偽書魔法少女しゅな☆マギカ PSEUDEPIGRAPH PUELLAMAGI SYUNA MGICA 作:ジャックノルテ
2日程、わたしは暁美さんのアパートから一歩も外へ出る事無く塞ぎ込んでいた。わたしが綾女ちゃんの奇跡によって生み出された存在・・・。今までわたしが期待していた過去や家族との思い出が存在しない事にわたしは大きなショックを受けていた。
でも一番、ショックを受けていたのは綾女ちゃんがわたしに嘘を付いていた事だった。
わたしは綾女ちゃんが大好きだった。記憶が無くても綾女ちゃんと居れればそれで良いとも思っていた。でも綾女ちゃんはわたしに嘘を付いていた。わたしが記憶喪失だと嘘を付いていた。綾女ちゃんが本当の事を話してくれたらわたしは受け入れられたと思う。どうして綾女ちゃんはわたしに嘘を付いたのだろう?
そう考えた時、ふと思い至った事があった。
綾女ちゃんも《魔法少女》だった。
なら《魔法少女》を管理しているキュウべえは何か知っているのでは無いだろうか?
わたしは僅かに残っていた好奇心と探究心で身体を動かすとアパートの外へ出た。
今日は平日で暁美さんは学校へ行っていた。わたしはなるべく他者に見られない様に良く魔法の練習に使っていた河川敷の工事現場に行ってみた。幸い人はいなかった。
(キュウべえ!いるなら出て来て。わたし、聞きたい事があるの!)
コンクリートブロックに腰掛けたわたしは必死にテレパシーを周囲に送った。
「どうやら僕に質問があるみたいだね。朱奈」
そう言いながらキュウべえは草むらの影からわたしの前に姿を現した。
「ねえ・・・。キュウべえ・・・。正直に答えて。わたしは本当に奇跡で生まれたの?」
わたしは一番、知りたいと思った事を直ぐに質問してみた。
「そうだよ。朱奈は奇跡で生まれた。その事に間違いは無いよ。本当は朱奈と綾女が生きている間は誰にも伝えないつもりだったけどね」
「どうしてなの?」
何故かわたしはキュウべえの言葉に違和感を覚えた。誰にも伝えないつもりだったと何故、言うのだろう?
「綾女からは自分と朱奈が死亡した後なら2人の事を話しても構わないと言われていたからね。けれど朱奈が生きている間は僕も伝えるつもりは無かった。けれど朱奈が自分で気付いてしまった以上、これ以上、隠しても意味は無いだろう?」
綾女ちゃんがキュウべえに話さない様に告げていた・・・。だからキュウべえも黙っていた。わたしは納得出来なかったけれど理由を知る事は出来た。
「ねえ。キュウべえ。どうして綾女ちゃんは私を奇跡で生み出したのかな?」
「そうだね。綾女には僕も同じ事を質問した事があるよ。綾女はこう言っていた。【私は愛を知らないからお互いを愛し合う存在が欲しかったの】と」
「そうだったんだ・・・」
キュウべえの言葉を聞いてもわたしの心は晴れませんでした。ただわたしは思い出した今でも綾女ちゃんの事が大好きなのは否定出来なかった。
綾女ちゃんは愛を知らなかった。だから愛を知る為にわたしを作った・・・。じゃあわたしを作り出す前の綾女ちゃんは愛を知らなかったのかな?
わたしがそんな考えを抱いているのもお構い無しにキュウべえは言葉を続けた。
「ただね。朱奈。君が生み出されたと言う事は綾女の願いはとても強くて純粋な物だったのは確かだよ。綾女が心の底から願って誕生したのが君だ。僕には愛情と言う感情が理解出来ないけど綾女の気持ちに偽りが無いのは確かだ。少しでも欺瞞が入れば契約は行えないからね」
キュウべえの言葉には感情を感じ取る事が出来なかったけど重要な事を言っていた。もしも綾女ちゃんの願いに少しでも偽りがあればわたしは生まれる事すら出来なかった・・・。だったら綾女ちゃんは純粋にわたしが生まれる事を願っていたんだ。
「そっか。綾女ちゃんが純粋にわたしの誕生を願ったからこそわたしはここにいるんだね」
「そうだよ。君たち、人間がこの世界に生まれて来る事、自体がある種の競争になっている。だからこそ人間は皆、奇跡的な確立によってこの世界に生まれているとも言えるんじゃ無いかな?」
キュウべえの言葉には何も感じる物は無かった。ただ淡々と事実だけを述べていた。
嘘の無い事実を聞いてわたしは・・・。鹿目さんを守る為に戦いたいと思っている自分の気持ちに気が付いた。同時にわたしは結果を知っていたけれど聞かずにはいられない質問をキュウべえに行った。
「キュウべえ。綾女ちゃんはもう・・・。死んじゃったの?」
「うん。綾女はもういないよ」
綾女ちゃんがもういない・・・。
そう聞いたと同時にわたしは涙を流していた。
けれどわたしは涙を流しながら決めていた。わたしは今、鹿目さんを守る為に戦いたい。
わたしを守る為に《魔女》と化してしまったあの未来を否定する為に戦いたい。
その為に《魔女》になる事を解っていながら契約をした。綾女ちゃんの事は忘れていたけれどもわたしにとっては鹿目さんも綾女ちゃんと同じ位、大切な人だった。
だからわたしはまた暁美さんや志筑さんと戦う事を選んでいた。
「ねえキュウべえ。わたし・・・。戦っても良いのかな?」
「君が《魔法少女》として戦う事に僕に異論は無いよ。もし戦いたいのなら戦えば良い。けれどそれが命懸けだと言う事は解っているんだろう?」
キュウべえの顔を真正面から見据えてわたしは頷いた。わたしは今、初めて自分が戦うと言う事を肯定していた。それまでわたしは心の底で戦うと言う事を否定していた。暴力が大嫌いだった。何かが傷付いたり壊れたりするのを見るのも嫌だった。けれども・・・。それでも・・・。わたしはわたしの大切な人を守る為にアイリス・アザレアと戦う事を決意していた。
「わたし・・・。あの《魔法少女》。アイリス・アザレアと戦う!鹿目さんを守る為に戦ってみせる!」
わたしはわたしの決意を言葉にして発した。だから決めた。もう悩まない。鹿目さんを助ける為に私は戦う!
そう考えると同時にわたしは今まで自分からは考えられなかった行動を起こした。その場にキュウべえを置いてそのまま街へと繰り出すと結界を見つけ中にいた《使い魔》を躊躇う事無くボーガンの矢で結界の壁に突き刺し動きを封じるとボーガンの弓を本体と平行にして刃物にすると《使い魔》を切り倒した。
今まであった暴力を振るう事への嫌悪は無かった。わたしは初めて戦うと言う衝動に身を任せて戦っていた。
「朱奈!?」
「朱奈さん!?」
ふと脇を見ると《結界》の内部に暁美さんと志筑さんが来ていた。もう学校の終わる時間なのだろう。制服姿のままで《結界》に入って来ていた。《結界》は崩壊して元の裏通りへと戻って行く。2人はわたしを心配そうな目で見つめていた。
その心配を払拭させる為にわたしは笑顔で答えた。
「暁美さん。志筑さん。ごめんなさい。わたし決めたの。鹿目さんを守る為に私は戦うの!」
今までのわたしからは想像出来ない様な強気な台詞を私は発していた。そんなわたしの様子を暁美さんは押し黙って、志筑さんは驚きを見せて見つめていた。
わたしに後悔は無かった。
その時、ボーガンに付いている宝玉が普段とは異なる輝きを見せていたけどそれを気にしている事は出来なくなった。
(どうやら決意は固まったようやね)
その間延びした印象を持つ声を伴ったテレパシーにわたし達3人は同時に気が付いた。
「アイリス・アザレア!」
声に出して返事をした暁美さんは《魔法少女》としての姿に変身すると周囲を見回した。
同時に志筑さんも《魔法少女》としての姿に変身した。わたしもボーガンを手に周囲に注意を向ける。
(朱奈も立ち直った様やし、ウチとの決着を付けようやないの?もう既に鹿目まどかはウチが捕らえさせて貰ったわ)
「なっ」
「まどかさんを!」
「鹿目さん・・・」
わたし達3人の驚きを無視してアイリスのテレパシーは続いた。
(ここから少し離れた跨道橋でウチは待っているわ。3人との決着が着くまでは鹿目まどかに危害を加えるつもりは無いから安心し)
一方的にアイリスはテレパシーを切った。
「2人とも、行くわよ」
暁美さんはわたしと志筑さんの返事を待たずに跨道橋に向かって駆け出し跳躍した。
「朱奈さん。私(わたくし)たちも」
「うん」
志筑さんとわたしも暁美さんを追った。
(今度こそアイリスと決着を着けて鹿目さんを助けて見せる!)
わたしは胸の内に決意を固めて暁美さんと志筑さんを追った。