ダンジョンに神秘メイジがいるのは間違っているだろうか 作:猫の手
今回は書き直しが多く難産でした。
もう少し慣れたら、速度も速まるのだろうか。
後、筆者はダンまちのキャラでフィンが一番好きです。
要望があったので日本語訳つけました。
夜鷹の鳴き声が聞こえる。
幼女は枯れ果てた砂漠にいた。砂漠には闇と天を貫く巨大な光の柱しかなかった。草一本生えない荒涼とした不毛な砂漠はまるで『悪魔の舞踏園』を髣髴とさせる。幼女は怯えながらも光に向かい、ゆっくりと歩き始める。宛ら、その姿は亡霊のようで、聳え立つ光の柱に誘蛾灯のように誘われる蛾のようだ。
幼女は言葉すら発せず、ただただ光を目指し歩く。
聳え立つ光の柱は幼女の後ろに影を作る。その影は見ず知らずの幼女を悪漢から助ける剣姫を象る。怒り狂い幼女を追いかけるヒュアキントスを象る。全てを諦めた表情で罪悪感を押し殺し幼女を追うダフネを、予知で幼女が逃げたことを知ったカサンドラを、強者を気取るルアンを、そして、己をこの世界に呼んだアポロンを象る。
光は幼女の過去を影に変えて映し出す。影がアポロンを象ってから、幼女より新しい影は生まれなかった。しかし、聳え立つ光の柱は影のない幼女を容赦無く射抜く。光より身を守るためには影を作らねばならない。しかし、幼女にはそれ以前の影(過去)が無かった。故に光は幼女を否定する。強い光が幼女を射抜き、体がゆっくりとひび割れてゆく。自分の体が崩れ落ちてゆく。その姿に幼女は己の死を悟った。作り物でしかない、過去の無い己はここで死ぬのだと、光は幼女を容赦無く照らし出す。影の無いものの存在を許さないかのように、幼女は目を閉じ己の死を受け入れた。
……だがいつまで待っても幼女に死は訪れなかった。
不審に思い幼女が目を開けると、そこには見知らぬ少年がいた。光を遮り、光から幼女を守っていた。幼女が目を開けたことに気がつくと少年は光の柱へと進んでいく。
幼女はあわてて少年の後を追う。少年は幼女を置いていかないようにゆっくりと進んでいった。光は少年の過去を影として象っていく。
……ゲームで仲間とともにダンジョンへ向かう幼女
……大量の秘薬を購入して動けなくなった幼女
……部屋に戻り、幼女のキャラクターを作成する少年
……数多くのモンスターと相対し、ボスを殺し、PKから逃げ、突出しすぎた輩を殺し、再び逃げる。
……家のコーディネートに頭を悩ます幼女。
そう、少年はゲームのプレイヤーであった。幼女は己の過去の軌跡を目で追いながら、少年の後を追う。それは宛ら不思議の国へ兎に案内される少女のようだった。
少年から齎される己の過去を見ながら幼女は己を知る。まるで過去への旅をしているようだ。そんな不思議な体験もやがて終りを迎える。
光の柱へと辿り着いたのだ。
少年は従者のように光の柱と幼女の間から離れるように移動し、幼女を光の柱へ向かうように促した。強烈な光、しかし、幼女の体は揺らぐことはない。少年から見た自分の姿を知ることで己の過去を手に入れたのだから。
幼女は光に向かい一歩一歩踏みしめて進む。そして、光の中を見て涙を零す。
……光の中にあったのは、幼女の始まりだった。
……それはなんと言うことのない古惚けたダガー。
……ブリタニアの古い冒険者は、動物を狩り皮の集め方を、羊の毛を刈り布の作り方を、火を使った料理方法を
……まず最初にブリタニアで生活をする方法を学ぶ。
……ダガーはそのときに使用した古い古いダガーだった。
それは、幼女の原点、記憶の始まりだ。
そっと慎重にダガーを手に握る。光の柱は消え去る。過去を象った影が緑に変わり、蒼い空が闇を払い、緑豊かな美しい平原へと姿を変える。
少年はその光景に満足そうに頷くと幼女に対して問いかける。
「さて、そろそろ名前を思い出したかい。」
幼女は頷く
「ならば名乗れ、お前は誰だ?」
幼女は目を閉じ、自分のものであることを噛み締めるように名前を名乗った。
「ワタシはアリス・アカンサス。ブリタニアの冒険者」
「よろしい。アリス・アカンサス。過去を持たないお前は今、人格―ペルソナ―を手に入れた。」
少年が指を鳴らす。森の中に豪奢なテーブルとティーセットが現れる。自分の紅茶を淹れて飲み始める。幼女―アリスが私の分はと不満げに言うと、少年は鼻を鳴らし馬鹿にしたように言う。
「お前にはまだ早い。お帰りはあちらだ。さっさと戻ってやるといい。お前を助けてくれた少女と少年が待っている。」
森の中に扉が現れる。アリスは不満げではあるが不思議と逆らう気は起きなかった。もはや舞台にアリスは不要とでも言いたげな追い出し方だ。
「ありがとう。ちゃんとしたお礼は今度言いに来るわ。」
それだけを言うとアリスは不思議の国から出て行ってしまった。
「次の機会を待っているさ。」
一人お茶会をする少年は扉が閉まったことを確認してから、そう呟いた。
ダンジョンに神秘メイジがいるのは間違っているだろうか。
第一章:ようこそ オラトリオヘ
~第二話:剣姫と幼女のサットル~
「―――…という理由で、アポロン・ファミリアに追いかけられていた。この子を保護をしました。」
11の瞳が眠っている幼子をみる。其々に心配そうに、痛ましそうに、怒りを抑えながら、アイズ・ヴァレンタインの説明を聞く。白髪の少年―ベル・クラネルが居たためバイト先より呼び出されたヘスティアは心配そうに幼子を見やり、ロキは不快そうに口をへの字に曲げ、平静を装っているヘファイストスですら内心の怒りを隠しきれないで居た。
「アイズ、クラネル君もよくやってくれた。君たちがその子を助けなければ、冒険者のイメージは地に落ちただろう。」
流石と言うべきか、"勇者"フィン・ディムナはそれらの感情を押し殺し正しい行いをした二人に賞賛の声を上げる。フィンの言葉を擽ったそうに聞きながらもベルの表情は晴れなかった。
「この子はどうなるんでしょうか……」
ベルのその問いにフィン英雄たる矜持を持って応える。
「分からない。彼女に事情を聞くまでは判断は難しいだろう。だが、悪いようにはしない。」
英雄たる己の誇りに掛けて宣言するフィンの言葉。その言葉にベルと剣姫は安心する。
"勇者"―オラトリオを代表する英雄の一角はこのような行いを許す心算はなかった。このような外道の行いを知りながら見過ごす人間に『一族の再興』など出来るはずもない。
「構わないだろう。ロキ」
「ええよ。フィンの好きなとおりやったり、それでこそや」
ロキはフィンの言葉に薄い胸を張る。ヘファイストスはそれを眩そうに、ヘスティアは面白くなさげに見る。ベルはそんなフィンに対し憧憬の眼差しを浮かべる。それは己の憧れる英雄のあり方そのものであった。フィンは"勇者"であり"英雄"なのだ。
「僕もお手伝いします!!」
「私も手伝います」
遅れながらフィンの手伝いをすると言う剣姫とベル。それに対してよろしく頼むと応じるフィン。神々はそんな子供達の様子に嬉しそう、憧憬の眼差しを送る。さながら、その理不尽に立ち向かうあり方は神々が愛する『眷属の物語』の一幕だ。
ロキは死んだように眠る幼女の頭を撫でてやりながながら、幼女を助けることを誓い合う3人を、特に意外な一面を見せ続ける剣姫の様子を見ながら満足そうに呟く。
「うん、ほんま、下界に来て良かったわ。」
『眷属の物語』その一幕を間近で見ることができる。これに適う喜びは神々に存在しない。
周囲のしゃべり声で目が覚めたのだろうか。幼女が薄っすらと目を開く。ロキは優しい表情を浮かべて幼女に声をかける。
「おはようさん。眠り姫ちゃん。うちはロキや。そこにおるのがヘファイストスたん、ドチビがヘスティアや。ほんま安心してええで、うちらは味方や。こんな豪華な助け舟滅多に乗れるもんやない。」
そう笑いかける、ロキの優しい言葉と表情、ヘスティアが抗議の言葉を上げるが、ヘファイストスが我慢しなさいと止める。
「僕はベル・クラネル。皆、優しい人だから安心して大丈夫だよ。」
自分を助けてくれた白髪の少年の言葉、そして……
「私はアイズ・ヴァレンタイン、大丈夫だから。」
見ている幼女が悲しくなるほど心配そうな、気遣わしげな、儚げな表情を浮かべた剣姫が幼女を抱きしめた。心から自分疎心配してくれる彼女たちに幼女は涙を流す、ただ只管嬉しかったのだ。
涙を流しながらも落ち着いた様子の幼女に対して、皆を代表するようにフィンが声をかけた。
「僕はフィン・ディムナだ。ロキ・ファミリアの団長をしている……辛いとは思うが、何があったか話してくれるかい。」
幼女はその言葉に頷き、記憶を辿りながらゆっくりと語り始めた。
「ワタシはアリス・アカンサス。ブリタニアのムーングロウの街を拠点に活動する冒険者。」
幼女―アリスの言葉に周囲は眉をひそめる、何故なら、ブリタニアという地名も、ムーングロウという街も聞いたことがなかったからだ。フィンは判断に迷いロキに視線を向けると、ロキは頷く、どうも嘘ではないらしい。
「ここに来る前、ワタシは銀行の前で預けていたアイテムの整理をしていたわ。」
またも謎の言葉、銀行は分かるとして、アイテムを預ける?これまたフィンがロキを見ると、再びロキが頷く。やはり嘘はないらしい。ここに至ってフィンは疑うことをやめた。とりあえず全て聞いてから疑問を片付けよう。
ここから先は恐怖の記憶、抱きしめている剣姫にぎゅっとしがみつく。剣姫はそんなアリスを安心させるように抱きしめる。そんな二人を見たロキがその桃源郷に脳みそがやられたのか
「アイズたんとアリスたんの抱擁……こ、これは至福や」
とのたまってフィンに頬を抓られていた。笑顔のフィンの怒った視線にロキは抗議の声を飲み込む。本来はリヴェリアの役目なんだがとぼやきつつ、フィンと主神のコントに目を丸くしたアリスに対し続きを促す。
「すまない。先を続けてくれ」
アリスは毒気が抜かれたのか。よどみない口調で言葉を続けてゆく。
「アイテムの整理が終わったとき、誰かがワタシを呼ぶ声が聞こえた。誰だろうと思って……私はその声がするほうに振り向いた。」
アリスの声が震え、怯えが混じる。何故ならそれは『アリス・アカンサス』が経験した初めての恐怖の体験。それでも言葉は止まらない。不思議の国で少年がくれた自我に剣姫の優しさが己の心に勇気と力を与えてくれるから、怯えと懸命に戦いながらも、アリスは言葉を続ける。
「ワタシは理解できない『何か』に捕まり、引きずりこまれた。そう、引きずり込まれたんだ……」
恐怖とともに沈む記憶、それを追いかけ溺れながらも意思は弱まらない。何故なら、剣姫が抱きしめてくれているから、追うように溺れるように、記憶の海へ沈み込み、堕ちてゆく。
「抵抗すら出来なかった。ワタシはその『何か』に引きずり込まれ……気がついたときは」
言葉を止める。深く息を吸う。恐怖の記憶に耐えるために、
「豪奢な部屋で、見知らぬ『男神』に服を脱がされていた――ソイツは『私のものだ証を刻み込んでやろう』と言ってワタシを……陵辱しようとしたんだと思う。そうされる前にどうにか逃げ出したけど」
ヘファイストスは天を仰ぎ、
ヘスティアは怒りに眉を吊り上げ
ロキはペドフェリアかいな。最悪やなと呟く。
フィンは拳を強く握り締め怒りを抑え心配そうにアリスを見る。
そして、ベルは心配そうにアリスを見つめ、剣姫はただ強く抱きしめた。
そんな彼らの様子を他所にアリスの言葉は続く。
「ソイツはワタシに『無聊を慰めるためにお前を召還した』とも言っていた。本当に暇つぶしのためにやったんだと思う。」
その言葉を聞いたフィンは眉をひそめる。召還魔法を使えるに足る魔術神は存在する。彼らは問題児が多いがこんな短慮を起こす神ではなかった筈だ。そして、追いかけていたのはアポロン・ファミリアである。そのことに思い至り、一つ疑念が生まれた。ロキを見ると自分と同じ可能性に至ったのだろう。ヘスティア、ヘファイストスと同じように苦々しい表情を浮かべていた。
「ロキ…」
「フィン、滅多なことは言ったらあかん。もし、それが事実っちゅうなら、冗談では済まさん。」
「分かった。ギルドへの報告もロキに任せるよ。」
そう言ったっきり、フィンはそのことについて触れるのをやめる。ロキはそんなフィンに感謝をしながらも最悪の事態に頭を痛めていた。おそらく、アリスがこちらに来たのは『神の力』によるものだろう。そして、おそらく別の異世界からだ。確かにそれは未知の宝庫だ。だが、神々とてやっていいことではない。それは『神の力』で子供を改造するのとなんら代わりがないのだ。証拠を掴み天界へ送り返さねばならない。だが、慎重にことをなさなければならない。『神の力』を濫用するような輩だ。どんな手を使ってくるか分かったものではない。神の起こした愚挙にロキは頭を痛めていた。
ロキの悩みを他所にアリスの話は続いていく。
「後は逃げて、逃げて……追っ手から逃げて、アイズ…お姉ちゃんとベル…さんに助けて貰った。」
剣姫はきゅっとアリスを抱きしめる。心配だったのもそうだが、お姉ちゃんと呼んで貰えたのが嬉しかったらしい。一方お兄ちゃんと呼んで貰えなかったベルは羨ましそうに剣姫を見ていた。これが剣姫と自分の差かと誤った方向に憧憬を燃やしかけていた。ロキはそんなアリス達の様子に先ほどの深刻な様子はどこ吹く風、涎をたらさんばかりの表情になってそのアリスと剣姫の織り成す桃源郷を見つめていた。
フィンは任せるといったのは誤りかと悩みかけない表情だった。そこらへんは後で締めればいいと考え直しアリスに声をかける。
「辛い記憶を思い出させてしまって済まない。それ以降の話はアイズから聞いているから、大丈夫だよ。疲れただろう。少し休むといい、アイズ、クラネル君、彼女に付き添ってやってくれないか。」
「はい…」
「分かりました!!」
フィンの言葉にアイズとベルは頷き、アリスを連れて部屋の外へ連れて行った。工房で寝泊りをすることが多いヘファイストスは隣の部屋を仮眠室にしている。しかも、工房は四六時中煩いため、仮眠室は防音設備が整っている。
フィンはボクも行くとついていこうとしたヘスティアとロキに話があると行って留まらせる。仮眠室へと3人が入ったことを確認した後、フィンは口を開く。
「さて、御三方、ここからが本題だ。彼女をどうする?」
フィンの言葉に真剣な表情になった3柱は、喧々諤々と話し合いを始めた。
神々によるアリスをどうするかについての話し合いは小一時間程度で終了。ロキとフィンはヘスティアと遠征で使用する不壊武器の注文とヘファイストス・ファミリアとの合同遠征の打ち合わせを始めた。ヘスティアは流石にその場にいるわけにも行かず、またアリスに結論を伝えるよう依頼され、アリスのいる仮眠室へと向かった。
部屋に入ると、そこには川の字になって眠っている剣姫、ベル、アリスの3人がいた。ロキは桃源郷と考える光景もヘスティアにとってはうらやまし、けしからん、光景でしかない。
「何をやっているんだ君たちは!!!」
その姿を見たヘスティアは驚きのあまり大声を上げる。その声で目が覚めたのか。一番なれていたベルが最初に起き上がりヘスティアに対して無常の一言を発した。
「神様うるさいです。アリスが起きるじゃないですか。」
ヘスティアはベルのその言葉にショックを受ける。僕という女神がありながら、女神がありながら、と呟く。アイズも多少迷惑そうな視線を向ける。アリスはその様子に苦笑しながら二人をなだめる。
「大丈夫だよ。十分寝れたから」
「ごめんね。僕のところの神様が……」
ベルからぞんざいな扱いを受け始めたヘスティアはこのままだと不味いと考えたのだろう。話題の転換をするために無理やりアリスの今後について話し始める。
「――こほん。アリス君、先程まで僕達は君の今後について話し合いをしていたんだ。」
その言葉を聞いたアリスは眠気が覚め、真剣な眼差しをヘスティアに向ける。剣姫とベルも不安と期待が入り混じった視線を向ける。そのまるで妹を護るような姉と兄のような視線にヘスティアはちょっぴり嫉妬した。それをこらえ淀みなく告げる。それをやると致命的に尊厳が下がることが予想されたからだ。
「結論から言おう。アリス君、君はボクのファミリアに入って貰うことになった。他の二人のファミリアだと相性が悪かったみたいでね。」
その言葉にショックを受ける剣姫。せっかく出来た可愛い可愛い妹分が他所の家の子になるのだ。半分ぐらい涙目になりながら、当事者であるアリスよりも真剣に問う。
「何故?」
剣姫の迫力のある視線にヘスティアは冷や汗をかく。迂闊な答えをすれば不味いことなると気がついたらしい。からかうにしても相手はLv6、都市最強の女冒険者なのだ。命がけを賭ける必要があった……
「ヘファイストスの所は鍛冶師しか所属できないからね。アリス君は鍛冶師じゃないだろ?そして、ロキのところは大所帯だからだよ。細やかなケアがいる彼女が所属するのとサポートが十分に届かない可能性があるんだ。ボクのファミリアは立ち上げたばかりだから人も少ないしね。目を届けやすいんだ。後、アリス君の複雑な事情は知っている人間が少なければ少ないほどいい他の神に漏れると危険だからね。」
人員もベル君だけだしと続ける。情報の漏洩……この言葉を聴いて剣姫も納得せざるを得なかった。知る人間が多くなれば多くなるほど情報は漏洩する。そうなった場合、未知を手に入れるために他の神々が何をするか分かったものではない。渋々と本当に悔しそうに剣姫は納得することにした。
だが、ベルは気になった一点があった。その大事な点のフォローはどうするつもりなんだろう。その点を確認するためにベルはヘスティアに質問を投げた。
「神様、アリスを追っているファミリアはどうするつもりです?ボク達だけだと護りきれない可能性があります。」
その質問は予想していたのだろう。ベルの問いにヘスティアは安心してよ告げる。
「今回の件はギルドに上げる。その上でロキ・ファミリアが被害者を保護するという名目でアリス君の保護をするつもりだ。ボクのファミリアに所属させるのもそれの一環になる。彼女に何かがあれば主神には分かるからね。」
「あの……なんで、そこまで……」
たかだかアリス一人のためにそこまでするのは異常と思えた。故に何故そこまでしてくれるのか理解できず、アリスは困惑していた。
「ぁぁ、今回のケースは特例だよ。普通はやらないんだけど、"怪物祭"で大事故を起こしたばかりだからね。その直後にこの事件は非常に不味い。勇者君がヴァレン何某やベル君を褒めたのは冒険者に対する市民感情が最悪になるのを防いでくれたからなんだ。」
だから気にしないでいいよ。とヘスティアは続ける。アリスはヘスティアの言葉に首を横に振る。
「ありがとうございます。ヘスティア様」
ヘスティアに対し感謝の言葉を述べる。理由はあったからといってここまで手厚いケアをする必要はなかった筈だ、ギルドに話を持っていけば格好はつく。だが、それだけにしなかった理由は彼らが善良で面倒見の良かったからだろう。アリスの感謝の言葉にヘスティアは気恥ずかしくなり顔が赤く染まる。だが、ここは神の尊厳を護るために素直に受け取るべきだろう。
「どういたしまして、アリス君。さて、ヴァレン何某は部屋の外に行ってくれないかな。余計な邪魔が入らないうちにステータスを刻む必要があるからね。」
「アリス、終わったら呼んで」
その言葉を聞いた剣姫は後ろ髪を惹かれる思いを残しつつも部屋を出て行った。その様子にあきれたような視線を送りつつもヘスティアはアリスに背中を見せてベッドに寝そべるように言う。それに気がついたベルは慌てて外に出る。アリスはベルの様子に顔を真っ赤に染めるが特に何も言わず、おとなしくヘスティアの言葉に従った。
「さてと、始めるぜ。少しの辛抱だから我慢してくれよ。」
ヘスティアは針を準備し己の指先に傷をつける。流れ出す神血。流れ出る神血はアリスの背中に波紋のように広がる。波紋が背中全体に広がったとき、神血の形がヘスティア・ファミリアの刻印を刻む。それは神々より子達に与えられる『恩恵』だ。
ステータスに明示された子達の可能性はスキルとして、魔法として発現する。ヘスティアはアリスの『神聖文字』を読みながらその内容に絶句していた。
(ある程度予想はしていたけど、強力過ぎやしないかこれは!!)
「ヘスティア様?」
そんなヘスティアの様子に疑問を持ったのか、アリスは声をかけた。
「あと少しで終わるから、もう少し我慢してくれよ。」
ヘスティアは我に返りステータスの書き込みを完了させる。優しく幼女の肩をたたき終了したことを告げる。
「終了したよ。今書き写しているから少し待っておくれ」
ヘスティアはそう告げるとステータスを紙で共通語に書き記す。
アリス・アカンサス Lv1
力:I0 耐久:I0 器用:I0 敏捷:I0 魔力:I0
アビリティ:無し
スキル
異世界からの来訪者
・異世界の知識を持つ。
・異世界の技術をコンバートする。
魔法
Magery(魔法)
・1サークル8種、合計64種の魔法を操る。
Mysticism(神秘魔法)
・1サークル2種、合計16種の魔法を操る。
ステータスを見たアリスはこんなものなんだと考え特に疑問を持たなかった。だが、ヘスティアはそうは行かない。合計80種もの魔法を使うことが出来るなんて前代未聞だ。頭痛を抑えつつ、アリスに注意を行う。
「アリス君、さっきも言ったけど君の事についてはギルドに報告を行う。申し訳ないけど、君のステータスはギルドに報告することになると思う。だから、気をつけてほしい。」
気をつけてほしいという言葉に首をかしげる。意味が理解できないのだろう。だからこそ、ヘスティアは注意を重ねる。
「君のスキルは前代未聞のものばかりだ。絶対に他の神々の注意を引くことになる。中には強引な手段をとろうとする輩もいるかもしれない。ロキ・ファミリアの保護に入っているといっても油断は禁物だ。」
つまり、アリスは珍しい動物らしい。それを手に入れるために無理をするコレクター……神がいるだろう。だからこそ、ヘスティアは口をすっぱくして注意するのだ。珍しいものを見つけた神々が何をするかはヘスティアですら予想がつかないのだ。
「まぁ、小言はここまでにしておこう。さっきの部屋に戻ろうか。一応、ロキ達にも報告しないといけないからね。」
そういうとヘスティアはアリスにさっきの部屋に来るように言って一足先に戻っていった。
アリスのステータスを見たロキ達は渋い表情を浮かべる。珍しいスキルを持っているとは思ったが、まさか異世界の人間とは……その上80種の魔法が使えるとはなんだ。レア過ぎるスキルと魔法に頭痛を抑えていた。
「なぁ、ドチビ。これ報告するとギルドでお祭りが始まるな」
「分かりきったことを言うなよ。無乳」
お互い喧嘩をする気力もないのだろうぐったりしていた。
「やめさない二人とも、これは私も異常なだと思うわ……」
ヘファイストスがヘスティアとロキを諌める。ベルは情けなさそうな声を上げる。一方、フィンはステータスを見ることは遠慮した。秘匿するべき情報は知る人間が少ないほうが良い。そのことを熟知していたからだ。そんなお祭り騒ぎの執務室のドアがノックされる。
ドアが重い音を立てて開くと、そこには今話題に上がっていたアリスと――剣姫がいた。和装―剣姫が通りかかった椿に服を借りたためだ―に身を包まれていた。
「アイズ、君が借りたのか?……良く似合っているよ。」
フィンは和装に身を包んだアリスを褒める。ヘスティアはバツが悪そうに俯き、ヘファイストスはそんな神友にしっかりしなさいと叱り付ける。
「うん、椿に頼んで服を貸して貰ったよ。」
本当の姉になったかのようにアリスに構う剣姫にフィンは自分の失敗を悟った。彼女に必要だったのは今のアリスのような団員ではなく被保護者だったのだろう。剣姫に良い影響を与えてくれたアリスにフィンは改めて護ってやらなければと思った。ロキも気がついたらしい、いつに無く真剣な表情を浮かべている。
「フィン、頼む」
「任された。非常にやりがいのある仕事だ」
主神の願いをあっさり請け負う。神の願いをかなえるのは勇者たる自分の役目と自負している。そして、ロキが代表してアリスに声をかけた。
「アリスたん、お疲れな。別のファミリアになってしまったのは残念やけど、いつでも遊びに来てええからな。もう少ししたらギルドに行くから少し待っててな。」
「はい、ロキ様、フィンさん、ヘファイストス様、ベルさん、ヘスティア様もありがとうございます。」
アリスはロキの言葉に対し感謝の意を伝える。この人たちに会わなければ自分は酷いことになっていただろう。本当に感謝をしていた。
アリスは感謝の言葉を伝えると己の今後に思いを馳せる。自分は冒険者になった。メイジである自分は武器は不要だが防具は必要だ。バックパックには武器AFぐらいしか入っていなかった。本当にお金になるアイテムは銀行に預けていたのだ。――まぁ、現在それらはアポロン・ファミリアにあるのだが、……それはさておき、防具がない。これは致命的である。防具を装備せずにダンジョンに行くのはただの自殺だからだ。
そして、金がないという状態で防具が手に入るのか不安であった。ベルの装備は一目見てもそう上等なものではない。おそらく、金銭面は期待しないほうがいいだろう。自分の手持ちが売れればいいけれど……
「アリス、どうかしたの?」
急に考え込み始めたアリスに剣姫は声をかける。少し困ったような表情を浮かべるとロキに向き直る。
「ロキ様、相談したいことがあります。」
「なんや、アリスたん、もうちょっと気楽な口調で話してくれてええで」
鷹揚な態度を見せるロキに対し、アリスは真剣な表情のまま言葉を続ける。アリスはバックパックをごそごそと漁ると、バックパックから一本の見事な剣を取り出す。
「この剣の銘はMangler(マングラー)、私がブリタニアで冒険をしていたころ手に入れた剣です。……これを買っていただけませんか。」
「ええの?」
「ワタシは剣は使えないので……」
ロキは剣を受け取る。良し悪しは分からないことはないが、この剣は良い剣だ。それもかなり……ヘファイストスに視線を送ると仕方ないとばかりにヘファイストスが剣を見る。
「作りは悪くないわね。上級鍛冶師の一級品にも劣らないわ。モンスターからのドロップ品ね。」
等級にして第二等級武装かしらねと付け加える。ヘファイストスの言葉に全員興味深々となった。喉から手が出るほどではないが余裕があればほしいかなと考える程度には、最もベルにとっては高嶺の花だ。
「私が買い取るなら4000万ヴァリスね。」
その言葉にヘスティアとベルは絶句する。フィンは興味深そうに見るが彼の獲物は槍だ。剣を使う気にはなれなかった。アイズの武器はサーベル、使い方が荒いため不壊属性が必要である。
「買い取っていただけますか?」
「私は構わないけど、ロキ、貴方はどうするの?」
買い取ってほしいと言うアリスの言葉にロキは少し悩み、決断を下す。
「ファイたんが買い取ってくれるなら、お任せしようかな。うちは、遠征でぎょーさん金つこうたから、今金欠やし……」
「了解したわ。アリス、その剣は私が購入するわ。」
「ありがとうございます。ヘファイストス様。」
アリスは売れたことに満足し頷く。だが、アリスにとってはここからが本番なのである。ヘファイストスに対して言葉を切り出す。
「ヘファイストス様、もう一つお願いがあります。その代金でワタシの防具を売って貰えませんか?私は防具を無くしてしまったので……」
アリスの言葉にヘファイストスは少し考えてこう切り出す。
「分かったわ。バベルにいる口が堅くて腕の良い子を紹介するわ。」
ヘファイストスは椿を紹介することを考えたが、初級の冒険者に彼女に防具を作らせるのはあまり良くはないだろう。いくつか候補をピックアップする。彼らであれば4000万ヴァリスもあれば一揃え作ってもおつりが来るだろう。
ギルドに報告するついでにそちらに寄ることを約束した。いまだ立ち直れていないヘスティアにヘファイストスは声をかける。そして、一同はギルドへと向かうこととなった。
次回よりダンジョンを潜るお話になります。
Manglerが4000万ヴァリスというのは色々と賛否両論でしょうが……
ちなみに現在の幼女の装備は以下の通りです。
Necromantic Reading Glasses(ネクロマンサーの眼鏡) ⇒ 眼鏡
Ornament Of The Magician(魔法士の腕輪) ⇒ 腕輪
Pendant Of The Magi(賢者のペンダント) ⇒ 首の防具
Mystic’s Memento(ミステックメメント) ⇒ タリスマン
Ring(戦利品)⇒指輪
で秘薬低減100となっております。
Necromantic Reading Glassesはカブトと部位競合しないとします。