太陽はすっかり沈み、変わりに月明かりが照らし始めた頃、優は紅魔館の門の前で右往左往していた。
「口説けって···そんなことしたことねぇし···」
魔理沙はとっくに門を飛び越え、館に入っていった。
一緒に行けば良かったのだが、これも一つの試練。強くなる為には必要なことだと言う。
ちなみに門番の娘は俺達が着いた時からずっと立ったまま寝ている。あれはあれで凄いと思う。身なりからして中華系っぽいが、ひょっとしたらカンフーとかやってるのかも。
「そもそも寝てたら口説けないよなぁ···」
ということは、まず起こすことから始まる。
「お嬢さん。こんな所で寝てたら風邪ひくぜ···みたいな?」
どおおおお!!!!とてもじゃないけどそんなキザなセリフ言えねぇぇぇぇ!!!!
それに、寝てるところを態々起こして口説くとはいかがなものか。気持ち良さそうに寝てるし、やっぱり起きるまで待った方がいい気がする。
「でも時間も時間なんだよなぁ···もう真っ暗だし。」
急がないとまずいというのも確かである。て言うか、魔理沙は何時まで交渉してるんだ?そろそろ帰って来てもいい気がするぞ。
あーでもないこーでもない···
この人は話が通じる人だろうか。
いやまて、人に見えて実は妖怪かも···
一か八か、掛けてみるか···?
だとしたら起こさなければ始まらない。
俺はゆっくり、恐る恐る近づいた。突然襲いかかってくるかもしれないって言ってたからな。
「···ってなんだ。近づいても全然起きないじゃん···」
どうやら要らぬ心配だったようだ。
「お~い···起きてくださ~い···」
うんダメだ全然起きる気配が無い。立ったまま爆睡できるなんて、ある意味天才だ···
そして、揺さぶって起こそうと、肩に触れようとした次の瞬間。
「!!」
押し潰されるような視線を感じ、どういうわけか、咄嗟に上を見上げた。
満天の星空に、一際輝くもの。しかしそれは星ではなく、飛行機であるわけもなく、
月明かりに照らされて、目映く反射する、一本のナイフだった。
ナイフは門番目掛けて真っ直ぐ降下した。
「うわっ!?」
「わぷっ!?」
優は門番の娘を抱き抱え、大きく横に跳んだ。
ザクッ
ナイフが地面に突き刺さる。
間一髪、助かったみたいだ。
「へ!?何事!?あなた誰ですか!?」
慌てふためく門番を無視して、空を確認。
そして、予想だにしなかった、二本目のナイフ。
「あっ。」
避ける間もなく、咄嗟に出した左手の平に···
ぶすっ
深々とナイフが突き刺さった。
「いっでぇぇえええええええええええッッッ!!!!!!!!!」
あまりの痛さに悶絶した。
「うおおおおおお!!!!!?」
外にも関わらず、思いっきり転がり回る。
「えと···大丈夫ですか?」
「全然大丈夫じゃないですッ!!」
小手外されたとか、胴外されたとか、そんな次元じゃない。
血がどくどくと溢れ出している。
「えっと···医務室、いきます···?」
なんか···あっさりと入れたんだが···
まあ代償として、左手が使えなくなったけど···
「包帯、キツくないですか?」
「あ、はい。大丈夫です。」
今は門番の娘に怪我の手当てをしてもらってる。
「すみません···私の失態で怪我をさせてしまって···」
「いえそんな、あなたが悪いわけではないですよ。」
「いや、それは···」
···?バツの悪そうな顔をしているな。何かいけないこと言ったか?
「ええっと!!私は紅美鈴といいます。この紅魔館の門番をしています。」
何か強引に話題変えてきたな。ここは乗った方が良いだろう。
「自分は神崎優といいます。昨日幻想入り···でしたっけ?してきた者です。」
「あ、そうなんですか!それは大変でしょう。主に許可を取ってきますから、ゆっくりしててください。」
「あ、ありがとうございます···」
これまたいい人だ。うまくいけば泊まることができるかも···なんて、図々しいことは考えないぞ。
しばらくして、美鈴さんが帰ってきた。どうも、館の主が俺に会いたいという。でも主ってことは吸血鬼ってことだよね?うわぁ···ついにこの時が来てしまったか···うぅ···やっぱ血吸われんのかな···
「···?浮かない顔をしていますね?」
ふと、美鈴さんに声を掛けられた。
「え?い、いえ、そんなことはないですよ?」
主が怖いだなんて、口が裂けても言えないよな。
「それにしても、大きなお屋敷ですね。」
心情を悟られぬよう、かぶりをふった。
「ええ。私も居候の身ですけど、良くして貰ってます。門番以外にも、庭の手入れなどをしているんですけど、どれもとてもやりがいのある仕事でして、毎日が楽しみなんですよ。」
その時の美鈴さんの顔はとても楽しそうだった。この人は紛れもなくいい人だ、と心から思った。
「あら、美鈴。」
「げっ!?咲夜さん!?」
あれっ?いい笑顔が歪んだぞ?
「今日は随分とぐっすりだったようね。」
「いやあれは···睡魔という魔物がですね···」
咲夜さんと言われたその人は、どうやら美鈴さんの上司らしい。
「くだらない言い訳はもう飽きたわ。···あら?その人は?怪我してるみたいだけど。」
どうやら俺に気がついたみたいだ。
「あー、えーとですねぇ···」
すると美鈴さんは咲夜さんに近づいても耳打ちをした。
コショコショ··· ウンウン··· ···!?
お、終わったみたいだ。···なんか凄い申し訳なさそうに顔俯いてるぞ···?
「どうかしたんですか?」
「誠にっ!!申し訳ありませんでしたッ!!!」
「え?」
なんだなんだ?急に謝り出したぞ!?
「さっき神崎さんの手に刺さったナイフ、咲夜さんが投げたものなんですよ。」
「え!?」
そうなの!?ナイフ投げんの上手くね!?
「寝ている美鈴にお仕置きをしようと投げたのですが···まさかお客様がいたなんて···本当に申し訳ありませんでした···」
お仕置きでもやり過ぎだよね。下手したら死んじゃうよ···
「いえいえ···暗かったですし、仕方がないですよ···」
お仕置きのことについては触れなかった。多少気になったけど、触れちゃまずい気がしたからだ。
「ですが···なにかお詫びをしなければ···」
「大丈夫です大丈夫です。こんな怪我、大したことn『ピキッ』·····ッ!!?」
思ってたより傷は深いみたいだ。いや、貫通してたから深いって言い方も変か。
咲夜さんの顔がみるみる赤くなっていく。
まずい。これ以上恥をかかせるわけにはいかない。
またまた、話をそらす作戦を決行した。
「あ、そうだ。少し前に金髪の女の子入って来ませんでしたか?魔法使いみたいな格好した。」
「ああ、魔理沙のことですね。」
おっと。やはり知っているのか。話が早くて助かる。
「魔理沙なら、今はパチュリー様と図書館でお茶をしていますわ。」
おい魔理沙!!話が違うぞ!?
もう魔理沙を頼らないとすると、ここからは自力でなんとかしないといけない。
俺に、「私はお金を一銭も持っていません。あなたのお家に泊めて貰えませんか?」なんて言えるだろうか···
「ここからは私がご案内いたします。美鈴は今日はもう降りていいわ。」
「はい。ありがとうございます。」
美鈴さんから事情を聞いた咲夜さんが案内してくれるらしい。
「美鈴さん。本当にありがとうございました。」
深々とお辞儀をして、美鈴さんと別れた。
「着きましたわ。ここがお嬢様のお部屋になります。」
あ、お嬢様なんだ。俺のここの主に対するイメージが少しだけ和らいだ。
咲夜さんは礼儀正しく二回ノックした。
「十六夜咲夜です。失礼致します。」
ガチャッと、大きな扉が開け放たれた。
ドキドキドキドキ···
正直襲われる覚悟は出来ていた。
果たして、吸血鬼とは一体どういう姿形をしているのか。
人類の謎が、今明らかに―――!!
スヤスヤ···
「「ブフォッ!?」」
俺と咲夜さんは盛大に吹き出した。ってなんで咲夜さんまで!?
「お、お嬢様···二度寝はいけませんよ?」
「うぅ~ん···眠いぃ···」
俺のここの主に対するイメージが、崩れ去った。
「お客様がお見えになられています。」
「ハッ!?なにっ!?」
ゴソゴソ···
カーテンの裏で急いで着替えているのが伺える。
「うふふ···待たせたわね。ようこそ、紅魔館へ···」
今さら取り繕ってもダメだよ!?
俺は吸血鬼と言うより、天使の寝顔を目に焼き付けたのだった。
ごめんなさい!!俺の文章力が無さすぎるせいです!!