偽書魔法少女しゅな☆マギカ PSEUDEPIGRAPH PUELLAMAGI SYUNA MGICA 作:ジャックノルテ
「さて・・・。朱奈。私は学校に行くからその間も魔法の練習はしておきなさい。今日も恐らく《魔女》と戦う事になるんだから」
「はい。わたし、ちゃんと自分の魔法を使いこなすよ」
「まず昨日、教えた基本をしっかりと復習なさい」
「うん。やってみる」
「学校が終わったらテレパシーで連絡するわ」
わたしと暁美さんはそう言って暁美さんの住むアパートを後にした。
暁美さんのアパートにわたしが居候して二日経っていた。
今日から中学校に行く暁美さんと途中で別れるとわたしは1人で河川敷の工事現場に来た。
この工事現場は今、閉鎖されており人が殆ど来ない場所だった。
周囲に人がいない事を確認してわたしは右の手に平にソウルジェムを出現させると魔法少女としての姿に変身した。
そのままわたしはこの工事現場にある幾つかのドラム缶に対してわたしの武器であるボーガンを右手に出現させるとそのまま連続で五発、矢を発射した。
発射された矢は朱奈が思ったとおりに五つのドラム缶に穴を空けた。
少なくとも初めて戦った時よりはボーガンを撃つペースは速くなっていた。
初めて戦った時に朱奈の中にあった武器を使い戦うと言う事への躊躇いが少しずつだが薄まっているようだった。
そんな事を意識しながらわたしはボーガンの弓にあたる部分に僅かに魔力を集中させた。
同時に弓は回転してボーガン本体と平行に向きを合わせた。
そのままわたしはドラム缶に走り寄るとボーガン本体を叩き付けた。
するとドラム缶は切り裂かれたのだ。
まるで鋭利な刃物によって切り裂かれた様に。
そう。
わたしのボーガンは弓にあたる部分を本体と向きを平行に合わせる事で刃物の様に扱う事が可能だった。
昨日、わたしと暁美さんは日曜日だった事を利用して朝からこの河川敷にある工事現場に来た。
暁美さんは私に《魔法少女》としての戦い方を教えてくれた。
魔力を利用して痛みを緩和し傷を治す方法。
更に魔力を肉体に巡らせて運動能力を高める方法等を教えて貰った。
その過程でわたしと暁美さんは私が持っている魔法がどういった効果を持つ魔法かを試していた。
暁美さんの魔法持つ魔法の様に時間を止めたり時間を遡ったりする能力を持っていなかった。
これはわたしが奇跡によって時間を遡ったからかも知れないと暁美さんは推測をしていた。
わたしの持っている魔法は自動で相手に当たる矢を発射するボーガンを生成する魔法だけだった。
暁美さんに言わせればわたしは極々平均的な《魔法少女》との事だった。
わたしは確かに自分の魔法が今まで自分が出会った《魔法少女》と比べて見ると特別、秀でた魔法を持っている訳でも無かった。
鹿目さんの様な破壊力やマミさんの様な拘束魔法や魔力の一点集中、それに杏子さんの様な大きな武器を生成して切り刻むと言った事をわたしは出来なかった。
けれどもわたしはその事にめげなかった。
暁美さんは
「魔法と言うのは当人が願った奇跡によって形作られるの。けれどもそこで完成と言う訳で無いわ。そこから自分で応用を利かせる事も大事なのよ」
とわたしに言ってくれた。
だからわたしは自分に出来る事を少しずつで良いから見つけようと思っていた。
「やあ。君は朱奈だね」
その時、わたしは聞きなれた声を聞いて振り向くとドラム缶の上には何時の間にか現れたキュウべえがわたしを見つめていた。
「キュウべえ・・・」
「やっぱり僕の事が見えているみたいだね。朱奈。どうして君は《魔法少女》になっているんだい?僕は君と契約をした覚えが無いのだけれど・・・。それに、そもそも君は契約が出来ない筈だよね?出来たら説明をして欲しいんだけど、どうだい?」
そう言われてもわたしはキュウべえに説明をする事が出来なかった。
暁美さんに口止めをされていたからだった。暁美さんはもしキュウべえと会っても未来から来た事を決して話してはいけないとわたしに忠告をしていた。
それにキュウべえは《魔法少女》がいずれ《魔女》となる事を隠しているとも聞かされていた。
だからわたしは暁美さんの忠告に従う事にした。
「ごめんなさい。わたしその事を話せないの」
わたしはキュウべえから目を逸らしながらそう答える事しか出来なかった。
「そうか・・・。なら話せる様になったら聞く事にするよ。僕は用事があるからまたね。朱奈」
キュウべえはそう言って去って行った。
少し拍子抜けしたわたしだったけれどわたしは気を取り直して暁美さんに課せられた魔法のコントロールの訓練を再開した。
わたしは夢中になってずっと魔法を使いこなす為の訓練をしていた。
やがて日が傾いて時間は午後になった。
その時だった。
(朱奈。聞こえる?)
わたしの頭の中に暁美さんの声が響いた。
直ぐにわたしは返事を返した。
(暁美さん!聞こえるよ)
(これから駅前にあるショッピングモールに来て頂戴。《魔女》と戦う事になるわ)
(はい。すぐに行くね)
(言っておくけれど鹿目まどかと会っても声をかけては駄目よ)
(え!?どうして?)
(あなたは鹿目まどかを救う為にここに来たのでしょう?とにかく言うとおりにして。改装中の東口の前で待っているわ。それと・・・。捕まえていた黒猫は逃がして良いわよ)
そう言って暁美さんはテレパシーを終えた。
わたしは鹿目さんと会っては行けないという事が悲しかったけれど・・・。
でも・・・。
鹿目さんを救う為には仕方の無い事かも知れなかった。
まずわたしは暁美さんに言われた黒猫を逃がす事にしました。
その黒猫は暁美さんが昨日、捕まえて何かから隠す様に工事現場のドラム缶の中に隠されていました。
暁美さんが毎日、餌を持って来ていたので閉じ込められていたけれど元気良く鳴いていました。
わたしは黒猫が隠されている横になったドラム缶の蓋を抑え付けていたコンクリート片をどけると蓋を外した。
と同時に黒猫は勢い良く飛び出して来た。
「ひゃっ」
驚いたわたしが尻餅を付いた様子を横に見ながら黒猫は走り去って行きました。
(行っちゃった・・・。閉じ込められていたのにあんなに元気なんだ・・・。じゃあ私も頑張らなくちゃ!)
わたしは決意を新たにすると駅前にあるショッピングモールに向かって歩き出した。
前にいた《時間軸》では私はマミさんや鹿目さん、暁美さんや杏子さんとこの見滝原市内を一緒に歩いたりしていたのでショッピングモールまでの道は分かっていました。
そうやって歩いていると街の中で警察官の姿がいつもより多くいる様な気がしました。
それに警察官やすれ違う人がわたしの事を怪訝な表情で見ているのも少し気になったけど理由を思い至りませんでした。
ふと近隣のビルに設置された街頭テレビのニュースが目に入った。
『本日未明、見滝原市内で行方不明となった女子児童の死体が発見されました。外傷は無く警察では事故と事件の両方から捜査を進めています。またここ数週間で近隣の市町村で起きている原因不明の女子児童の死体が発見された事件との関連も含めて警察では捜査を進めています。また少女が行方不明となる事件がここの所、立て続けに発生しています。市民の皆さんはくれぐれもご注意ください』
「だからお巡りさんが多いのかな?」
そう思いながらわたしは暁美さんとの待ち合わせの場所に向かって足を速めた。
やがてわたしは駅前にあるショッピングモールのフェンスに囲まれた改装中である東口の前に着きました。
既にそこには朝と同じ見滝原中学校の制服に身を包んだ暁美さんが待っていました。
わたしは暁美さんに向かって手を降りました。
「暁美さん!」
「朱奈。速かったわ」
そう言って暁美さんは驚いた顔をわたしに向けていました。
けれど直ぐに表情を引き締めるとわたしの手を引っ張って建物の影に隠れました。
「朱奈。あなた、その格好でここまで来たの?」
「え?」
そう言われてわたしが自分の服装を見るとわたしはうっかり《魔法少女》としての姿のままでここまで走って来ていたのです。
「あっ!ごめんなさい。わたし、うっかりしていて・・・」
「あなたなら気にされないけど・・・。次から気を付けて。行くわよ」
どうしてわたしなら気にされないと思われたんだろう?
そう思ったけどわたしはその事を考え続ける事が出来ませんでした。
わたしの前で暁美さんは《魔法少女》としての姿に変身しました。
持っていた鞄を左手の盾に収納すると魔力によって強化された脚力で難なくフェンスを乗り越えた。
わたしも魔力で脚力を強化するとフェンスを乗り越えた。
既に暁美さんは右手に拳銃を構えていた。
わたしもボーガンを右手に出現させると構えた。
「こっちよ」
暁美さんに促されてわたしは暁美さんの後を素直に着いて行った。
躊躇う事無く暁美さんは改装中の通路を進んで行く。
周囲に気を配りながらわたしも後を着いて行く。
暫く歩いて暁美さんは突然、立ち止まった。
わたしが立ち止まった暁美さんの見ている方を見てみると、そこにはキュウべえが居ました。
「キュウべえ!」
「やあ。君がこの街の新しい《魔法少女》達だね。結界の前で待っていれば必ず現れると思っていたよ」
キュウべえの言葉を聞いて暁美さんは黙って拳銃をキュウべえに向けました。
「何故、銃を向けるんだい?僕は君に質問が」
キュウべえが言い終えない内に暁美さんは拳銃をキュウべえに向かって撃ち始めました。
必死に交わすキュウべえはそれでも質問を続けました。
「いきなり攻撃する事は無いと思うよ」
「黙りなさい」
そう言いながら暁美さんは銃撃を続けました。
わたしはどうしたら良いか分からなくてただ呆然と立ち尽くしていました。
「君は僕に攻撃をした様にこの街にいた《魔法少女》に何かしたのかい?」
「どういう事よ?」
キュウべえの言葉を聞いて暁美さんは急に銃撃を止めました。
「文字通りの意味さ。今、この街にいる《魔法少女》は君たちだけだ。この街を守っていた《魔法少女》マミの消息は僕にも解らない。君たちが何かした訳じゃあないのかい?」
キュウべえの言葉を聞いて暁美さんは暫くキュウべえを睨み付けていました。
暫く沈黙が続きましたがやがて暁美さんは
「いいえ。私達は何もしていないわ。それならあなたは何故、ここにいるの?」
「そうだね。ここにある《魔女》の結界の前で待っていれば誰かしらの《魔法少女》が現れると思っていたからね」
キュウべえの言葉を聞いて暁美さんは暫く黙っていましたがキュウべえを左手で掴むと自分の顔の高さまで持ち上げました。
「なら、私達と一緒に結界に来て貰うわよ。それがあなたの義務なんだから」
そう言って暁美さんは右手で《魔女》の結界を開くとわたしを促した。
それを見てわたしは黙って暁美さんに着いて行きました。
〇
結界・・・。
それは《魔女》が作り出した自分を守る為の異空間。
《魔女》は結界の中に潜み外の世界に居る人間に集団自殺や事故を引き起こしてそれを糧としている。結界の中は幾重にも重なった異空間となっており《魔女》は結界の奥に潜んでいる事が多かった。
結界に入ったわたしと暁美さんは襲って来る髭を生やした魔女の《使い魔》を持っている武器で次々と倒して行きました。
幾重にも重なった結界を通り抜ける為には扉を通り抜けなければならなかった。
何度か結界の階層を潜り抜けた時、、暁美さんは急にキュウべえを扉の外側に捨てて扉を閉めてしまった。わたしが通り抜けるのを見て暁美さんは容赦無く扉を閉めてしまいます。
「暁美さん。どうして?」
「言ったでしょう。キュウべえは私たちにとって敵だと。ここから先は必要無いわ」
そう言われてわたしは何も言う事が出来ませんでした。
「暁美さん・・・」
「何?朱奈」
「わたし・・・。キュウべえと暁美さんと会う前に会ったの」
「キュウべえに何か言ったの?」
そう言って暁美さんは歩を止めました。
「言ってないよ」
「そう。なら問題ないわ」
振り返る事、無く暁美さんはそう言ってわたしの前を進んで行きました。
次々と結界の扉を通り抜けて行くとその先には《魔女》がいました。薔薇を身に纏い蝶の羽を生やしたナメクジの様な姿にわたしは身震いをしました。
戦うのはやはり怖い・・・。
「朱奈。あなたは《魔女》の回りにいる《使い魔》を倒して」
そう言うと暁美さんは《魔女》に向かって一直線に走って行きました。
「暁美さん!」
わたしは夢中になって周囲に表れた《使い魔》に向かってボーガンから矢を放ちました。
《魔女》の近くに至った瞬間、暁美さんは姿を消しました。
驚くわたしでしたがそれが暁美さんの魔法だと察すると直ぐにまた《使い魔》に向かって夢中になってボーガンから矢を放ち続けました。
突然、《魔女》が爆発をしました。
その爆発は1回だけでは無く次々と連鎖的に爆発を続けました。
爆発が起こす爆煙の中から暁美さんが表情を崩す事無く現れ、同時に《魔女》の体は崩れて結界は崩壊して行きました。
暁美さんが髪の毛を指でなびかすと同時にこの場所は元のショッピングモールにおける改装中のゾーンに戻りました。
そこへキュウべえとグリーフシードも出現しました。
「君たち・・・。いきなり僕を結界に置いて行く事は無かったと思うよ」
キュウべえは酷い事をされたにも関わらず明るい声でわたしと暁美さんに話し掛けてきました。
「別に・・・。私はあなたを信用していないの。どうせこの場所に現れたのは契約を結ぶ為でしょう?」
「僕は契約の為にここに現れた訳じゃあ無いよ。確かにマミの消息も気になるけれどこの街に急に現れた2人の《魔法少女》の事も気になるに決まっているじゃないか」
暁美さんとキュウべえの間に怖い沈黙が訪れました。
どうして良いか分からなくてわたしは何も行動する事が出来ませんでした。
「まあ用は済んだから僕は行くよ。グリーフシードを使い終えたらその都度、僕をテレパシーで呼んでくれれば良いよ。今は契約を結ぶつもりも無いしね」
そう言ってキュウべえはこの場所から去って行きました。
キュウべえが去って行く方向を暁美さんは暫く睨み付けていました。
《魔法少女》としての姿を解くと暁美さんはわたしの方を振り向きました。
「行きましょう。もうここには用が無いわ」
頷くとわたしもそのまま付いて行こうとしました。
その瞬間、暁美さんは右手をわたしの前に突き出しました。
「ちゃんと《魔法少女》としての服装は解いておきなさい」
「あっ。はい」
暁美さんにそう言われてわたしはちゃんと《魔法少女》としての服装を解くと黙って暁美さんの後を着いて行きました。
改装中のゾーンを出ると暁美さんはそのまま営業中のゾーンへ入って行きました。
「暁美さん。何処へ行くの?」
多くの人がいる中を歩くのに慣れていないわたしは少し怯えながら暁美さんに声をかけました。
「黙って着いて来て」
そう言われてわたしは口を閉ざして黙って暁美さんの後を着いて行きました。
歩き続けていると暁美さんは突然、CDショップの前で足を止めました。暁美さんの視線はCDショップに注がれていました。
それを見たわたしも思わず同じ方向を見るとそこには鹿目さんが青い髪を生やした友人と楽しげに会話していました。
「鹿目さん・・・」
わたしは思わず声に出して呟いてしまいました。
「良かった・・・」
暁美さんの口からそう零れるのを私は耳にしました。
わたしがその事に驚いた表情を見せているのに気付いた暁美さんはバツの悪そうな顔をするとわたしの右手を引っ張ってショッピングモールを後にしました。
暁美さんのマンションへと帰り道、わたしは我慢出来なくなって暁美さんに話し掛けました。
「ねえ暁美さん」
「何。朱奈」
「どうして鹿目さんに声をかけなかったの?」
「私と接触すれば鹿目まどかは《魔法少女》の存在を知ってしまう。《魔法少女》の事を知ってしまえば鹿目まどかが契約する確立が上がってしまう。だからこそ私は鹿目まどかと必要以上の接触をする訳には行かない」
「そんな・・・。暁美さん・・・。それはとても・・・。辛い事じゃ無いの?」
突然、暁美さんは足を止めました。
「暁美さん?」
振り返った暁美さんは少し怒りを込めた瞳でわたしを睨んでいました。
思わず身を竦める私に暁美さんは言葉を続けます。
「そうよ。それはとても辛い事よ。けれどあなたもこれから私と同じ事を行うのよ」
そう言われてわたしはハッとしました。
暁美さんと戦うと言う事はわたしも暁美さんと同じ事をする事になるのです。
「あなたはもっとその事を自覚すべきよ」
そう言って暁美さんはわたしの手を払って再びわたしの前を屹然とした足取りで進んで行った。
わたしは・・・。
ただ黙って暁美さんの後を着いて行きました。