偽書魔法少女しゅな☆マギカ PSEUDEPIGRAPH PUELLAMAGI SYUNA MGICA   作:ジャックノルテ

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第12話 わたしなんかの為にありがとう

 気が付くとわたしは何処かの場所に倒れ込んでいた。周囲を見てみると暴風雨の中、破壊し尽くされた街の様子が目に入った。その様子はわたしが見覚えのある物だった。

「この天気・・・。それに建物・・・。ここは見滝原だ。わたしは未来に戻ったのかな?」

 そう呟いて再度、回りを見渡した時、わたしはこの場所が高速道路に跨る跨道橋だと分かった。無理をして立ち上がり周囲を見渡すと街の様子がおかしい事に気が付いた。まるで湖に飲み込まれた様に待ちが水に飲まれてしまっている。

 その時、多くの建物を破壊して何かが膨張して行くのが目に入った。それは一瞬、人型の上半身と丸い根の様なモノが集まった下半身をした《魔女》だった。前にも見た鹿目まどかが《魔女》となった姿だった。

「鹿目さん・・・。ぐすっ」

 わたしは涙を流していた。涙を流しながら違和感を覚えていた。私が前に遭遇した鹿目さんの《魔女》よりも今、目の前にいる鹿目さんの《魔女》は姿が大きかった。

「もう一度、過去に行かなきゃ。今度は1人だから・・・」

 そう言って私がボーガンを見つめた時、ボーガンは突如として砕け散ってしまった。

「そんな!?どうして!?」

 わたしは困惑して自分の体に視線を走らせた。傷は無い。けれども胸にあるリボンに付けられたソウルジェムに大きなヒビが入っていて魔力が抜けて行くのが分かった。同時に《魔法少女》としての服装が消えわたしの服装は赤いワンピースに戻っていた。

「わたし、もう《魔法少女》でも無くなっちゃたんだ・・・」

 悔しかった。鹿目さんを救う為に契約をしたのに結局、わたしは鹿目さんを救う事も出来ずに終わってしまうだろうか?わたしの瞳に溢れる涙の量が多くなった時、近くで何かが落ちる音がした。同時に人の声もして来た。僅かに生じた気持ちに従ってわたしは涙を拭うと音のする方へ行って見た。瓦礫の山の中から上半身だけを突き出し下半身は完全に瓦礫に埋もれた姿で志筑さんがいた。

「志筑さん!」

 わたしは慌てて駆け寄った。制服姿の志筑さんは傷だらけだった。それに瓦礫に押し潰された下半身や背中の方からは血が流れていた。左手に付けられたソウルジェムの指輪には無数のヒビが入っていた。

「しっ朱奈さん・・・」

 わたしの声に気が付いた志筑さんは閉じていた瞳を開きわたしを見た。けれどその瞳の光はわたしでも分かる位に弱っていた。

「どうしてここにいるのですか?暁美さんは?それにあの《魔女》は一体?」

 志筑さんの疑問にわたしは答えるかどうか悩んでいた。けれどソウルジェムに大きなヒビが入った以上、わたしはもうそんなに長く生きていられないのは明白だった。それにあの《魔女》がいる以上、もう直ぐわたしと志筑さんも死ぬ事は明らかだった。

「暁美さんは分かんない。あれは・・・。あの《魔女》は鹿目さんが《魔女》になった姿なの!」

 わたしの言葉に志筑さんは驚きの表情を見せていた。

「そんな!?では鹿目さんは契約をしてしまったと言う事ですか!?」

「うん。だからもう何もかもが手遅れなの。わたしは結局、何も出来なかった。わたしだって鹿目さんを救いたかったのに!」

 そう叫んで私は我慢しきれずに泣き出した。志筑さんの見ている前で構わず泣き出した。《魔法少女》になってもわたしはやはりただの子供だった。ただの泣き虫な子供のままだった。

 でも泣き続けるわたしに志筑さんは優しい言葉を言ってくれた。

「朱奈さん・・・。泣いても良いのですよ。朱奈さんの気持ちは私(わたくし)にも良く分かります」

 志筑さんの言葉にわたしはハッとなって顔を上げて志筑さんの顔を見た。

「私(わたくし)大切な物を守れませんでした。鹿目さんだけではありません。この街には私(わたくし)にとって大切な人がおりました。お父様やお母様。それにさやかさんや上条君。みんな死んでしまったのですね・・・」

 志筑さんはそう言って涙を流していた。わたしは恥ずかしかった。自分だけが悲しいと思って泣いたのがとても恥ずかしかった。目の前にいる志筑さんだってとても辛い思いをしていた筈なのに・・・。

「それにもう私(わたくし)には戦う為の力も残されておりません。朱奈さんも戦う力は残っていないのでしょう?」

 志筑さんの言葉にわたしは頷いた。それを見た志筑さんは泣きながらではあるが少しだけ、精一杯の笑みを見せた。

「朱奈さん。私(わたくし)の手を握って下さい。せめて・・・。私(わたくし)だけは最後まで朱奈さんの手を握っていたいのです・・・」

「うん。わたしも志筑さんの手を握りたい・・・」

 わたし達はお互いの右手を握り合った。志筑さんの手からは確かな温もりが僅かだけど感じられた。

「せめて・・・。最後まで寄り添いましょう。この命が尽きるまで、私(わたくし)は朱奈さんの手を離しません」

「志筑さん・・・。ありがとう・・・。わたし・・・。死にたくないよ・・・。けどもうどうにも出来ないのなら・・・。1人で死にたくないよ」

 そう言ってわたしが目を瞑った時、志筑さんが左手で私の頭を撫でた。

「大丈夫ですよ。私(わたくし)は・・・。朱奈さんを1人には致しません・・・」

「うん。わたしも志筑さんを離さない・・・。大切な人達をわたしは助けられなかったから・・・。せめてこの手だけは離したくない・・・」

「朱奈さん・・・。ありがとう・・・」

「志筑さんもわたしなんかの為にありがとう・・・・」

 わたしはそう言って志筑さんの体に抱き付いた。志筑さんの肩ですすり泣いた。志筑さんもわたしの肩ですすり泣いていた。けれどお互いの右手は決して離さなかった。

 

 それからどれ位の時が流れたのかは分からない。もう既にこの地球には時を数える事が出来る命は消え去っていた。この地球にいるのは一体の巨大な《魔女》だけだった。

《巨大な魔女》はその体から命を吸い取る根を出し地球上にいる全ての命を吸い取り自分の力に変えていた。そしてこの星を飛び立とうとしていた。この地球からは命は無くなったがまだ宇宙には無数の命が存在する事を《巨大な魔女》は感じ取りそれが故に地球から飛び出そうとしていた。

 地球から飛び出そうとする《巨大な魔女》の足元から生える根の中には見滝原市と呼ばれた場所があった。街の残骸の中には無数の命を吸い取られた人々の死体が無造作に転がっている。中には親子と思しき物も、恋人同士と思しき物もあった。余りにも一瞬で命を奪われたのか人々の顔には苦痛の後が無く安らかな物だった。

 無数ある遺体の中には2人の少女の遺体があった。遺体の近くでは何か宝石の様な物が砕け散っていた。けれども2人の少女の顔は涙の跡があるがとても安らかな物だった。

《巨大な魔女》は地球上にある全ての命を吸い尽くし遂に宇宙へと飛び立った。

 地球は死の星と化し1つの種族が積み立てた文明は消滅した。

 それは宇宙にとって些細な事かも知れなかった。

 幾つもの平行世界でも同じ様に《巨大な魔女》によって地球は滅ぼされていた。

 けれどもそれを良しとしない少女がいた。

 否。正確には《魔法少女》が絶望の果てに《魔女》となり世界を呪い続けると言う運命を良しとしなかった。

 少女は願った。「全ての魔女を生まれる前に消し去りたい」と。

「全ての宇宙、過去と未来のすべての魔女をこの手で消し去りたい!」と。

 今、少女の願いに基づき世界は再編される。

 

 わたしは志筑さんの肩ですすり泣いていた。

志筑さんもわたしの肩ですすり泣いている。

 わたし達にはもう泣いて運命を受け入れる以外、選択の余地は無かったのだから・・・。

 

 

(ありがとう。私の為に戦ってくれてありがとう)

 

 

(鹿目さんの声!?)

その時、わたしは確かに鹿目さんの声を聞いた。

「今のはまどかさんの声?」

 同様の声を志筑さんも聞いたのかわたし達はお互いの顔を見つめあった。

 その時だった。眩い程のピンク色の光が降り注ぎ鹿目さんの変化した《魔女》を飲み込むとそのまま消し去った。それは浄化とされる様な消え方だった。ピンク色の光はわたし達の元へも降り注いできた。

 ピンク色の光の中から《魔法少女》としての服装をした鹿目さんが現れ手を伸ばした。

「鹿目さん!」

「まどかさん!」

 わたしと志筑さんはそう叫ぶが鹿目さんは優しい笑顔を浮かべて私と志筑さんのソウルジェムに触れた。その瞬間に穢れを溜め傷付いていたわたしと志筑さんのソウルジェムは浄化され消滅して行った。

 突然の現象にわたしと志筑さんは驚きを隠せなかったけれども1つだけ確かな事を感じていた。

 わたし達は鹿目さんの慈愛に包まれ安堵感の中で最後を迎えるのだと言う事を。

 わたしと志筑さんはお互いの顔を見て目を閉じた。その光景がわたし達の見た最後の光景だった。

 

 

 気が付くとわたしと志筑さんは見滝原のショッピングモールにあるファーストフード店の中で4人掛けの席に座っていた。周りには誰も人がいない。わたしは隣に座る志筑さんの顔を見たけれど困惑している様子だった。

「わたし達はどうしてここに?確かわたし達はまどかさんにソウルジェムを・・・」

 そうだった。わたしと志筑さんは確かまどかさんにソウルジェムを浄化され意識を失った筈だった。どうしてここにいるのか見当も付かなかった。

「わたしが2人を呼んだんだよ」

 不意に向かい側の席から声がしてわたしと志筑さんが振り向くとそこには鹿目さんが座っていた。けれど鹿目さんだけでは無くて隣には物憂げな様子のアイリスが座っていた。

「鹿目さん!?どうしてアイリスと一緒に!?」

 思わずわたしと志筑さんはアイリスに対して身構え様とした。

「ちょっと待って。仁美ちゃんも朱奈ちゃんも落ち着いて。私が3人を呼んだんだから」

 慌てて鹿目さんは手を振ってわたし達とアイリスの間に入った。

「まどかさんがわたし達をここに呼んだのですか?」

 驚いた様子で志筑さんは椅子に座り直した。わたしも椅子に座りなおして鹿目さんに視線を向けた。

「そうだよ。何処から話したら良いのかな?まずは説明をするね」

 鹿目さんは少し恥ずかしそうに話を始めた。

 それはとても長い話でもあった。ある世界の鹿目さんが暁美さんの鹿目さんを救おうとする時間移動が繰り返された影響で《魔法少女》としては破格の才能を持ち合わせてしまった事。《魔法少女》となるまでにマミさんや美樹さやかさん、佐倉杏子さんらの犠牲を目にし暁美さんが自分を守る為に幾度も時間移動を繰り返した事を知り、その世界の鹿目さんは願った。

「全ての魔女を生まれる前に消し去りたいと。全ての宇宙、過去と未来のすべての魔女をこの手で!」

 鹿目さんの願いは叶い今、宇宙は鹿目さんの願いによって再編されている最中なのだと言う。

「まさかそんな壮大なお話を聞く事になるとは思いませんでしたわ。それではここは・・・」

「ここは全ての《魔法少女》の魂が集まる場所なんだけど・・・。3人にはどうしても伝えなきゃいけない事があるの・・・」

 志筑さんの質問に鹿目さんは答えたが少し辛そうな表情を見せた。

「鹿目さん。わたし達に何を伝えたいの?」

 わたしと目が合うと鹿目さんは覚悟を決めた様に口を開いた。

「実はね・・・。私が宇宙を再編していく過程で・・・。どんなにやっても仁美ちゃんと朱奈ちゃんやアイリスさんの願いはどうしても叶える事が出来ないの」

 鹿目さんの言葉に私は驚いていた。わたしだけでは無かった。志筑さんやアイリスも驚いている様だった。

「なるほど。そう言う事な。まあウチには理解出来るで。何たってウチの願いは《魔女》の存在を前提とした願いや。鹿目さんが《魔女》の存在を否定したらウチの願いも叶う筈が無い。それに・・・。ここに来て分かったけれどもウチが《魔法少女》としての資格を手に入れたのだって元を正せばウチが死ぬ間際に時空間でばら撒いた《魔法少女》としての素質が偶然、平行時間のウチの中に入って得た物や。だからこそ宇宙その物が再編される過程で《魔女》の存在を前提とした願いをしているウチが《魔法少女》とならない以上、ウチが素質を与えた志筑さんや朱奈もなれないと言う事やろ?」

 それまで黙っていたアイリスは鹿目さんに変わって一気に説明を終えると目の前にあるバリューセットからジュースを取ると飲み込んでいた。気が付くと何故か私たちの目の前にはチーズバーガーセット等のファーストフードのセットが人数分、並んでいた。

「そうなのですか・・・」

 志筑さんは少し悲しそうな様子を見せていた。

「でもね、仁美ちゃんの願いは別な形で叶えられるから安心して。だから仁美ちゃんが新しい世界で契約をする必要はもう無いんだよ」

 鹿目さんは励ます様にそう言っていた。

「1つ、お聞きしたいのですが鹿目さんはどうなるのですか?それ程、壮大な願いを叶えた代償はとても大きなモノである筈です」

 志筑さんの質問に今度は鹿目さんが考える様子を見せた。

「私はね未来永劫、この宇宙から《魔女》が生まれない様にする為の概念となってしまうの。だから私は宇宙の再編が終わった段階でもう誰にも干渉が出来ないし誰も私を覚えておく事が出来ない。それが私の願った奇跡の代償なの」

 鹿目さんはとてつもない代償を支払ったにも関わらず後悔を感じさせない明るい口調で志筑さんの質問に答えた。

「では・・・。私(わたくし)も宇宙が再編される過程でまどかさんの事を忘れてしまうのですね・・・。まどかさんはそれでも良いのですか?大切な人たちと離れ離れになって・・・。私(わたくし)はまどかさんを大切な友人だと思っているのですよ」

 志筑さんは悲しげな様子を隠さずに鹿目さんに思いを話していた。

「わたしも・・・。わたしも鹿目さんの事を忘れたくないよ・・・。だってわたしは鹿目さんを助けたかったから《魔法少女》になったのに・・・」

 思わず私も鹿目さんに思いを伝えた。鹿目さんは笑顔で頷いた。

「うん。分かっているよ。今の私になったからこそ私は全ての《魔法少女》達がどんな思いで戦って来たのかを知る事が出来た。だからこそ仁美ちゃんや朱奈が願った奇跡や戦う理由も理解する事が出来る。でもね・・・。これは私が望んだ事なんだよ。私は《魔法少女》が世界を呪い《魔女》となる事が許せなかった。だからこそみんなを絶望から救う為にこの願いを叶えたの。《魔女》となる前に《魔法少女》の魂は全て私が受け入れる。それに1度、《魔法少女》となった少女の魂はここへ来る事になるから仁美ちゃんや朱奈も自分の人生を終えた時、私の所に来る事が出来るから。そうすれば私の事を思い出せるから」

 鹿目さんはわたし達3人に精一杯の思いを言葉に代えてわたし達3人に伝えていた。だからこそわたしは鹿目さんの願いを否定する事が出来なかった。

「決心は固いのですね・・・。分かりました。まどかさんがその願いを望むのならば私(わたくし)は応援させて頂きます。そして何時の日か自分の人生をどんな形であれ終えた時にもう一度、あの日の様に語り合いましょう。もはや遠い過去となった私(わたくし)達の日常の様に」

 志筑さんは涙を流しながら言葉を紡いだ。わたしは志筑さんを改めて強いと思った。大切な友達との別れの時に別離を応援する言葉を送るなんて自分には出来ないと思った。

「ウチは・・・。そうやな。そんな世界その物を作り変えた鹿目さんには負けたと言う事は認めるや。けれど・・・。人生を終えてここに来たらまた勝負はして貰うで!今度はウチが勝ちたいんや!」

 アイリスは勝気な様子でそう語った。けれども今のアイリスからはわたしと志筑さん、暁美さんが会った時の様な刺々しさは感じられなかった。

「わたしは・・・。鹿目さん。私も鹿目さんの事を応援する・・・。だから負けないで!」

 それがわたしに言える精一杯の言葉だった。勝ち負けの問題では無いと言う事は分かっていたけれどわたしには旨くこの場に相応しい言葉が見つからなかった。

「ありがとう。朱奈ちゃん。私より幼いのに右目の呪いで苦しんで、私を助ける為に契約までした朱奈には1つだけ願いを叶えてあげる。朱奈ちゃんが会いたいと思っている人を連れて来てあげる」

 鹿目さんがそう言って目を閉じた時、1人の少女がファーストフード店に入って来た。

極端な左右非対称な髪型にとても背の高いその少女はTシャツにジーンズとスニーカーと言うラフな服装で歩いて来た。

「久しぶりね。朱奈」

「綾女ちゃん!」

 わたしは思わず席を立つと綾女ちゃんに向かって走ってそのまま抱き付いた。確かに綾女ちゃんの温もりと香りを私は感じていた。

「どうして綾女ちゃんがここにいるの?」

「鹿目まどかさんに私の魂も導かれてここに来たのよ。そして朱奈がここに来ている事を教えて貰ったの」

 綾女ちゃんは笑みを見せながらそう言った。

「朱奈・・・。ごめんなさい。まずは謝らせて欲しいの」

 綾女ちゃんは急に少し悲しげな様子を見せるとわたしの頭を撫でた。

「もしかして・・・。わたしが奇跡で生まれた事を隠していた事?」

 わたしの言葉に綾女ちゃんは小さく頷きました。

「そう。私はここに来て知ったわ。朱奈が奇跡によって生まれた事を知って混乱して苦しんだ事を・・・。そして私が朱奈に嘘を付いていた事を・・・。家族がいないのに家族がいるかも知れないと私は嘘を付いてしまっていた・・・」

 そう語る綾女ちゃんの顔は苦しげな様子だった。自分の犯した過ちをわたしに話すのだからそれはとても苦しい事かも知れなかった。

「良いの。だって家族がいるのかなと疑問を口にしたのはわたしだから。わたしが綾女ちゃんに嘘を付かせたんだから良いの」

 わたしの言葉を聞いて綾女ちゃんの顔からは憑き物が落ちた様に晴れやかな表情を見せていました。

「朱奈。ありがとう。私にとって大切なのは世界でただ1人。朱奈だけよ」

「綾女ちゃん。ありがとう。わたしを生まれさせてありがとう」

 再び綾女ちゃんはわたしを強く抱き締めた。少し痛かったけれど久しぶりに感じる綾女ちゃんの温もりと香りに包まれてわたしはとても嬉しかった。

「それじゃあみんな、もう行こっか」

 鹿目さんは突然、そう告げた。

「これから世界が再編されるからみんなも元の場所へ帰る事になるの。その世界では《魔女》は現れないしここでの事は覚えていないけれどみんな新しい人生を歩む事になるの。だからまた会う時まで・・・」

 鹿目さんはそう言って言葉を切った。

その様子を周りのみんなは真剣な表情で聞いている。

「まどかさん。またお会いする事があればまた、あの日の様に語り合いましょう。その時を楽しみにしています」

「ここへ来たら勝負する約束やで。ウチは忘れないで」

 志筑さんとアイリスは思いを告げて消えていった。きっと新しい世界の元いた場所へ帰って行ったのだろう。

「鹿目さん。ありがとう。わたしの為にありがとう」

 それがわたしから言える精一杯のお礼だった。

「朱奈。良く言えたわね。鹿目まどかさん。本当に朱奈の為にありがとう」

 綾女ちゃんもわたしの頭を撫でながらそう告げた。

「良いんだよ。それじゃあ。私は他のみんなを迎えに行くから・・・。いつかまた会おうね」

 わたしと綾女ちゃんは手を繋いでいた。消えるまではお互いの温もりを感じていたかった。

「綾女ちゃん」

「どうしたの?朱奈」

「わたし・・・。綾女ちゃんが大好き」

「朱奈。私も朱奈が大好きよ」

 お互いの思いを確認した瞬間、わたしと綾女ちゃんは鹿目まどかさんの再編した新たな世界へと戻って行く。

 わたしはこの思いを忘れたくない。

 たとえ記憶を失ってもこの思いだけは忘れたくないと願った。

 その願いが叶うかどうかは分からなかったけれど私は願い続けた。

 

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