半端な色廃さんのブリーダー日誌   作:時雨オオカミ

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わたしのパートナー!

 

 黄色いコリンクが四肢の力を無くし、ぐらりと崩れ落ちる。

 

「コリンク!?」

 

 感謝を伝えようとした途端に起こったことに焦って私は立ち上がってコリンクに近寄る。ああ、駆け寄ってあげられないなんて痛む足の裏が恨めしい。

 

 やはり、あの不気味な瞳は「道連れ」だったのだ。近くで倒れている黄色いコリンクを抱き上げる。傷も少なく、瀕死になっているようにはとても見えないがこの子は確実に瀕死になっている。早く、ポケモンセンターに行かないといけない。

 

「コリンク、走れる?」

「みゃあ!」

 

 

 黄色いコリンクを抱きかかえたまま青いコリンクに確認し、前を向く。私の足ではソノオタウンまで十分くらいかかってしまうだろうが、今はそれに賭けるしかない。

 

 

 

 瀕死では命に別状がない?

 

 

 

 そんなの関係ない。私を守ってくれて、目の前で倒れて、心配じゃないわけがないのだ。頭では理解していても、納得なんてできない。走れなくても、早歩きなら辛うじてできるだろう。

 

 だから私は急ぐ。こんなときになってアニメのサトシの気持ちがよく分かった。あそこまで私は熱血ではないけれど。

 

 

 

 

 

 早く。

 速く。

 足の裏が痛んで上手く動かせない。

 走ればすぐなのに、走れないことがもどかしい。

 普段走るときよりもぜぇぜぇと声を荒げ、草むらを横目にソノオへ歩む。

 そして、夏でもないのに額から汗が流れ始めた頃、ようやっとポケモンセンターに着くことができたのだ。

 

 

 

 

 

「ジョーイさん!」

「急患ね! ほら、怪我をしているのだからあなたも一緒にいらっしゃい」

 

 ガラス製の自動扉が開き、何を言えば分からずにとりあえず大声で叫ぶ。ジョーイさんはそんな私を見て驚いたような顔をしたあと、上から下まで眺め、奥の診察室へと招いた。裸足だったことで心配をかけてしまっただろうか。

 

「あなたも足を怪我しているようだし、コリンクの治療をしている間手当をするからここに座って待っていてね」

「は、はい!」

 

 ジョーイさんに黄色いコリンクを手渡し、青いコリンクはこちらをちらりと振り向きながら彼女について行った。

 

 私は診察室の近くにある椅子に座り、足を浮かす。今まではなんとかしなければいけないという思いが一杯で痛みを無視することができたが、静かになった途端足の裏が痛みだした。恐る恐るに片足を胡坐の体制にして覗き込む。思っていたよりも酷くはなかったが、擦りむいたり、石で切ったりして血が滲んでいたので、見ているだけで痛みが強くなる。

 

「はぁ」

 

 そして、助けてくれたコリンクの早期回復を祈る。何の関係もない私をたまたまとはいえ助けてくれたのに、怪我をさせてしまうだなんて情けない。あのとき、私がしっかりと指示できていれば少なくとも黄色いコリンクが道連れで倒れることもなかったのだ。動揺して、呆然と眺めるしかできなかった自分を許せない。ジョーイさんはきっとそれが普通の反応であると言ってくれるだろうが、気持ち的にはついて行けないのである。

 

「お待たせしました。さ、足を見せてね」

「は、はいありがとうございます」

 

 ジョーイさんが用意した消毒液と軟膏、包帯で立ってもあまり痛まないように処置をしてくれた。

 

「あなた、セイジさんとアキノさんのところのケイカちゃんでしょう? どうして裸足なの? それに、あのコリンクたち。何があったのか、教えてくれるかしら」

 

 ジョーイさんが私の両親のことを知っているのは、ソノオがそこまで大きくない町だからだろうか。田舎では近所中が知り合いだし、きっとそういうものなのだろう。

 

「その、部屋の窓からフワンテが来て、初めてポケモンと仲良くなったから嬉しくて窓から外に出て発電所まで連れて行かれたんです。発電所にはフワンテがもう一匹いて、手を繋ごうとしたときにコリンクが現れてフワンテに攻撃したんです。仲良くなったフワンテを攻撃されて動揺しているときに手を繋いだフワンテにそのまま引きずられてしまって…… 気が付いたら変な光の丸いものの中に連れて行かれそうになったんです。それに気が付いた途端に怖くなって、二匹のコリンクがバトルしている間は立ったまま固まっていました。ええと、多分黄色いコリンクは道連れで相打ちになったんだと思います。あの、あの子たちは元気になりますか?」

 

 子供が霊界を知っているのもどうかと思うし、私が知っていたのはアニメ知識からだからそこは濁しておく。

 ジョーイさんは真剣そうな顔で話を聞いたあと、ゆっくりと子供にも分かるように今回起こったであろうことを話しだした。

 

「ええ、すぐに良くなるから安心してね。そうねぇ、ここら辺には昔からフワンテが時々現れるらしいのだけど、フワンテが子供を誘ってどこかに行ってしまう事件がたまに起こるそうなの。だから子供は発電所に近づかないようにしているのだけど、あなたは催眠術かなにかで誘いに乗っちゃったのね。コリンクが助けに来てくれたことは幸運だったわね。良いパートナーじゃない」

「え!あの、その、コリンクたちは多分野生、だと思うんですけど」

 

 だって、私は盛大に振られちゃったし。冷たいレントラーの目を思い出して俯き、包帯で巻かれた自分の足を眺める。

 

「そうなの?野生のポケモンが他の野生のポケモンのすることを邪魔するとは考えにくいし、そんなことをすれば巻き込まれるのは分かっているはずだと思うのだけど。何か理由でもあったのかしら」

「そう、でしょうか」

 

 ジョーイさんはきっとそうなのよ、と言ってから立ち上がり、青いコリンクがすぐに戻ってくることを言ってから部屋の中に入って行った。

 

「ラッキー」

「んみゃあ~」

 

 暫くすると、ラッキーと共に青いコリンクが飛び跳ねながらやって来た。

 コリンクはすっかり元気になったようで、私の座っている椅子の上に飛び乗るとすぐさま膝の上に乗り、私の顔を覗くようにしてゆっくりと瞬きをする。

 

「みぃ」

 

 思わず衝動的に抱きしめそうになってしまったが、そうだ、この子は治療したばかりなのだ。あまりそんなことをしてはいけないだろう。恐る恐る額の上辺りを指で撫でることにする。すると、コリンクは嬉しそうにごろごろと音を鳴らしながら手の平にその頭を押し付け、ぐりぐりと自分から撫でまわされに来た。あまりの可愛さに頬やら尻尾やらを少しずつ撫で、抱き上げる。

 

「みゃん」

 

 丁度目と目が合う位置に抱き上げるときゅっと足を縮めながら私の頬をぺろりと舐めるコリンク。慰めてくれているのか、それとも違うのか、判断はつかないがその可愛らしい仕草に癒され、重たい気持ちが幾分か楽になった。

 

「ケイカ!大丈夫か!」

「ジョーイさんは無事って言ってたじゃない。ケイカ~、迎えに来たわよ~」

「お父さん、お母さん!」

 

 コリンクと戯れていると、センターの入り口付近から両親の声が聞こえた。どうやら迎えに来てくれたらしい。コリンクは相変わらず膝の上に乗ったままで首を傾げた。コリンクの乗った足がそろそろ痺れてきたが、可愛いから許せてしまう。

 

「そ、その怪我はどうしたんだ!」

「一人で抜け出すなんて…… フワンテに会ったと聞いたのだけど、一体なにがあったの?」

 

 お父さんがあわあわと慌てながら裸足に包帯を巻いた状態の私に駆け寄って来て、様子を見始める。お母さんはジョーイさんから事情を一部訊いているのか、事態の言及をして来る。

 私はどちらも内容が被っているので順を追って話すことにした。ジョーイさんに話したことと内容は同じなのでそこは割愛で。

 

「そうか、そのコリンクが?」

「ううん、この子と、もう一匹黄色いコリンクが助けてくれたんだ」

「そうなの、お昼は駄目だったって言ってたけど、結局捕獲には成功してたのね!」

 

 お母さんの言葉を聞いた途端にレントラーの目を思い出し、俯く。そして、暫し逡巡したあとに私はコリンクが助けてくれたのも偶然で、群れのレントラーには受け入れてもらえなかったことを話した。

 

「そうなの…… じゃあ怪我が治り次第野生に帰すのね」

「無理に捕獲したくないし、そうなるかな」

 

 コリンクはなんだか不安そうな顔でこちらを見ているが、頭を撫でて私は誤魔化した。

 

 やがて、両親と話し合っているうちにジョーイさんが黄色いコリンクを乗せたカートを押して戻ってきた。黄色いコリンクは既に起きているようで、カートの上にお行儀良く座っている。

 

「お母さんリッキー貸してくれない?この子たちを送って来ようと思うんだ」

 

 一人で行動するのは今回のこともあるし、できなさそうだからお母さんのキリンリキに乗せてもらおうと考えた。

 パートナーのキリンリキならば体格も大きいし、子供の私が乗るには十分すぎるくらいだ。なんなら、コリンク二匹が一緒に乗っても大丈夫なくらいお母さんのキリンリキは大柄だし、足の裏を怪我している私では靴を履いていたとしても、歩いて森の奥深くまで行くのは流石に無理があるからだ。

 本当は両親について来てもらっても良いのだが…… これは一人で解決したい。

 

「はぁ、しょうがないな。怪我に障らないようにするんだぞ」

「リッキーがいるなら大丈夫よ。二時間以内にちゃんと戻って寝るのよ」

 

 放任主義な(やさしい)両親で心底良かったと今初めて思えた。

 ジョーイさんの気を付けてねという声に返事をしながらポケモンセンターから出て、お母さんから預かった古びたモンスターボールを投げる。

 

 中から出てきたキリンリキのリッキーに事情を説明すると、リッキーはなにやら首を下に伸ばし、二匹のコリンクと鼻と鼻で挨拶をし始めた。

 

「リィィ」

「みゃおん」

「ミー」

 

 お話しが終わったのか何度も頷いていたキリンリキは私の傍に寄り、乗りやすいように膝をついてくれる。私はその場で両親に手伝ってもらいながら彼女の背中に乗り、足元のコリンクたちと共にハクタイの森へと向かった。

 

 キリンリキがコリンクの歩みに合わせて向かっているので、昼に行ったときよりも随分とゆっくり目的地に向かって歩いている。キリンリキが走っているわけではないので私は横向きにその背に座り、片手を彼女の首にかけてバランスを取る。

 

 青いコリンクはそんなキリンリキの周りを飛び跳ねながら移動しているようだ。そのうち疲れて動けなくなってしまうんじゃないか、と少し心配になったが、呆れたような目をした黄色いコリンクが一言、二言何事かを言うと恥ずかしそうに尻尾を揺らしながら落ち着いて歩くようになった。その様子はまるで兄妹のようで、微笑ましかった。

 

 やがて森の奥深くに辿り着き、再びレントラー率いるルクシオやコリンクの群れに出くわした。彼、もしくは彼女は鋭い目をしてキリンリキと、乗っている私。それから足元にいるコリンクたちにと順に目線を移動させていって低く唸る。

 

「ウウゥゥ」

「みゃっ!」

「ンミィ」

 

 レントラーの鳴き声で黄色いコリンクはすぐさま反応してその足元に近づき、挨拶をした。だが、何回レントラーに促されても足元の青いコリンクは群れに戻らず立ち止まったキリンリキの足元をうろうろと歩き回りながら首を振る。

 

「ミャア!」

「みゃあ!」

 

 痺れを切らしたのか、黄色いコリンクがこちらに近づき青いコリンクの前で咎めるように鳴くが、それでも青いコリンクは動こうとせずに首を振った。

 

 気持ちは嬉しい。

 でも、余計な期待なんて持たせないでほしい。

 

 そんな複雑な気持ちを抱えながら私は 「群れに戻ったほうがいいよ」 と口に出したが、青いコリンクは離れずにこちらを見上げて目を潤ませる。

 黄色いコリンクはどこかしら焦燥したようにミャアミャアと鳴き続けているが、青いコリンクは頑としてそれを聞かなかった。

 

「ルウゥゥ」

 

 そうして二匹がみゃあみゃあ合戦をしていると、静観していたレントラーが動き、キリンリキの前に立つ。

 

「ルゥ」

「リィィ」

 

 群れのリーダーが動いたからか、コリンク二匹は言い争いを止めてキリンリキとレントラーを見つめている。キリンリキの上に乗っている私は気が気でないが、当のポケモン二匹は真剣だ。

 キリンリキは柔らかな表情なままにレントラーと目を合わせ、何事かの会話をしているようだ。私には何も分からないが、なんだか説得してくれているような気がした。

 

 ゆっくりと瞬きをしながら見つめ合っていた二匹はやがて、ふっと息を吐いたレントラーがその場から離れると同時に距離を開け、張りつめた空気が霧散する。

 黄色いコリンクはそれに驚いたようで急いでレントラーに駆け寄った。その姿を見ながら一声上げたレントラーの声で黄色いコリンクはその場で固まり、青いコリンクはキリンリキの足の下で嬉しそうに駆け回り始める。

 

 レントラーは群れに戻ってきた黄色いコリンクの首元を銜え、再びこちらに近づいて来た。そして、何が起こっているのか把握できない私の腕の中へとぽとりと落としたのだ。十キロほどもあるので慌てて抱きしめ、落ちないようにしたがそれでも足を滑らせて痛かったのか、コリンクが不満げな声を上げる。

 

「はぇ!?」

「ンミ゙ッンンン~」

「ルゥゥ」

 

 キリンリキと鼻と鼻とで挨拶をしたレントラーは何事もなかったかのように踵を返すと、そのまま大勢のルクシオやコリンクたちの元へ戻り、そのままどこかへと移動して行ってしまった。

 

 もう周りには青いコリンクのはしゃぐ音と、ヤミカラスやホーホーの静かな鳴き声しか聞こえない。住処に戻って行ったのだろうか。

 

 腕の中でもぞもぞと動く温かいコリンクの体温に自然と涙が込み上げてくる。

 

「う、そ」

 

 静かに、噛み締めるように、確かめるようにその言葉を私は口にする。

 

「認め、られた?」

 

 いやそんな馬鹿な。

 私は助けられただけで何もしていないうえに怪我をさせてしまったんだぞ。

 

 なら、どうして?

 

 キリンリキが、なにか言ってくれたのだろうか。

 彼女の目を見てみても、優し気に微笑んでいるだけで判断できないし、尻尾の頭は常に同じ表情をしているので分からない。

 

「ちょっと、降ろしてもらうね」

「リィン」

 

 キリンリキの足元を頻繁にすり抜けながらみゃうみゃう言っている青いコリンクと、ぷるぷるしている腕の中で、程好い体温にうとうとしてきている黄色いコリンク。

 しゃがみこんで触れると二匹ともとても温かくて、手に頬を寄せてスリスリとするコリンクの姿に涙が出てきて仕方がなかった。

 

 自然に出てきた涙がぽたり、ぽたりと地面に染みを作り激流のような感情を持て余して嗚咽が漏れる。

 キリンリキは心配そうに膝を折って座り、しゃがみ込む私の額をぺろりと舐めるが、私が泣いているのは嬉しさのあまりなのでますます涙が零れてくる。

 

「ありがとう」

 

 私なんかを助けてくれて。

 

「ありがとう」

 

 私なんかを選んでくれて。

 

「ありがとう」

 

 私なんかに応えてくれて。

 

「ありがとう」

 

 次々と零れる言葉に二匹は私の足に擦りより、元来た道に戻るよう促しているようだ。ああ、やはり一緒について来てくれるのか。

 

 心霊現象なんて信じていない。神様だって正直信じていなかった。

 …… でも今だけは、少しだけ信じてみてもいいような気がした。

 

「行こっか」

 

 涙を拭って立ち上がり、座ったままのキリンリキに声をかけてよじ登る。黄色いコリンクも眠気は覚めたようなので歩いてもらうことになった。そして、今度は明るい気持ちで元来た道を戻って行く。

 

「君たちの名前決めないとね」

「みゃあ~」

「ミウ」

 

 そうして決まった名前が、紫苑(しおん)梔子(くちなし)。それぞれの見た目からつけた単純で素朴な名前だけれど、コリンクの二匹は納得してくれたようなのでこれでいこうと思う。思い入れのある名前だから丁度良いかもしれない。

 

 

 

 

 

 そしてそのあとすぐ、家に辿り着いてから確認したレベルと年齢、性別によって当初思っていた兄妹の図と真逆であり、紫苑のほうが姉であった事実に私は驚愕した。梔子が度々紫苑を窘めたり呆れてフォローする様を見ていたので勘違いしていたのである。

 

 

 

 

 

 家族が増えて家中が大騒ぎになったのはその夜のことだった。

 

 

 

 




 ご都合主義で恐れ入りますすみません。
 ジョーイさんは完全にアニメイメージ。あんまり敬語使ってるイメージないんですよね。サトシ(子供)相手だからでしょうか。

 野生のポケモンはORAS準拠で野生にも夢特性がいたり、卵技を覚えているのがいたりします。
 今回のフワンテはしっぺ返しを覚えていることからLv16。黄色いコリンクが7。青いのが9。圧倒的差ですが、抜群技と黄色いコリンクの当たらなければどうとういことはない戦法ででどうにかなったようです。
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