ならウォーキングをしている様に見えるから、市内を回っていても違和感が無いわね。迂闊だったわ・・・」

 思わぬ暁美さんの返答を聞いて思わず、わたしは暁美さんの顔を見た

 真剣な表情をしている。横目で志筑さんを見ると志筑さんも驚いている様子だった。

「決めたわ。志筑さん。ここで少し待っていて。私もこれから朱奈とジャージを買って来るわ。ここで待っていて頂戴。行くわよ。朱奈!」

 暁美さんはそう言ってわたしの手を握って歩き出した。

「ではお待ちしておりますわ」

 志筑さんはそう言って手を振っていた。

「あっ暁美さん。何処に行くの?」

「確か駅前のショッピングモールにスポーツ用品店がある筈だからそこでジャージを買うのよ。ウォーキングを楽しんでいる人に見えればパトロールもやり易くなるわ」

 わたしの問いに答える暁美さんの表情に迷いは無かった。

 暁美さんに引っ張られるままにわたしは見滝原のショッピングモールに向かっていた。

 30分後、わたしと暁美さんはお互いの体のサイズに合わせたジャージを着て、志筑さんと待ち合わせた公園に戻った。

「待たせたわね。志筑さん」

「いえ。暁美さんも朱奈さんもとてもお似合いですわ」

 笑顔の志筑さんの瞳に写るのは黒と白を基調としたジャージを着込んだわたしと暁美さんの姿なのだろう。

 わたしを連れてショッピングモールにあるスポーツ用品店に入った暁美さんは暫くジャージを見るとお揃いの色でわたしと暁美さんのサイズに合った安いジャージを見つけると迷わずに買ってアパートに戻り、待ち合わせていた公園に戻って来た。

 結局、わたしが着ているジャージはわたしの身体に少しサイズが合わなくて腕と足は袖捲くりをしているけれど、そんなに着心地は悪くなかった。

「じゃあ早速、魔法の訓練を始めましょう。ここじゃ目立つから私と朱奈が良く行く河川敷へ行きましょう」

 そう言って暁美さんは先導する様に歩き始めるとわたしと志筑さんも続いた。

「はい。そこで魔法の訓練をするのですね?」

「ええ。一時間位、魔法の訓練をしたら、見滝原の周辺をパトロールしましょう。《魔女》や《使い魔》が何時出るとも限らないから」

 先頭を歩く暁美さんの歩調は少し速いのでわたしは何時もより少し速く歩かなきゃいけなかった。暁美さん、志筑さん、わたしの順でわたし達は歩道を進んで行く。

 数分で河川敷に着いたわたし達、3人は1時間程、魔法の訓練と戦いにおける連携の訓練を暁美さんの主導の元で行った。

 暁美さんが司令塔となりわたしと志筑さんの動きをテレパシーで的確に指示をして行くと言う戦法だった。日頃から《魔女》や《使い魔》との戦いにおいて連携の必要性を強く認識していたわたし達の連携に乱れは無く訓練は問題無く終わった。

「訓練はもう良いわね。後は3人で街をパトロールしましょう。この服装ならジョギングをしていると言えば怪しまれる事は無いわ。行きましょう」

 訓練を終えると暁美さんに促されてわたし達は3人で歩き始めた。

 河川敷に向かうのと同じ様に暁美さん、志筑さん、わたしの順で街を歩いて行く。

「そう言えば暁美さんと朱奈さんに質問をしても良いですか?」

 突然、志筑さんがわたしと暁美さんに問い掛けをして来た。

「質問って?」

「答えられる範囲で答えるわ」

 わたしと暁美さんの答えを聞いて志筑さんはわたしの方をチラッと振り返り口を開いた。

「暁美さんと朱奈さんの《魔法少女》としての服装は似ていますけど何か理由があるのですか?確か《魔法少女》としての服装は自分が持つ理想の姿の投影だとキュウべえさんはおっしゃっていましたけど・・・。朱奈さんにとっての理想が暁美さんなのですか?」

「えっ!?」

 志筑さんにそう言われてわたしはびっくりしてしまった。確かにわたしの《魔法少女》としての服装はわたしの好みを反映して肌の露出が少ない暁美さんの服装に似ていた。

 けれど暁美さんがわたしの理想の存在かどうかはまた別の問題だと思っていたのだ。

「確かにわたしと朱奈の《魔法少女》としての服装は似ているわね。朱奈。あなたの理想は私なのかしら?」

 暁美さんもそう言って来てわたしはどう答えたら良いのか困ってしまった。

「えーと。わたし、契約する前に暁美さんの《魔法少女》としての服装を見た事が合ったから暁美さんの服装に似ているのかも・・・。だって暁美さんの服装は肌が見えて無いから、わたしの好みだったから・・・」

 そこまで言ってわたしは恥ずかしくて俯いてしまった。

「朱奈さんは肌を見せるのが恥ずかしいのですか?」

 後ろを向きながら問い掛ける志筑さんにわたしは小さく頷いた。

「恥ずかしがる事はありませんわ。私(わたくし)、朱奈さんなら露出の大きい服装でも似合うと思いますわ。それに私(わたくし)だって昔は恥ずかしがりやさんだったのですよ」

 意外な志筑さんの回答にわたしは驚いていた。

「志筑さんが恥ずかしがりやさんだったなんて意外ね」

 先頭を歩く暁美さんも同じ様な驚きを表していた。

「そんな事はありませんわ。私(わたくし)も日本舞踊のお稽古を始めたばかりの頃は人前で踊る事に恥ずかしさを感じていましたけれど、お稽古を続ける内に恥ずかしさよりも踊る事の楽しさの方が優って行きましたわ」

(志筑さんでもそんな事があったんだ・・・)

 わたしは志筑さんの事を良く知らなかったけれど、こうして話す事で志筑さんの事を知る機会を得た。

わたしと志筑さんにも似ている所があると言う事をわたしに安心感を与えていた。

「服装と言えば・・・。志筑さんの《魔法少女》としての衣装は和服に似ているわね。あの衣装は志筑さんにとって理想の姿なの?」

「ええ。そうですわ。あの姿こそが私(わたくし)が抱く理想の姿なのです」

 暁美さんの質問に対して志筑さんが受け答えたのを聞いてわたしは志筑さんの《魔法少女》としての姿を思い浮かべた。

 浴衣か着物の様な服に腰には和服で使う帯をリボン結びにして付けていた。また両の手の拳には殴る事に特化したと思しきグローブが装着され右手のグローブには緑色のソウルジェムが手の甲に装着されて、髪には赤い玉の付いた櫛と扇を模した髪飾りが付けられていた。

 そんな志筑さんの姿を思い浮かべた時、わたしはある疑問を浮かべてしまっていた。

「ねえ、志筑さん。志筑さんの衣装はスカートだけど、どうして風の魔法でスカートが翻ったりしないの?」

 そう。志筑さんの魔法は風の属性を持っていた。けれどスカートがはためく事があっても中が見える事は無かったのだ。

「それは・・・」

 わたしの質問に対して志筑さんは少し上を向いてどう説明をするか悩んでいる様子だった。それを察した暁美さんが口を開いた。

「それは簡単な事よ魔法少女の衣装は魔力の塊よ。スカートの翻る方向位、簡単に制御出来るわ。それに、私と朱奈はタイツを履いているからそこまで気にする必要は無いんじゃないかしら」

「あっ。そっか」

 暁美さんに指摘されて思い出したがわたしと暁美さんの《魔法少女》としての衣装はスカートの下にタイツを履いていた。それに魔力でスカートの翻りをコントロール出来るのならスカートが翻って中が見えてしまうかも知れない事は気にする必要は無かったのだ。

「あの。申し上げ難いのですが・・・。私(わたくし)の衣装はスカートの下にスパッツを履いている構造になっておりますから、スカートが翻る事は考えた事がありませんでしたわ」

「え!?」

「そうなの?」

 志筑さんの意外過ぎる回答に暁美さんとわたしは驚いていた。

「暁美さんや朱奈さんと戦う事を決めてから、私(わたくし)、家で自分の《魔法少女》としての衣装がどんな物か、姿見を使って調べて見ました。それで衣装の構造が気になった物ですから、姿見の前でスカートを上げて確かめたのですわ」

「志筑さんの衣装はそうなってるんだ」

 わたしは志筑さんの観察力に感心していた。

 けれどこちらを振り向く暁美さんは若干、渋い表情を見せていた。

「あなた達。周囲に人がいないから良いけれど、志筑さん。もう少し言い方には気を付けた方が良いと思うわ」

 暁美さんに言われてわたしと志筑さんは慌てて周囲を見たが確かに誰もいなかった。

「あら。私(わたくし)とした事がはしたない事を。暁美さん。ご指摘、ありがとうございます」

 志筑さんは暁美さんからの指摘を受け入れ丁寧に頭を下げた。

 つられてわたしも下げてしまったけど。

「良いのよ。ここからは公園だから並んで歩きましょう」

 わたし達は少し規模の大きい公園に入ったので3人で横に並んで歩き出した。

 わたしの横で志筑さんと暁美さんは学校の勉強の事を話していたけど、わたしは話しに入る事無く耳を傾けていた。

 わたしは学校に行った事が無い。学校が勉強をする場所だと言う事しか知らない。

 けれど和らいだ雰囲気で話す志筑さんや暁美さんを見てわたしは学校と言う場所に強い興味を抱いていた。

(学校ってどんな場所なのかな?)

 暁美さんと志筑さんに聞いて見ようとした時、わたしの前にボールが転がって来た。

 思わずわたしが足を止めると暁美さんと志筑さんもボールに気付いて足を止めました。

「ボールう!」

 そこへ転がって来たボールの持ち主と思しき小さな男の子がわたし達の前に走って来た。

「まあ。あなたはタツヤくん」

 志筑さんがボールを拾った男の子に声を掛けると男の子はこちらを向いて笑顔を見せた。

「ひとー!」

 まだ上手く言えないのだろうか、志筑さんの名前を言うとこちらに近寄って来た。

「この子は」

 暁美さんは少し困惑している様子を見せていた。

「はい。この子はまどかさんの弟さんのタツヤ君ですわ」

 志筑さんは近寄って来たタツヤ君の頭を撫でていた。

「!!」

 この小さな男の子がまどかさんの弟のタツヤ君・・・。

 わたしは前の時間軸でまどかさんと親しかった為、まどかさんに弟がいる事は聞いていた。けれど会うのは初めてだった。

 タツヤ君は志筑さんに頭を撫でられながらわたしと暁美さんを見て不思議な物を見る様に見つめて来た。

「タツヤ!」

 タツヤ君を呼ぶ声を聞いてわたしは自然とその方向を見た。

 わたしの・・・。わたしと暁美さんが助けようとしている鹿目まどかさんがこちらに走って来ていた。

 脇に立つ暁美さんの表情を見ると暁美さんも驚いた表情を見せていた。

「ねーたん!」

 鹿目さんを見ると嬉しそうにタツヤくんは鹿目さんに駆け寄った。

「タツヤ。1人で遠くに行ったら駄目でしょ。あれ?仁美ちゃんにほむらちゃん。こんにちは。あれ?その子は?」

 わたしを見て鹿目さんは不思議そうな表情を見せた。

 視線が合いそうになってわたしは脇に視線を逸らしてしまった。

 この時間軸のまどかさんはわたしとは初対面だから他人を見る視線にわたしは耐えられなかったからだ。

「鹿目さん。この子は朱奈。わたしの従妹よ。わたしの家で一緒に暮らしているの」

 暁美さんはわたしの事を鹿目さんにそう説明した。

「へー。ほむらちゃんの従妹なんだ。よろしくね。朱奈ちゃん」

 鹿目さんは笑顔でわたしにそう告げて来たけどわたしは視線を外して小さく頷く事しか出来なかった。

「あれ?怖がられちゃったかな?」

「そんな事は無いわ。この子は少し怖がりなだけだから」

 鹿目さんが少し気落ちした表情を見せたので暁美さんはフォローに入った。

「そう言えば、ほむらちゃん達は3人でジャージを着て何をしているの?」

「それは・・・」

「私(わたくし)達、3人はウォーキング仲間ですわ」

 珍しく暁美さんが返事を上手く返さなかったのを聞いて志筑さんは直ぐに説明を始めた。

「知っていますか?鹿目さん。ウォーキングは生体リズムを整えて骨の老化を防いだりと色々な効果があるのです。健康である事を維持し続ける為にはウォーキングの様に適度に続けられる運動を行う事がお勧めですわ」

 瞬時に説明を終えた志筑さんの目は真剣その物だった。もしかしたら志筑さんは普段からウォーキングを行っていたのかも知れなかった。

「へー。そうなんだ。私も初めてみようかな?」

「ねーたん。遊んで!」

 鹿目さんがそう言った時、鹿目さんの足元にいたタツヤ君はそう言って鹿目さんの手を引っ張っていた。

「あっ。タツヤ。ごめんね。今、遊んであげるから。それじゃあ仁美ちゃん。ほむらちゃん。朱奈ちゃん。またね!」

「バイバーイ」

 鹿目さんとタツヤくんは手を振ってそのまま公園の広場の方へ向かって行った。

「私(わたくし)達もパトロールを続けましょう」

 そう言って志筑さんを先頭にわたし達は歩みを再開した。

「そうね。志筑さん。もしかして普段からウォーキングをしているのかしら?」

「そうですわ。ウォーキングの様に体調に合わせて加減の利く運動は習慣とするのにもってこいの運動なのですから」

 答える志筑さんの声に迷いは感じられなかった。

「それにウォーキングで街を回っていればパトロールをしていても特に見咎められないわね。今まで行わなかったのが悔しいわ」

「暁美さん・・・・」

 志筑さんは暁美さんの答えに感心しているか呆れているのか、判別しかねる様な呟きをした。

 そんな事を話しながらわたし達、3人は見滝原市のパトロールを続けていた。

 川に沿った道を歩いていると階段があり下に降りられるらしい。

 下は川と平行して歩く事が出来る道が完備されていた。

「あれは」

 ふと脇を見た志筑さんが声を上げたのでわたしと暁美さんも志筑さんの見ている方向に目を向けて見た。

 階段の下にある川と平行して作られた道に置かれたベンチの上で灰色の髪の少年と青い髪の少女が嬉しそうに談笑しているのが見えた。

「上条恭介と美樹さやかね」

 暁美さんがそう告げるのを聞いてわたしはあの2人がこの間、夜の公園で談笑していた2人だと思い出した。

 志筑さんに視界を戻すと志筑さんは何とも言えない様な表情を見せていた。

「行きましょう。お2人の邪魔をしては行けませんわ」

 そう言って志筑さんは踵を返して歩き出そうとした。

「あれ?志筑さんに暁美さん」

 その時、志筑さんと同年代の少年が前から歩いて来た。どうやら志筑さんと暁美さんの知り合いらしい。

「あら中沢君」

「中沢君」

 志筑さんと暁美さんが返事を返した相手だから、もしかしたらクラスメートなのかも知れなかった。

 けどやっぱりわたしは人見知りをして暁美さんの後ろに隠れてしまった。

 そんなわたしに暁美さんは気が付いたけれど、呆れているのか咎める事は無かった。

「珍しいね。こんな所で。あれ?あれは上条と美樹さん?」

 歩いて近付きながら中沢さんは真下に上条恭介さんと美樹さやかさんがいる事に気が付いた様だった。

 その瞬間、志筑さんが一瞬で中沢さんと間合いを詰め中沢さんの腕を掴んで引っ張ると川から離れた木の陰に連れ出した。

 驚く中沢君だったけれど特に志筑さんに抵抗する事は無かった。

 暁美さんと追い駆けながらもわたしは先程、志筑さんが中沢さんとの間合いを詰めるのに一瞬、魔力を足に集中した事を感じ取っていた。

(魔力・・・。使って良いのかな?)

(あの程度なら特に問題無いわ)

 わたしが頭の中に抱いた疑問に暁美さんはテレパシーを使って答えた。

(だから朱奈。これは志筑さんが決めるべき問題だから口を挟んじゃ駄目よ)

(わかりました)

 わたしと暁美さんが追い着くと志筑さんと中沢さんは木の下で話していた。

「中沢君。お2人の仲を邪魔しては行けませんわ」

 妙に迫力のある笑顔で語る志筑さんの言葉はハッキリと威圧感を持った物だった。言葉だけで無くその視線にも妙な力をわたしは感じていた。

「分かっているよ。志筑さん。俺もそこまで気が利かない訳じゃ無いから。でも・・・。志筑さん。凄い力だね。握られた腕が痛いよ・・・」

 引きつった笑顔を見せた中沢さんを見て志筑さんは慌てて握っていた手を離した。

「あら。私(わたくし)とした事が。申し訳ありません!」

 志筑さんは丁寧に深々と頭を下げた。

 それを見て中沢さんは慌てた様子を見せた。

「ちょっ。志筑さん。そんなに謝らなくてもいいって!?確かにちょっと痛かったけれど別に骨が折れた訳じゃ無いから大丈夫だよ」

 そう言って中沢さんは志筑さんの前で手を振って見せていた。

 確かに腕は大丈夫な様子に見えた。

「そうですか。本当に申し訳ありません。加減を誤ってしまって・・・」

 志筑さんは本当に申し訳無さそうな表情を見せていた。

「良いんだって。この事は誰にも言わないから。それじゃあ、また明日、学校で」

「ええ。中沢君。また明日」

 そう言って中沢さんはわたし達に手を小さく振って離れて行った。

「志筑さん。そんなに強い力で中沢君の腕を握ったの?」

 中沢さんが見えなくなると暁美さんが質問を始めた。

 わたしはどう言ったら良いのか分からなくて2人の様子を交互に見ていた。

「私(わたくし)としては加減したつもりだったのですが、もしかしら強く握ってしまっていたかも知れません。あっ!きっと護身術での握り方をしてしまったのかも知れませんわ!」

「それじゃあ痛い筈ね。魔力を込めていたら骨が折れたかも知れないわね」

「咄嗟の事とはいえ、私(わたくし)とした事が・・・。これからはもっと魔力の扱いには注意しなければいけません」

 自らに言い聞かせる様に志筑さんは強く語った。

「でも志筑さんなら、そんな心配は無いと思うけど」

 珍しく暁美さんは励ましの言葉を伝えた。

「いいえ。だからと言って気を緩めてはいけませんわ。魔力と言う物は火と同じだと私(わたくし)は考えます。これからは今まで以上に魔力の扱いには注意いたしますわ」

 宣言する志筑さんを見てわたしは少し羨ましかった。自分の意思を包み隠す事無く言い切れる志筑さんの姿はわたしの目にはカッコ良く写っていた。

「さあ。これでお2人に邪魔も入る事はありませんから、私(わたくし)達もパトロールを続けましょう」

 志筑さんの言葉にわたしと暁美さんは小さく頷くとウォーキングを装って街を歩き回っていた。駅前に行くと19時を示すベルが鳴り響いた。駅前には朝の10時から1時間事に20時まで鳴り響く大きな仕掛け時計が存在していた。

「もう19時ね。今日はもう終わりにしましょう」

 ベルの音を聞いて暁美さんはそう言った。

「そうですわね。パトロールして見た所、この街に《魔女》や《使い魔》にいない様ですし、今日はもう解散いたしましょうか」

 暁美さんに追従して志筑さんもそう言った。

「じゃあ今日のパトロールは終わりなの?」

 わたしの言葉に暁美さんと志筑さんは頷いた。

「そうね。ここで解散にしましょう。志筑さん。それじゃあ、また明日」

「志筑さん。また明日」

「暁美さん。朱奈さん。ごきげんよう」

 志筑さんは暁美さんとわたしに挨拶をして去ろうとした。

 暁美さんが次に言った言葉を聞くまでは・・・。

「さあ。朱奈。コンビニでお弁当を買って帰りましょう」

 暁美さんがそう言った時、歩いていた志筑さんが足を止め戻って来た。

「暁美さん!朱奈さん!お2人は夕食をコンビニで買うのですか!?」

 突然の志筑さんの剣幕にわたしと暁美さんは足を止めてしまった。

「ええ。夕食をコンビニで買うつもりだけど・・・。どうかしたの?」

 困惑した様子の暁美さんは答えた。

「いけませんわ。それでは栄養が偏ってしまいますわ!暁美さん。朱奈さん。今日は私(わたくし)が夕食をご馳走して差し上げますわ!」

「えっ?」

「えぇ!!?」

 暁美さんとわたしは驚いて足を止めていた。

「さあ。お2人共、私(わたくし)に付いて来て下さい!」

 そう言って志筑さんは戸惑う暁美さんとわたしの手を引いて引っ張って行った。

 戸惑ったけど、わたしは志筑さんに逆らわず付いて行く事にした。

 暁美さんも驚いているのか抵抗する事は無かった。

 けど・・・。やっぱり志筑さんの握力は強かった。

 握られたわたしの手が少しだけ痛かったの・・・。

 けどわたしはその事を志筑さんに伝える勇気が出せなかった。

 わたしの隣では暁美さんもきっと我慢をしていると思ったから。

 だからわたしも少しだけ我慢をする事にした・・・。

 

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