とある冥闘士の奮闘記   作:マルク

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明けましておめでとうございます。

年内に書き上げる予定だったのに、間に合わず申し訳ありません(泣)


気がつけば、お気に入り件数が着々と増えていることに感激です。

相変わらずの遅筆ですが、どうか今年もよろしくお願いします。


14/演出家

 

 

 

 

 行人とヴァレリーが雌雄を決しようとしている頃、島の一角で異常事態が起こっていた。

 

 ヴァレリーと共に島に侵入した暗黒聖闘士(ブラックセイント)達である。

 

 島に2つの小宇宙(コスモ)の存在を確認した彼らは、チームを2つに分けることにした。

 小さい方には1人で十分とヴァレリーが、大きい方には残りが全員でかかるという方針である。

 

 

 簡単な任務のはずだった。敵は動こうとせず、室内に入っても毛布を頭からかぶった姿を見て、彼らは臆病者と蔑んですらいた。

 

 それが致命的な誤りだと気付きもせずに―――――――

 

 

 毛布を剥ぎ取ると、そこはもぬけの殻だった。同時に小宇宙(コスモ)も消失し、敵の姿を完全に見失う。

手で触れてみるとぬくもりを感じることから、ついさっきまで誰かがいた事が分かる。小屋の出口は1人が塞いでいるので、室内にいるのは間違いない。室内を捜索しようと一歩足を踏み込んだ時に、()()は起こった。

 

 

 突然部屋の照明が消えて暗くなる。予期せぬ事態に彼らは驚く暇もなく、先程の小宇宙(コスモ)が発生した。

 

 波長は消失したモノと同一なのに、今度の小宇宙は(コスモ)手の平を返したかのような異質さを放っている。

 

 まるで……遠吠えだけで、犬や猫ではなく、神話の魔獣だと即座に分かるようかのように…。

 

 命の危機を感じた全員が脱出しようと出口へ向かうと、目の前で番をしていた暗黒聖闘士(ブラックセイント)の体が、正中線に沿って縦に裂ける。血を噴水のように撒き散らす仲間を見て、誰もが慌てて足を止めてしまう。

 

 捜索隊のリーダーを務める暗黒銀蠅座(ブラックムスカ)のラドルが指示を飛ばして、互いを背中合わせにして敵を探す。視界が悪いとは言え、室内は狭く、隠れられる場所は限られている。なのに、見つけられない。

 

 

――――小宇宙(コスモ)

 

――――視線

 

――――気配

 

 

 自分達以外に何者かが潜んでいることを裏付ける要素がこれほどあるというのに、姿だけが確認できない事態に、焦燥感に駆られていく。

 

 とうとう静寂に耐えられなくなった1人が、再び出口に向かって逃亡を図る。あとほんの数cmで外に出られるというところで―――――――――――――――――――――――――――――――何の前触れもなく、今度は首が胴体と別れを告げた。

 

 

 その光景を見ていた大半がパニックを引き起こした。目の前で殺されたのに、どんな攻撃を受けたのかすら認識できなかったからだ。いつ、どんな方法で殺されるか分からない。 

 ここまでくると相手が人間なのかすら疑わしくなってきた。何かが原因で、神代の怪物が住み着いたということもあるかもしれない。

 

 無情にも時だけが進んでいき、神経を高ぶらせている暗黒聖闘士(ブラックセイント)達の間に疲労が溜まっていく。このまま全滅することだけは避けようと、ラドルが1つの策を講じた。

 

 各自が小屋の壁を壊して自分用の出口を作り、そこから強行突破するというものだ。

 

 小宇宙(コスモ)の反応から、襲撃者は1人しかいないことは分かっている。

 ならば…360度、別々の方向へ逃げ出す者への対処は難しいはずだ。何人か犠牲になるだろうが、これが一番生存率が高い。

 

 彼の提案に反論する者はいなかった。

 

 襲撃者が誰を標的に選ぶか分からない以上、危険性(リスク)は全員が背負っている。なにより、この正体不明の敵を相手にして、『犠牲を伴わず全員が助かる方法を考えろ』などと泣き言をほざく者はいない。

 

 そんな御都合主義を期待するくらいなら、自力で奇跡を起こそうと行動する程度には、彼らは現実というものを知っていた。

 

 最低でも1人が助かり、組織へ報告できさえすれば一先(ひとま)ず自分達の役目は終わる。あとは相応しい者が選抜され、無念を晴らしてくれるだろう。

 

 合図と共に、作戦が実行される。脇目も振らず一斉に駆けていく中、ただ1人動かない男がいた。この作戦を立てたラドルである。

 

 社会のつまはじき者同士、彼は部下に対しそれなりの愛着を持っていた。彼らを捨て駒にしようとは思ってはおらず、部下が命を懸ける時は、自分も命を懸けるつもりでいた。

 

 ではどうして動かなかったのかというと、彼自身にも分からない。

足が石のように固まってしまって、動けなかったのだ。ラドルの異変に気付かずに、仲間達が我先にと外に向かう。

 

 

 

 そして――――――全員が()()に頭部を破裂させた。

 

 

 脳漿がぶち撒かれて崩れ落ちる部下達を見て、ラドルは己の浅はかさに後悔する。この絶望感は首領(ドン)と対峙した時に似ているが、本質が全く違う。

 

 暴力や殺気をぶつけることで恐怖させる首領(ドン)が支配者なら、この敵は観客に対して恐怖劇を展開している演出家のようだ。恐れおののく自分達の姿を、舞台裏という安全圏からせせら笑う姿が目に浮かぶ。

 

 仲間を全て失ったというのに、敵についての情報は何1つ入って来ない。人種、性別、能力……数え上げたらキリがない。

 

 聖戦以外ではまともに戦う機会が得られない聖域(サンクチュアリ)聖闘士(セイント)と違って経験が豊富とはいえ、小宇宙(コスモ)も使えないような格下ばかりを相手にしてきたラドルには、腕を磨く機会が少なすぎた。

 

(光速拳のような超速度(スピード)じゃない! 幻術でもない! オレは一体、何と戦っているんだ!!)

 

 敵の不気味さに、静寂から生じる耳鳴りが激しさを増す。呼吸が荒くなり、一筋の汗が頬を伝って血で穢れた床に滴り落ちる。ただ立っているだけだというのに、この異常空間のせいで体力と精神力が恐ろしい速さで摩耗していくのを感じる。

 

 次に狙われるのは、生き残っているラドルしかいない。今度攻撃を仕掛けられれば、彼は部下達と同じ結末を迎えることとなる。

 

こうなればできる事はただ一つ、()られる前に()るしかない。部下が死んでしまったからこそ生じた選択肢を、彼は選んだ。

 

 

「誰だか知らんが、あまりいい気になるなよ。暗黒聖闘士(ブラックセイント)の恐ろしさを思い知らせてくれる! サンドストーム・デストラクション!!」

 

 

 ラドルが小宇宙(コスモ)を燃焼させて放った技によって、大気が渦巻き状に立ち昇り、小屋を中から破壊した。その突風は土埃や砂だけでなく、家具、材木――――室内にあった全てを巻き込んで、ミキサーのようにかき回していく。

 

 どこに潜んでいるか分からないなら、丸ごと吹き飛ばせばいい。

 

 屋内にいたのは間違いない。逃げた様子もなかった。この技で倒せないまでも、ダメージは通ったはずである。

 

 今のうちに船に戻ろうとラドルは動き出す。

 

「なっ!? ぐぁああああああああああ!!!」

 

 だが、彼が相手にしている敵は一筋縄ではいかない。ラドルの右足の甲が針のようなもので地に縫い付けられてしまう。

 

「こ…これは一体……」

 

 気配も音も無く突如現れたその針は、奇妙なことに何もない虚空から生えていたのだ。拘束から逃れようとと躍起になっているラドルの前に、一人の男―――――――――――――――杳馬が姿を現した。

 

「無駄無駄……そんなんじゃ、ソイツは外せねぇよ」

 

「き、貴様か…さっきからコソコソ隠れていたのは! よくもオレの部下を殺してくれたな!!」

 

 ついに正体を見せた怨敵に食って掛かるラドルだが、動きを封じられているので睨みつけるくらいしかできない。ラドルの表情から考えを読み取った杳馬は、安心して目的を遂げられることに安堵する。

 

「さて…助かりたきゃ、俺の質問に正直に答えてもらおうぜ。まずは最初の質問だ。テメエらはどこから来た?」

 

「クソやろ「答えが違う」うがぁあああああああ!!」

 

 自分勝手に話を進めようとする杳馬に罵倒で応えようとすると、容赦なく新たな針が飛来して今度は腕を貫く。

 

「困るねェ、暗黒聖闘士(ブラックセイント)さんよ。立場ってのが分かってねぇようだから言わせてもらうぜ。いいかい? 

身動きできない。助けてくれる仲間もいない。詰んでるんだよ。テメエにできることといったら、餌を見せただけでヨダレ垂らす犬のように、俺の質問に答えるだけなのさ。 

Do you understand(理解したか)?」

 

 杳馬の言葉は正しかった。だが、正しいからこそラドルには余計に腹立たしく聞こえる。なんとしても一泡吹かせてやらねば気が済まなかった。

 

(ふぅん。やっぱリーダーを任されるだけあって、しぶといねぇ。三下ならゲロってるとこだけどなぁ)

 

 いまだに戦意を失わないラドルに杳馬は感心する。矜持(プライド)もなく、ただ金や女目当てで裏社会に入った人間なら、他者を生贄にしてでも助かりたいと考えるものだがラドルにはそんな素振りが見られない。やはり、腐っても聖闘士(セイント)なのだろう。

わざわざ手の込んだ演出をしてまでリーダーを焙り出したところまでは上手くいったが、この様子だと情報を引き出すのは時間がかかりそうだった。

 

「ひょっとして、俺のバカ弟子の相手してる奴を期待してんのかい? だったら無駄だぜ。気づいてんだろ? そいつと2人がかりでも俺には勝てないって…」

 

「グ……それは、どうかな。ヴァレリーを侮っていると痛い目にあうぞ。あいつは俺達の中で最も強い。命の危機があるとしたら、お前の弟子の方だ」

 

 杳馬の推測をラドルは強気の姿勢で返すが、内心はかなり苛立っていた。ヴァレリーの実力は大体3番手程度だ。彼がこの場にいても犠牲者が増えるだけで好転するとは思えない。むしろ、弟子が死ぬことを前提とした推測に寒気がした。これでは弟子の窮地を救おうとこの場を離れるといった事態は期待できない。

 

「へぇ、じゃあ一つ賭けをしてみねぇか? テメエも2人の小宇宙(コスモ)は分かるな? どっちが生き残るか、賭けようぜ…」

 

「俺が勝ったらどうするんだ?」

 

「その時は生かして解放してやるよ。どうせ俺とは戦わずに逃げるんだろ? 負け犬らしく、ご主人様に泣きつくといいさ」

 

 ここで生還しても、任務失敗という事実は変えようがない。首領(ドン)自らの手で殺される可能性が高いのだ。どう転ぼうとラドルに待っているのは『死』あるのみ。

 

 杳馬も裏社会の厳しさは知っている。特にギャングやマフィアのように組織で動いている者達にとって、任務失敗は面子を潰したも同然なのだ。それなりの罰は覚悟しなければならない。

 自身の能力を看破される心配もない。そもそもラドルがなんと報告するか気になるくらいだ。『気がついたら仲間が死んでいたんです』とでも言おうものなら、間違いなくラドルは正気を疑われて殺されるだろう。

 

 そこまで考えたからこそ、杳馬は賭けをしようと言い出したのである。

 

「……俺はヴァレリーが勝つ方に賭ける」

 

 歯痒い思いをしながらもラドルは悪魔の誘いに乗った。今自分が死ねば、成す術もなく殺された仲間達の無念はどうなる。この場にいないヴァレリーは杳馬の恐ろしさを知りもしないのだ。

 

(せめて……お前だけでも生きろ)

 

 今回の任務失敗の責は自分にあると言えば、首領(ドン)もヴァレリーを適度に痛めつけることはしても、殺しはしないだろう。生き残りさえすれば、強くなった彼が杳馬を討つという未来も有り得るかもしれない。リーダーとして部隊の全滅だけは――――犬死にだけは許せなかった。

 

「オーケー。じゃあ、俺はバカ弟子の方だ。おっ!? そうこう言ってるうちに決着がつきそうだぜ」

 

 杳馬の言葉に小宇宙(コスモ)を探ると、2人が大技を撃とうと高まっていくのを感じる。やはりヴァレリーの方が大きい。これなら自分の勝利は揺るがないと胸をなでおろすラドルだったが――――――

 

 

 

『ラドルよ。しくじったな…』

 

 

 聞き覚えのある声が彼の脳裏に響いた。

 

恐怖で歯がカチカチと音が鳴りそうなのを彼は必死に堪える。よくよく考えれば当然のことだった。ラドル達がアジトを出立してから数日が経過している。彼らが恐れる“あの男”が痺れを切らして出向きに来ても、何ら不思議ではない。

 

――――時間切れ

 

 自分の命運を悟ったラドルは、最後の悪足掻きを決行する。杳馬は弟子の戦いに気を取られて、明後日の方向を向いている。好機は今しかない。

 

ラドルは己の片足を切り落とす。

 

 小宇宙(コスモ)の異変を感じ取った杳馬が振り向く。そして、足を失ってでも攻撃を繰り出そうとするラドルを見て、顔が驚愕に染まる。そんな杳馬の様子に、ラドルはほんの少しだけ気を良くした。

 

 

(そうだ! その顔が見たかったんだ!!)

 

 

「あァあああああああああああァ!!!!」

 

 喉も裂けんばかりの雄叫びを上げながら杳馬に突貫する。通常攻撃が効かないなら『音』はどうだろう。生物である限り、常に空気と接触している。これを利用し、声にありったけの小宇宙(コスモ)を込めて怨敵にぶつけた。

 

「ちぃっ!?」

 

 さすがに効果があったのか、耳を塞ぎながら杳馬の体はふらついている。耳の中には平衡感覚を司る器官があるので、ラドルの声で麻痺してしまったのだ。反応が遅れた杳馬はラドルの組み付きを許してしまう。そして次の瞬間―――――――――

 

 

 2人は青い炎に包まれるのだった。

 

 

 

 

 行人とヴァレリー―――2人の影が重なっている。互いの腕が相手の胸に刺さっており、ピクリとも動かない。まるで彼らだけ時の流れから取り残されたかのように……。この状態がいつまでも続くと思われたが、片方に動きがあった。

 

 もう一方の影に寄り掛かり、そのままズルリと崩れ落ちる。勝者である影も無事ではないようで、肩で息をしており膝が震えていた。

 

 勝者の影は周囲を見渡し聖衣箱(クロスボックス)を見つけ出す。先程の技のぶつけ合いの衝撃で吹き飛んでいたようだ。所どころ土埃で汚れているが、流石は聖衣(クロス)を守護するだけのことはあり、軽く手で払っただけで簡単に汚れは落ちた。

 ようやく目的を遂げたことに対してホッと一息ついている彼の下に、突如小宇宙(コスモ)の波動が届いた。

 

(2つの小宇宙(コスモ)が、いきなり現れた小宇宙(コスモ)によって掻き消された!?)

 

 異常事態を発生させた原因に心当たりがある彼は、聖衣箱(クロスボックス)を荒々しく拾い上げて急いでその場を離れていく。

 

 

 後に残されたのは―――――――――――衝撃波で薙ぎ倒された木々、亀裂が入った大地、そして……左胸に深々とつけられた爪痕から血を流す()()だけだった。

 

 

 




杳馬の方にも天罰が下りました。

戦場には観客席という安全地帯は存在しませんからね。


次回もどうか楽しみにお待ちください。

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