――レミリアの部屋――
「さーて、どうしようかしら」
自室で一人、私は呟いた。本当ならこの時間は眠っているのだが、パチェが運動するって聞いたら目が覚めてしまった。やることが何もないので、とても暇である。
うーん……いつもなら暇を潰す時、どんなことをしていたか。
パチェと喋る。今お取り込み中ね。
咲夜と遊ぶ。あの子がとても忙しいのは知ってるんだから。
フラン。日傘さしてどっかいった。
美鈴。寝てる。(と思う)
なんということだ。だれも暇じゃないのに私だけ暇だなんて。咲夜の手伝いでもしようかしら……いや、止めておこう。以前手伝った時はヒドイ目にあったし。というのも、皿洗いは流水が必要で、吸血鬼である私からすればただの拷問。掃除をしようと掃除機をかければ、なぜか掃除機が暴走するし、とにかく酷かった。
図書館。何か面白いのあるかな。
私は普段、本はあまり読まない。図書室は難しい本ばっかだったし、字ばっかりで眠くなるのだ。あ、あの絵がたくさんあるやつ。まんが…だっけ。あれは面白かった。少し前、パチェがこそこそ読んでたのを目撃した。声を掛けるとビックリした様子で本を隠した。そんな仕草がパチェらしくなくって面白かった。そういえば、あの漫画はどんな内容だったか。たしか男女がイチャイチャしてたような……
ははーん。パチェも恋に恋する乙女ってわけね。
なんとなく楽しい気分で図書館に向かった。
「失礼するわー」
一応声を掛けてから中に入った。すると直ぐにこの図書館の司書である小悪魔が飛んできた。
「あ、レミリアお嬢様。珍しいですね。お嬢様が図書室にいらっしゃるなんて」
「今日はそんな気分だっただけよ」
「あはは。では、何かお探しの本があったらお申し付けください。本の配置は全て把握しているので!」
「あら。じゃあ早速。漫画ってたしかあったわよね?」
「ギクゥッ!?」
…あら?小悪魔の動きが急に止まった。暑くもないのに汗を流して、奇妙な言葉を発した。何かまずいこと言ったかしら…
「お、お嬢様…どこで、それを…?」
「パチェが読んでたのを見た」
「パチュリー様が!?何で!?隠してたのにッ!」
「隠してた…?」
「ハッ!?」
どうやらあの漫画は小悪魔が個人的に買ったものだという。香霖堂で。そしてコソコソ読んでたところをパチェに見られ、パチェがコソコソ読んでたところを私に見られた、と。
「あんたたち二人そろって乙女か」
「な!?わ、私だって悪魔ですけど、乙女なんですよぉー!!」
おお。言い返してくるとは思わなかった。乙女なんて。……パチェも乙女……もしかして咲夜や美鈴も…?
スッくと立ち上がる。
「小悪魔。お使いよ。漫画を買ってきなさい」
「へ?」
「種類は小悪魔の好きなものでいいわ。」
「え!?いいんですか!?」
「ええ。ただし、私にも読ませなさい!」
「はい。もちろん!」
私からお金を貰うと、小悪魔はすごいスピードで出ていった。どんだけ欲しいんだ…。
「さて。漫画がないとすると…何読もうかしら」
しばらくまわってみよう。
「あ、これ……」
しばらくして、私の目に留まったのは一冊の本。しかし背表紙には何も書かれていない。取り出してみると、どうやらアルバムのようだった。
ページをめくると、一人の赤ちゃんの写真があった。
「誰だろう……」
写真を取り出してよく見てみる。そして、裏に何か書かれていることに気づく。
――レミリア誕生――
「…え、これ私…?」
どういうことだろう。私が生まれた、つまり500年前に写真なんて。…いや、昔から魔法使いと交流が深かったって聞いたし、カメラ無しでも写真は作れたのだろう。…そんなことより……
またページをめくる。赤ちゃんの頃の私の写真がたくさん貼ってある。そして……
――フランドール誕生――
私とよく似ているが、やっぱり違う。
二人そろって寝ている写真。
二人で遊んでいる写真。
私とフランと、男の人と女の人が一緒に写っている写真――
「あっ……」
私はその写真を落としてしまった。
その写真を拾い上げようとした時。
「うおおおおおお!!」
あの子が入ってきた。
「パチュリーさん!!しっかりしてください!!」
「むきゅぅ……」
「えと、ベッド!ベッドどこです!?」
「パチェのベッドはこっちよ」
「あ、レミリアさん!すみませんパチュリー様が!突然咳をしたかと思ったら倒れてしまって!」
「喘息の発作ね。大丈夫、命に別状は無い。すぐ良くなるわ」
「そうですか…よかったぁ…」
「私、薬持ってくるわ」
「あ、はい。ありがとうございます」
ギイィ…バタン
「まさか走って五歩で倒れるなんて…」
ストレッチして準備運動して軽くウォーキングして、そこまではなんとかクリア出来たが、走ったら全然ダメだった。
――――――――――
『んじゃ、走りますよ。ついてきてください。』
『はい、1、2、3、4、5…『ゲェッホ!!』パチュリーさん!?』
ドサッ
『パチュリーさぁぁぁああん!!!』
―――――――――――
「運動は止めといたほうがいいんじゃないかな…まず食生活とかから…」
じゃあ今のうちにバランスのいい食事についての本とか読んどこうかな。
ん?
机の上に一冊の本が置かれていることに気づいた。
題名が書かれてないな…
何となくパララッとページをめくってみた。
「え。レミリア誕生って…この赤ちゃん…レミリア、さん…?」
するとそこにレミリアさんが薬を持って戻ってきた。
「薬持って来たわ…って、それは……」
「ご、ごめんなさい!勝手に見てしまって…!」
怒られるだろうと思い、俺は謝った。
「別に良いわよ…見られて困るものでもないし」
「そうなんですか…?」
レミリアさんは怒らなかった。大体の人は過去のアルバムとか恥ずかしがるけど……
「じゃ、薬置いとくから。目が覚めたら飲ませてあげて」
「は、はい!」
レミリアさんはすぐに図書館を出ていった。やっぱり不快な気持ちになったんじゃないだろうか…あとで謝らないと……
あれ。この男の人と女の人って……
「レミィの両親ね」
すぐ隣から声が聞こえた。
「あ、パチュリーさん。もう大丈夫なんですか?」
「ええ、まあ薬飲んだらまた寝るわ」
「本当にすみません……自分の配慮が悪かったために……」
「そんなこと無いわ。付き合ってくれてありがとうね」
パチュリーさんの優しさがこの時ばかりは胸に刺さる。
「レミィは…きっとこれを見ていたのね」
そう言ってパチュリーさんはこのアルバムを指差した。
「きっと、思い出してしまったでしょうに……」
「思い出す…?何をですか?」
パチュリーさんは一つ、息をついてから話してくれた。
「レミィの両親は……まだレミィが幼かった時に、殺されたの」
「え!?」
突然の告白に驚いた。レミリアさんが500歳と言っても、あの外見からして、まだ吸血鬼にしては子どもなのだろう。それなのに…親を殺されたって……
「一体…誰に……?」
「人間よ。それに両親だけじゃない。多くの同胞達も、人間の手によって殺された」
「なんで……」
「人間にとって、吸血鬼はただの化け物。自分達に害の有るものは残らず排除した。ということでしょうね。気持ちは分からなくもないけど、レミィはまだ幼かったから……」
そう話すパチュリーさんはどこか辛そうだった。きっとパチュリーさんも辛い過去があるのだろう。ここで踏み入ることは止めた。そこまで無神経なことはしたくない。
「レミィとフランは…ずっと隠れていたみたい。人間達が去った後、しばらく二人だけで過ごしたそうよ。血生臭い…死体の山に囲まれて……」
俺はその光景が脳に浮かんでしまい、吐きそうになった。化け物だって、人間と同じ、生き物。レミリアさんのように感情を持っていたのだ。笑って、怒って、泣いて……
「レミリアさんは…本当は人間の俺と会いたくなかったんじゃないですか…?」
「そんなことは無いわ。あなたと話してる時、とても生き生きしてたし、それに霊夢や魔理沙とも仲良いしね」
それに……と言って、パチュリーさんは微笑んだ。
「あの子が一番心を許してるのは、咲夜だと思うの。あの子だって人間よ?だから安心して」
「そう、ですね。すみません…」
「話を戻すわね。……あの後、吸血鬼と同じく、魔女狩りが行われて、私も仲間を失った。行く宛もなく、さ迷っている内にこの紅魔館に辿り着いて、レミィ達と出会った。似たような境遇だったから、すぐに打ち解けたわ。仲間を失って傷ついた心も少しずつ癒えていった。紅魔館の皆ともそんな感じで出会ったわね。もう家族も同然だった。」
ここに住む人々は、今までに見たことのない程の強い絆で結ばれていた。それは簡単、いや、決して切れることない家族の繋がりのようだった。
「でも、このまま此処に居ては、また私達を狙うものが襲ってくるかもしれない。それを恐れた私達は決心してこの世界にやって来た。…まあ、こっちに来てから大変なこともたくさんあったけど、来て良かったって、今では凄く思うわ。」
俺はパチュリーさんの話について何も言うことが出来なかった。言えなかったのだ。変に慰めるような真似をすれば傷つけてしまうかもしれない。俺はそれを恐れた。
「それにね」
パチュリーさんが続ける。
「あなたにも…会えたから……」
!!
気がつくと、俺の頬に、一粒の涙が流れていた。
「パチュリーさん……」
「なに?」
「貴女は…強いですね……」
「そんなことは無いわ。今も、レミィとこのことについては話さないようにしていたの。お互い傷ついてしまうから…」
「ごめんなさい…俺のせいで……」
「あなたのせいじゃ無いわ。寧ろ、話ができてスッキリしたわ。ありがとう。聞いてくれて…」
俺は袖で涙を拭った。
「でも、今、一人思い出してしまったレミィは…」
「パチュリーさん」
俺は決心した。
「俺、もう少し、今までの自分と向き合ってみようと思います。…だから……」
強くなってみせる。
「レミリアさんには俺から話します」
「……本気なの?」
「…はい。俺は弱いけど、出来る限りのことはしてみせます」
パチュリーさんは困ったような顔をしてから、小さくため息をついた。
「……分かったわ。まあ、頑張ってね」
「はい!」
レミリアさんは妹であるフランさんのために…家族のために…努力してたんだ。ご両親が亡くなって、代わりに自分が妹を守るって…自分を強くしたんだ。…きっと、誰にも頼れずに苦しんでたんだ。赤の他人である俺が他人の事情に踏み入るのは間違ってる。けど……
何もしないで黙っていられるほど、俺はもう赤の他人じゃないんだ…!!
勢いよく図書館を飛び出した
……なんか、重くなった……あれ…?