知らないと普通に逸般(いっぱん)トレーナーAさんになりますが知っているとなお面白いかも?ただし主人公は怪奇系が嫌いなので東方を知りません。
東方のキャラ自身に苦手意識がある方は読まない方が良いかもしれません。タグに「東方(キャラ)」を増やします。
荒れた抜け道。
いつから荒れ果ててしまったのかも分からないコトブキシティとソノオタウンを繋ぐ洞窟の名前である。
なんでも、大昔にポケモンが暴れただとか、人間が大きく広げてしまって崩落事故を起こした場所だとか、実は地下水が岩肌の内部を浸食して自然にできた洞窟であるとか、様々な噂が錯綜している場所だ。
まあ、実際にはズバットやイシツブテが大量にいるだけの普通の洞窟なのだが。
ゴツゴツした岩肌に歩きづらい岩だらけの道。通りづらい道は
そう思っていた時期が私にもありましたよ、ええ。
一本道であるから抜けるのは簡単だ。ただし、同行者にルクリアがいなければ、だ。
「あ! 湖があるわよケイカさん!」
「え、あ、ルクリアさんはぐれないでくださいよー」
彼女が方向音痴な理由は明らかだった。
興味のある方、ある方へとどんどん進んでしまうのだ。道筋をちゃんと覚えているわけでもないので余計迷う。脇の林で迷っていたのも、道に出られない現実逃避でケムッソ狩りをしていたのも鑑みると後先考えないタイプなのかもしれない。
ちなみに上記の話は全部本人が話してくれたことである。予測で言っているわけではない。
だからかここ、一本道で真っすぐ行けばすぐに外へ出る〝 荒れた抜け道 〟でも彼女に付き合っていると時間がかかる。洞窟であるため地下水の溜まった湖もあるのだが、今回彼女はそれに反応したようだ。氷タイプが好きということもあるし、親のポケモンが水ポケモンであるということで泳がせてあげたいのだろう。
洞窟だから日は見えないが腕時計を持っているので現在の時間も分かる。現在時刻は午後1時。まあ、頑張れば夕方にコトブキシティへ着くだろう。お昼も済ませていないし、湖のほとりでお昼にするか。
「ルクリアさん、水遊びをさせるのでしたらお昼にしましょう」
「あら、いいの? ならお言葉に甘えることにするわね」
いそいそとリュックを降ろし、中の缶詰を取り出す彼女に待ったをかける。
「私が作りますよ。その代り紫苑達とも遊んであげてください」
「あらら、分かったわ。缶切りも見当たらないし、助かるわ」
「ルクリアさん…… コトブキで缶切りも買いましょうね」
「う、うん。なんかごめん」
若干呆れているのが伝わったみたいでシュンとした表情になるルクリア。ちょっと可愛いなと思ってしまったのは本人には内緒です。いやぁ、方向音痴に加えてドジっ子属性まであるとは思わなかったよ。
「シャワーズ、ジュゴン、出てきて!」
「シャワー!」
「クゥオーン!」
通常よりも少し小柄なシャワーズに、大柄なジュゴン。
シャワーズのエリマキも少し小さく見えるのでメスかもしれない。しかし華奢なオスという可能性もある。
だが小柄なわりに尻尾は大きく発達していて、足腰もしっかりしている。このシャワーズは泳ぎが達者だということがよく分かるし、力が強そうだ。とても賢そうなシャワーズである。
大柄なジュゴンはツヤツヤした皮膚から筋肉が隆起しとても力強く見える。
ちなみにジュゴンのツノは鋭いが普段は猫が爪を隠すように縮めてトレーナーに害がないようにしておくことができる。
このジュゴンは根元の部分が大きいのでツノを出したらきっと大きく、立派なものなのだろう。かなりたくましいジュゴンだ。
「ルクリアさん。彼らの好物ってシャワーズは苦いもの、ジュゴンは酸っぱいもので合ってますか?」
「合ってるわー」
「そうですか、分かりました」
リュックを降ろし、小型のフライパンと鍋を取り出し、林で収穫した木の実やら野草やらを並べ、考える。うん、肉がない。肉の味がする木の実はあるけどね。
「ポケモンフーズってなに使ってますか?」
「そこに入ってるの使って―」
私に他人のリュックを覗けと?
盗みなんかしないけどさ、少しは用心してほしいと思うのはいけないことだろうか。
「あ、はいありました」
水ポケモン用の基礎フーズとポロックケースに緑と黄色、桃色のポロック。ポフィンじゃないということは砕いて混ぜているみたいだ。すり鉢も見つかったので使わせてもらうことにする。
「みぃ」
足元に纏わりついてご飯をねだる紫苑はいつものこと。四肢をたたんで座ったリッキーの背の上には相変わらず梔子が眠り込んでいる。個性が〝 昼寝をよくする 〟か〝 居眠りが多い 〟と言う風に見えるが図鑑を見ると違うんだよね。〝 力が自慢 〟になっているわけだ。バトル好きなのでその辺はよく分かる。だが日常の様子を見ると居眠りも好きみたいだし、個性に対応した体力も高いのかもしれない。
彼らはデータの存在ではないし、詳しいことはあんまり言えないがベースはゲームと一緒なので判断材料にはなる。ちなみに紫苑は好奇心が強くて食べるのが好きである。
「シャワワー」
湖で泳ぐシャワーズは盛大な水飛沫をあげながらジュゴンと競争している。こちらまで水飛沫が届かないのはいいが音が結構五月蠅いので時々イシツブテやズバットなんかが様子を見に来る。それは
さてお昼はどうしよう。
肉の形になっている木の実をフライパンでさっと焼いてステーキにしよう。それから野草を刻んで野菜を先祖に持つ木の実を乗せて、オリーブオイルと胡麻を使ったドレッシングを軽く垂らす。人間用のご飯はこれに水。
ポケモン達には鍋を使って様子を見ながらお玉でかき混ぜ、木の実を投入。甘辛いポフィンと酸っぱいポフィン、苦いポフィンを作ってまだ柔らかいうちに砕いてモーモーミルクで少しふやかしたフードを包み、疑似オムライス。中身はトロトロ、表面はサクッと。ルクリアのポケモンには普段使っているであろうポロックをすり潰して振りかける。
飲み物は水。人間にはお好みで紅茶と甘い蜜のハーモニーが楽しめる。
シチューでもよかったが野草を早めに消費しておきたかったのでコロコロステーキとサラダ。
コリンク達のポフィンの中身は肉の風味がある肉食ポケモン用のフード。リッキーには栄養価の高い
甘すぎるものを嫌う人はいるがほんのりと甘いものなら美味しく食べられる人が多い。脳も活性化するしモーモーミルクは栄養たっぷりだし甘いものは正義だ。
「できましたよー」
「あ、ちょっと待ってね。ゼルゼル、冷凍ビーム!」
丁度ルクリアが最後のズバットを打ち落としたところで食事の準備が完了する。それぞれの皿に作った食事を分け、ポケモンの分も同様に。
遠くでシャワーズが水から上がり、ぷるぷると体を振り水気を取っているのが見える。ジュゴンも水中から上半身を出して水辺で待機している。
梔子は食事の匂いに釣られてか半分寝ぼけ眼でふらふらとこちらに歩いてくる。途中で抱き上げたらぐでっとしたまま何が起こったのか分からずにきょときょとと辺りを見回してから抱き上げられていることに気づき、にへらと蕩けた笑みで私を見上げて来た。可愛い。
そんな姿に萌えつつご飯皿の前に梔子を降ろし、頭を撫でる。寝起きだからかいつもより素直にぐるぐると喉を鳴らした。抱きしめたい。
紫苑はゼルゼルと一緒に遊びつつズバットを相手にスピードスターの訓練をしていたので意気揚々とこちらへやってくる。
おっと、レベルが上がっている。逃げ回ったり、超音波を使って来たり、浮いている相手に
人間の看病などでも経験値というものは溜まるらしいのでジョーイさんのラッキーが強いのも頷ける。固定砲台化するとしても移動しないと攻撃には当たるし、素早さが上がるのは良いことだ。ズバット様々だね。
リッキーは首を垂らして寝て待機しているがその後ろで尻尾の頭がしきりにカチカチと歯を鳴らしている。尻尾のせいで狸寝入りであることは丸わかりだ。隠しきれていない食欲旺盛な彼女に笑いながら頭の横に皿を置く。
「うわぁ美味しそう!」
「たままー」
人間用のご飯よりもポケモン用のご飯のほうが凝ってるのは、まあいいのかな? 美味しそうって言ってくれてるしグルメそうな彼女の感想なら信用できるよね。ゼルゼルも嬉しそうに手を叩いているし。
私は近くの岩に腰掛けながら 「どうぞ召し上がってくださいね」 と言ってから手を合わせる。
「いただきます」
「いただきまーす!」
「たまたままー!」
かわいい。
さっきからタマザラシとルクリアのシンクロ率が高くて癒される。二人同時に手を合わせ、にっこり笑顔になるとか本当に可愛い。女の子だなぁ。サイドにつけた薄ピンク色の花の髪飾りとか女の子らしい意匠で凄く高そう。あれがルクリアの花なのかな? 中に着ているとはいえ、旅にワンピース着てきているのはちょっと思うところがあるが黒いタイツとかグッとくるよね。
それに比べて私といったらどうよ。お洒落より機能性重視。
唯一のアイデンティティであるケイカンソウの花をあしらったキュロットスカートに厚めのトレーナーパーカー。藍色のキャスケット帽。
同じ4次元でも斜めがけよりも機能性の高いリュックサックを選ぶという体たらく。ほら、見た目の小さい四次元バッグのほうが高いんですよ。同じ場所にあったリュックの方が安かったんですよ。
ほぼ伸ばしっぱなしで現在腰まである帽子と同じ色の長い髪。自分の食事は質素で簡単楽々料理。ただしポケモンの料理だけ豪華である。靴は一応服装に合わせて茶色いブーツ。ランニングシューズ? そんなブランド品知らんな。お金は木の実などの食費代とポケモン用のシャンプーなんかに7割近く持って行かれて服に使う分などない。
うん、これはひどい。
「ごちそうさまー! 美味しかったよケイカさん!」
「お粗末様ですわ。美味しく食べて頂けて嬉しいです」
そんな女子力皆無な私が敬語キャラというのもなんだかちぐはぐだろうか。仕草で勝負よ仕草で。
「よかったら今度料理教えてくれる?」
小首を傾げつつ人差し指で顎をつん。あ、これ勝てないわ。何をとっても勝てないわこれ。仕草で勝負とか言ってすんませんした。無理です。私なんかに一欠片でも女子力があると思ったのが悪かったんですよ。もう勝負ついてるから。…… あれ、これって私が言う言葉じゃなくね?
「もちろん。ハクタイシティでしたらリッキーもいますし、遊びに行くこともできますね」
「こっちもシャワーズかジュゴンを借りて遊びに行けるかな。よろしく」
「改めて、よろしくお願いしますね」
二人で食器を片付けながら談笑していると、不意にルクリアのシャワーズが湖から飛び出してきた。
「シャワワー!?」
「ど、どうしたのシャワーズ!」
慌てるシャワーズはしきりにジュゴンのボールを触り、ジュゴンの悲鳴が聞こえてくる湖とルクリアとに視線を彷徨わせる。ジェスチャーとしては今すぐ戻せということだろうか。しかし見た目だけでも強いことが分かるシャワーズがこんなにも慌て、ジュゴンが悲鳴をあげる状況にあるということがまずい。ここにはそれだけレベルの高いポケモンが潜んでいたということなのだろうか。
「リィィ!」
リッキーも私の服の裾を咥えて出口の方向へと引っ張っている。危険を感じ取っているようだ。
「ルクリアさん。早くジュゴンをボールへ」
「う、うん」
水の中で動き回るジュゴンの下に大きな影とヒゲのようなものがゆらゆらと映っている。早くこの場から逃げなければ。
食器類を半分も洗う暇もなく素早くしまい込んでいき、リュックを背負う。靴紐は硬く結んであるので走っても大丈夫。
「ルクリアさん早く!」
「待って! ジュゴンが逃げ回りすぎてボールの光が届かないの!」
ポケモンをモンスターボールに仕舞う赤い光には届く範囲がある。
バトル時に技を躱す目的で一旦戻し、やり過ごしてから同じポケモンを出すなんていう卑怯な戦法は違反となるのだ。
そしてそれを防ぐためにボールの光はトレーナーのいる場所からバトルフィールドの交代することのできるラインまでしか届かないように調整されている。野良バトルではその限りでないこともあるが基本的には皆このルールを知っているので十分に距離を開けてバトルするものだ。
今、ジュゴンは相当水の深い所でバトルをしているらしい。影しか見えないのでよく分からないが深い場所に追い詰められて行っているのかもしれない。あのジュゴンのレベルは少なくとも40はある。それなのに追い詰められているということは相手のポケモンとレベル差があるか、もしくは相手がレベル差をものともしないくらいバトルが上手いか、タイプ相性が圧倒的に悪いかのどれか、もしくは前者二つか後者二つだ。
「クォォォォーン!」
「ジュゴン!」
湖を覗き込むようにボールを構えたままオロオロするルクリア。水面を見ながらサイコキネシスでどうにか救い出せないものかと試みているリッキー。
シャワーズは仲間のピンチにボールへ戻ろうとせず、もう一度水の中へと飛び込もうとしてルクリアに止められている。
「どうすれば……」
「あら、お困りかしら」
気がつくと私達の背後に年上の少女が立っていた。
萌黄色の色鮮やかな髪に薔薇のような赤い瞳。白いブラウスの上に赤いチェック柄のベストとスカート。左手には洞窟内で不要となり畳んだ桃色の日傘を遊ばせ、口には絶えず微笑みを浮かべてロズレイドのような気品を漂わせているその女性の隣には同じく微笑みを浮かべた大柄なキマワリ。
少女は笑みを深くすると隣にいるキマワリの花弁を擽るように撫でて静かに告げた。それ以外の指示など必要ないとばかりに。
「キマワリ、草結び」
「きゃー!」
キマワリの足元から緑色の燐光が放たれ、岸辺のゴツゴツした岩の地面を割くように見る見るうちに植物の根が生えていき、それらは全て湖の中へと一直線に向かっていく。
釣り糸のように垂れ下がった蔓には水面に蓮の花を咲かせながら深く深く潜り続ける。そして、あるところでぐんぐん伸びていっていた蔓の成長がピタリと止まった。
「捕まえた」
少女がそれを見て嬉しそうに呟くと、二本に伸びた蔓が今度は地面の中へ潜っていくように収縮し始めたのだ。
「あ、あの、あなたは?」
ずっと笑顔のままでその場に立っている少女に多少の恐怖を抱きながら恐る恐る尋ねると、少女は横目でこちらをチラリと覗き見てからパートナーのキマワリのような暖かい笑顔を向けた。湖に向けられていた笑みとは別の笑み。優しさの含まれたそれに、ああこの人なら大丈夫。そんな安堵感を覚えた。
「人に訊く前に自分から名乗るものじゃないかしら?」
ハッとした顔になる私に少女は薔薇のような真っ赤な目を細めて軽くウインクをしてくる。その仕草に恐怖感はすっかり晴れ、自分の名を名乗ろうとしたときに丁度蔓の収縮が終わりを告げた。
「名前は後で教えて頂戴ね」
そう囁くように言う少女の言葉に頷き、ジュゴンの行方を追う。
先に出てきたのはルクリアのジュゴンのほうだった。
「クオォォー!?」
蔓で釣り上げられ、大きく投げ飛ばされたジュゴンだったが無事ルクリアのボールの光線に当たり帰還した。
ルクリアのボールを見れば中のジュゴンは疲れ切った様子でぐったりとしている。ルクリアのステータス表示機械にもジュゴンの様子が映っているがそちらを確認すると既に体力が三分の一を切っている。危ないところだった。
「準備しときなさい」
不意に少女が言った。それに呼応してキマワリの周りに仄かな光が集まりだしている。それを見て、何をするのか図らずとも察してしまった私は何か言おうとするルクリアの手を引いて一歩下がらせる。
「お礼ぐらい言ってもいいでしょ?」
「まだ完全には危機回避していませんし、全部終わってから言いましょう。邪魔になるといけませんし」
気がつくと蔓の動きは停止していた。
水面には藍色の丸い頭が浮かび上がり、黄色いヒゲがその横から警戒するようにピンと張られ、メチャクチャな動きで泳ぎながらキマワリの草結びを解こうとしている。右へ左へ、そして沈みこみ、なんとか草の拘束を解こうとしているその何かはとうとう上への牽制がないことに気がついた。
そして草の拘束から逃れたいばかりにそれは思い切り飛び跳ねたのだ。
「釣り上げなさい」
そのタイミングに合わせて少女が指示をする。
「きゃー!」
自身が跳ねたことにより草結びで一気に宙に浮いたその姿は濃い藍色で黄色いヒゲ、腹は黄色く、頭に黄色のWによく似た模様がついている巨大なナマズンだ。
「キマワリ、ソーラービーム」
宙へと
あんな短時間でこれだけの威力になるソーラービームを準備するなんて普通は無理だ。ソーラービームは溜める時間が長く、溜める光の量が多ければ多いほど威力が高くなる。ここは洞窟内だ。あんな短時間のチャージでここまで威力が出るはずがない。
しかし、それを可能とするならば三つの場合がある。
一つ、絶対的な経験を経た高レベルポケモンであること。
二つ、生まれながらの
三つ、その両方。
少し考えるだけで想像がつく。この人は三つ目、このキマワリの生まれながらの才能と少女との絶対的な経験の成せる技。それが今のソーラービームだと。
「すごい」
ルクリアの声が聴こえた。震えていた。
しかし、その震えは怯えから来るものではなかった。
「お疲れ様」
ゆるひと口元を緩め、キマワリの花弁を掬い取るように、優しく、繊細に擽る少女の姿に見惚れた。
「あの、た、助けていただいてありがとうございます」
「あたしも! お母さんのジュゴンを助けてくれてありがとうございました!」
「どういたしまして、たまたま通りすがったときに困っているようだったからね」
大きなキマワリをボールに戻さず撫で続ける少女に一息ついてからリュックサックの中から一番大きくて効果の高そうなオボンの実を取り出し、差し出す。
「私はソノオタウンのケイカです。これ、よかったら貰ってください」
「あ、あたしもあたしも! あたしハクタイシティのルクリア!これ、あたしには必要ないし役に立つと思うから貰ってください!」
ルクリアが出したのは光の石。本人曰く、目覚め石と間違えたそうな。見た目が違うから普通間違えないと思うけど。
「あら、ありがとう。それ探してたのよ。それに、ケイカちゃんだっけ? ソノオには家があるのよ、もしかしたらご近所さんかもしれないわね」
「え、そうなんですか!」
「ええ、ソノオの木の実屋さん。知らない?」
知っている。綺麗な花壇や木の実園があるが人の姿は見えず、草花の世話をする草ポケモンばかりの家だ。昔は木の実を売っていたと父が言っていた。
「知ってますわ。でもここ何年かポケモンしかいなかったはずでは?」
「その何年かは他の地方に行ってお花と木の実の種を集めていたのよ。そっちが本業だから今から帰るところなの。よろしくね」
へえ、こんな強い人が間近にいるだなんて嬉しい限りだ。そのうち遊びに行くついでに色々教えて貰おう。
「リィィ!」
突如、リッキーが耳をピンと立てて慌ただしく鳴き出した。
「まさか、また!?」
にわかに警戒を始める私達をきょとんとした顔で見つめていた少女は何かに気が付くとぽつりと声を漏らした。
「あらやだ」
そして怪訝そうに周囲を眺めていた少女がソーラービームを放った壁を見て口元に手を当てながら「いけないいけない」と言う。
「壁壊しちゃったわ」
あちゃーとでも言いたげにわざとらしく顔を手で覆い、そう言った彼女は反省や後悔の念など浮かべることもなく素早くキマワリをボールに戻し、代わりに一つのモンスターボールを投げた。
「いらっしゃいメガニウム」
「ニュー! ニュ? ニュゥー」
出されたメガニウムは周りの状態を見てまたですかとでも言いたげな表情をして屈んだ。
「ルクリアちゃん、前に乗りなさい。私が後ろで支えるから大丈夫。ケイカちゃんはそのキリンリキにね。あなたたちはコトブキに行くのでしょう? 送って行くわ」
驚いたルクリアがおっかなびっくりで屈んでも尚大きいメガニウムの背に乗り、その首をそっと掴んだ。その後ろから少女が慣れたように背に乗る。
私も屈んでくれたリッキーの背に乗って首を掴む。紫苑と梔子は少々ごねたが安全のためにボールの中。ルクリアもとっくにタマザラシをボールに戻している。
「さあ、行くわよ。ケイカちゃんはちゃんとついてくるのよ。このぐらいで追いていかれるようなら私は知らないわ」
「は、はい!」
気を引き締め、嫌な音が鳴り響き続けるデコボコとした道をリッキーと共に駆けた。
天井から岩が降り注ぎ、荒れた抜け道がもっと荒れていくのを横目にそれを避けるリッキーの動きに必死に合わせ、落ちないようにしがみつく。
時折メガニウムの姿を見失いそうになったがリッキーが頑張ってくれたので雨のように降り注ぐ岩山を抜け、コトブキ側の入り口から飛び出るように脱出する。
「ちゃんといるわね」
「えっと、あ、ごめんなさい。ソノオに行くはずだったんですよね」
洞窟から出て安堵すると不安がむくむくと湧き上がる。そうだ、彼女はソノオに行くはずだったのに私たちをコトブキ側に送ってくれたのだ。本当に申し訳ないことをした。
「別にいいわ、この子がいるしね。ただ懐かしさに浸りたかっただけで洞窟を通る必要もなかったわけだし、その気まぐれでこうして出会ったのは偶然よ」
メガニウムを引っ込め、そう言いながらモンスターボールから出したのは大きなトロピウスだ。
房に生った果物はオボンの実だ。トロピウスは食生活によって果物の種を取り込み、よく食べるものを房に付けるらしい。オボンの実が付いたトロピウスになんだかものすごい違和感を覚えたがそれはきっと通常のトロピウスしか知らないからだろう。ホウエンに行ってみればそのうち慣れそうだ。まだまだ先の話だけれど。
彼女はトロピウスの広い背に再び横乗りするように腰掛け、片手を挙げてウインクした。
そして手持無沙汰にしていたピンク色の大きな日傘をもう片方の手で広げる。トロピウスの背中に乗るその姿はさながらどこかのお嬢様のようで、よく日傘が似合っていた。優雅に手を振った彼女は微笑みを浮かべてお別れの言葉を言う。
「じゃ、ケイカちゃんはまた会うかもしれないわね」
「あ、あの、お名前をお訊きしても?」
そう私が言うとハッとしたように薔薇色の目を開いた彼女は告げた。
「私はユウカ。…… そうね、ただのしがない木の実屋さんよ」
・キマワリの鳴き声
「きゃー!」はポケモン不思議のダンジョンシリーズ「時・闇・空の探検隊」に登場するキマワリさんの口癖からきています。~ですわ、きゃー!
・ユウカ(風見幽香)
ドS(親切)でお茶目な幽香がベース。一応サンユウカという植物は存在します。
年上にしすぎると原作軸での年齢が大変なことになるので調整したら女性ではなく少女扱いに。お茶目さは花映塚ではなく旧作仕様です。でも語尾にハートは付きません。
え、優しすぎる?ナマズンに対して縛り上げてオーバーキルなソーラービームしていますし十分ドSじゃないですかね。
多分相手がギャラドスだったら破壊光線撃ってました。
ゲームではロマン以前に降臨の難しい太陽神で破壊神なキマワリがやりたかった。ただそれだけ。この小説では不遇ポケをよく使います。
??「カイリュー はかいこうせん」