またまた前後編です。一万字超えるから仕方ないですね。
二匹と共に庭へ出て両親のポケモンを探すとすぐに見つかった。庭に出た途端私に気が付いたキリンリキのリッキーが駆け寄ってくる。この子は私のことを妹か娘のように可愛がってくれている。もしくは友人(母親のこと)の娘を可愛がっている感覚だろうか。私にとっても言葉は通じないが親身になってくれるお姉さんのような存在だ。
「リィィ」
「おはようリッキー。お母さんから話は訊いた?」
「リー!」
どうやらシグナルビームを教えてほしいという話は通っているようだ。この調子ならサンドパンの黄土にも話が通っているだろう。暫く庭でくつろぎながら待つことにしようかな。
「黄土も呼んで来てくれる?こっちはこっちでやるから紫苑にシグナルビームとスピードスター教えてあげてほしいの」
「リィィン!」
笑顔で返事をしてから庭の奥に駆けて行く彼女を見送って近場の岩に腰掛ける。
私は二匹のおやつとメモ帳。それに技マシンが入っているポーチを腰に巻き付け、外出するわけでもないのに気合を入れて旅(まだ出られないけど)の恰好をしている。勿論藍色と黄色で構成された服装だ。まったく、レントラー好きにもほどがある。
「紫苑は皆が来るまで待っててね。梔子は早速技覚えようか」
「ミャァァン!」
心なしか嬉しそうな顔をして膝に手を置き、こちらの顔を覗き見る梔子。早く早くと言っているのがなんとなく予想つくがそうせっつかれても技マシンを扱うのは初めてなのだからそんなに早くできないんだよね。顎の下を軽く撫でながらポーチを探り、技マシンを取り出す。まずは電気タイプだし、覚えやすそうな「電磁波」から行こうか。
技マシンはポケモンの電子的な身体構造に合わせて組まれたCDのような学習装置だ。パソコン内に作られた牧場に預けることができるのもその特徴的な身体構造から由来していて、性質的にも電気信号を受け取りやすく馴染みやすい。人間に例えるならば瞬時に終わる睡眠学習のようなものだろうか。
技の使い方・方法などを記憶に刻み付けて学ばせるのだ。ちょっとした洗脳めいたものがあるように感じるがポケモンたちにとっては手軽に技を覚えられる方法なのでそこまで嫌がられないのだそうな。むしろ学習や勉強が長引く方が嫌がられる確率が高いらしい。
ということで彼の額に技マシンをかざし、ボタンを押して起動する。軽い駆動音の後に暫く目を閉じていた梔子が目を開く。眠った後のように少しぼーっとしていたがすぐに覚醒したのかぱちくりと目を瞬かせて一声上げる。
「ミャオン」
「終わったかな?」
「ミャー」
周囲をキョロキョロと見回して確認する梔子。一体どんな映像を見ていたのだろうか。説明には追体験させて現実で使うときのコツをつかみやすくすると書いてあった。まあ、映像で見るのと実際に使ってみるのでは違うだろうし、完全に技を覚えるまでのんびり待つことにしよう。
「リィィィ!」
「ミィミロー!」
「グー」
「ラー」
団体さんのご到着だ。
上から母さんのパートナー。キリンリキのリッキーとミミロップのミミ。父さんのポケモンであるサンドパンの黄土にグライオンのピートモスだ。面白そうだと思ったのか、それとも姉や兄のような感覚で手伝いに来たのだろうか。紫苑のことは任せてこちらはこちらで技の練習でもしよう。
「じゃあ皆、紫苑のことよろしくね」
一斉に元気良い返事をもらい、梔子に向き直る。よし、先に電磁波だけでも形にしておかないとね。
「よし、じゃあこの切り株に向かって電磁波してみようか」
「ミャァァァ!」
バチリ、バチリと強烈な音を立てて体から発せられる電気が切り株に向かう。円状になったそれは綺麗に切り株を囲み、何度か音を立てた後に地面に吸収され消えていく。かなり形はできているが少し消耗が激しそうだ。自身から離れた電気を操るのに疲れてしまうのかもしれない。やりにくそうに顔をしかめてこちらを鑑みる。
「こればっかりは慣れるしかないからどうしようもないかなぁ。何度もやってればきっと上手くいくよ」
「ミィ」
そう言って何度も電磁波を撃っていく。疲れ始めているときには時折休憩を挟み、甘辛いポフィンを与えたりお昼ご飯を食べる。
紫苑の方はやはり遠距離攻撃に適性があったのか順調に技を使えるようになっているようだ。親のポケモンが実演して見せたり何事かを教えながらそれを見よう見まねで技を発動する。スピードスターに関してはイメージに合いやすかったのかかなり早い段階で実用できるくらいの習熟度に達し、今はシグナルビームの練習をしているようだ。本人も物理技で避けられまくるより視野が広く保てる特殊技のほうが楽しいのかかなり成長が早い。
「ゥゥゥミィ」
やはり梔子は不得意な分野を練習しているからか習熟は遅い。しかし、これさえ覚えられれば他は物理技で固めても問題がないので最初に面倒事を解決しておいたほうがいい。暫くは上手くできたときに辛いポフィンを与えて褒めながら様子を見よう。
どうでもいいことだが必死な顔で声を絞り出しながら電磁波出してる姿に可愛らしいと思ってしまった私に自己嫌悪。
「ってちょっと梔子くん!?」
「ミィィィ!」
梔子は怒ったように電磁波をこちらに浴びせてきました。
エスパータイプじゃないんだから違うとは思うけれど、今のは絶対分かっててやっただろう。しかも電磁波飛ばすのにも成功してるし。
「よそ見してて悪かったよ」
でも変なことを考えていたとは言わない。別の理由で怒られたのなら火に油を注ぐことになりそうだしね。自分は痺れた手足で収穫したクラボの実をかじりつつ電磁波成功をやってのけたので梔子の口元に辛いポフィンを持っていく。ああ、長時間正座した状態が全身に。それをすぐ引かせるクラボの実ってすごいなぁ。
「ミ!ミ!」
さっきの怒り任せの技が切っ掛けになったのか自由に電磁波を操れる範囲が少し広くなったようだ。多分普通の電気タイプの電磁波よりは範囲が狭いのだと思うが特殊技が苦手ということを考えると頑張ったほうだと思う。少し接近する必要があるがこれぐらいが一番梔子にも扱いやすい範囲だろうし、昼も過ぎたので電磁波の練習はここで終わりだ。
「よし、一番大変な所は終わったから後は大丈夫かな。次は空元気だよ」
「ミィ!」
紫苑もどうやらシグナルビームの命中率やスピードスターの操作に手をつけだしたようだ。上手くホーミングすれば打ち消されない限り必中技は便利だし、操作性を上げれば色んなことができるようになるからね。
そんな紫苑と親のポケモンたちのわいわいした様子を横目にポーチから技マシンを取り出す。
「そうだ。ねえミミさん。この子に空元気のコツ教えてくれない?」
「ミーミ?」
近くでお喋りしていたミミロップのミミさんを呼ぶ。梔子には既に技マシンを起動してかざしてあるので終わった後に頼もうと思う。ミミさんは可愛らしさよりも格好良い格闘派な姉御タイプなので物理が好きだし、上手く梔子に教えてくれると思う。
目を開いた梔子にも同じ説明をする。どうやらミミさんは言葉で教えつつ、指導するようなので私は見守ることに徹する。こういうのを自分で一からやってチャンピオンになったゲームの主人公ってやっぱりすごいんだなぁと改めて思う。私も色々考えてはいるが大体は親のポケモンに頼ってしまっている。もっと自分でも考えるようにしなければならないな。
「みー」
「グー」
「リィィ」
紫苑の技練習は無事終了したようだ。彼女には甘いポフィンを与えて黄土とリッキーにもおすそ分けする。修行をつけてくれていたのだからそのお礼だ。
飛び跳ねながら喜んで岩に向かって技を披露する紫苑に癒される。
問題があるとするならば、シグナルビームもスピードスターも尻尾が要になっているようなので尻尾を封じられる可能性がある氷技には少し注意しなければならないということだろう。
「ミー」
目を離しているうちに膝の上まで駆け上がってくる梔子。なにやら喜んでいる様子なので「もうできるようになったの?」と言いながら辛いポフィンを口元に持っていく。
「ミーミロー」
それに答えたのはミミさんだった。ゆっくり歩いて来て近くに座り手で円を作る彼女にかなり早い段階で技練習が終わったこと知らされる。流石梔子。物理技を覚えるのが極端に早いな。はぐはぐとポフィンをかじりながら笑顔を浮かべる梔子の背中をそっと撫でて「今日はこれでおしまいにしようか。鬼ごっこも時間的に足りないし、明日にしようね」と言う。
紫苑はそれにいい仕事したというような仕草で鳴いた後のびーっと体を伸ばす。彼女にも残りのポフィンを与え、協力してくれたポケモンたちにも甘いポフィンを分けて家へと入る。使い終わった技マシンをお父さんに返し、夕飯を食べて自室に戻る際に隣部屋に泊まるらしい青いトリトドンの粘土と、ミミさんに挨拶して布団に入る。
お腹一杯になったらしい紫苑は足元に。静かなのが好きな梔子は頭の上の方にある。窓の冊子に丸くなる。いつも寝る場所は決まっているので梔子の方には柔らかいタオルを敷いて布団代わりにしてある。
「おやすみ」
「みい」
「ミー」
そうして今日も私は二匹の寝息を聴きながら幸せな気分で眠るのだ。
◇◆◇
「あれ、どうしたの紫苑」
深夜。頬をざらざらとしたものが触れるので目を覚ました私は紫苑の心配そうな声で嫌な予感に囚われた。
「…… 紫苑、梔子は?」
枕元にいるはずの姿が見えない。少し肌寒く感じて毛布を手に掴み、引き寄せる。そして暗い周りを見渡して気づく。ああ、寒いと思ったら窓が開いていたのだ。
…… なぜ窓が開いているんだ?
私は確かに閉めたはずだ。それにフワンテのことがあったから窓を開けて寝るなんて怖いことはしない。じゃあ誰が開けた? いなくなった梔子ではないか? そう結論付けて一気に脳が覚醒する。
「っ梔子!?」
「みゃあおぉぉ」
今は深夜。夜行性のポケモンだってうろついているし色違いポケモンがトレーナーもつけずに外を出歩くなんて狙ってくれと言っているようなものだ。
焦燥に駆られ、私は上着を羽織って最低限の身だしなみをしてから紫苑と梔子のボールをベルトに着ける。
今度は流石に裸足で行こうとは思わないが隣のポケモンを起こす時間だって惜しい。ノックを何回かしてから私は玄関から飛び出した。
後をついてきた紫苑に匂いを追ってもらい、焦れながら少しずつ進んでいく。
「なんでこんな……」
頭の中でぐるぐるとこうなった原因を探しながら紫苑について歩く。
誰かに攫われた?否。
何かに誘い込まれた?分からない。
私や現状に不満があった?
そうだとしたら連れ戻すことなんてできないんじゃないのか?
不安と気づけなかった罪悪感に苛まれながらそわそわと体を揺らし、紫苑が匂いを突き止めるのを待つ。ああ、どうして。どうして。
一体どこへ行ったの梔子!
・ニックネーム
主人公は色とか植物の名前とかをもじって直感でつけています。あとは厨二的センスとかがたまに顔を出す。わりと自由。
父親のセイジは土の名前から。母親はシンプルに種族名から。人ごとにテーマ決めてニックネーム考えてます。一人で考えているので似たような名前になりそうで結構怖いものですね。