偽書魔法少女しゅな☆マギカ PSEUDEPIGRAPH PUELLAMAGI SYUNA MGICA   作:ジャックノルテ

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第8話 ウチは戦うつもりは無いで

(暁美さん!朱奈さん!聞こえますか!?)

 わたしがいつも通りに朝から河川敷で《魔法》の練習をしていた時に志筑さんからのテレパシーが私の耳に届いた。

(志筑さん。どうしたの?)

(朱奈さん。私(わたくし)は今、突然、出現した結界の中におりますの。ただ私(わたくし)の友達も巻き込まれてしまって・・・)

 わたしからの質問に答える志筑さんの声からは焦りが感じられた。

(話は聞かせて貰ったわ。直ぐに行くわ)

 そこへ暁美さんのテレパシーも割って入った。

(判りました。お二方を結界でお待ちしております・・・)

 志筑さんのテレパシーを聞いたわたしは直ぐにテレパシーが感じられた方向へと駆け出した。走りながら魔力を足に集中させて街中を目立たない様に跳躍して駆け抜ける。志筑さんのテレパシーが指し示した場所は公園だった。

「朱奈」

 わたし振り向くと暁美さんも来ていた。学校帰りの為、制服姿のままである。

「さあ。行くわよ」

「はい」

 暁美さんに促されてわたし達は志筑さんの魔力を追った。そして公園の真ん中に結界の入り口を発見した。暁美さんは手際良く結界の入り口を魔力で開くと入って行きわたしも続いた。結界の中に入ると直ぐに志筑さんの強い魔力を感じたと同時に目の前では多数の《使い魔》と戦う志筑さんの姿が見えた。わたしの横で暁美さんは気を引き締めた表情を見せると《魔法少女》としての姿に変身しわたしも変身して続いて戦いの輪に入った。

「待たせたわね」

「志筑さん。大丈夫?」

 暁美さんがマシンガンを、私はボーガンを次々と現れる《使い魔》に撃ちながら志筑さんと合流した。

「暁美さん!朱奈さん!私(わたくし)は大丈夫です。けれど結界にまどかさんが捕らわれてしまって・・・」

「まどか!?」

「鹿目さん!?」

 わたしと暁美さんは驚いて僅かに動きを停めてしまいました。《使い魔》が迫って来たけれど習慣的に攻撃を加えて《使い魔》を倒しました。

 志筑さんは戦いながらもわたしと暁美さんが動揺した様子を怪訝な表情で見ていました。

「《使い魔》を相手にしてもキリが無いわ。結界の最深部に《魔女》がいる筈だから最深部を目指すわよ。志筑さん。あなたに《使い魔》に向かって切り込んで貰いたいのだけれど頼めるかしら?」

 マシンガンで《使い魔》を牽制しながら暁美さんは志筑さんに頼んだ。

「任せてください!」

 そう言って志筑さんは腰に挿していた二本の扇子の内、一本を引き抜くと前方にいる多数の《使い魔》に対して真横に振った。突風が起き多数いた《使い魔》を次々と切り刻んだ。同時に志筑さんはそのまま突風とともに駆け抜け取りこぼした《使い魔》を次々とその拳で消滅させて行った。

もうわたしの目には今まで見えていた志筑さんの拳が《使い魔》を倒す瞬間を見る事が出来ない速さを見せていた。

「行きましょう!」

 志筑さんを先頭に暁美さんとわたしは続いて結界の最深部へと向かった。次々と現れる《使い魔》を志筑さんの拳と風の魔法、それに暁美さんの銃撃、わたしのボーガンで倒して行き私たちは結界の最深部へと到着した。

 そこには西洋風の鎧の様な《魔女》が待っていた。その背後には鹿目さんが牢屋と思しき空間に捕らえられて気を失っていた。

「まどかさん!」

「まどか!」

「鹿目さん!」

 志筑さんは再度、暁美さんとわたしに怪訝な表情を向けたけれどそれは一瞬の事だった。

 わたし達3人が《鎧の魔女》に向かって駆け出そうとした時、真横から何かが飛んで来た。それは刃の部分が紅く染められた見覚えのある槍だった。思わず立ち止まった私達3人の目の前に《鎧の魔女》を背にして赤い衣装を身に纏った赤い髪の少女が天井から飛び降りて来た。それは佐倉杏子さんだった。

「あなたは佐倉杏子!?」

 暁美さんは驚愕の表情を見せて思わず杏子さんを凝視していた。

 暁美さんの叫びを聞いても目の前の杏子さんはわたしが見た事も無い様な歪んだ笑みを浮かべるとわたし達3人に向かって突っ込んで来た。

 瞬時にわたしの前に現れた杏子さんが私に左手を翳すとわたしは壁際まで吹き飛ばされてしまった。身体に生じた痛みに逆らって身体の回りを見てみると菱形の鎖とも思える物がわたしを壁際に拘束してしまっていた。

「動けない!?」

「朱奈!」

「朱奈さん!」

 拘束され動けないわたしを助けようと身構えた暁美さんと志筑さんに対して杏子さんは歪んだ笑みを浮かべたまま、赤い槍を引き抜くと2人のいる方向へと身を走らせた。ところが胸元のソウルジェムが光り輝いたと同時に2人に分身したのだ。

「え!?」

「何ですの!?」

 驚く暁美さんと志筑さんだったが分身した杏子さんは容赦無く2人に攻撃を加えて行った。分身した杏子さんの攻撃で暁美さんと志筑さんは分断されてしまった。容赦の無い突きや多節棍となった槍の攻撃が2人を襲っていた。

「くっ」

 暁美さんは左手の盾から出したナイフ(シースナイフと言うらしい)で分身した杏子さんの槍の刃だけを受け止め交わし続けていた。

 分身したもう1人の杏子さんを相手にしていた志筑さんはその素早さを生かして杏子さんの槍を交わしていた。

「初対面の方に申し訳ありませんが・・・。これ以上は私(わたくし)も許容できませんわ!」

 志筑さんがそう叫んだ時、右手の拳に取り付けられたソウルジェムの輝きが増して行く。

 同時に志筑さんは分身した杏子さんの1人と距離を詰めてそのまま右手で正拳突きを行い杏子さんに突っ込んだ。志筑さんが戦っていた杏子さんは菱形の鎖に分解して消え去った。しかし志筑さんはそのまま止まらずに暁美さんと戦っていた、分身の消え去った杏子さんを右拳で突いて吹き飛ばした。

 結界の壁に吹き飛ばされ倒れた杏子さんを見て《鎧の魔女》が動き出そうとしたが杏子さんが起き上がりながら右手を上げて制するとそのまま動きを止めた。

「あなた・・・。誰なの?」

 突然、暁美さんは杏子さんの方を向いてそう言い始めた。

「私の知っている佐倉杏子は分身もしなかったし《魔女》を操るなんて魔法は使えなかったわ。姿は佐倉杏子だけれど・・・。あなたは佐倉杏子じゃ無いわね」

 断言する様に宣言した暁美さんは杏子さんに容赦無く銃を向け志筑さんも構えを解かなかった。暁美さんの言葉を聞いて偽者と言われた杏子さんは嬉しそうに歪んだ笑みを深めた。

「へえ。案外、簡単にばれちゃう物やね。そうよ。ウチは佐倉杏子じゃ無い。ウチは・・・」

 そう言って杏子さんの姿は霧の様に消え去りその中から1人の少女が現れた。髪の色は虹色で黒い衣装を身に纏っていた。そして右目にはソウルジェムと思しき宝石が眼帯の様に掛けていた。わたしはその少女に見覚えがあった。その少女の顔は間違い無く私が《魔法少女》として契約した時に立ち会った《セーラー服の少女》だった。

「始めまして。ウチは・・・。そうや。アイリス・アザレアと名乗る事にするわ」

 あからさまな偽名を名乗ったけれどアイリスの顔付きは日本人その物だった。

「どうやらアンタ達は鹿目まどかを助けようとしている様やけど、それはウチに勝てなきゃ無理な相談やね!」

 アイリスがそう叫んだと同時に《鎧の魔女》が暁美さんと志筑さんに向かって動き出した。と同時にアイリスの姿が一瞬だけ歪んだかと思うと別の少女の姿に変わった。

 今度は佐倉杏子さんの姿では無く薄い紫色の髪をした怜悧な印象を持つ少女だった。眼鏡を掛けベレー帽とダークレッドの軍服と思しき服装に乗馬鞭を構えていた。

「今度は・・・。確か浅海サキだったかしら?これはどう!ピエトラディトゥオーノ?」

 拘束されて身動きが取れないわたしの目の前でアイリスが構えた乗馬鞭の先から電撃が放たれた。

「くっ!」

「痺れますわ・・・」

 電撃の苦痛に暁美さんと志筑さんは顔を歪ませていた。容赦無く《鎧の魔女》はその腕を2人に向かって振り下ろした。振り下ろされた《鎧の魔女》の腕だったけれど寸前に駆け出した志筑さんが暁美さんを引っ張って交わしていた。

「ふーん。ウチじゃやっぱり同じ精度じゃ使えないや・・・。じゃあやっぱりこっちかな?」

 アイリスはそう宣言すると今度は黒い衣装を身に纏った少女へと姿を変えた。右目に眼帯をして手の平を異様に長い袖で隠し物凄く立てた襟と赤いネクタイが印象的だった。

「あれは!?呉キリカ!?」

 アイリスの変化にまず反応したのは暁美さんだった。珍しく暁美さんは素直に驚きの感情を見せていた。

「へえ。この人の事は知っているんやね。まあウチの魔法の練習にはなるわね!」

 両方の手から魔法で生成したと思われる鉤爪を出したアイリスが暁美さんに襲い掛かって行った。それを見た暁美さんは迎撃をしようとしたが何故か動きが緩慢としていた。

「暁美さん!」

 見かねた志筑さんが脇から飛び出すと腰に挿していた扇子をアイリスに向かって振った。

 同時に起こった風の刃が次々とアイリスと《鎧の魔女》に切り傷を負わせた。

「そっか。速度を上げる魔法を使っているから速度低下が聞かない訳やね」

 傷を負ってその場に膝を付いたアイリスがそう語った時、暁美さんが消えたのだ。

回りを懸命に見ていると暁美さんはアイリスと《鎧の魔女》から少し離れた場所に現れ同時に爆発が起きた。アイリスと《鎧の魔女》を巻き込んで連鎖的に次々と爆発が起こった。

 爆発から起こった煙が晴れて行く中、《鎧の魔女》が崩れ落ちてグリーフシードを落として行ったが突如として人影が現れわたしの前に駆け寄ると目の前に菱形の鎖を使った防御壁を張り巡らした。

 人影はやはりアイリスだった。その姿は元の《魔法少女》としての姿に戻っている。

「危ない所だったやね。体を硬質化する、カピターノ・ポテンザだったかしら?が間に合わなきゃウチも死んでいる所やわ」

 流石に無傷とは行かなかったのかアイリスは少し傷を負っていた。

「朱奈さんを離して!」

 志筑さんは直ぐに菱形の防御壁を魔力の帯びた拳を叩き付けたが途端に弾かれてしまった。

 暁美さんも武器をこちらに向けていた。けれど引き金を引く事は無かった。アイリスが手を上げて暁美さんを制止したのだ。

「安心し。これ以上、ウチは戦うつもりは無いで。その証拠に」

 アイリスがそう語った瞬間に牢屋と思しき空間の閉じられていた入り口が開かれて囚われていた鹿目さんが開放された。

「まどかさん!」

「まどか!」

 それを見て志筑さんと暁美さんが鹿目さんに駆け寄った。

「良かった・・・」

 わたしが思わずそう呟いた時、アイリスがわたしの顔を覗き込で来た。

「けどまだウチの用は済んでいないのよ。ウチは出来る事を行う主義やから今、朱奈に出来る事をして上げるわ」

 わたしは素直に驚いた表情をしていたと思う。どうしてアイリスはわたしの名前を知っていたのだろう?そしてアイリスの言う、出来る事はとても恐ろしい事の様な気がした。

「ウチが朱奈の無くした記憶を戻してあげるわ!」

 アイリスは右手に本を出現させると同時に右目のソウルジェムが光り輝きわたしの中で何かが弾けた。違う。弾けたんじゃ無くてわたしの中で縛って閉じ込めていた何かが飛び出しわたしの中で元の位置に戻ろうとしていたからだ・・・。

 わたしは思い出していた。忘れていた過去の事を・・・。忘れたく無かった過去の事を・・・。

 大切な・・・。わたしをいつも守ってくれた大切な人!

「そうだ・・・。わたしは・・・。思い出した・・・。わたし、どうして忘れていたの?わたしの大切な人の事を・・・。綾女ちゃんの事をどうして!?」

 思わずわたしは力一杯に叫んでいた。

 わたしは思い出していた。わたしの事を好きでいてくれてわたしも大好きだった《魔法少女》の綾女ちゃん。左右非対称な髪に赤と青の衣装を身に纏った綾女ちゃんの事を。

 そんなわたしの様子を暁美さんと志筑さんは困惑した表情を見せていたけど今のわたしには気にする事を出来なかった。急速に戻った記憶にわたしの心は翻弄されていた。気が付くとわたしは菱形の鎖の拘束から解除された。地面に降ろされ放心して座り込んだわたしにアイリスはまた言葉を告げて来た。

「どうやら思い出せた様やね。筒地綾女の事を。だからウチは筒地綾女が朱奈に隠していた事も教えてあげるわ」

 アイリスの表情をわたしは見る事が出来なかったけれどそれはきっととても恐ろしい表情をしていたに違いなかった。

 思わずわたしは地面に額を擦りつけて耳を手で覆い目を瞑った。

「聞きたくない!わたしは思い出せただけで良いの!聞きたくないの!」

 わたしはそう叫んだけれど直ぐに無駄な事だと思い知らされた。

(無駄よ。テレパシーがあるのだから朱奈はウチの話を聞くしか無いのよ)

 わたしは嫌々する様に頭を振った。けれどもアイリスの声はわたしの頭に響いているのだから聞こえなくなる訳が無かった。

 

(だって朱奈。あなたは筒地綾女が奇跡で作り出さした存在なのよ)

 

 その言葉にわたしは呆然となった。

 直ぐには理解出来なかった。

 違う。理解したく無かった。

(わたしが綾女ちゃんの奇跡で生まれた存在!?じゃあわたしには元々、記憶も家族も無いの!?)

(そうよ。朱奈には記憶も家族も無いわ。奇跡から生まれたのだから何も無いわ)

 アイリスのテレパシーを聞いてわたしは目を開いた。

 呆然と座り尽くすわたしの視界に驚愕の表情を見せた志筑さんの表情が見えた。

 きっとテレパシーを志筑さんも聞いてしまったのだろう。

 暁美さんは少し悲しげな表情をわたしに向けていた。

「信じられないのなら証拠を見せてやるわ」

 アイリスのソウルジェムが再び妖しく光り輝いたと思うと目の前の景色は一変した。

 

 

 

 

 夜の闇の中を森林と思しき場所でテントの前で1人の少女とキュウべえが対峙していた。

 その少女は間違いなく綾女ちゃんだった。

 まだ髪型が左右非対称では無かったけれど間違いなく綾女ちゃんだった。

「さあ。始めよう。××××。君は『魔女』との戦いを受け入れその魂を対価として何を願う?君が見た通り、魔法少女はいずれ『魔女』へと変化してしまう。その運命を受け入れる覚悟は出来たのかい?」

 綾女ちゃんはキュウべえの言葉に答えた。

「私は・・・。私の定めた幾つかの条件の元で私を愛する存在を作り出したい!」

 

 1つ、作り出した存在は10歳の少女である事。

 2つ、その少女と私は無条件に互いを愛する事。

 3つ、その少女は小学校6年生程の知識を持っている事。

 4つ、その少女の右目にはグリーフシードを孕んだ《魔法少女》の敵を毎週、金曜日に一体、引き寄せる呪いを施す事。

 5つ、その少女に掛けられた呪いは右目を排除すれば無くなる事。

 6つ、その少女は私の前で七日七晩掛けて私の目の前で誕生する事。

 7つ、その少女はこの世のあらゆる因果から切り離された人間として生まれ魔法少女になる事が出来ない事。

 

「以上よ。さあキュウたん!私の願いを叶えて!」

「これは?こんな細かい願いでエントロピーを凌駕してしまうなんて?君は本当に変わっている!」

 私の目の前で綾女ちゃんの体から赤と青に光り輝く何かが飛び出した。

「受け取って!それが君の新しい魂だ!」

 キュウべえの声に促されて綾女ちゃんは左腕を伸ばした。《ソウルジェム》を受け取った綾女ちゃんは私にとって馴染みある《魔法少女》としての姿へと変身していた。赤と青の左右非対称な姿に。

「これが私の姿・・・」

「うん。それが君の新しい姿だ。そして君の奇跡も叶っている」

 キュウべえに促されて綾女ちゃんが脇を見ると目の前にある木の根元に光り輝く球の様な物があった。覗き込んでみるとその中では小さな何かが集まって小さな何かの形を成して行った。それは胎児だった。

 直感的にわたしは・・・。認めたくなかったけれど・・・。

 それがわたしだと感じ取ってしまった。

 同時に目の前の景色は戻って行った。

 

 

 

「朱奈。これが真実なのよ。あなたは筒地綾女の願った奇跡によって生まれたの」

 わたしはアイリスにそう言葉を掛けられたが何も言う事が出来なかった。ただ地面に蹲っている事しか出来なかった。

 アイリスはそう告げると同時に右腕から黒と緑色の巨大なグローブを出現させた。

「これでウチの用は済まして貰ったわ。それじゃあまた会いやしょう」

 黒と緑のグローブがこちらに向けられたかと思うとその場に閃光が走った。

 思わず目を閉じたわたしや暁美さん、志筑さんが目を開くとアイリスはいなかった。

 同時に結界は崩れ去り元の公園に戻った。

 鹿目さんを抱えて立ち尽くす志筑さん。

 少し悲しげな表情をわたしに向ける暁美さん。

 わたしはただ呆然とその場に座り込んでいた。

 その日、わたしは信じていた物を無くしてしまった。

 

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