年内に書き上げる予定だったのに、間に合わず申し訳ありません(泣)
気がつけば、お気に入り件数が着々と増えていることに感激です。
相変わらずの遅筆ですが、どうか今年もよろしくお願いします。
行人とヴァレリーが雌雄を決しようとしている頃、島の一角で異常事態が起こっていた。
ヴァレリーと共に島に侵入した
島に2つの
小さい方には1人で十分とヴァレリーが、大きい方には残りが全員でかかるという方針である。
簡単な任務のはずだった。敵は動こうとせず、室内に入っても毛布を頭からかぶった姿を見て、彼らは臆病者と蔑んですらいた。
それが致命的な誤りだと気付きもせずに―――――――
毛布を剥ぎ取ると、そこはもぬけの殻だった。同時に
手で触れてみるとぬくもりを感じることから、ついさっきまで誰かがいた事が分かる。小屋の出口は1人が塞いでいるので、室内にいるのは間違いない。室内を捜索しようと一歩足を踏み込んだ時に、
突然部屋の照明が消えて暗くなる。予期せぬ事態に彼らは驚く暇もなく、先程の
波長は消失したモノと同一なのに、今度の
まるで……遠吠えだけで、犬や猫ではなく、神話の魔獣だと即座に分かるようかのように…。
命の危機を感じた全員が脱出しようと出口へ向かうと、目の前で番をしていた
捜索隊のリーダーを務める
――――
――――視線
――――気配
自分達以外に何者かが潜んでいることを裏付ける要素がこれほどあるというのに、姿だけが確認できない事態に、焦燥感に駆られていく。
とうとう静寂に耐えられなくなった1人が、再び出口に向かって逃亡を図る。あとほんの数cmで外に出られるというところで―――――――――――――――――――――――――――――――何の前触れもなく、今度は首が胴体と別れを告げた。
その光景を見ていた大半がパニックを引き起こした。目の前で殺されたのに、どんな攻撃を受けたのかすら認識できなかったからだ。いつ、どんな方法で殺されるか分からない。
ここまでくると相手が人間なのかすら疑わしくなってきた。何かが原因で、神代の怪物が住み着いたということもあるかもしれない。
無情にも時だけが進んでいき、神経を高ぶらせている
各自が小屋の壁を壊して自分用の出口を作り、そこから強行突破するというものだ。
ならば…360度、別々の方向へ逃げ出す者への対処は難しいはずだ。何人か犠牲になるだろうが、これが一番生存率が高い。
彼の提案に反論する者はいなかった。
襲撃者が誰を標的に選ぶか分からない以上、
そんな御都合主義を期待するくらいなら、自力で奇跡を起こそうと行動する程度には、彼らは現実というものを知っていた。
最低でも1人が助かり、組織へ報告できさえすれば
合図と共に、作戦が実行される。脇目も振らず一斉に駆けていく中、ただ1人動かない男がいた。この作戦を立てたラドルである。
社会のつまはじき者同士、彼は部下に対しそれなりの愛着を持っていた。彼らを捨て駒にしようとは思ってはおらず、部下が命を懸ける時は、自分も命を懸けるつもりでいた。
ではどうして動かなかったのかというと、彼自身にも分からない。
足が石のように固まってしまって、動けなかったのだ。ラドルの異変に気付かずに、仲間達が我先にと外に向かう。
そして――――――全員が
脳漿がぶち撒かれて崩れ落ちる部下達を見て、ラドルは己の浅はかさに後悔する。この絶望感は
暴力や殺気をぶつけることで恐怖させる
仲間を全て失ったというのに、敵についての情報は何1つ入って来ない。人種、性別、能力……数え上げたらキリがない。
聖戦以外ではまともに戦う機会が得られない
(光速拳のような超
敵の不気味さに、静寂から生じる耳鳴りが激しさを増す。呼吸が荒くなり、一筋の汗が頬を伝って血で穢れた床に滴り落ちる。ただ立っているだけだというのに、この異常空間のせいで体力と精神力が恐ろしい速さで摩耗していくのを感じる。
次に狙われるのは、生き残っているラドルしかいない。今度攻撃を仕掛けられれば、彼は部下達と同じ結末を迎えることとなる。
こうなればできる事はただ一つ、
「誰だか知らんが、あまりいい気になるなよ。
ラドルが
どこに潜んでいるか分からないなら、丸ごと吹き飛ばせばいい。
屋内にいたのは間違いない。逃げた様子もなかった。この技で倒せないまでも、ダメージは通ったはずである。
今のうちに船に戻ろうとラドルは動き出す。
「なっ!? ぐぁああああああああああ!!!」
だが、彼が相手にしている敵は一筋縄ではいかない。ラドルの右足の甲が針のようなもので地に縫い付けられてしまう。
「こ…これは一体……」
気配も音も無く突如現れたその針は、奇妙なことに何もない虚空から生えていたのだ。拘束から逃れようとと躍起になっているラドルの前に、一人の男―――――――――――――――杳馬が姿を現した。
「無駄無駄……そんなんじゃ、ソイツは外せねぇよ」
「き、貴様か…さっきからコソコソ隠れていたのは! よくもオレの部下を殺してくれたな!!」
ついに正体を見せた怨敵に食って掛かるラドルだが、動きを封じられているので睨みつけるくらいしかできない。ラドルの表情から考えを読み取った杳馬は、安心して目的を遂げられることに安堵する。
「さて…助かりたきゃ、俺の質問に正直に答えてもらおうぜ。まずは最初の質問だ。テメエらはどこから来た?」
「クソやろ「答えが違う」うがぁあああああああ!!」
自分勝手に話を進めようとする杳馬に罵倒で応えようとすると、容赦なく新たな針が飛来して今度は腕を貫く。
「困るねェ、
身動きできない。助けてくれる仲間もいない。詰んでるんだよ。テメエにできることといったら、餌を見せただけでヨダレ垂らす犬のように、俺の質問に答えるだけなのさ。
杳馬の言葉は正しかった。だが、正しいからこそラドルには余計に腹立たしく聞こえる。なんとしても一泡吹かせてやらねば気が済まなかった。
(ふぅん。やっぱリーダーを任されるだけあって、しぶといねぇ。三下ならゲロってるとこだけどなぁ)
いまだに戦意を失わないラドルに杳馬は感心する。
わざわざ手の込んだ演出をしてまでリーダーを焙り出したところまでは上手くいったが、この様子だと情報を引き出すのは時間がかかりそうだった。
「ひょっとして、俺のバカ弟子の相手してる奴を期待してんのかい? だったら無駄だぜ。気づいてんだろ? そいつと2人がかりでも俺には勝てないって…」
「グ……それは、どうかな。ヴァレリーを侮っていると痛い目にあうぞ。あいつは俺達の中で最も強い。命の危機があるとしたら、お前の弟子の方だ」
杳馬の推測をラドルは強気の姿勢で返すが、内心はかなり苛立っていた。ヴァレリーの実力は大体3番手程度だ。彼がこの場にいても犠牲者が増えるだけで好転するとは思えない。むしろ、弟子が死ぬことを前提とした推測に寒気がした。これでは弟子の窮地を救おうとこの場を離れるといった事態は期待できない。
「へぇ、じゃあ一つ賭けをしてみねぇか? テメエも2人の
「俺が勝ったらどうするんだ?」
「その時は生かして解放してやるよ。どうせ俺とは戦わずに逃げるんだろ? 負け犬らしく、ご主人様に泣きつくといいさ」
ここで生還しても、任務失敗という事実は変えようがない。
杳馬も裏社会の厳しさは知っている。特にギャングやマフィアのように組織で動いている者達にとって、任務失敗は面子を潰したも同然なのだ。それなりの罰は覚悟しなければならない。
自身の能力を看破される心配もない。そもそもラドルがなんと報告するか気になるくらいだ。『気がついたら仲間が死んでいたんです』とでも言おうものなら、間違いなくラドルは正気を疑われて殺されるだろう。
そこまで考えたからこそ、杳馬は賭けをしようと言い出したのである。
「……俺はヴァレリーが勝つ方に賭ける」
歯痒い思いをしながらもラドルは悪魔の誘いに乗った。今自分が死ねば、成す術もなく殺された仲間達の無念はどうなる。この場にいないヴァレリーは杳馬の恐ろしさを知りもしないのだ。
(せめて……お前だけでも生きろ)
今回の任務失敗の責は自分にあると言えば、
「オーケー。じゃあ、俺はバカ弟子の方だ。おっ!? そうこう言ってるうちに決着がつきそうだぜ」
杳馬の言葉に
『ラドルよ。しくじったな…』
聞き覚えのある声が彼の脳裏に響いた。
恐怖で歯がカチカチと音が鳴りそうなのを彼は必死に堪える。よくよく考えれば当然のことだった。ラドル達がアジトを出立してから数日が経過している。彼らが恐れる“あの男”が痺れを切らして出向きに来ても、何ら不思議ではない。
――――時間切れ
自分の命運を悟ったラドルは、最後の悪足掻きを決行する。杳馬は弟子の戦いに気を取られて、明後日の方向を向いている。好機は今しかない。
ラドルは己の片足を切り落とす。
(そうだ! その顔が見たかったんだ!!)
「あァあああああああああああァ!!!!」
喉も裂けんばかりの雄叫びを上げながら杳馬に突貫する。通常攻撃が効かないなら『音』はどうだろう。生物である限り、常に空気と接触している。これを利用し、声にありったけの
「ちぃっ!?」
さすがに効果があったのか、耳を塞ぎながら杳馬の体はふらついている。耳の中には平衡感覚を司る器官があるので、ラドルの声で麻痺してしまったのだ。反応が遅れた杳馬はラドルの組み付きを許してしまう。そして次の瞬間―――――――――
2人は青い炎に包まれるのだった。
◇
行人とヴァレリー―――2人の影が重なっている。互いの腕が相手の胸に刺さっており、ピクリとも動かない。まるで彼らだけ時の流れから取り残されたかのように……。この状態がいつまでも続くと思われたが、片方に動きがあった。
もう一方の影に寄り掛かり、そのままズルリと崩れ落ちる。勝者である影も無事ではないようで、肩で息をしており膝が震えていた。
勝者の影は周囲を見渡し
ようやく目的を遂げたことに対してホッと一息ついている彼の下に、突如
(2つの
異常事態を発生させた原因に心当たりがある彼は、
後に残されたのは―――――――――――衝撃波で薙ぎ倒された木々、亀裂が入った大地、そして……左胸に深々とつけられた爪痕から血を流す
杳馬の方にも天罰が下りました。
戦場には観客席という安全地帯は存在しませんからね。
次回もどうか楽しみにお待ちください。