見苦しい言い訳ですが、遅れた理由にスランプとパソコンが壊れてデータが消滅してしまい、ショックから立ち直るのに時間がかかったというものがあります。(泣)
誠に申し訳ありません。
お詫びという訳ではありませんが、今回の話は少し長めに作っております。
こんな駄文ですが、どうぞ応援よろしくお願いします。
まだ朝日が昇るのに数十分の時を要するというのに、海岸には一つの人影があった。
天からの燃える岩石を懸命に躱しながら、己の持つ体力を振り絞って駆けていく。砂浜に足を取られて転倒しそうになっても、岩が体に直撃しても、動きを止めることは許されない。
止めた瞬間にそれ以上の苦痛を味わうのだから――――
「あ痛っ…………ぎにゃああああっ!? 燃える、燃えるぅうううう!!」
「ほらほら、どうした!! 準備運動で、もうへばッちまッたか!?」
ゴロゴロ転がって背中についた火を消そうと必死の行人には、発破をかける師の言葉に反応する余裕など無かった。そんなものがあれば、四肢を動かすエネルギーに変換したほうがよっぽど己の為になる。
行人は頭上と真下に全神経を集中しながらのジョギングという苦行を味わっていた。
◇
島に着いてからの修業は苛烈を極めた。原作に出てきたような、死と隣り合わせの実技の修業が大半を占めるようになったからだ。
デスクィーン島に来た以上、環境を最大限に活かした修行法をやっておいて損はないので、行人も賛同したのだが…………正直見通しが甘かった。
よって既に全身が汗だくで、脱水症状を起こしかけていた。
この島の外周を太陽が昇る前に300周しなくてはならず、1秒でも間に合わなければ水分補給は“コップ一杯”という
(ああ、○ーラー○リンクが欲しい。ここで生活していると、一輝の異常性が理解できるよ。
未熟ながらも
そんな規格外の男と比べる事こそおこがましいのだろうが、やはり悔しさを感じずにはいられない。一輝も行ったデスクィーン島での修業をなんとしても乗り越えねば、聖戦で死ぬ事になるだろう。
しかしこんなものはまだ序の口で、その後も行人の苦行は続く。
◇
ジョギングの後は火山の頂上までハイキングである。
ただし、背中に成人の身長よりも巨大な岩を背負ってだ。更に、その岩の上には腰掛けて水を美味しそうに飲む杳馬の姿があった。
行人の体から流れ落ちた汗が、乾いた大地に染み込む暇もなく蒸発していく。気温に対して量が少ないのは
杳馬曰く“
つまり、
考案者の鬼畜度合いがお分かり頂けることだろう。
「ヒイッ…ヒイッ! し……死ぬっ!」
「ダイジョ~ブ、安心しろ。そう言って死んだ奴ァいねェよ……多分な。
ほらよ。これならヤル気も出んだろ?」
少しずつペースが落ちていく弟子を慰める為に、杳馬はほんの少しだけ慈悲をくれてやる事にした。
師の言葉に思わず顔を上げた行人は目にする事となる。
ユラユラと宙吊りにされている“水筒”を…。
文字通り喉から手が出るほど切望しているそれを、人参の如くぶら下げられては行人も黙ってはいられない。
「止めてっ、くださいよ! 俺っ、はっ、馬っ、ですか!?」
杳馬の笑えない冗談に堪りかねて、息も絶え絶えに抗議する。今の苦しみを忘れさせてくれるものならば何でも良かった。にもかかわらず、そんな行人の思いを踏みにじる行為に怒りが沸々と湧いてくる。
吐き出された二酸化炭素と入れ代わりで酸素が肺を満たすが、その度に熱が水分を奪い、先ほど潤した喉に渇きが戻っていく。
(ほんの少しでも期待した俺が馬鹿だった! 怒らせることが目的かよ!?)
(ついでに煽り耐性も身に付けてもらおうかねェ)
何気ない会話の中に含まれている悪魔の罠に涙し、行人は一歩一歩確実に距離を詰める作戦を断念した。急いで頂上に着かねば、喉の渇きが限界にきてしまう。
「うがあぁああああああっ!!!」
師への怒りをエネルギーに変えて、先程よりも数倍の速度で駆け上がる。八つ当たりとして、不自然なほど背中の重石を揺らしながら…。
「馬におなりなさいってなァ! んはははは!」
だが杳馬はその乗り心地を気にした様子もなく、むしろ楽しませてしまい、無駄に体力を使うだけという悲しい結果に終わるのだった。
◇
「さ~て、そろそろアレをやるぞ」
頂上に着いたら杳馬のお気に入りの修業のお時間である。
その名も『シャボンランチャー』。
吹き矢の銃身を少し短くした筒を石鹸水に浸し、口から息を吹き込む事で無数のシャボン玉が生成された。それらは風に乗って行人にそのまま襲い掛かる…………のではなく、約10メートル手前で一時停止した。
行人は杳馬からの合図を確認し、そのシャボン群に向かって全力疾走で飛び込んだ。それと同時にシャボン玉に時が戻る。
一つ、二つ、三つと体に触れる直前で躱していく。どうしても当たりそうな物は波長を合わせて対処するのだが―――
「ぶほっ! あがっ!!」
いつも対処が追い付かずに途中で失敗してしまう。
勿論、これらはタダのシャボン玉ではない。杳馬の
「とっとと起きなァ! グズは嫌れェなんだよ!!」
「ふぁい! ふぉ……ふぉういひど、をねがひひまふ!!(はい! も……もう一度、お願いします!!)」
口の中が切れたようで、錆びた鉄の味が舌を刺激する。肋骨も罅が入ったのだろう。少し体を動かすだけで電流が走ったような激痛が起きる。
しかし、行人は泣き言をほざくような醜態を晒したくはなかった。これからの戦いを考えれば、この程度の痛みは蟻に噛まれた程度でしかない。これに耐えられずして何が戦士か。
眼で修業の続行を促す行人を見て、杳馬も次のステップへと進めることを決意する。
そして再び放たれるシャボン玉に行人が飛び掛かるのだが、今度は少し趣向が異なっていた。
これは杳馬の『お気に入り』という事を忘れてはならない。この修行の恐ろしさはこんなモノではないのだ。
「第二陣いくからなァー! ちゃんと躱せよー!」
そう注意を促した後、杳馬は時間を停止させてから動けない行人の周りに、もう一種類別の波長を持つシャボン玉を送り込んだのだった。
後はもうお分かりだろう。時が動き出し、雨あられと行人に向かって襲い掛かるのだった。
この修行で鍛えられるものは“回避能力”、“
元々、シャボン玉は速度が風頼りなので滞空時間が長い。第一陣を行人が躱している間に、異なる波長の
「おふっ! ちょっ!? あべしっ!! ぶっぎゃあぁああああっ!!!」
しかし、まだまだ先は長そうである。豚の様な悲鳴を挙げながら、行人は成す術もなく弾幕を受けて失神したのだった。
(あ~あ、首が変な方向に曲がってやがる。骨折でもしたか?)
弟子の一大事だが、この男に常識は通用しない。行人の体の怪我を己の能力を使用する事で、最低限の治療だけ済まして叩き起こす。
「ほれッ。治ったんだから、続きを始めるぞ!!」
「は……はい。すみません」
行人が本当に例の
シャボン玉の回避に成功しても、失敗しても弟子が成長することに変わりはない。
杳馬の修業には無駄がなかった。
ただ一つ注意しなければならない事といえば、行人のモチベーションを維持させ続ける事だろう。
どんなに効率の良い修業でも、慣れてくれば必ず“飽き”がくる。修業を継続するのは当たり前のことだが、ただ漫然と行うようでは効果も半減してしまう。常に自分には何が足りないのか模索し、どんな時でも向上心を忘れないこと。
それこそが一流の戦士に必須の条件だと杳馬は考えている。
◇
その後、筋力トレーニングに組手などを行っているとあっという間に時が経ってしまった。
山頂から帰宅すれば、火を起こす為の“薪割り”を行う事になっている。ただし、斧といった刃物の使用は禁じられているので――――
「でやぁああああ!!」
振り下ろされた行人の“手刀”により、バキッと音を立てて薪が二つに分断された。
「お~い。さっさと風呂に入りてェんだけど、まだァ?」
「す、すみません! もうちょっと、あともうちょっとだけ待ってください!」
風呂桶片手に苦情を出してくる杳馬の言葉に、行人は焦り始める。研ぎ澄ました小宇宙を手刀に込めて斬るという一見単純に見えるが、
先程の手刀も成功したとはいえない。薪の切断面をよく見やると、斬ったというより、力任せに叩き斬ったという表現が正しいかもしれない。
(我ながら呆れるほどの才能の無さだな。聖戦まで間に合うのかな)
思考がマイナスに傾く行人だが、初めに比べれば大分マシになった方である。最初は割る事すらできずに粉砕してしまい、薪が全滅してしまったので再び一から集め直さなければならなくなった。その日は結局成功できず、罰として海で行水させられたのは、今でも苦い記憶である。
言い訳をするならば“研ぎ澄ます”というイメージが漠然とし過ぎて、要領が掴めなかった事が一番の問題だった。最初は取り敢えず小宇宙を掌に集中させてみたのだが、それは『砕ける』という形で表われたのである。
『このままでは弟子育成に失敗したと判断した師に殺される』と考えた行人は、頭脳をフル回転させ必死に使えるモノを探した。
そして――――――――――――――――――見つけた。
何の事はない。それは行人のすぐ傍にあったのだ。
行人が命の次に大事にしなければならないモノ。
師範の『脇差し』である。
これに行人の
その結果、とうとう成功したのだ。
さすがに綺麗に割ることはできず、途中で手に引っ掛かって細かい木片が突き刺さったが、皮が引き裂かれ血だらけになったが、そんな些細な事は行人にはどうでも良かった。
薪が砕けずに『両断された』という事実が、その痛みを忘れさせてくれたのだから…。
この出来事は行人に僅かながら自信を与え、その後も少しずつ斬れ味を増していく事となった。
◇
最後は案山子にグスタフの
「せいっ! せいっ! せいっ!」
「素手で
(
肉体を作り変えてしまう
近頃の
だが明らかに実力が劣っているにもかかわらず、強気の姿勢でいられる下級
以前、
これは憤怒、悲哀、狂気、憎悪、嫉妬、軽蔑、勇気、恐怖、忠誠、焦燥といったように集中力は精神状態と密接な関係がある事を意味している。
格上の敵を前にして、負ける事を前提にした考えは負け犬の思考パターンではあるが、いくらなんでも限度というものがある。無用心に勝負を挑んでは敗北する者が後を絶たないのだ。
もう少し考えて戦えば結果も違うかもしれないのに、蛮勇な戦法を続ける彼らは杳馬にも理解不能の存在である。
(これもお手軽に力を手に入れた事による弊害ってヤツかねェ? 冥王様も哀れなもんだよ、ホント)
『何かを手に入れた時、それは予め持っていた何かを捨てた時である』
人の可能性に限界は無いと
人間は腕が二本しかないので、それ以上の物を持つ事ができないように。ただ本人が気づいていないだけで、何かを犠牲にしているのは間違いない。
人間には限界があるのだ。
――――人よりも良い点数を取る為に勉強すれば『時間』を犠牲にしなければならない。
――――空腹を満たす為に食事すれば『軽さ』を犠牲にしなければならない。
だからこそ目の前で修業に打ち込む行人を見ていると、杳馬はその未来に期待が膨らんでいく。
これは実験なのだ。
行人が何を犠牲にしてしまうのか分からないが、できるだけ代えのきくモノにしてやりたいというのが杳馬の師としての考えだった。
(まあ、そんな先のことは置いとくか。早く強くなってくれねェかなァ。折角見つけた『お宝』が使えねェだろうが)
ふと、杳馬は懐にある物に視線を落とす。それは行人の就寝中に、島を探索して見つけた管理者の住居から持ち出した物だ。住居が燃え尽きていようが、そんなものはこの男の前では何の意味も成さない。時を逆行させられた住居は、
残念ながら宝そのものは無かったが、それに代わるものを収穫できたのは僥倖といえる。
使い道は既に決めてあるが、それはもう少し先の話になるだろう。
◇
地獄のような日々が続く中、食事が終わって一服している時に、行人は以前から気になっていた事について杳馬に問いかけた。
「師匠、何か俺に隠している事ってありませんか?」
「あァ? あるに決まってんだろ。誰にだって触れられたくない事の一つや二つや三つ、無えわけがねェ。急にどうした?」
世の中には、親しい間柄だからこそ言えない事がある。それは恋人だろうが親友だろうが変わらないと杳馬は語る。極論ではあるが、その点については行人も同意見である。特定の人物に対して『全て』を知りたい、もしくは知ってもらいたいという人間はかなり愛の重い人物だろう。だからこそ前世でも、相談する事柄によっては相手を変えるようにしていた。
しかし、行人が言いたかったのはそういう事ではない。
「師匠、俺達がこの島に来て結構な日が経ちましたよね。未だに
「さァ? 何のことだか分からねェなァ。それに、アチラさんが俺達に気づいていない可能性だってあるんだぜ。
な・の・に、俺を疑う理由。ちゃ~んとあるんだろうなァ?」
確証がなければ、どんな推論も妄想と変わりない。他人を疑うならば根拠を述べなければならないのだ。師である自分に対してそれを行うなら、相応の覚悟はできているんだろうなとほのめかす。
だが行人は勝算もなしにこんな暴挙には出ない。自信があるからこそ行動に移したのだ。
あくまで白を切る杳馬に止めを刺すべく、椅子から立ち上がった行人は『あるモノ』に向かって歩き出す。
「確証ならありますよ」
そう言いつつそれに手をかける行人を見て、杳馬の眉がわずかに反応する。
「この魔法陣っぽいのは一体何なんでしょうかねえ! しかも俺のベッドの真下!!
最初に何処で寝るのか決める時、床で寝ようとしてた俺にベッドを譲ってくれたのは師匠じゃないですか!? これで疑わないほど俺も馬鹿じゃないですよ!!」
ベッドを持ち上げると、床には幾何学的模様の円陣が描かれていた。
「分かった。分かったからそう睨むなよ。確かにそいつを作ったのは俺だ。
これも教訓だよ。灯台下暗しって言うだろ? 物事を一方的に考えるんじゃなく、多角的に考えろって事だ。しっかし、気づくのにずいぶん時間が掛かったなァ」
命令に従うだけの下っ端で終わる人間ならば必要のない
ただ、勘の良い行人なら1週間もすれば異常に気づくと杳馬は思っていたので、この結果は正直意外だった。
師の言い訳に、行人は理解を示すが感情の整理が追い付かず、悔しく歯軋りしながら追求する。
「ぐぬぬ! それで? まだありますよねえ? 位置についての説明はしてくれましたけど、それで誤魔化そうとしていませんか!?
魔法陣の『効果』について一言もありませんよ!?」
痛いところを聞かれて杳馬は舌打ちする。かといって、素直に説明してやるのもどうかと考えたので逆に聞き返した。
「テメエの事だ。 どうせその辺りも予想がついてんだろ? 採点してやるから、いっちょ語ってみろや」
「…………これは恐らく結界の類と考えられます。
例えば…………島の外と比べて内側は『時間の流れが遅い』とか」
ハーデスもアテナも人間の肉体で結界を作り出していたので、恐らく杳馬も可能なのだろうと行人は考える。
「へェ、90点てとこだなァ。もっと早く気づいてりャ、残りの10点やってもよかったんだが……で、そこまで分かっているのに何で黙ってた?」
「日頃の素敵な修業のせいで、そこまで考える余裕がなかったんですよ!!」
いつも一日の課程をこなしては気絶するかのようにベッドに倒れこむという生活なのだ。できる事なら、この島についてもっと調べたいという気持ちはあっても、修業の所為で体力を根こそぎ奪われてはできる訳がない。
結界の場所を見つける事ができたのも、夜中にトイレから帰った時にベッドの下から光が漏れている事に気づいたからという偶然の
「そうかそうか。じゃあ、今は
「いえっ! そういう事では「明日からはもう少し厳しく逝ってみようか」ちょっとぉおおおおおおおおお!?」
良い事を聞いたと喜ぶ杳馬を見て、行人の顔が青褪める。ああなったら何を言っても無駄だというのは嫌というほど思い知っているからだ。
(墓穴を掘ってしまった。なんか評価が上がるような事をすれば、酷い目に合っているような気がする)
まさか自分には呪いでもかかっているのではないかと行人は邪推してしまう。
上機嫌の杳馬と鬱の行人。
これが二人のデスクィーン島でのいつもの光景であった。
独自解釈がかなり入っていますが、いかがでしょうか?
感想お待ちしています。
次話は年内に投稿できるよう頑張ります。