偽書魔法少女しゅな☆マギカ PSEUDEPIGRAPH PUELLAMAGI SYUNA MGICA 作:ジャックノルテ
あれから一週間が経ちました。
その間にもわたしと暁美さんは放課後になるとこの街をパトロールしていました。
けれども暁美さんは《魔女》を相手にする事はあっても余り《使い魔》を相手にはしませんでした。
暁美さんが通う見滝原中学校周辺に現れた《使い魔》だけは例外的に退治していました。その事を暁美さんに聞いてみるとこう答えました。
「この街に現れる全ての《魔女》や《使い魔》を私達だけで退治するのは不可能よ。まどかの安全を守る為には最低限、見滝原中学の周辺に現れる《魔女》や《使い魔》を相手にするのが効率的よ。それに得られるグリーフシードにも限りがあるわ。私達の魔法だって無限に使い続ける事は出来ないのよ」
暁美さんが答えた非の打ち所の無い言葉にわたしは何も言う事が出来ませんでした。
鹿目さんを助ける為には他の罪の無い人々が犠牲になるのもやむを得ない・・・。
わたしはそんな暁美さんの考え方に素直に賛成する事は出来なかったけれど・・・。
でも・・・。
わたしはそれでも鹿目さんを助けたいからこそ暁美さんの言う事に従っていました。
そんな事を考えながら今日も《魔法少女》としての私は工事現場で暁美さんに言われた通りに自分の魔法をコントロールする訓練を続けていました。
暁美さんからはもっとボーガンを連射する速度を速める様にと求められていたのでもっと速く発射出来る様に練習をしていました。
少し疲れたわたしは一旦、休憩を挟もうとそんなに汚れていないコンクリートのブロックを選んで座りました。
ふと右手に持っていたボーガンの引き金周辺を見た。わたしのボーガンの引き金周辺はマスケット銃の様なグリップを模していた。
「マミさん・・・」
そう言ってわたしはまた目に涙を溢れさせてしまいました。
今、見滝原市にはマミさんはいない・・・。
それは一週間前に暁美さんとマミさんが住んでいるアパートを訪ねた時にはっきりとしました。
マミさんの住んでいるアパートの部屋には警察が出入りしており既にマミさんは行方不明となった事が周知の事実となっていました。
「どうして?巴マミが行方不明になるなんて・・・。そんなイレギュラーはこれまで起こらなかった筈・・・」
マミさんの住んでいたアパートからの帰路、暁美さんはそう呟いていました。
その暁美さんの表情はとても険しい物で私は言葉をかける事が出来ませんでした。
わたしは鹿目さんと同じ様にマミさんが大好きでした。
記憶を失い、呪いの右目を持っていたわたしをマミさんは受け入れ優しく接してくれました。
それまで呪いの右目を持っていたわたしを捕らえていた《魔法少女》達は皆、利己的でわたしをいじめていた。
その所為でわたしは《魔法少女》が怖かったけれどマミさんは私に優しくしてくれた。
記憶が無く誰もが怖くて怯えていた私に初めて優しさを教えてくれたのがマミさんだった。
だからこそわたしはマミさんがいなくなった事がとても悲しかった。
鹿目さんと同じ位、わたしはマミさんに会いたかった。
マミさんを探したかった。
でも鹿目さんを助けると言う暁美さんとの約束を破る訳にもいかなかった。
だってわたしは鹿目さんを助けたかったから・・・。
目に溜まった涙を指で拭うとわたしは右手で握ったボーガンを見つめていた。
マミさんだったら自分の事よりも鹿目さんを助ける事を求める様に思えた。
あの優しいマミさんが鹿目さんが《魔女》になってしまう未来を知ってしまったら絶対にそれを救おうとする筈だとわたしは思った。
わたしが知っているマミさんはそう言う人だ。
(朱奈。聞こえる?)
その時、暁美さんのテレパシーが私の頭に響いた。
(聞こえるよ)
(見滝原市立病院に来て頂戴。そこに《魔女》が現れるわ)
(はい。すぐ行くね)
わたしは暁美さんからのテレパシーを受けるとわたしは直ぐに工事現場を出ようとした。
「あ!いけない」
その時、わたしは自分が《魔法少女》としての姿のままで工事現場を出ようとしていたのに気が付いて《魔法少女》としての姿を解いた。
「急がなきゃ!」
わたしは急いで駆け出した。
マミさんの様にこの街を守る《魔法少女》としてわたしは《魔女》と戦って見せる。
考えながららわたしは必死に、目に溜まった涙を振り切る様に病院までの道を必死に駆けた。
見滝原市立病院の前で暁美さんは待っていた。
制服姿だったけれど一旦、自宅に戻ったか、左手の盾にしまったのか鞄は持っていなかった。
「速かったわね。じゃあ行くわよ」
暁美さんはわたしを一瞥するとすぐに病院の敷地へと入った。
しかし建物には目をくれず自転車の駐輪場の方に向かいました。
そして暁美さんは物置の壁にある結界の入り口に迷う事無く入り込んだ。
わたしも黙ってそれに続いた。
結界に入った暁美さんが《魔法少女》としての姿に変身するのを見るとわたしもそれに続いた。
暁美さんとわたしは黙って結界の中を進んで行った。
途中、何体かの《使い魔》と遭遇したが暁美さんの拳銃とわたしのボーガンで難なく倒せた。
「朱奈」
暫く結界の中を歩くと暁美さんが声をかけて来た。
「なあに?暁美さん」
「あなた。巴マミがいなくて寂しいの?」
暁美さんにそう言われてわたしは直ぐに答える事が出来ませんでした。
「朱奈?」
暁美さんが振り向いた時、わたしは思わず立ち竦んでいました。
「凄く寂しい。でもわたしは鹿目さんを助けなきゃいけないから・・・。弱音を吐きたくないの!」
わたしは下を向きながら暁美さんにそう答えるので精一杯だった。
「そう。なら良いわ。ちゃんと覚悟を決めたみたいね」
暁美さんはそう言って再び歩を進めた。
わたしは黙って少し駆け足でその後を追った。
幾重にも重なった結界を潜り抜けた結界の最深部ではグリーフシードから《魔女》が生まれようとしていた。
その光景を見てわたしは固まってしまった。
わたしは思い出してしまったのだ。
前にわたしがいた時間でわたしがマミさんと鹿目さんとこの結界の入った事を・・・。
そしてマミさんはここと同じ様な結界でわたしと鹿目さんの目の前で《魔女》に殺されてしまったのだ。
《魔女》にマミさんが殺された光景がわたしの脳裏に浮かんだ。同時に手足が固まっていた。動かしたいのに動かせない。
あの時と同じ様に回りをお菓子に囲まれた空間の真ん中にある足の長いテーブルと椅子があり椅子に《お菓子の魔女》が降り立って来た。
その瞬間に暁美さんは直ぐに左腕の盾からマシンガンを取り出すと《お菓子の魔女》に向かって銃撃を次々と撃ち込んだ。
銃撃を受けた《お菓子の魔女》が椅子から落ちると暁美さんはそこに幾つかの手榴弾を投げた。《お菓子の魔女》が降り立った場所に連続して爆発が起こり《お菓子の魔女》の体は煙に包まれた。
けれども煙を破って《お菓子の魔女》の口から出て来た《ピエロの様な顔》がわたしに向かって飛んで来た。
「朱奈!」
暁美さんの声にハッと我に返った私はボーガンを発射した。
けれどわたしのボーガンじゃ《ピエロの様な顔》の勢いを止める事が出来なった。
(死ぬの!?私、死んじゃうの!?)
わたしにぶつかろうとした瞬間、突如として大きな口を開いた《ピエロの様な顔》はその動きを停止した。
「え!?」
同時にわたしの右手を掴む暁美さんの左手が見えた。
と同時に右の頬に強い痛みを感じた。
それが暁美さんの右手に叩かれた事だと気が付くのに少し時間が掛かった。
「朱奈。何をぼんやりしているの?今は《魔女》と戦っているのよ。そんな事じゃあなたは誰も救えないわ」
暁美さんに厳しい言葉を浴びせられてわたしは自分の過ちを自覚した。
鹿目さんを助けたい筈なのにわたしは《お菓子の魔女》への恐怖心からそれを放棄しようとしていた。
わたしは《魔法少女》の筈なのに。
マミさんの様な《魔法少女》になる筈なのに!
「とにかくこっちに来なさい」
暁美さんに促されてわたしは暁美さんに引っ張られる様に《ピエロの様な顔》から少し離れた。
同時に停止していた《ピエロの様な顔》が動きだそうとしたが突如として無数の爆発が《ピエロの様な顔》の口から次々と起こった。
《ピエロの様な顔》こと《お菓子の魔女》は顔をバラバラに爆破されて砕けて行った。
同時に結界も崩れ元の自転車の駐輪場へと戻った。
《魔法少女》としての姿を解いた暁美さんは《お菓子の魔女》のグリーフシードを拾うと左手でわたしの左頬を叩いた。
「朱奈。どうして戦いに集中しなかったの?」
暁美さんの言葉には怒りが混じっていた。
両方の頬を叩かれた痛みでわたしは目に自分でも解るほどに涙を浮かべていた。
「ごめんなさい。わたし、マミさんがこの場所で死んじゃったのを、思い出して、怖くて動けなかったの」
そう言いながらわたしはとうとう泣き出してしまった。
「朱奈・・・。今、あなたは《魔法少女》なのよ。あなたはまどかを救いたいんじゃ無かったの?」
暁美さんにそう言われてわたしは首を縦に振りました。
「それなら・・・。もっと覚悟を決めなさい。いつまでも怖がっていては戦力にならないわ。私は戦力にならない様な人を助けるつもりは無いわ」
暁美さんはそう言ってわたしに背を向けて歩き出した。
それを見て私は自分の覚悟が以下に薄っぺらな物だと思い知りました。
けれど・・・。
だからこそ・・・。
ここで過ちを犯したからこそわたしの決意は本当の意味で前にも増していた。
病院の方が騒がしかったけれどその事には目も繰れずわたしは泣きじゃくりならも暁美さんの後を追い駆けた。
今度こそ私は《魔法少女》として戦う覚悟を決めていた。