偽書魔法少女しゅな☆マギカ PSEUDEPIGRAPH PUELLAMAGI SYUNA MGICA   作:ジャックノルテ

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第11話 誰も死んで欲しくない

 暁美さんを先頭に志筑さんとわたしはアイリス・アザレアへと駆け出そうとしたその瞬間、《おめかしの魔女》のリボンの様な腕が複雑な巻きをしたかと思うとそこには見覚えのある大型のマスケット銃に変化していた。と同時に巨大な魔力の塊がわたし達3人に撃ち込まれて来た。

「散って!」

 暁美さんそう言いながら咄嗟にわたしを突き飛ばした。わたしが見ている前で暁美さんと志筑さんが《おめかしの魔女》が打ち込んだ魔力の塊に飲み込まれた様に見えた。けれどそれは杞憂でありわたしの前に暁美さんを抱えた志筑さんが現れた。

「危ない所でした」

 暁美さんを降ろしながら志筑さんが睨む先には《おめかしの魔女》がアイリスと並んでいました。

「ふーん。このままじゃあつまらないか。ウチが少し盛り上げるか」

 そう言ってアイリスが右手を上げるとアンジェリカベアーズの壁が突如として破壊されその中から2体の人影が出て来た。黒い先の尖った帽子に黒いマントと長い黒髪をなびかせた2人の少女は不思議な事にまったく同じ顔をしていた。

「さて。ウチの実験を試させて貰うよ。コネクト!」

 アイリスがそう叫ぶと突如として2人の少女の肉体に異変が生じた。2人とも、まったく違う形へと変化し始めたのだ。1人は黒い髪はそのままで顔も姿も暁美さんがいつか言っていた呉キリカへと変化した。もう1人は金髪のツインテールに赤紫色の服を身に纏い両手に2丁拳銃を握り締めていた。

「あれは一体!?」

 志筑さんが驚くのを愉快そうに見つめたアイリスは説明をした。

「うまく行ったやね。ウチの記憶を元に《合成魔法少女》をウチに忠実な私が倒した《魔法少女》の姿へと作り変える。呉キリカ、飛鳥ユウリ。いえ。杏里あいりだったわね。この2人にも相手をして貰うわ。更に」

 アイリスが降ろした右手を再度、上げると結界の回りから次々と《魔女》が集まってアイリスの前に壁を作った。その数は10体にも及ぶ。

「さあ!鹿目まどかを助けたいのなら本気で戦いなさい!出ないと・・・。ウチに負けてしまうで!」

「負けるつもりは無いわ」

 叫んだアイリスに暁美さんが言葉を返した瞬間、突如としてアイリスの前で壁となっていた10体の《魔女》が爆発に飲み込まれた。同時に私や志筑さん、暁美さんの回りにロケットランチャーの本体が落ちて転がって来た。

 同時に暁美さんの表情が曇っていた。

「しまった」

 何と《おめかしの魔女》がリボンの様に伸ばした腕を何時の間にか暁美さんの右足に絡ませていたのだ。そのまま暁美さんは《おめかしの魔女》に引きずられてしまった。

「くっ」

「暁美さん!」

「朱奈さん!前を見て!」

 暁美さんに気を取られていたわたしに志筑さんは前を見る様に促した。見るとアイリスの作り出した呉キリカと杏里あいりの2人がわたしと志筑さんに向かって走って来ていた。

「私(わたくし)はあの黒い魔法少女をお相手致します。朱奈さんはもう1人のお相手をお願いします!」

「はい」

 志筑さんが呉キリカに向かって行くのを見たわたしは杏里あいりと言うもう1人の《魔法少女》に向き直りボーガンから矢を発射した。けれど杏里あいりはボーガンから放たれた矢を難なく避けるとわたしに向かって握っていた2丁拳銃を向け続け様に発射した。両肩に銃撃を受けたわたしは思わず倒れ込むが、そこへ杏里あいりの鋭い蹴りが見舞われた。

 わたしは悲鳴を上げながら蹴られた勢いで近くにある建物の壁際に叩き付けられた。

 追撃の手を緩める事無く杏里あいりはわたしの首に鉄の輪の様な物を撃って来た。首に鉄の輪の様な物が挟まれわたしは身動きが取れなかった。

「コルノ・フォルテ!」

 杏里あいりがそう叫ぶと杏里あいりの目の前に魔力で出来た闘牛が現れた。闘牛を見てわたしはこれから何が起こるのかを容易に想像する事が出来た。首を拘束する輪は取れないわたしに杏里あいりはあの闘牛を突っ込ませようとしている。わたしは必死にボーガンから矢を発射したが魔力で構成された牛、コルノ・フォルテには効果が無い様だった。

 杏里あいりが手を提げると、遂にコルノ・フォルテがわたしに突進して来た。わたしはどうする事も出来ず思わず目を瞑ろうとした時、前に暁美さんに言われた言葉を思い出した。

 

「戦いの時はどんなに怖くても目をそらしては駄目よ」

 

 怖かったけれどわたしは目を背けなかった。諦めたくないから目を開いた。

「朱奈さん!」

 その時、何と志筑さんが両の手に扇子を持って飛び、魔力を帯びて体当たりしてコルノ・フォルテを押し飛ばした!そのまま志筑さんは空中へと浮かび呉キリカと杏里あいりに魔力を帯びた風によるかまいたちを次々と放った。わたしが部屋に閉じこもっている間に志筑さんは自分の魔法を更なる高みへと進化させた様だった。両の手に扇子を持ってそこから発生させた風の魔力をコントロールする事によって自在に浮かび上がる事を実現させていた。

 一瞬、わたしはそんな事を思い浮かべたけれどそれを頭の隅に追いやって目の前にいる杏里あいりの注意がわたしから志筑さんに向けられた事を感じると腰に提げたポーチからある物を取り出して杏里あいりへと投げた。気付いた杏里あいりだったが既に遅すぎた。

 わたしが今日、暁美さんの家から無断借用したパイプ爆弾の爆発を杏里あいりは全身に浴びてしまっていた。わたしの首に巻き付いた魔力を帯びた輪は消滅してわたしは立ち上がって走った。

「志筑さん!煙を払って!」

 わたしの声を聞いた志筑さんが風を起こして煙を払うとそこには全身を焼かれて苦痛に倒れ込む杏里あいりの姿があった。

 わたしは自分の中にある躊躇いの気持ちを奥に押しやると持っていたボーガンの弓を魔力による操作で本体と平行に移動させた。

 そうする事でわたしのボーガンの弓は鋭利な刃物と貸す事が出来る。

「ああああああああ!」

 わたしは自分でも驚く様な叫びを発して杏里あいりの上半身を斜めに切り裂いた。自分でも驚く程、鋭利な切れ味だった。無表情のまま杏里あいりの体は斜めに両断されてしまった。直前の杏里あいりの表情には何も感じる事が出来なかった。

 わたしは自分のしてしまった事に対して呆然としていた。

 人の形をした物を切り裂いた、つまり殺人を思わせる事をしていてわたしは立ち尽くしていた。

 その時、脇から呉キリカがわたしに両の手に多数の鎌作り出しながらわたしに振り下ろそうとした。けれども瞬時に志筑さんがわたしと呉キリカの間に割り込むと扇子を無造作に振った。ただそれだけだったれけども突風が発生して呉キリカを吹き飛ばした。

「朱奈さん。しっかりしてください!まだ戦いは終わっていません!」

 志筑さんの言葉にわたしはハッとして頷いた。それを見届けた志筑さんは瞬時に呉キリカの真横に跳躍すると再度、扇子から出る突風で呉キリカを上空へと吹き飛ばした。呆然とする呉キリカと相対する位置に飛び上がった志筑さんは両の手の扇子を腰に挿すと右手に魔力を込めた。

「ハア!」

 魔力を込めた右腕から繰り出された突きに呉キリカの体は不自然に歪んだ。と同時にその体は黒い塊となって消滅してしまった。

 わたしが思わず脇を見ると杏里あいりと呼ばれた少女の肉体も同じ様に黒い肉体となって消滅していた。

 その時、わたしの元へ銃撃が加えられた。見ると《おめかしの魔女》とリボンで繋がったままの暁美さんがそのまま銃撃戦を行っていた。《おめかしの魔女》は右手を裂いてリボンを出現させ暁美さんに繋ぎ、起用にもリボンの無い方の右手にマスケット銃を何丁も出現させて銃撃戦を行っていた。

「朱奈さん!暁美さんをお助けしなければ!」

「うん!」

 わたしと上空にいる志筑さんが駆け出そうとした時、暁美さんが銃撃で足元のリボンを断ち切った。だが同時に《おめかしの魔女》は残った左腕を地面に垂らすと何と地面全体、さらにはこの場を包み込むように広いリボンの檻を作り出してわたし達3人を閉じ込めてしまった。

 更にはリボンの檻の中からメイド服を身に纏い脚に《おめかしの魔女》のリボンを付けた赤いポニーテールの少女を模した《使い魔》が複数、表れた。その手には見覚えのある赤い槍が握られている。

「なるほど。佐倉杏子を模した《使い魔》と言う事ね。巴マミらしいわ」

 暁美さんはそう呟きながらも左腕の盾を動かした。

 その瞬間、この《おめかしの魔女》の作り上げたリボンの結界の中で何かが変わった。

「何が起きたの!?」

「これは一体!?」

 リボンが敷かれた地面に立つわたしは目の前の空間その物に違和感を覚えていた。

 それは隣にいる志筑さんも同様だったらしい。

 けれど何が変わったのかわたしには分からなかった。

「やっぱりこのリボンが原因で私の魔法は効果を発揮出来ないようね」

 暁美さんがそう呟きましたがわたしも志筑さんも暁美さんの魔法その物は知りませんでした。左腕の盾から物を出し入れする事は知っていましたがそれ以外の魔法を持っている様だったけれど具体的には何も知りませんでした。

 その間にも《おめかしの魔女》と《使い魔》はわたし達3人に迫っていました。暁美さんが再び左腕の盾を動かすと目の前で発生していた違和感は消失した。と同時に暁美さんはわたしと志筑さんの元まで跳躍して来た。

「志筑さん。頼みがあるのだけれど・・・。私と朱奈が《魔女》と《使い魔》の注意を分散するからその間にこのリボンの檻を破ってくれない?一瞬で良いの。一瞬でも破れれば私の魔法が効果を発揮するわ」

「そうなのですか?それならば暁美さんにお任せします。魔力を溜めるのに少し時間が掛かるので、その間は・・・。護衛をお願い致します」

 真剣な表情の志筑さんを見て暁美さんは頷いていた。

「行くわよ。朱奈!」

「はい!」

 暁美さんに続いてわたしは《おめかしの魔女》と無数の《使い魔》に挑んだ。暁美さんは左腕の盾からマシンガンを引き抜くと次々と《おめかしの魔女》や《使い魔》に発射した。

 わたしもそれに続いて次々とボーガンから矢を発射し続ける。けれども《おめかしの魔女》や《使い魔》たちは銃撃や矢を回避して回避出来ない物はこのリボンの檻を構成するリボンを盾にして防御していた。

 更にはリボンの檻を構成するリボンの一部をマスケット銃へと変化させて様々な位置からわたしと暁美さんを狙い撃ちして来た。それを回避するとその場に槍を持った《使い魔》が突っ込んで来た。突っ込んで来る《使い魔》に対してわたしと暁美さんは持っている武器で《使い魔》を撃ち落して凌いでいた。その間にも志筑さんの拳が輝きを増していた。

「行きます!」

 その時、両の手に膨大な魔力を溜め込んだ志筑さんが両腕をリボンの檻を構成するリボンに向けて無造作に振った。その両腕の先からは竜巻が発生して次々とリボンの檻を破って行った。

《おめかしの魔女》はリボンを再度、伸ばそうとしたけれど志筑さんの竜巻による破壊の方がリボンの再形成を上回っていた。

 その時、暁美さんがリボンの檻が破壊されて地面が露出した部分に移動したと同時に《おめかしの魔女》の身体に爆発が起こった。

 連鎖的に引き怒る爆発に飲み込まれ《おめかしの魔女》は消滅した。同時に《使い魔》もその体を維持する事が出来ずに崩れ落ちた。

 魔力を消耗した志筑さんがその場に崩れ落ちわたしと暁美さんが駆け寄ろうとした時、

「生憎、まだ戦いは終わって無いで!」

 と言いながらアイリスが何時の間にかアンジェリカベアーズの屋根に上がり飛び降りて来た。暁美さんはアイリスにマシンガンによる銃撃を加えたがアイリスは銃撃を気にせずそのまま飛び降りて来た。確実に何発かは体に当たっていたがアイリスが気にする様子無くそのままわたし達3人から少し離れた場所に降り立った。

「ウチの武器を見したるわ!」

 アイリスが両の手に魔力を集中させると鎖が現れた。その鎖の先には丸い宝石の様な物が付いている。

 志筑さんは膝を付いて立ち上がり私もボーガンをアイリスへと向けた。暁美さんは再び左腕の盾を回転させたが今度は何の違和感も起きなかった。

「発動しない!?一体何故!?」

 狼狽する暁美さんを見てアイリスはニヤリと笑った。

「生憎やけど《おめかしの魔女》との戦いで暁美さんの魔法はコネクトで解析させてもろたわ。解析ついでにウチが少しばかりいじらせてもろた。ウチを倒さない限り盾を使った魔法は使えないで」

 アイリスの言葉に暁美さんはハッとした表情を見せたが一瞬だった。直ぐに表情を直すと弾を撃ち尽くしたマシンガンをその場に捨てると左腕の盾から新しいマシンガンを取り出した。

「たとえ魔法が使えなくても・・・。あなたに負ける訳には行かない」

 そう言って暁美さんはマシンガンをアイリスに向けて発射した。

「その意気や!それでこそウチもリベンジの遣り甲斐がある!」

 アイリスは両手から出現させた鎖を回転させて銃撃を防ぎそのまま走り出した。持っていた鎖を暁美さんの方へ片手で握りながら投げ付けた。鋭く投げ付けられた鎖の先にある宝石に当たった暁美さんはそのまま跳ね飛ばされた。

「暁美さん!」

 そう叫んだ志筑さんの前に暁美さんに当たった鎖の先にある宝石が迫って来た。アイリスは最初から暁美さんに当てると同時に当たった時の弾みを利用して志筑さんへも当てようとしていた様だった。

「志筑さん!避けて!」

 わたしは思わずそう言ったけれども回避が間に合わないと見た志筑さんは両腕を交差させて防御していたがわたしの目の前で志筑さんもアイリスの攻撃に吹き飛ばされた。

「志筑さん!」

 思わず駆け寄ろうとしたわたしの真横にアイリスが跳躍して来た。そのまま手に持った鎖の先に付いている宝石を思いっきりわたしの身体に叩き付けた。耐え切れない痛みから悲鳴を上げわたしはその場に倒れ込んでしまった。

「どうや?このままじゃあ鹿目まどかはウチに殺されてしまうで!」

 倒れたわたしの頭上でアイリスは勝ち誇った様に叫んでいた。そのアイリスの叫びを聞いた暁美さんと志筑さんは再び立ち上がっていた。わたしも立ち上がろうとしたがアイリスに背中を思いっきり鎖で叩き付けられた。悲鳴を上げてわたしは動く事もままならなかった。背中から血が流れたのを感じられた。アイリスの行動を見た志筑さんは、はっきりと分かる怒りを露わにしながら立ち上がっていた。

「志筑さん!これを!」

 とっさに暁美さんはアイリスに銃撃を加えながらグリーフシードを志筑さんへと投げた。

 意図を察して受け取った志筑さんはソウルジェムの浄化を瞬時に終えると瞬時にアイリスとの距離を詰めようとした。

「ウチは嫌いじゃないで。諦めないのは!」

 アイリスはそのまま右手で回転させた鎖を地面に叩き付けた。鎖の先端にある宝石が地面に触れた瞬間に無数の鎖が志筑さんに向かって伸びて行った。必死に動いて志筑さんは鎖を回避していた。だが脛を擦られ転倒してしまった。そこへ容赦無く無数の鎖が志筑さんを襲おうとした。

「やらせないわ!」

 そう呟き暁美さんがアイリスに向かい左腕の盾から取り出したロケットランチャーを撃ちこんだ。慌てる事無くアイリスは右手をロケットランチャーから発射された弾頭に向けたと同時に魔方陣による防御壁を発生させ攻撃を防いだ。

「はあ!」

 同時に志筑さんはアイリスとの間合いを瞬時に詰めるとアイリスの顎を思いっきり右手で殴った。アイリスは殴られた勢いで少し後退したが体勢を崩す事は無かった。。

「カハッ。中々、やりおるね。これならどうや?」

 そう言いながらアイリスは足元に魔方陣を形成した。志筑さんは一瞬、驚いた表情を見せた物の直ぐに脚を動かし再び驚きの表情を見せた。暁美さんも自分の腕の動きをいぶかしんでいる。

「速度低下の魔法や。今、この空間全体の速度を私と同じ速度に抑え込んだ。ここからはウチとガチの殴り合いと行こうや!」

「望む所ですわ!」

 わたしの目の前で志筑さんとアイリスによる殴り合いが展開されていた。2人はお互いに譲らずお互いの体の至る所を両の拳で殴っていた。余りにも2人の距離が密着し過ぎて暁美さんは援護するのを躊躇っていた。わたしも背中の激痛から立ち上がる事がままならなかった。

 どうしてこうなってしまったのだろう?

 わたしの所為でこんな事が起こってしまったのだろうか?わたしが未来から過去へ来たりしてしまったからこんな事になってしまったのだろうか?わたしがいなければこんな事にはならなかったのだろうか?

 暁美さんや志筑さんが傷付く事も無くマミさんや杏子さんが死ぬ事も無かったのだろうか?鹿目さんも囚われる事も無かった筈・・・。

 わたしが未来から来なければアイリスもここにはいない筈なのに・・・。

 そこまで考えてふとわたしは気が付いた。目の前で志筑さんとアイリスが殴り合いをしている中にも関わらずである。

 わたしはキュウべえと『私の大切な人達がいた時間に帰りたい!』と言う願いで契約をした。わたしは自分では『私の大切な人達がいた時間に帰りたい!』と言う願いに従ってわたしの大切な人達がいる時間に戻ったと思っていた。

 けれどそれは綾女ちゃんとの記憶を失ってからの事だった。綾女ちゃんとの記憶の戻った今、わたしは綾女ちゃんのいた時間こそが帰りたい時間だった。

 そこから更に考えを進めるとそもそもわたしの魔法は何なのだろう?ボーガンから矢を発射する事とボーガンを剣の様に扱う事だけなのかな?

 私はキュウべえと契約をしてこの時間に来た。

 ここからが問題だった。

 そもそもわたしの願い『わたしの大切な人達がいた時間に帰りたい!』と言うのはもしも帰りたい時間が変わってしまったら効力を発揮するのだろうか?

わたしは今、必死に私が契約をした時の事を必死に思い出していた。確かあの時、ボーガンの弓が左回りに回転して魔方陣の様な物が足元に出現してわたしは過去に移動した。

 わたしは左手を伸ばして右手で握っていたボーガンの弓にはめ込まれた宝玉に触れて残った魔力を注いでみた。これは一度も試した事が無かった。

 怖かったから、この時間から離れる事をわたしは恐れていたから時間移動と関係があるかも知れない宝玉には決して触らなかった。

「お願い・・・。もう一度、時間を飛ばせて・・・」

 わたしがそう呟くのに反応する様に宝玉は反応した。わたしは・・・。その瞬間にわたしが今まで知らなかった自分の魔法を知った。

 だからこそわたしはそれを今、この時、この場で使う事を決断した。

「くぅ・・・!」

 見ると志筑さんは片膝を折りアイリスの右拳を思いっきり頬に受けていた。

「志筑さん!」

 すかさず暁美さんは新たに取り出した拳銃をアイリスに向けたがアイリスは志筑さんの首を左手で掴み志筑さんを盾にした。躊躇の表情を見せた暁美さんにアイリスは語りかけた。

「これでもウチを撃てるんかい?」

 愉快そうに語るアイリスに志筑さんと暁美さんは悔しそうな顔をしていた。

(暁美さん・・・。お願いです。私(わたくし)ごとアイリスを撃ってください!)

 わたしにも聞こえる様に志筑さんはテレパシーを暁美さんに送っていた。

(分かったわ・・・)

 暁美さんが本気で撃とうとしたのを感じてわたしは理解していた。

 今こそわたしの魔法を使う時だと。

 全身に残っている魔力を振り絞ってわたしは立ち上がるとそのままボーガンを鋭利な刃物と変えると油断していたアイリスの首筋から背中に向かって切った。

 悲鳴を上げなかったアイリスだけども驚いて志筑さんの首を掴んでいる左手は緩くなっていた。瞬時に志筑さんは右足でアイリスの左腕を蹴るとアイリスは更にバランスを崩した。そこへ更に暁美さんの拳銃から次々と銃弾が放たれアイリスの体から血を噴出させよろけさせた。

「中々、やるやね・・・。痛みを感じていたら死んでいたわ・・・」

 アイリスがそう言い終わるか終わらない間にわたしはつま先に力を込めて体全体で飛びアイリスの脚を左腕に挟み込んだ。

「何をする気や?ウチの脚から離れな!」

 そう言ってアイリスは右手から鎖を出現させる動きを見せたが鎖は出現しなかった。

「どういう事や?ん!?」

 そこまで言ってアイリスは気が付いた様だった。わたしのボーガンの弓が宝玉の輝きと共に右回りに高速で回転し私とアイリスの周りに魔方陣が敷かれている事に。それがあwたしに契約を結ばせた時に起こった事と同じ事だとアイリスも理解した様だった。

「まさか朱奈。ウチを連れて時間を移動するつもりやの!?」

 アイリスの叫びに暁美さんはハッとした表情を見せた。志筑さんはだけは事態の推移に混乱しているのか驚いた表情をわたしとアイリスに向けていた。

「そうだよ。わたしもアイリスもここにいちゃいけないの!わたしとあなたがこの時間に来てしまったからわたしの大切な人は死んでしまった。だから・・・。もうこれ以上、誰も死んで欲しくない!わたしとアイリスはここからいなくならなきゃいけないの!」

「何を勝手な事を!ウチはまだやりたい事があるんやから朱奈だけが何処かに行けば良い!」

 そう言ってアイリスは再度、鎖を出そうとしたが鎖は出なかった。

「何でや!?何でウチの鎖が出ない!?そうや・・・。そう言う事や!この魔方陣の下では朱奈の魔法以外は使えないんや!なら、拳で叩きのめすまでや!」

 アイリスが右腕を振り上げた直後、アイリスの右肩に暁美さんが拳銃を撃った。更には志筑さんが腰から引き抜いた扇子をアイリスの右腕に投げ付け殴るのを妨害した。

「こんなんでウチは止まらないんや!」

 そう言いながらアイリスはわたしの背中を殴った。わたしは悲鳴を上げたけどアイリスの足から決して手を離さなかった。

「もう遅いよ。わたしとあなたは元いた場所に帰らなきゃ駄目なの!」

 わたしがそう呟くと同時に魔方陣と私のボーガンは輝きを増して行く。

「朱奈!ウチは筒地綾女の記憶を持っているんやで。ある意味では綾女に最も近い存在や。なのにどうしてウチの邪魔をする!」

「ちがう!あなたは綾女ちゃんの記憶を持っていても綾女ちゃんじゃない!本物の綾女ちゃんはわたしが悲しむ様な真似を絶対にしない!あなたはただ自分の欲望の為に綾女ちゃんの記憶を利用しているだけ!」

 わたしに言い返されてアイリスは少し顔をしかめたが再度、口を開いた。

「そうや。だからこそや。だからこそ記憶を利用しているウチを離して貰わないと困るんや!」

 再度、アイリスが右の拳を振り上げた時、わたしの魔法は発動した。

(暁美さん。志筑さん。お願い。鹿目さんを助けて上げて!)

 わたしが暁美さんと志筑さんにテレパシーを送った直後にわたしとアイリスは魔方陣の中に飲み込まれて何処かに向かって浮かび上がり続けていた。

「こんな事でウチは諦めたりしないで!」

 アイリスは脚にしがみ付いているわたしに向かってそう言いながら右の拳を振り上げた。

 わたしはしっかりとその拳を見つめていた。怖かったけれど見つめ続けた。

 途端に拳の先から僅かながらも鎖が伸びて来た。

「どうやら移動空間ではウチの魔法も使えるんやね!」

 そう言いながらアイリスの鎖は真っ直ぐにわたしの顔面を叩き付け勢い余った先端の宝石がわたしのソウルジェムを傷付けた。

「うっ」

 ソウルジェムが傷付いた瞬間にわたしは力が抜けてしまいアイリスを離してしまった。

 アイリスは魔力を使って移動空間を制止してそのまま力の抜けたわたしだけが移動空間を浮かび上がり続ける。

「今度は朱奈の魔法をウチは頂く事にするや!」

 アイリスがそう呟いてわたしを追って魔力で浮かび上がろうとした時だった。アイリスの体が砂上の楼閣の様に崩れ始めたのだ。

「なっ!?これは一体!?まさか!?」

 ソウルジェムが傷付いた衝撃でわたしの視界は暗くなっていた。けれどもアイリスの体が崩れて行くのは認識する事が出来た。

「ウチは!ウチは!ここで終わりたくないんや!」

 そう叫びながらアイリスはわたしに向かって手を伸ばしていた。だがその体は指先から次々と砂の様に流れ落ちて行く。腕も脚も体も流れ落ち最後に悔しそうな表情を見せたアイリスの顔とソウルジェムも移動空間の見えない底へ流れ落ちて行った。

 瞬間、無数に輝く何かが移動空間の中を散っていくのが見えた。そこまで見た所でわたしの意識は途絶えかけた。けれども途絶える前にわたしは自分の体が何処かに落ちたのを感じる事が出来た。

 それはわたしの時間移動を終えた事の証でもあった。

 わたしはわたしがいた未来に帰った筈だった。

 けれども消耗したわたしはその事を確かめる事無く昏倒してしまった。

 

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