年内に書き上げるつもりが、既に4月半ば。気がついたら星矢Ωも終了してしまい、誠に申し訳ありません。
ようやく仕事に余裕ができたので、書き上げる時間が取れました。
いつもは行人の悲鳴や苦悶の声が響き渡るデスクィーン島だが、今日は様子が異なっていた。
行人の目の前には、修業で世話になっている巨岩がある。杳馬と共に自分を苦しめる憎たらしい岩でも、今日でお別れとなると何とも言えない感情が湧きあがる。知らず知らずのうちに、彼自身気に入っていたのかもしれない。
だが、師の命令は絶対である。
己の成長を確かめる為に岩への思いを振り払い、自身の
「はあぁぁぁぁぁっ!!」
その小さな拳から爆音が発生し、辺り一面に鳴り響いた。石の飛礫が無数に飛び散って島の地表に転がる小石と混じり合い、どれが巨岩の石なのかもはや判別できない。
行人の視界を塞いでいた岩は木端微塵に粉砕されたのだった
「ふむ、まあまあってところか。
「ハァ、ハァ……あ、有難うございます。これも、師匠のご指導のおかげです」
試験官の眼で様子を見ていた杳馬には、今の一撃がただ
行人の
聖戦では行人程度の使い手など腐るほどいるだろう。火力不足という欠点を補う為に、彼が自力で編み出した技である。他にも、必要時にだけ高めていれば、常時高めている場合に比べて肉体の負担は格段に減るので、疲労しにくいという利点がある。
一応これは高等技術に該当するのだが、杳馬は教えた覚えはない。
(何気に高等技術使ってんのが気になんだけど。ああっ!?
行人の特性はひたすら小宇宙を高めてぶつけ合う特化型ではなく、細かい制御に長けた万能型なのだろう。
どちらが戦闘に向いているのかと問われれば、杳馬は間違いなく前者を推す。
基本性能の向上という事は速度、攻撃力の上昇を意味する。敵がどんな小細工を練ろうと、それを強引に打ち破るという不条理を実現できるからだ。そもそも、超スピードの攻撃が飛び交う中で、悠長に思考している暇などある筈もない。それ故に、特化型こそが戦闘において最も安定した力を引き出すとされている。
『
この理論を実践しているのが特化型なのだ。
それに対して万能型は、空間移動や幻術、霊魂の使役などの魔法のような現象を使いこなす。
しかし、必ずしも特化型に劣っているわけではない。杳馬自身もどちらかといえば万能型に当て嵌まる。脅威の制御力で『時』を操る杳馬を力技で破るのは、並大抵の相手では不可能だろう。
――――要は使いようである。
一度嵌れば強力になるが、使い手が未熟だと器用貧乏で終わる危険性がある非常に難しい型なのだ。
(できれば特化型の方を期待していたんだが、これはこれで悪くねェか。小狡い頭を持ってるコイツにはちょうどいいだろ)
行人の最大の武器は“発想力”である。
今までにない
(さ~て、体は出来上がったわけだしアレの使い時かねェ。ちょいと不安要素はあるが、まァ大丈夫だろ)
ここの生活も悪くはない杳馬だが、そろそろ新たな刺激が欲しくなった。ある程度の変化がないと、人は駄目になってしまうという話は神族にも当て嵌まるらしい。
「
そう言いながら彼が用意したのは、行人が目にした中では最硬を誇る物質。
行人はソレを見て眉を顰める。何度も拳を打ち付けては、皮が剥がれて血が滲み、酷い時は骨折までした。ハッキリ言って自信がない。ただの岩石とは違い、この世界にしか存在しない物質なのだ。“できる”というイメージが湧いてこない。
――――――失敗したらどうしたらいい。
――――――今までの自分の努力が無駄に終わるのではないか。
不安が鎖となって行人の五体を縛り付ける。
先程の巨岩とは比べ物にならない強敵。
「次は“
「…………はい。分かりました」
行人が出した答えは“前進”だった。
不安が拭えた訳ではない。だが、それでもやるしかないのだ。杳馬という男に目をつけられた時点で、行人は彼の期待に応える以外で命を永らえさせる方法はないのだ。
二人がデスクィ―ン島で生活を始めて2年の月日が経とうとしていた。
◇
結果は――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
なんとか罅を入れる事はできたがそれだけである。貫通するには至らず、案山子は無傷だ。原作に突入する前に転生人生終了という事実に行人は泣きたくなった。
(ハハハ…………まあ、所詮こんなもんだよな。いくら漫画の世界でも、ここは現実なんだから。どんなに頑張ったところで、俺なんかが割って入る事ができるはずがない。
享年9歳……………………短かったな、俺の人生)
いっそ切腹でもしてやろうかなどと自暴自棄になりかけていると、杳馬が声をかけてくる。
「お~い。ショックなのは分かるが正気に戻りなァ。罅は入れたんだから、半分合格ってことにしておいてやる。
ただそうなるとだ。残り半分の為に、『追試』をしてもらうぜ」
「ほ、本当ですか…………って追試?」
「おうっ。試験に不合格しちまった不出来の弟子に最後のチャンスをくれてやる。涙流して感謝しろや」
杳馬にしても、この2年が無駄に終わるのは正直癪だった。折角長い時間かけて育てたのだ。そう簡単に見切りをつけたくはない。どのみち一度はチャンスをやる積もりだったので、この展開は特に問題ではなかった。
杳馬の言葉に行人の眼に光が戻ってくる。しかし、首の皮一枚で繋がったという事実に楽観視はできない。なんとしてもここで結果を出さなければ、最悪の結末を迎える事となる。
「さて、今から追試の内容を説明するからなァ。今度は失敗すんじゃねぇぞ」
「は、はい! 頑張ります!!」
もう失敗は許されない。120%の力を出し切って、必ず合格する事を心に誓う行人だった。
◇
夜の帳が落ちたと同時に、追試が開始された。
日の出前に『あるモノ』を杳馬の下に届けるというのが試験の内容である。
足に
火口へと至る道の途中で深い谷がある。地図によれば、その谷の壁面に横穴がある事になっているが、上から覗くだけではよく見えない。仕方がないので行人は、壁にへばりつきながら探す事となった。
「……え? うわぁあああああああああああ!?」
岩壁が脆い部分に手をかけてしまい、行人の体は地表に向けて落下していった。なんとか阻止する為に手探りでしがみつけられる箇所を探すが、自重を支えきれる程のものが見つからない。僅かに失速したに過ぎず、落下は続く。
夜の暗さも相まって、谷底がどうなっているか分からないが落ちれば死は免れないだろう。
「っ! これで、どうだっ!!」
だが、行人もこの2年間を無駄に過ごしてきたわけではない。
懐から取り出したモノを壁に突き刺す事で、己の体を固定したのだった。
「くっ……ね、念の為に、持ってきておいて良かった」
行人が取り出したのは『木片』である。
追試が始まった直後に、真っ直ぐ火山には向かわずに薪拾いで訪れる林に寄り道し、武器に使えないかと調達していたのだ。そのままでは鈍器程度にしか使えないが、行人は手刀で鋭利な棒手裏剣の形状に加工した。先程は、これに
その後、無事に横穴を発見することに成功した。思っていたより谷底近くにあったので、大幅な時間短縮になったのは行人には有り難い。好調に課題をクリアしていき、行人の中に少しずつ自信が戻りつつあった。
横穴はかなり大きく、それこそ車が通れる天然のトンネルのようだ。明かりが無いので、行人は恐る恐る闇の中へ歩みを進めていく。
――――鍾乳石から滴り落ちる水音
――――闇に潜む蝙蝠の鳴き声
鋭敏になった五感が拾う周囲の情報が脳に届き、心の奥底から恐怖という感情を汲み上げる。暗闇に目が慣れるまでは我慢するしかない。特に分岐点もなく一本道のようで、迷う心配がないのが救いだった。
◇
どれくらい歩き続けただろうか。闇の中では時間の流れが数倍遅くなるという。こんな時計も無く、星も見えない状況におかれて、行人の体感時間は狂い始めていた。進めば進むほど熱気により息苦しさが増してくる。この事実から少なくとも、火山の方に向かって歩いている事が分かった。
「あれ? 行き止まり!? 嘘だろ!!」
先のことも考えて休息を取ろうか迷っていたが、行人の歩みは唐突に終わりを迎える。彼の前には分厚い岩壁が広がっており、空気の通る隙間すらない。
(一か八か壁を壊そうか? いや、崩落の危険も考えると迂闊な真似はできない。さっき使った木片をスコップ代わりにしてもいいけど、どれだけ時間がかかるか…)
最悪の事態は、自分が間違った横穴に入ってしまった場合である。幾つも穴があるとは思えないが、一つしかないとは誰も言っていない。偶然見つけた横穴を前にして、探していたものだと安易に思い込んだ行人の失態だった。
戻るべきか、進むべきか“選択”をしなければならない。
(どちらを選んでも
諦めるな、行人! まだだ! まだ何か見落としているところがあるはずだ!!)
自分を勇気づけながら、行人は気が狂ったように壁を
「あった! きっとこれだ! これが鍵なんだ!!」
行人の願いが神に通じたのか、手先すら見えないような暗がりの中で一枚の紙切れが貼られているのを目にする。
その紙にはギリシャ語でただ一言こう書かれていた。
──――Αθ
ある時は邪悪なものを封印し、またある時はそのものを邪悪から阻んだという聖なる守り。
護符に息を吹きかけてみると、パタパタとその身を揺らして封印の効力が尽きかけている事を行人に教えてくる。それを確認した行人は手の震えを堪えながら、破らないように慎重に剥がした。符が壁から離れると同時に、行人を畏れさせていた神々しい
現れたのはマグマの海。上を向くと噴煙の切れ目に僅かに星空が見える。火山に近付いているどころか、その中心部である火口まで来ていたようだ。
続いて視線を前方に戻すと、一本の細い道が伸びている。かなりの年月が経っているらしく、道の途中で足場が崩れて無くなっていた。距離は目算で約100mといったところか。
更に目を凝らすと、マグマの中で顔を出している四角い物体を発見する。それは星明かりによって
遥か神話の時代より
箱の表面には、何の星座が収められているのかを表す
そこに描かれていたものは――――――――
「…………不死鳥」
行人の口からポツリと言葉が漏れる。
その
――――――男の名は一輝
幾星霜の時を超え、“
◇
暫く
目的の物を発見したのはいいが、この後が問題である。道が途中で途切れている以上、この赤い海に体を沈めなければならない。
「はぁ、結局は頭じゃなく力技が大事って事か」
いかにも
(この際だから、アレを試してみようか?)
それは世界に対する行人なりのささやかな反逆。窮地に立たされたせいで、思考が麻痺しているのかもしれない。普段なら湧かない反骨心が、ここにきて生じてしまった。
あらゆる物質を構成している原子は、それぞれが常に乱雑に動いている。これが激しく動けば動くほど温度が上昇し、逆に動きが鈍くなればそれだけ温度は低下する。
温度とは原子の動きの激しさを表す尺度。そして今、この局面で必要とされるのは原子の動きを止める『凍気』。
(原理は『波長合わせ』と同じで、
態々相手の思惑に乗って苦手分野で挑まなくても、得意分野で攻略すればいい。そう考えながら行人は改めて周囲を見渡した。
――――煮え滾るマグマ
――――高熱による視界の揺らぎ
――――今にも崩れそうな足場
問題はここが『地獄の釜』という表現が相応しい場所という事である。
(こんなところで凍気を作るって、正気か俺よ? い…いや、弱気になるな! これも試練なんだ! あ、でも念の為に練習しないと…)
攻略の糸口は掴めた。しかし、だからと言っていきなり硫酸のプールに飛び込む人間は果たして利口な人間と言えるだろうか。
答えはNOだ。飛び込む前に練習の一つぐらいは必要だろう。上空を見て制限時間の確認を忘れない。
「ふぅ、ふぅ……うぉおおおおおおおおおお!!!」
行人は呼吸を整え、足元から拾い上げた小石の原子の動きを止め始める。
高めた
◇
その頃、地上にいる杳馬は
「お~お~、ようやくご到着か。ヒヤヒヤさせてくれるぜ」
先程からチマチマと
(思慮深いって言やぁ聞こえは良いが、そういう奴はいざって時の決断力に欠けんだよなァ)
―――――どうやら我が弟子は
自分がどんな状況に置かれているか分かっているなら、決して取ってはならない行動というものがあるというのに、現在の行人はそれを実行していた。
「怨むんなら油断していた自分を恨めよ。さぁて、そろそろ俺も準備をしておこうかねェ」
この後に起きる展開に、杳馬はほくそ笑みながら小屋へと歩を進めていくのであった。
◇
「ハァ、ハァ……やばい。やっぱり無謀すぎたか…っていうか石が濡れているのが氷が溶けたせいなのか、俺の汗のせいなのかすら分からん!!」
行人の掌の中には小石がグッショリと濡れている。小石を無造作に投げ捨てて、いい加減動こうかと考えたその時―――――
突如、地震が発生して行人の身体を揺らした。
規模も時間もほんの僅かだったが、この島で生活していた行人には噴火の前触れだと悟る。
デスクィ―ン島が宝物を狙う盗賊に『死』を与えようとしているのである。
(しまったぁあああああ!! 追試の制限時間に気を取られて、噴火の事を忘れてたぁあああああ!!!)
島で暮らしていて噴火音が聞こえない日など無かったので、これは少し考えれば予想できる範囲の事態のはずだった。だが、不合格のショックや暗中模索などの度重なる不運で、思考に余裕が無くなっていたのである。後悔しても時すでに遅し。この様子では残り時間は10分もあるまい。
意を決してからの行人の行動は迅速だった。
助走の為に来た道を少し戻って身を屈め、両手を地につける。陸上競技で使用されている“クラウチングスタート”の姿勢をとった。
「
闇に包まれた洞窟の中に行人の声が響き渡る。この行為は決して無意味な行動ではない。反響する人間の声を聴く事によって、逸る心を平常に戻しているのだ。僅かな間でも『孤独』を忘れさせ、脳は『これはいつも行う修業の延長なのだ』と錯覚を起こしていた。
行人は無意識で一種の“自己暗示”を行っていた。
「
下半身の筋肉から生み出されたエネルギーが地に伝わり、踏みしめる度に身体を加速させる。その勢いを殺さずにマグマの中を漂う
この一連の動作は、先程までの躊躇ぶりからは想像できない程、非常に滑らかだった。杳馬が見ていたら『もっと早くやれ!!』と説教と拳骨が炸裂していただろう。
(ぎゃああああああああ!! 熱い!! 熱いっていうより痛いぃいいいいいいいい!! 死ぬ、死ぬ、死ぬ!!!
誰か助けてぇええええええええ!!!)
全身を襲う激痛の中、失いかける意識を必死で繋ぎ止める。人間の皮膚は45度以上の温度で熱傷ができるといわれている。ちなみにマグマの温度は火山によって異なるが、平均的に約1000度。そんなものに身を浸しているにもかかわらず即死していないのだから、行人ももはや人間ではない。
根性でマグマの中を泳ぎ切り、なんとか
(何だこれ!? 銀色の板、いや箱? こんなの聞いてないぞ!!)
大きさは
手刀で鎖を断ち切って小さい方の箱を懐に仕舞い込み、体を岸に向けて来た道を逆戻りしていく。努力の甲斐もあり、ようやく残り5mを切る。このまま無事に脱出できるかと期待した行人だが、やはり現実は残酷だった。
人間の努力を嘲笑うかのように、再度自然の驚異が彼を襲う。
2回目の地震は1回目よりも長く、大きく、そして――――――恐ろしかった。震動によって崩れた無数の岩の欠片が、マグマに落ちて水面に幾重もの波紋を作る。身体に打ち付けられる波を感じながら、行人は最悪の未来図を思い描く。
(また地震が! 限界だ!! このままじゃ間に合わない!!)
今からこの場を脱出しても長い洞窟が、更にその先には渓谷が待っている。だというのに行人は未だにマグマの中だ。それでも彼は腕が千切れんばかりに必死で岸を目指す。たとえ悪あがきだとしても、これが最善の選択だと判断したが故に…。
そして遂に―――――タイムリミットが訪れた。
◇
デスクィ―ン島の怒号が大地を揺るがし、憤怒は天を灼く。島が流す血液が地表の生命を奪い尽くそうとする様は、まさしく世界が灰燼に帰すとされる
「いよッ! た~~まや~~~~!! か~~ぎや~~~~!! な~んちゃって」
外界で巻き起こる大災害も何処吹く風と、小屋の中では最高の
「あ~あ~、モタモタしてっからこうなんだよ。こういうのは……早く! 正確に! やらねぇと意味がねぇってのに」
かなり無茶な要求をしている杳馬だが、これは真実だった。
敵とは生き物であり、考える事が出来る。こちらが思考している間は、相手もまた思考しているのだ。常に停滞しているはずがなく、こちらの思考を読み取った上で攻撃を仕掛けてくる。だから戦況は刻一刻と変化するのであり、対応しきれない者から死んでいく。
敵より二手、三手先を読み取る
この島で2年も過ごしていたにもかかわらず、“噴火”を忘れるとは言語道断である。
「う~ん、ちぃっとばっかしハードルを上げすぎたか? でも必要だしなァ。
まァ……人間なんだし、最初はこんなモノなのかねェ」
やはりもう少し
「んッ!? おいおいおい、
何かを感じ取ったのか、島のとある一角の方へ視線を移す。眼を見開いて見つめる彼に、先程のおちゃらけた様子はない。自分の感覚が伝えている出来事に確信が持てないのだ。
あの杳馬が、である。
「…………ああ、
食い入るように見つめていたが、ある事実に思い至って表情に笑みが戻る。くつくつと笑う姿は、楽しい玩具を手に入れた子供のようだ。
「あれまァ、
追試は戻ってくるまでが追試である。そして、追試が通常の試験より簡単だとは限らない。
それが意味する事は――――――――――――――――
◇
杳馬が見つめていた一角では他とは違い、奇妙な現象が起きていた。
島を侵食していくマグマの一部分が盛り上がり、中から人の手が現れる。続いて現れたのは人間の顔――――言わずと知れた行人だった。
まだ火の手が回っていない高所に避難する為に、行人は岩壁を片腕でよじ登る。もう片方の手には、命懸けで手に入れた
「は……ははっ。あはははははははっ! ぐっ! うっ、ううっ! さ……さすがに、今回は、死ぬかと思った」
腹筋が働いたと同時に、体が激痛に苛まれる。己が全身大火傷をしていた事を思い出すが、大して気にならない。
この世界が与えた理不尽を自分の力で捻じ伏せてやれたのだ。僅かとはいえ、それは確かに行人の勝利の証といえよう。
(急ごしらえの策で不安だったけど、上手くいってよかった。さあ、早く戻らないと…)
あとは帰るだけだと考えれば、疲労している体も不思議と軽くなる。ラストスパートをかけようと腰を持ち上げた時――――――――――――――――
「――――――やあ、少年。今夜は良い月だね」
聞き慣れない声が周囲に木霊する。轟々と噴火音が響く中だというのに、不思議とその声は一言一句、行人に届いていた。
不意を突かれた行人は冷や水を浴びせられたような気分になる。この島には自分と杳馬の二人しかいない。だから今の声は杳馬のものでなければおかしいのだ。声の主を確認しようと、行人はバッと上を見上げる。
「さっき、君が使ったのは『波長合わせ』かい? それも
そして、
まだ幼子とはいえ、絶体絶命の状況でも諦めぬ姿勢は実に良い。だからこそ、僕は見事と賛辞を贈るよ」
「!?」
其処には先のグスタフと同じく、漆黒の鎧を纏う若い男が木の枝に佇んでいた。血のように赤い月の光によって、アームパーツに付属した獣を思わせる爪が妖しく輝く。
「はじめまして。そして――――――さようなら。苦労して手に入れたというのに悪いけど、
この
「…………
血を吐くような声で、行人は男の正体を口にする。距離が開いていたにもかかわらず、火口での行人の行動を正確に把握していた事から、ヴァレリーと名乗る男は感知能力に長けているようだ。
(俺の隠行じゃ逃げても無駄か。誤魔化しきれない。分が悪いけど…………迎え撃つ!!)
臨戦態勢を崩さない行人に、ヴァレリーが襲い掛かる。
結界が消えた事により、本来の時を刻み始めたデスクィ―ン島に招かれざる来訪者が現れる。敵は未熟者だろうが容赦しない、本物の戦場を潜り抜けてきた戦士。実力差は歴然なれど、行人は生きる為に立ち向かう。
今宵、伝説の
書きあがったのは良いが、次回は何時になるんだろう。
1年以上経っているのに、まだこれ序盤なんですよね。(汗)
早く他の原作キャラと会話させたいな。