竜語り
窓から降り注ぐ暖かい朝の陽ざしが、ゆっくりと僕の意識を覚醒させる。
(ここは…僕の部屋か…)
見慣れた天井、いつもの風景。見間違えるはずもなく、そこは僕の部屋。咄嗟に起き上がり、両足を確認確認してみると、昨晩負った傷は跡形もなくなっていた。
悪い夢でも見ていたのか?そう思えるほど、普段通りの朝を迎えている。
しかし、昨日の…あの今まで経験した事のない出来事を、悪夢を見たの一言で片づけられるほど、僕の頭は単純には出来ていないみたいだ。
(誰が、あの場所から僕を運んだ?あの経験した事のない足の痛み、そしてあの怪物の姿。あれは頭の中に戦列に焼き付いている。何がどうなっているの…?)
思考は纏まらず、考えすぎで頭が痛くなってきた。顔でも洗って、気持ちを切り替えようと、僕はベッドから立ち上がる。
「起きたか?様子を見る限り、体は特に問題ないようじゃな」
声がする方へ視線を向けると、そこには、鮮やかな紅い髪をポニーテールで結び、大きな青色の瞳を持つどこか浮世離れした白いワンピースを着た小柄な美少女。
思わず、目を擦って2度見してしまった。
何故、面識のない女の子がこんなところに?
「あの・・・君は誰?」
「ふむ。昨晩は名乗らずじまいであったな。わしの名は、メシア。この名はお主の父がつけたものでな。余談じゃが、主の父と世界を渡り歩き、人助けなどしておる内に、紅の救世竜―クリムゾン・セイヴァー・ドラゴン―などと世間では呼ばれるようになった」
昨日名乗らず?昨日であったものと言えば・・・
「…君が昨日僕を救ってくれたドラゴン?」
「うむ。その通りじゃ。こんなナリをしているがの」
本来の姿では、この場所は狭くてかなわぬと彼女は笑う。昨日見た限り、うちの家は2階建てだけど、悠々と地上から家を覗き込める位の大きさはあった気がする。あんな姿で来られたら、間違いなくこの家は全壊するだろう。
「まぁ、それはさておきじゃ。色々聞きたいこともあるじゃろうが、まず、お主の名を聞かせてくれまいか?」
「・・・僕の名前は、竜馬。名切竜馬」
「ふむ。では、リョーマと呼ばせてもらおう。リョーマよ、まずお主の身に起きている現状の説明をしたい。一方的な語りにはなるが、聞いてもらえるか?すべて話し終えた後、好きなだけお主の疑問に答えよう」
自然と僕は頷いていた。どうも、彼女のペースに乗せられっぱなし。人を乗せるのが上手いのか、それとも不思議な力を用いているのだろうか?
何にせよ、疑問を解決するためにも、彼女の話を聞くのがベストだろう。
僕は、彼女(ドラゴン)の話に耳を傾けた。
―○●○―
竜は語る―――
遥か昔より、この世界には3大勢力と呼ばれる種族がおりました。
天使、堕天使、悪魔。その他にも、この世界には、物語で語られる多種多様な種族が存在しています。
その中でも、この3種族は長きにわたって戦いを繰り返してきましたが、ある時、終わりの見えない大きな戦争が勃発し、3種族は数を大きく減らす事になりました。
戦いが長引くほど、皆の心にある思いが芽生えます。
このままでは、いずれの勢力も滅びるのではないか?この戦いはいつ終わるのだろうか?
そんな疑問を払拭するする、とある出来事が起こります。
戦争の最中、突如2頭のドラゴンが戦いを始めたのです。
赤き竜と白き竜。赤き竜の名は、赤龍帝―ドライグ―。白き竜の名は、白龍皇―アルビオン―。
3種族の戦争など何処吹く風。2頭の竜は、3種族を巻き込みながら戦いを続けました。
この事態に、戦争中だった3種族は一時休戦し、共闘する道を選びます。しかし、2頭の竜と止めるには、力を失いすぎておりました。そこで、聖書の神はある奇跡を起こしました。
この2頭の竜を倒せる存在を、この世界に呼び出したのです。
その時現れたのは、紅の竜でした。紅の竜は、聖書の神の呼び声に答え、二天龍を倒し、神はその二頭の竜の魂を神器(セイクリッド・ギア)と呼ばれる物に封印し、二頭の龍の争いは終焉をむかえました。
3種族の戦いも、争う余力をなくし、終戦を迎えます。
この時現れた竜を、人々は救世主のドラゴン。生き残った3種族は、救世竜と呼ぶようになりました。
紅き竜。それは、救いの祈りに呼応し現れる
―次元を渡るドラゴン―
役目を終えれば、次元の狭間を超え、別の世界へと飛び去る。
それがこの竜にとって、自然な事。いつもの事。当たり前の事でした。
次元を超え、世界の救う救世主。それが、自分の存在理由であり、役割なのだと。
故に、自分はその世界にあってはならない、イレギュラーな存在…。
異物なのだと
役割は終えた。さあ、次元の狭間を潜り抜け、新しい世界で、己が使命をまっとうしよう。
次元の狭間への門を開け、この世界から飛び去ろうとしたその時――
「一人で寂しいのか?なんなら俺も連れてってくれよ」
そう語りかける悪魔の男がいた。その男は、バーン・ブネと名乗った。
「俺の一族は…っていっても、もう俺以外全滅しちまったけどな。悪魔なんだが、竜を司る一族と言われててな。ドラゴンに変身したりする力を持つものが現れたりする特殊な一族なんだわ。もっとも、俺はそんな力はもってないがね。だが、別の力を持っているんだ」
竜の心が分かる、と彼はいう。その力で、とても寂しそうな…孤独に打ちひしがれている声が聞こえたと。
「貴方のような存在は初めてです。驚きました」
こうして、竜は生まれてから初めて、友達という存在を得たのです。
それから1人の悪魔と一匹の竜は、長きにわたってこの世界、時には別の世界へ渡り、世界の危機を救う旅をしていきました。
そんなある日、男は竜に語りかけます。
「俺は生涯孤独の身の上だからな、生まれた世界には正直何の未練もない。だけど、やっぱり生まれた世界だからかな?戻ってくると安堵感っていうものを感じるよ。お前には、生まれた世界ってのは無いのかい?」
「さぁて、もう覚えておらんよ。あったかもしれぬし、なかったかもしれぬ。」
「そっか。いつかお前が、こんな安堵感を感じられるような世界に辿り着けるといいな。意外と、そこがお前の故郷とかだったりしてな」
ドラゴンは気が付きました。この男と出会ってから、孤独を感じなくなったことに。
「そいうや、ずっとお前呼ばわりなのも悪いな。何か名前はないのかい?」
「いや、そんなものはない。バーンよ、別にワシは気にせぬ。好きに呼べば良い」
「そういうわけにもいくまいよ、よし!決めた!世界を救ってんだ、救世主の名を取って―メシア―だ!今日からそう呼ぶぜ!その位の名前名乗ったって、罰は当たらんだろう!」
それから、男はドラゴンをメシアと呼ぶようになり、竜も自身の事をそう名乗るようになります。
それから月日は流れ――
男は、一人の人間の娘と出会い、恋仲となり、夫婦となりました。そして、2人の間に男の赤子が生まれました。
「まさか、天涯孤独の身の上から、家族を持つことになるとわな…」
男は、はにかみながら…照れくさそうにそう呟きます。
「ふふ。娘も、幸せそうではないか。お主もな。わしも、自分の事のように感じる」
「そうだな。俺にとって、お前は友であり、家族の様なもんだ!」
1匹のドラゴンと悪魔と人間の3人家族。そう考える竜の心の中で、とても暖かい気持ちが湧き上がってくるのを感じていました。
「わしが、ペット扱いな気がしてならぬがな」
冗談を交わしながら、笑いあう。一組の幸せな家族の姿がそこにはありました。
「メシア。お前に伝えておきたいことがある」
「なんじゃ?」
「俺の息子はハーフだ。普通の子供より不幸な境遇かもしれねぇ。だが、親として幸せな生涯を送ってほしいと思う。人としての生を送るか、悪魔として生きるか、別の生き方を送るのか。こいつが大人になるまで見守って、導いてやりたいと思うんだ。だが、その思い適わずに俺が死ぬようなことがあったら…」
俺の身に何かあったときは、俺の家族を守ってやってくれと、彼は言った。
その時、竜は黙って頷いていた。
それから夫婦は話し合い、人の成人としての年齢を迎えるまで、息子に人として生きさせるため、悪魔の力を封印し、自身の素性を隠して生活する事を決める。それは、他種族から身を隠し、平穏な日々を送る為に意図された事であった。
彼らは平穏を望み、竜もまた、そうあろうとする家族を見守る事を選択する。
語り手の竜は語る―――
彼に託された役目を果たしに来たのだと。
―――――少年は知った
自身に隠された秘密と、父はもうこの世にいない事実を―――
主人公や登場キャラに関しては、まとめたものを、章が終わるごとに書き足していきたいと思います。
お読みいただき、ありがとうございました。ご意見、ご感想、ご指摘などなどお待ちしております。