偽書魔法少女しゅな☆マギカ PSEUDEPIGRAPH PUELLAMAGI SYUNA MGICA   作:ジャックノルテ

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幕間6 隠し事を持っている物ですから 下

 

 数十分後・・・。

 わたしと暁美さんは志筑さんの家に上がってダイニングにあるテーブルに並んで座っていた。台所では志筑さんが食事の準備を行っている。

「直ぐに出来ますから少し待っていて下さい」

 エプロンを付けた志筑さんにそう言われてわたしは隣に座る暁美さんを見た。少しだけ困惑しているみたいだ。

「良いのかな?夜ご飯までご馳走になっちゃって・・・」

 わたしは様子を窺う様に暁美さんに小さな声で問い掛けてみた。

「志筑さんが良いと言っているだから良いんじゃ無いかしら。それに一緒に戦っているのだから食事位は付き合っても問題無いわ」

 暁美さんは視線をテーブルに向けながら簡潔に答えた。何か考え事を巡らせているみたいだった。

「出来ましたわ」

 そう言って志筑さんは野菜炒めの盛られたお皿を3つ持って来た。

「手伝うわ」

 暁美さんはそう言って席を立ち上がり志筑さんから野菜炒めの盛られたお皿を受け取った。

「まあ。暁美さん。ありがとうございます」

「わたしも」

 慌ててわたしもそう言って手を上げてアピールした。

「それでは朱奈さんにはお味噌汁を持っていって貰ってもよろしいでしょうか?」

「はい!」

 キッチンには味噌汁が注がれたお椀が並んでいた。

 わたしは慎重に1つずつテーブルに持って行った。

 その間に暁美さんが人数分のご飯を炊飯器から人数分をお茶碗に盛り、志筑さんは冷蔵後からサラダの入ったボールを取り出すと小皿にサラダに選り分けた。

「さあ。これで準備は整いましたわ。さあいただきましょう」

 志筑さんがテーブルに座るのに合わせてわたしと暁美さんも椅子に座った。

 対面に志筑さんが1人で座り、正面にわたしと暁美さんが並んで座る形だ。

「ではいただきます」

 志筑さんが手を合わせて言ったのに合わせてわたしと暁美さんも手を合わせた。

「じゃあ遠慮無くいただくわ。いただきます」

「いただきます」

 暁美さんに続いてわたしもそう言って食事を始めた。

 志筑さんが貸し出した箸を使ってわたし達は食事を始めた。

 わたしは出された食事の内、ご飯を食べて、お味噌汁を飲むと野菜炒めに箸を伸ばした。

 どれも凄く美味しかった。

 思い返して見るとわたしは記憶を失ってからコンビニやスーパーで買った店屋物ばかり食べていた。マミさんに保護されてから初めて人の作った手料理を口にした。

 その時は美味しさの余り涙を流してマミさんを驚かしてしまった。マミさんが死んじゃった後、わたしは暁美さんと一日だけ暮らしたけれど、暁美さんも殆ど店屋物で食事を済ませていた。次に一緒に暮らした佐倉さんも店屋物やレストランでの食事を好んで食べていた。ただし好き嫌いは許さなかったけど・・・。

 今の時間軸に来てからわたしは暁美さんと暮らしているが暁美さんは食事を店屋物や質素な物で済ませていた。だからこうやって誰かの作った手料理を口にするのは久しぶりだった。

「志筑さん。すごく美味しいです」

 わたしは素直な感想を志筑さんに述べていた。

「ええ。とても美味しいわ。私達は普段、料理をまったくしないから余計、美味しく感じるわ」

 珍しく暁美さんもわたしの意見に同調して返事を返して来た。

「まあ。暁美さんも朱奈さんもお褒めに預かり恐縮ですわ。ですが・・・。私(わたくし)が作ったのは野菜炒めだけでお味噌汁とサラダはお母様がお作りになった物ですわ」

 志筑さんは少し恥ずかしそうにそう言った。

「でも手料理を食べるなんて本当に久しぶりね。私は見滝原に来る前はずっと病院に入院していたから・・・」

 暁美さんは感慨深く語った。暁美さんがここまで自分の気持ちをさらけ出すのはとても珍しかった。普段から暁美さんはわたしや志筑さんに対して自分の気持ちをはっきりと見せる事が少なかったからだ。

 わたしと志筑さんはちょっと驚いて何も言う事が出来なかった。

 そんなわたしと志筑さんの様子に気が付いた暁美さんはバツの悪そうな顔をすると

「2人とも、せっかくの食事が冷めちゃうわよ」

 と告げた。

「あっ。いけませんわ。折角のお食事に私(わたくし)はなんて事を」

「はい。すぐ食べるね」

 暁美さんの指摘されてわたしと志筑さんは再び食事を進めた。

 数十分後にわたし達、3人は食事を終えてテーブルに座っていた。

「美味しかったわ。志筑さん。美味しい食事をありがとう」

 暁美さんは志筑さんに向かって丁寧にお礼を言った。

「わたしも美味しかった。志筑さん。今日はありがとう」

 笑みを浮かべてわたしは言った。

「ありがとうございます。実は私(わたくし)、今日、暁美さんと朱奈さんをお食事にお誘いしたのには理由があるのです」

 突然、志筑さんにそう告げられてわたしと暁美さんは顔を合わせた。

 お互いに思い至る理由は無かった。

「隠し事をするのは苦手なので本当の気持ちをお伝えします。実は今日、お父様もお母様も明日まで帰って来なくて私(わたくし)、1人でお留守番をする事になってしまったのです。でも、私(わたくし)は1人でお留守番をするのは初めてで・・・。実はお2人を食事にお誘いしたのは私(わたくし)が心細かったからですわ」

 少し顔を伏せて志筑さんはわたしと暁美さんに本当の気持ちを話した。

 わたしは始めて志筑さんに共感を覚えていた。わたしも寂しかった。記憶を失って街を彷徨い続けた時、いつも寂しさと怖さを感じていた。そんなわたしに手を差し伸べたのはマミさん、鹿目さん、佐倉さん、暁美さんの4人だった。

「そうだったの。私にも分かるわ。私は入院中、ずっと一人ぼっちだったから。でも、志筑さん。寂しさを否定しては駄目よ。寂しさを感じると言うのも生きていると言う証なんだから」

 暁美さんにそう言われて志筑さんは顔を上げた。少し笑みを浮かべて元気を取り戻したみたいである。

「励ましてくださってありがとうございます。暁美さん。朱奈さんもお食事に付き合っていただいてありがとうございます」

 再度、志筑さんは丁寧にお礼を述べて来た。人から頭を下げられ続けてわたしは何を言ったら良いのか少し分からなくなってしまった。

「えっと。でも志筑さんと夕食を食べてわたしは嬉しかったよ!」

「朱奈さん。ありがとうございます」

 志筑さんの目から一筋の涙が流れた。

「志筑さん。泣いているの?」

「いいえ。これは・・・。うれし涙ですわ」

 涙を手で拭い笑いながら志筑さんはわたしに答えた。

 寂しさは人それぞれだとわたしは知った。

 

21時頃までわたしと暁美さんは志筑さんとデザートを食べながら談笑を楽しんでいた。

 わたしは志筑さんと色々な話をして今までよりも志筑さんと打ち解ける事が出来た。

 暁美さんもわたしと志筑さんの様子を見ながら適度に話しに入っていた。

「もう直ぐ21時ね。志筑さん。そろそろ帰る事にするわ。朱奈。帰りましょう」

「はい。志筑さん。またね」

 暁美さんに促されてわたしは玄関に向かった。

 志筑さんも頷いてわたし達を見送るべく玄関に向かって来た。

「暁美さん。朱奈さん。今日は本当にありがとうございます」

 わたしと暁美さんを見送る志筑さんの表情は満面の笑みを浮かべていた。

「良いのよ。わたし達は仲間なんだから」

 暁美さんも薄い笑みを浮かべて志筑さんの見送りに答えた。

「志筑さん。また来ても良い?」

「はい。暁美さんと朱奈さんならいつでも歓迎いたしますわ」

 志筑さんにそう言われてわたしはとても嬉しかった。

 玄関を出たわたしと暁美さんを志筑さんは手を振って見送りわたしと暁美さんも手を振って答えた。

 志筑さんの家からの帰路はなるべく明るい道を選んでわたしと暁美さんは歩いていた。

「朱奈。少し良いかしら?」

 突然、暁美さんがわたしに話し掛けて来た。

「なあに?暁美さん」

「志筑さんと仲良くするのは構わないわ。けれど・・・。私達は《魔法少女》よ。巴マミが、あなたの目の前で死亡した様に私達はいつ命を落としてもおかしく無いのよ。親しくすれば、それだけ辛いと言う事を分かっているの?」

「あっ!?」

 わたしは暁美さんにそう指摘されて始めてその事に気が付いた。

 そうなのだった。わたし達は《魔法少女》。《魔女》や《使い魔》との戦いでいつ命を落としてもおかしくないのだった。

 わたしも時々、マミさんや佐倉さん、鹿目さんが死亡したのを見て親しい人が死ぬ辛さを分かっていた筈だった。

(でも・・・。それでも・・・。わたしは・・・)

「うっ。わたし志筑さんに死んで欲しくない。誰にも死んで欲しくない・・・」

 そう言ってわたしは両の目から涙を流してしまった。

「朱奈」

 志筑さんは右手を上げるのが見えてわたしはぶたれると思って反射的に目をつぶってしまった。

 痛みは来なくてかわりに不器用に頭を撫でられる感覚に気付いて、わたしは目を開いて暁美さんに頭を撫でられている事に気が付いた。

「私も志筑さんに死んで欲しくは無いわ。志筑さんを大切な仲間だと認めているからこそ私は志筑さんとの食事に付き合ったのよ。大切な仲間を守る為に私達も強くなりましょう」

 それが暁美さんなりのわたしへの励ましだと気付くのにわたしは少し時間が掛かってしまった。けど励ましに気付いた時、わたしは初めて暁美さんの優しさに触れた様な気がした。

「わたし・・・。強くなる。強くなってわたしの大切な人を守ってみせる!」

「その意気よ。朱奈。さあ。夜も遅いから帰りましょう」

「はい!」

 星空の元で暁美さんとわたしは街灯に照らされながらアパートまでの帰り道を歩いて行った。

 

 

 

 

 SIDE 暁美ほむら

 朱奈とアパートに帰ると私はまずお風呂を沸かした。

 大体、数分で湧くだろう。

 朱奈は大人しく部屋にあるソファーに座って大人しくしていた。

「ねえ。暁美さん。質問があるの」

 少し私の様子を見る様に朱奈は話し掛けて来た。

 私の態度は少し朱奈を怖がらせているのかも知れなかったが、今はもう特に気にならなかった。

「質問は何?」

 私が答えると朱奈は少し俯いた後にゆっくりと口を開いた。

「あのね・・・。わたし・・・。暁美さんが席を外した時、志筑さんに頭を撫でて貰ったんだけど、その時ね・・・。志筑さんとすごく近い距離にいたの。そしたらね・・・。胸が少しドキドキしたの・・・。どうしてなの?」

「それは・・・」

 言葉を選びながら私は思い出していた。

 そう言えば私が席を外して戻った後、志筑さんが朱奈の頭を撫でていた。

 志筑さんは「朱奈さんの綺麗な髪が羨ましいですわ」と言って撫でていて朱奈は少し恥ずかしそうにしながらも嬉しさを見せていた。

 朱奈は志筑さんの事が好きなのだろうか?

 だとすれば胸がドキドキした理由も分かる。恋だ。朱奈は志筑さんに恋をしたのだ。

 しかしここからが問題だった。志筑さんと朱奈は女の子同士だった。

 俗に言う同性愛。百合だ。

 私も入院中に病院内にある院内図書館で無数の本を読んだ中でそう言った概念を知った。

 初めて知った時はショックを受けたけれど、まどかとの出会いを通して私は同性愛を肯定していた。勿論、異性愛を否定するつもりは更々無かった。

 過去にまどかの両親と会った事があるがその様子を見れば十分、異性愛も肯定する事が出来た。

 私の見て来た時間軸では美樹さやかと上条恭介の恋愛関係は発展途上で終わったけれども、私の知らない何処かの時間軸では2人が幸せになる時間がある筈だと願った事もある。

 思考が逸れてしまったけれど私は朱奈の質問にどう答えるか再び考えを巡らせた。

 ここで問題なのは朱奈の知識に同性愛と言う概念があるかどうかだった。

 どう考えても年齢的に知っている筈は無いと思うのだが、もし知らなければ私が説明をしなければならないが、私でも初めて知った時には天地がひっくり返るほどのショックを受けたのだ。朱奈がどれだけのショックを受けるか想像出来なかった。

 それにまかり間違って朱奈が志筑さんに告白を試みたらどうなるのだろう?

 志筑さんは上条君が好きだし朱奈の思いに答えられるかどうか、私には分からなかった。

 朱奈の告白を志筑さん受け入れられなかった場合、朱奈の精神的なモチベーションが保てずに最悪の場合、《魔女化》する恐れもあった。

 ただ今までの時間軸で志筑さんと接した事を思い出して見ると、志筑さんは同性愛と言う概念を知っている節もあった。時々、妄想の果てに同性愛を肯定すると取れる発言をする事もあった。

「ねえ暁美さん。どうして胸がドキドキしたのかな?」

 私が答えられないのを見て朱奈は再び問い掛けて来た。

 この様子では朱奈は同性愛と言う概念が無さそうである。

(なら同性愛や百合の事は伝えない方が良いわね)

 考えを纏めた私は朱奈に答える事にした。

「朱奈。そのドキドキはきっと・・・。人が近付いたから驚いたのよ。あなたは私以外の人と余り接しないから志筑さんが物凄く近付いて来てドキドキしてしまったのよ」

 朱奈は私の説明を聞いてキョトンとしていた。

「そうなのかな?わたし、驚いただけなのかな?」

「きっとそうよ。私にも覚えがあるわ。大丈夫よ。今に慣れればドキドキしなくなるわ」

「うん。わたし・・・。ドキドキしても驚かない様にするね」

 とりあえず朱奈の質問に対して当り障りの無い答えを出来て私は安心していた。

 やはり朱奈の幼い精神のモチベーションを保つ為にも精神的なショックを与える様な話題を避けるべきだと私は思った。

 お風呂が沸いた音がしたので私は朱奈に声を掛けた。

「朱奈。先にお風呂に入っちゃいなさい。私はまだやる事があるから」

「はい。暁美さん。わたし、先にお風呂に入るね」

 私の言葉に従って朱奈はリビングを出てお風呂場に向かった。

 それを見ると私は一度、《魔法少女》としての姿に変身すると左手の盾から次々と銃器を取り出し、リビングに並べた。

 拳銃やマシンガン、ロケットランチャーや手榴弾等の銃火器が並んでいた。

 これらの銃火器は今日の午前中に《魔女》や《使い魔》との戦いの為に在日米軍の駐屯地に侵入して盗んで来た物だった。時間停止と言う強力な魔法を持つ反面、私の魔法には直接的な攻撃能力を持っている訳では無かった為、ここに並べた銃火器こそが私にとって《魔女》や《使い魔》との戦いで必要な武器だった。

 並べて種類と数を調べ直しどの位の威力を持つか頭に叩き込むと私は全ての銃火器を再び左手の盾の中にしまい込んだ。

 同時に朱奈はお風呂から出て来たが既に眠そうな目をしていた。

「朱奈。眠いのならもう寝た方が良いんじゃ無いかしら?私もお風呂に入ったら寝る事にするわ」

「はい。じゃあわたし、もう寝るね。おやすみなさい。暁美さん」

 そう言って朱奈はベッドにしているソファーに掛け布団を被って横になった。

「おやすみ。朱奈」

 そう言って私はお風呂場に足を踏み入れた。

 鏡の前に立った時、洗濯機の下に赤い何かが落ちているのが目に止まって拾って見た。

「これは・・・。制服のリボン。どうしてここにあるのかしら?」

 私は少し疑問に思ったが単に自分が落としただけだろうと思いお風呂に入る事にした。

 身体を洗い湯船に数分浸かると私は浴室を出た。

 乾いたタオルで身体と髪を乾かすと寝巻きに着替えてリビングに入った。

 その時、眠っている朱奈の顔が私の目に写った。

「朱奈。あなたも志筑さんもまどかを救う為に必要なのよ。巴マミや佐倉杏子がいない今、私の味方はあなた達だけなんだから・・・」

 私は自分だけの目的の為に2人を利用している。

 その事を自覚しながら私は寝室に入って眠りに付いた。

 

 

 

SIDE 志筑仁美

 翌日・・・。

 私(わたくし)はいつも通りに見滝原中学に向かう為に通学路を歩いていた。

 歩きながら私(わたくし)は考え事をしていました。

 昨日、暁美さんと朱奈さんが帰った後、私(わたくし)は眠る前にふと、朱奈さんに着せてあげた小さい制服の事を思い出しました。

 もう私(わたくし)が着る事の出来ないサイズでもあるのでこれを朱奈さんに差し上げようと思い丁寧に綺麗な包装紙に包んでシンプルな紙袋に入れて置きました。

(朱奈さんに渡すとしたら、今日のパトロールの時が良いのでしょうか?けれど朱奈さんだけにプレゼントを渡して暁美さんに渡さないのは変ですわ)

 そう言った事を考え続けていると

「仁美ちゃーん!」

 私(わたくし)を呼ぶ聞き知った声の方向を見るとまどかさんが私(わたくし)に向かって手を振っていた。

「まどかさん。おはようございます」

 いつも通りに私(わたくし)は丁寧にまどかさんに挨拶を行った。

「あれ?仁美ちゃん、1人だけなんだ。さやかちゃんは?」

「いいえ。私(わたくし)も理由を存じませんわ」

 本当は理由に思い至っていたけれど私(わたくし)はその思いをまどかさんに告げる勇気を持ち合わせていなかった。

 まどかさんと並んで歩きながら談笑していると急にまどかさんが不意に脇を見て声を上げた。

「あれ?あれはさやかちゃんと上条君?」

 まどかさんの見ていた方向に私(わたくし)が視線を向けるとそこにはさやかさんと上条君が仲良さげに歩いていた。

 退院したさやかさんと上条君は数日前から学校に仲良く登校して来るのが常だった。

「さやかちゃ」

「行けませんわ!」

 まどかさんがさやかさんと上条君に声を掛けようとした時、とっさに私(わたくし)はまどかさんの肩に手を掛けて声掛けを制した。

「仁美ちゃん?」

「まどかさん。お2人をそっとしておいてあげましょう。今は・・・」

 本音を言えば私(わたくし)の心はさやかさんと上条君の姿を目に映すのが少しだけ辛かった。

 その辛さから私(わたくし)はまどかさんがさやかさんと上条君に声を掛けるのを制してしまったのだ。

 そこまで思い至り私(わたくし)は自分の心が持つ嫉妬といやでも向き合わなければならなかったのだ。けれど私(わたくし)はその思いを肯定した上でさやかさんと上条君を契約によって命を救ったのだ。

「そうだね。そっとしといてあげようか。じゃあ2人で学校に行こう!」

「そうですわね」

 まどかさんと私(わたくし)は並んで学校に向かって歩き出した。

 歩きながら私(わたくし)は自分の心と折り合いを付けようとしていた。

 教室に着くと私(わたくし)とまどかさんは自分の席の脇に鞄を置くと床に収納された机と椅子を引き出すとそのまま席に座ろうとした。

 視線が自然と前を向いた時、中沢君が来ている事に私(わたくし)は気が付いた。

 席を立つと私(わたくし)は中沢君の元へ向かった。

「中沢君。腕の調子はどうですか?」

「あっ。志筑さん。何とも無いから大丈夫だよ」

 中沢君は笑顔で軽く腕を振って答えてくれた。

「昨日は本当にすみません」

 再度、私(わたくし)は丁寧に中沢君に向かって頭を下げた。

「そんな、頭を下げる程の事でも無いよ。俺は大丈夫だから」

 回りの視線を気にしてか中沢君は少しぎこちない態度だったが誠意を感じる返答をしてくれた。

「ありがとうございます。私(わたくし)、ようやく気持ちに折り合いが付けられましたわ」

 そう言って私(わたくし)が席に戻ると隣の席ではまどかさんが怪訝な表情で私(わたくし)を見つめていた。

「まどかさん。どうかしましたか?」

 私(わたくし)の質問にまどかさんは少し考えて口を開いた。

「仁美ちゃん。中沢君と何かあったの?」

 まどかさんの表情は何故か私(わたくし)の行動に疑問を感じている様子だった。

「いえ。大した事ではありませんわ」

 私(わたくし)がそう言った時、さやかさんと上条君が並んで教室に入って来た。

 2人の様子はとても和気藹々とした雰囲気だった。

 私(わたくし)は複雑な思いを抱きながら2人の様子を見ていた時、

(おはよう。志筑さん)

 と教室に入って来た暁美さんからのテレパシーが私(わたくし)の頭に響いた。

(おはようございます。暁美さん)

 テレパシーで返事を返しながらも私(わたくし)はつい、声を出して返事をしそうになってしまった。

(今日も放課後にパトロールをしましょう。ウォーキングの振りをして)

(そうですわね。でもウォーキングの振りでは無くちゃんとウォーキングもしながらパトロールを致しましょう)

(そうね・・・。それなら運動も兼ねられるから一石二鳥ね)

 暁美さんがテレパシーの返事を返した時に担任の早乙女先生が教室に入って来た。

 私(わたくし)は早乙女先生の話に意識を傾けた。

 

 

 

 

(じゃあ志筑さん。私は先に帰宅して準備を行っているわ)

(はい。私(わたくし)も委員会の会合が終わり次第、合流させていただきます)

 暁美さんはテレパシーで私(わたくし)に告げると先に教室を出て行った。

 30分ほどの連絡事項を話されて委員会の会合が終わった。

 私(わたくし)が教室の外にあるロッカーに向かうとまどかさんがロッカーから鞄を取り出していた。

「あら。まどかさんも保険委員会の会合は終えられたのですか?」

「うん。今、終わった所だから仁美ちゃんも一緒に帰ろう」

「はい」

 私(わたくし)はロッカーから鞄を取り出すとまどかさんと並んで歩いて教室を出た。

「最近、駅前のお店に寄ってないけど今日は寄ってく?」

 まどかさんに言われて私(わたくし)は初めてその事に気が付いた。

 けれど《魔法少女》としての使命を考えれば遊んでいる余裕は殆ど無いと思えた。

「すみません。私(わたくし)、今日は少し用事があって・・・」

「そうなんだ。けどさやかちゃんも上条君に付きっ切りだし何だか私、寂しいな・・・」

「大丈夫ですわ。さやかさんだってまどかさんの事を大切に思っている筈ですわ。今はそっとしておいてあげましょう。上条君が事故にあったと聞いた時のさやかさんの様子を見れば、今は私(わたくし)達が気を使うべきですわ」

 口ではそう言いながらも私(わたくし)は心の中に何かが引っ掛かっているのを感じていた。

「うん。そうだね。さやかちゃんは上条君とラブラブだし、私もいつか素敵な恋をしたいな」

 頬を赤く染めながら話すまどかさんはどうやらまだ恋をした事が無いらしい。

 少し迷ったが、私(わたくし)はまどかさんの友人として、少しだけ恋に関する忠告をした方が良いと思った。

「まどかさん。素敵な恋をしたいといいますが、例え、素敵な男性と相思相愛になったとしても何処かにそれを素直に喜べない人もいるものですわ」

「そうなのかな?」

 まどかさんは突然の私(わたくし)の剣幕に少し驚いている様子だった。

「そうです私(わたくし)だって・・・」

 そこまで言いかけて私(わたくし)は言葉を切った。

 私(わたくし)の本当の思いをまどかさんに告げてしまうべきか、私(わたくし)は迷っていた。

「仁美ちゃん。何か」

 まどかさんが質問を返そうとした時、突如として《魔女》の魔力が出現した。

「まどかさん!」

 咄嗟の事に私(わたくし)は手を伸ばしたけどまどかさんの手を掴む事は出来なかった。

《魔女》の魔力に流され私(わたくし)は結界を構成する階層の1つに落とされてしまった。

「まどかさん!」

 声を出したけれどまどかさんは近くにいない様だった。

 そこへ《使い魔》が次々と表れ私(わたくし)は瞬時に《魔法少女》としての姿に変身した。

「まどかさん。今、助けに参りますわ!」 

 

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