朝食を食べ終えたリュートはタバサと合流した後、教室へと向かいました。教室に着くとほとんどの生徒が座っており、その隣には色々な生物――犬や猫などのポピュラーなものから、キュルケの召喚したサラマンダーのようなファンタジーなものまで様々です。
自分の席へ向かうタバサにリュートがついて行くと、すれ違いざまにリュートの方を見ます。侮蔑、物珍しさ、好奇心……様々な視線がリュートへと向けられましたが、彼は気にすることなく、というか気付くことなくタバサについて行きます。
タバサが座った隣に座ろうとすると、不満を言っているサイトと彼を睨むルイズを見つけました。2人の会話からすると、どうやらメイジは椅子、使い魔は床らしいです。
「俺も床に座った方がいい?」
「どっちでも」
タバサは読んでいる本から目を離さず答えます。リュートはちょっと考えたあと、席が狭いと思ったので通路の床に座りました。サイトはというと、結局椅子の方に座っていました。ルイズも諦めたらしく、サイトを睨みながら座っています。
リュートが床に座ると同時に、紫色のローブを着た、優しそうでふくよかな中年の女性が教室に入ってきました。
「あの人は?」
「ミス・シュヴルーズ。先生」
シュヴルーズは生徒達を見回し、使い魔召喚が成功したことを喜びました。そして、ルイズとタバサ(とその使い魔2人)を見ると、
「ミス・ヴァリエール、ミス・タバサ。変わった使い魔を召喚しましたね」
と言葉を選びながら言いました。それには笑う人笑わない人がちょうど半々くらいでした。どうやら平民を召喚したことは失敗と考える人と実はすごいんじゃ…と思う人に分かれたようです。
「ルイズ!タバサ!召喚できなかったからってそこら辺の平民を連れてくるなよ!」
そんな中、よく言ってぽっちゃり系…?の男子生徒が2人をバカにしたようにいいます。タバサは無視しましたが、ルイズはその生徒をキッと睨みつけます。
「召喚は成功したわよ!ただこいつが来ちゃっただけよ!」
「ウソ吐くな!サモン・サーヴァントが出来なかったんだろ!」
ゲラゲラと教室の一部の生徒が笑います。ルイズは何か言おうとしましたが、
「あのー、ちょっといいですか?」
リュートが軽く手を挙げ、シュヴルーズに質問したため、遮られました。
「サモン・サーヴァントってなんですか?」
その答えに周りからはクスクスと笑う声が聞こえます。その質問にタバサはちらっとリュートの方を見ましたが、すぐに呼んでいる本に目を戻しました。
「サモン・サーヴァントとは使い魔を召喚するための魔法です。貴方もその魔法で召喚されたのですよ」
リュートの質問に笑うことなくシュヴルーズはキチンと答えます。
「へー。それじゃあ、他にどんな魔法があるんですか?」
「おいおい!タバサの使い魔、魔法も知らないのかよ!」
「どんだけ田舎にすんでたんだ、この平民!」
一部の生徒はリュートを笑いましたが、当のリュートはというと相変わらず気にした様子もなく、ニコニコしたままです。
「はい、静かに。ミスタ……」
「あ、リュートです」
「ミスタ・リュートからちょうどいい質問が入ったので授業に入ります」
そんなシュヴルーズの一声に笑い声が一変、ブーイングになりました。
「静かに。それでは授業に入りますが、よろしいですね?」
その言葉にぶつくさ言いつつ、リュートを恨みがましい目で見ながらも生徒たちはだんだん静かになっていきました。
授業が始まり、シュヴルーズがおさらいがてらこの世界の魔法について説明します。簡単にまとめると、この世界――ハルケギニアは火、水、土、風、そして虚無の5つの系統の魔法で分類されています。しかし、現在では虚無は失われた魔法系統であり、実際には虚無以外の四大系統でこの世界の魔法は成り立っています。
その後、彼女が扱っている“土”の系統の考察――というよりも自慢――を聞きながら、リュートは自分の世界の術――リュートの世界では魔法は“術”と呼ばれています。――と比べました。
(1系統に1つずつで5種類か。しかも系統も全く違うんだな)
リュートは授業を聞いてそう思いました。
リュートの世界でも5つの系統に分かれていますが、その系統は相反する2つのタイプによって成り立っています。つまり、10種の術があります。さらに1種につき数個の術があるのです。
例えば、その系統の1つには『陰陽』の系統があり、それは『陰術』と『陽術』の相反する2つの術で成り立っています。その『陽術』の中には、太陽の光で攻撃する『太陽光線』や、回復の術である『スターライトヒール』など数個の術がある、といった感じです。
また、系統がない2種の術が存在しています。
(えーと、確か相反している術は同時には持てないんだよな)
リュートは術には疎かったので、仲間の説明を思い出します。
(簡単な術だったらお金払って教えてもらえるが、その術の素質がないと覚えられない術もある。素質を手に入れるにはちょっとした条件があって、なおかつ相反する術の素質を持っていてはいけない……って感じだったよな、確か)
そこまで思い出して、1人の金髪腹黒策士を思い出しました。
(……まあ、例外はいるんだけどね)
その金髪腹黒策士は9つの術の素質を得ていました。……そのために、彼は多大な犠牲を払いました。
切ないことを思い出して少ししんみりしていると、シュヴルーズが小ぶりな杖を振り、教壇の上に小石がいくつか現れました。そして小石に向かって杖を振りあげ呪文――ルーンを呟くと、ただの小石が輝く金属になっていました。
「せ、先生。それは金ですか?」
キュルケが英文和訳みたいな口調で聞きます。
「いいえ、これは真鍮です」
シュヴルーズも同じ様な口調で答えて、続けます。
「金を錬成できるのはスクエアクラス以上です。私は単なる……」
そこでもったいぶって言葉を溜めて、
「トライアングルですから」
と言いました。
知らない単語が出て来たのでリュートがタバサに質問しようとしましたが、彼女は本を読んでおり、邪魔するなオーラが出ていました。
ちょうどそのとき、サイトがルイズに同じような質問をしていたので、そちらの方に耳を傾けます。
「スクウェアとか、トライアングルとかって何?」
「系統を足せる数のことよ。それでメイジのレベルが決まるの。例えば、『土』系統の魔法だけでも使えるけど、『火』の系統を足せばさらに強力な魔法になるの。同じ系統も重ねて足せるわ。例えば『土』『土』『火』みたいにね」
「なるほど」
(なるほど)
同時に頷くサイトとリュート。
(とすると、実際にはこっちの術よりも多くなるってことか)
「1系統しか使えないのは『ドット』、2系統足せるのが『ライン』、3つ足せるのが『トライアングル』ってなってるわ」
解説が続いたので再び耳を傾けるリュート。
「とすると、あそこにいる先生は『トライアングル』だから強力なメイジなんだ。……そういえばルイズは?」
その質問にはルイズは口をつぐんでしまいました。そんな風に2人がしゃべり、1人が盗み聞きしていると、
「ミス・ヴァリエール!授業中の私語は慎みなさい」
と、ルイズはシュヴルーズに叱られてしまいました。
「すいません…」
「おしゃべりする暇があるのなら、そうですね…。あなたにも先程私がした錬金をしてもらいましょう」
シュヴルーズがそう言った瞬間、生徒たちの顔が真っ青になりました。
「先生!それだけは止めて下さい!危険です!」
そのうちの1人であるキュルケがシュヴルーズを必死に止めに入ります。そのセリフにカチンときたのか、
「先生、やります!」
ルイズは大声でそう言い、教壇に歩いて行きました。
教壇につくと、ルイズは目をつむり、集中力を高めていました。その姿はとてもかわいらしく、サイトはルイズを見てちょっぴり頬を赤らめたり、頭を振ったり、再び赤らめたりしていました。
「錬金したい金属を強く心に…」
シュヴルーズがルイズに優しく語りかけたとき、タバサがリュートの肩をたたきました。
「ん、なんだい?」
「身を伏せといた方がいい」
「それはどういう…」
リュートが聞き返そうとしましたが、ルイズは短いルーンを唱えて杖を振り下ろしたその瞬間に石が爆発、その爆風でルイズとシュヴルーズは黒板に叩きつけられ、
「へ?」
石がおいてあった机の一部がリュートに飛んできました。突然のことにリュートは避けることができず、
「あだっ」
そのまま顔面に激突。リュートの意識はそこで途切れてしまいました。
気絶したリュートを見て、タバサは本を読みながら、めんどくさそうに杖を振り、リュートの体を浮かすと保健室へと向かいました。一方、教室の方はというと、
「先生!?誰か水のメイジを呼んでくれ!もしくは他の先生を!この際あのツルッパゲでもいい!」
「俺の、俺の使い魔がーっ!」
ルイズの起こした爆発で混沌と化しました。そんななか、煤だらけのルイズはむっくりと立ち上がり、ハンカチで顔を拭きながら、
「…ちょっと失敗しちゃったわね」
と、堂々と言い放ちました。
「「「ちょっとじゃねー!」」」
当然、クラスメートからの総ツッコミで返り討ちにされていました。
「明らかにちょっとじゃねーだろ!」
「いつだって成功率0じゃねーか!」
「…うるさいうるさいうるさーい!」
「ちょっ…」
暴走したルイズが杖を振り回し、さらに爆発が何度か続き、何人か吹き飛ばされました。
「はくしょん!…誰かが噂でもしているんですかね。おや?何やら騒がしい…って!?」
この騒ぎはたまたま廊下を通りかかったコルベールが止めに入るまで続きました。