【00.師弟関係の始まりなんです?】
此処は相も変わらず平和な第1管理世界ことミッドチルダ。
その首都クラナガンに我らが主人公の住居はありました。
部屋に備え付けられた大きめの窓の外では今、雨がしとしとと降っていました。
そんな雨模様を見ながら、我らが主人公たる地味で小柄な黒髪の少女はごろりと一回転。
現在、彼女は休暇中だったりします。
彼女はソファーの上で仰向けで寝そべり、だらけながら漫画を一冊広げていました。
「あははは、やっぱりこの漫画家さんのギャグは面白いなぁ」
「そうですか」
「……」
視線を横に。
彼女はページを捲り、漫画へとゆっくりと視線を戻します。
「あははは。あ、お菓子がもう切れちゃった。さぁて買いにでかけ――」
「買っておきました」
「……」
視線を横に。
少女は彼女は最後のページを捲り、漫画へと視線を戻します。
「あははは、おっと、漫画読み終わっちゃった。あー、続き気になるなぁ」
「そんな事もあろうかと、全巻揃えておきました」
「……」
耐えきれずに少女は振り向きました。
小柄な少女は額に一筋の汗を流してとても嫌そうな顔を浮かべます。
彼女の視線の先には正座の姿勢で少女をガン見している長身の女性が居ました。
微動だにしない紫色ショートヘアの背が高い女性です。凛々しさ満点でした。
なお、彼女の服装はピッチリ肌に吸い付くタイプのボディスーツの模様。実に扇情的ですね。
「……なんで貴方はここにずっと居るのかな?」
「弟子にしていただきたい」
「……ワンモア」
「弟子にしていただきたいと言っているのです、師匠」
「既に師匠になってる!?」
オーマイガッと少女は仰け反りました。
反動で姿勢を戻しながら、彼女は両手を勢いよく振りました。
「却下だよ、却下!?ていうか、なんで此処が解ったの!?」
「ドクターがアナタの家は此処だと教えてくれました」
「よし解った。ドクターを殴り飛ばせば良いんだね、理解した」
きゅっと小柄な少女が笑顔のまま拳を握りました。
いけません、このままではあの愉快奇怪な科学者が更に愉快奇怪な肉塊へと進化してしまいます。
されども紫色ショートヘアガールがその行動を予見していない訳がありませんでした。
彼女はどこからか解らないですが、四角い箱を取り出しテーブルの上に置きました。
「ちなみに土産としてこちらのラーメンセットを持って行けとドクターが……」
「仕方ないなぁ、ドクターは」
籠絡までたったの1手でした。
ご機嫌な様子で少女は台所へラーメンセットを持って退散していきます。
なんとも安い。実に安い買われ方でした。
地上本部の最高戦力が今まさにラーメンで買収されようとしています。
ていうか、こんなんが最高戦力で良いのでしょうか、地上本部。
ちなみに紫色ショートヘアガールは計画通りといった笑顔を浮かべていました。黒いですね。
●
此処は時空管理局が地上本部の一室。
幼い字で"レジアス中将のお部屋"と書かれた名札が入口にぶらさがった部屋でした。
「ぶえーっくしょい!」
そこそこ広い室内にふとましいおっさんことレジアスの凄まじい声量を伴ったくしゃみが吹き荒れました。
書類の束が宙を舞いますが、それを眼鏡をかけた凛々しい女性は残像を遺しながら素早い動きで全キャッチ。
匠の技でした。
それから女性はテーブルの上にまとめた紙束の底を何度かぶつけて紙の高さを整えながら、
「あら、中将、風邪ですか?」
「ふぅむ……誰かがワシの噂でもしているのかもしれんな……」
「ふふ、中将の武勇伝でも話しているのでしょうか?」
「ふん、どうせ嫌味だろう。まぁ、ワシの鋼の心臓は他人にどう言われようとも揺るぎはせんさ」
ふふん、と胸を張るヒゲモジャおっさんことレジアスに苦笑する眼鏡をかけた凛々しい女性は苦笑します。
「それは頼もしいですね。あ、ちなみに中将、この前あの子が解決した事件の報告書が……」
「胃が……!」
鋼の心臓なんてありませんでした。
●
小柄な少女と紫髪の女性は正座しながらテーブルを挟んで向かい合っていました。
テーブルの上にはラーメンの入ったどんぶりが2つ置かれています。
早速貰ったラーメンに手を出す少女でした。遠慮なんて無かった。
彼女は箸を器用に使ってラーメンを啜りながら、視線を紫髪の女性へ向けます。
「で、なんでいきなり弟子入りしたいとか言い始めたの?」
「あの時アナタに殴られた感覚が忘れられず……」
ブボォッと少女が吹き出しました。汚ぇ。
「おまわりさーん!ここに変質者がいますゥ――!?」
なお、叫ぶ小柄な少女の職業もおまわりさんみたいなものです。自分でなんとかすべきですね。
ちなみに近隣住人達は『またあの家で騒ぎか』と無視しました。日頃の行いの結果でした。
「いえ、別段深い意味はありません。その強さに感銘を受けた、というだけです」
「え?あぁ、そういう意味だったの?」
少女はホッと一安心。
「一方的に蹂躙されるというのも新鮮で、中々の快感でしたが」
「おまわりさーん!!!」
閑話休題。
暫く騒いで落ち着いた後、少女はどんぶりを片付けながら紫髪の女性に向かって言います。
「それで弟子入りしたいって?私、人に何かを教えた事なんてないよ?」
対する女性は相変わらずの無表情のまま、そんな言葉に頷きを1つ返しました。
「ではせめて強さの秘密を教えていただきたい」
「そんなものないよ?」
少女の眉尻を下げた否定の言葉に女性はサムズアップしながら言い返します。
「秘密と言う事ですね。解っています。そう簡単に強さの秘密を漏らす訳にはいかないと」
「いや、だから、そんなものないってば」
少女の呆れた様な声に女性はやれやれと肩まで両手を上げてポーズを取りながら、
「仕方がありませんね。盗んでみろという事ですか」
「あのね、私は生まれつきこんなんだよ?」
「ハハハ、冗談を」
「こやつめ、ハハハ」
コイツ全く話を聞いちゃいねぇと少女は頭を抱えました。
ちなみに女性は全く表情を変えてないので『ハハハ』とか言っている間も無表情のままです。クールですね。
「では暫く同居して観察させていただきます」
「いや帰れよ」
先程まで食べていたラーメンセットがテーブルの上に投げ捨てられました。
紫髪の女性は無表情のまま、呆然とする少女へ一言。
「今同居させてくれれば、この特上ラーメンセットをもう10箱程」
「歯ブラシは持ってきた!?」
少女は笑顔で同居する事を快諾しました。凄まじく安上がりですね。
やっぱりこんなんが最高戦力で良いのでしょうか、地上本部。
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【01.私の弟子は戦闘機人なんです?】
少女と女性が同居してから10日が経ちました。
ちなみに同居する旨を報告に行ったらレジアス中将の胃に穴が開きました。
日々の不摂生がたたったのでしょうね。(無関心)
父親代わりのおっさんのお見舞いを済ませた帰り道で黒髪の少女と紫髪の女性はラーメンを啜りながら、
「うーん、レジアス中将。どうしたんだろうね、いきなり倒れるとか」
「お疲れだったのではないでしょうか?最近は謎のレアスキル持ちが暴れまわっていると聞きます」
「あれかー……」
ずぞぞぞと小柄な少女はラーメンをどんぶりから吸い上げ、咀嚼を開始します。行儀が悪いですね。
対する女性はエレガントめいた動作でフォークとナイフを操り、麺を口に運んでいました。
なんだあれ、という視線が周囲から突き刺さりますが2人は気にしませんでした。
「で、トーレ。私の強さの秘密は見つかった?」
「いえ、まだですね。ドクターにも解析を手伝って貰っているのですが……」
「あれあれ?私何時の間にか研究者に解析されるモルモットになってない?」
「ハハハ、もう八年ほど前からずっと解析され続けていますよ」
「初耳だよ!?」
トーレと呼ばれた紫髪の女性は『ハハハ』と少女の目を剥いた叫びをスルーしました。
「そんな事よりも」
「私にとっては私生活のピンチだからそんな事じゃないんだけど!?」
「極上ラーメンセット1つで手を打ってください」
「仕方ないなぁ」
やっぱり笑顔で快諾。安上がり万歳でした。
この瞬間、病院で某おっさんの胃が謎の痛みに悲鳴を上げたのは言うまでもありませんね。
「それじゃあとりあえず帰ろうか」
「そうですね。あぁ、帰りに『爆死戦隊ミッドチルダー』の最新話DVDを借りて行きましょう」
「あー、そういえばこの前借りたヤツだとレジアス中将似のおっちゃんが『良いから自爆だ!』とか言いながら基地ごと爆発四散するシーンで終わったんだっけ。確かに続き気になるよね」
「えぇ、次回予告での締めが主役達の『俺達ゃ家なき子!』ですからね。まさか味方のリーダー格がゴキブリ退治の為に味方の基地ごと爆発するとは誰も想像していなかったでしょう」
「毎回戦闘後に自爆するオチがあの時は無かったから、なんかあると思ったんだけど、まさかねぇ」
「そのせいで毎回乗り込むロボが違っているのも売りですよね」
「ロボが出過ぎて玩具コーナーに置き切れないって商店街のおっちゃんが嘆いてたよ」
あはは、と少女は笑ってラーメン屋から出て、一歩進みます。
少女の足元が爆発しました。
「え?」
「えっ」
少女とトーレの疑問符を置き去りに爆発は連鎖しました。
爆発は少女の足元から段々と前方に向かって加速して行き、視線の先に在る高層ビルに行き着きました。
高層ビルが派手に爆発四散してビルの方から悲鳴が上がります。
「……さぁ、師匠。大人しく出頭しましょう」
「えぇぇぇぇ!?私のせい!?私のせいなの、今の!?」
トーレがこんな時だけ神妙な顔で少女の両肩に手を置きます。
少女は全力で否定しますが、少女の足元から続いている爆発痕が動かぬ証拠。少女の命運もまさにこれまで。
そんな風に思われた時でした。
「ワハハハハ!ミッドチルダの住民よ!怯え竦むが良い!」
今しがた砕け散ったばかりの高層ビルの瓦礫の上に誰かが立って叫んでいました。
おお、あれこそが救世主か!?否、悪魔か!?
「我こそは『爆弾生成』の能力を持ちし最強の男!触れた物を爆弾とする俺の無敵のほべら!?」
悪魔だったので少女は近づいて殴りました。男は瓦礫の海に沈みました。
少女は良い汗かいたとばかりに額を拭うと男を駆けつけてきた管理局に引き渡してトーレの下に戻りました。
その際、管理局員のナイスミドルがまたお前かよ、という顔をしましたが少女は無視しました。
「うーん、確かに最近多いねぇ、こういう性質が悪い犯罪者」
「あの男の能力もドクターに解析して貰いますか?妹が似たような能力を既に持っていますが」
「そだね。なんかあの手の犯罪者の増加原因が解るかもしれないし」
「人造魔道師、等でしょうか?」
「あ、それならフェイトさんが詳しいかもね。その手の事件には必ず喰いついてるらしいし」
「成程。では後日フェイトお嬢様に何か情報を持っていないか聞きに行ってみましょうか」
「うん、そうしようか」
●
金髪の美女がいきなりビルの窓を開けて飛び出そうとしました。
母親代わりの女性の奇行に目玉飛び出そうになった赤毛の少年が腰に飛びついて止めました。
「ちょぉぉぉぉ!?フェイトさん、落ち着いて!?いきなり何をしてるんですかァ――!?」
「エリオ!止めないで!私は遠くに逃げなきゃいけないの!?」
「電波!?電波でも受信したんですか、フェイトさん!?ま、まずは話し合いを……」
プシューッと背後で扉が開く音が鳴りました。
フェイトとエリオが振り向けばそこには桃色の頭髪を持った少女が死んだ魚の目で佇んでいました。
「フェイトさん、エリオ君……何やってるんです?」
「え?どうしたの、キャロ?なんだか怖いよ?」
「何ってフェイトさんを行かせない様に抱きついて止めて……」
傍から見れば窓枠に手をかけたフェイトに後ろからエリオが抱きついている様に見えました。
一見すればただの親子の戯れですが、キャロと呼ばれた少女には異なる状況に見えたようですね。
ぶっちゃけ修羅場でした。
「行かせないってどこに!?百合の世界には俺が行かせねぇよベイベーって意味!?」
「百合の世界!?どこなの、そこ!?」
「スバルさんとティアナさんを見てれば解るよ」
「「あっ……(察し)」」
全員が沈黙しました。
沈黙は鎮静剤となり、そのまま全員の気持ちは優しい何かに包まれました。
そして思考の方向性は今さっき出て来た女性2人へと向きました。
それから全員は優しさに満ちた目から光の消えた笑顔で顔を合わせて頷きを1つ。
>そっとしておこう。
●
なお、フェイト・T・ハラオウンはこの後、小柄な少女と紫髪の女性に普通に玄関から入って来られるという
強襲を受け、錯乱しながら悲鳴を上げて窓を飛び出し、空を駆け抜け、大地を走破し、謎の研究所に辿り着いて、
「いいいやぁあああああああああああああああああああ!!!」
「グワーッ!?」
ニンジャめいた雄叫びと共に助走付きで謎のドクターを殴り飛ばし、それで漸く正気を取り戻したとの事でした。
すわ殺人罪に問われるかと思い、涙目でドクターを連れ帰ったら何故か同僚にとても褒められたらしいです。
いやはや人生は何が起こるか解りませんね。
●
トーレは少女の住居のポストに投げ込まれた手紙を開きながら一言。
「ドクターが捕まったそうです」
「えっ」
ずぞぞぞぞ、とラーメンを啜る音だけが室内に響きました。
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【02.最終決戦なんです?】
暗雲が空に立ち込めます。
まるで終末を迎えた世界の如き光景を見ながら、小柄な少女とトーレは巨大な建物の前に立っていました。
巨大な建物は材質不明の赤い石壁で造られた古めかしいデザインの城でした。
実にラストダンジョンくさい外見をしていました。
「此処が敵組織のハウスね」
「えぇ、此処がフェイトお嬢様が言っていた敵組織の本拠地ですね」
「ここまで早急に調べてくれるだなんてね。今度お礼しにいかなきゃね」
「えぇ、その時はラーメンセットでも持っていきましょうか」
少女の脳裏に『こっち来ないでぇぇぇ!』と泣き叫ぶ金髪の執務官が浮かびましたが無視しました。
「じゃ、乗り込もうか」
「はい。しかしなんでしょうね、この『転生の城』という看板は……」
「この城の名前じゃないかな?」
「転生……どういう意味でしょうか?」
トーレの言葉に小柄な少女は『そんなの決まってるじゃん』と眩いばかりの笑顔を見せました。
「転生……そう輪廻転生。つまり、『ここが俺らの墓場だ!』って言ってるんだよ」
「成程。凄まじいマゾヒスト集団なのですね」
少女の言葉にトーレは納得の頷きを1つ。
違ぇよ!と中からなんか否定の叫びが聞こえましたが2人は無視して乗り込みました。
●
少女達が雑談していた城の扉の内側には1人の男が立っていました。
「ククク、この『物質硬質化』の能力を持つ俺の固めた扉は誰にも破壊する事など出来ぬ!」
「ていやー」
「グワ―――ッ!?」
扉をぶち抜いて来た蹴りに粉砕されました。
●
城の中に3人の男女が威風堂々といった佇まいで存在していました。
「ククク、『物質硬質化』のヤツがやられたようだな……」
「だがアイツは我等の中でも最弱……」
「管理局員如きに負けるとは転生者四天王の面汚しよ……」
「ていやー」
「「「グワ―――ッ!?」」」
まとめてパンチで吹き飛ばされました。
己の能力を披露する暇すらありませんでした。哀れですね。
●
城の最奥に1人の髭を生やしたダンディズム溢れる親父が豪奢な椅子に座っていました。
彼は着込んだ漆黒の鎧に付いたマントを靡かせながらダンディズムに立ち上がりました。
そのまま彼はダンディズム溢れる笑みを浮かべると眼前の小柄な少女と紫髪の女性を見据えました。
「よくぞ来た、管理局の者よ。貴様らが我が配下の四天王を倒したという猛者だな」
「え?四天王なんか居たっけ?」
「さっき下の方で師匠が轢いたなんか雑談してた連中ではないでしょうか」
男はダンディズムに少女達の囁きを無視して己の言葉を続けました。
彼は両手を広げながら、何もない空間からダンディズムな大剣を取り出し構え、吼えます。
「だが奴らなど所詮ザコ。我には到底及ばぬ!真の王者の格というものを見せて」
「ていやー」
「グワ―――ッ!?」
錐もみ回転しながらダンディズムに男は頭から壁にめり込んでビヨンビヨンし始めました。
実にダンディズムに溢れた光景ですね。
●
「ククク、よくぞキングを倒した。私こそが真の首領メリクリウ――」
「ていやー」
「グワ―――ッ!?」
●
崩れ落ちる城を背景として少女とトーレは荒野を歩いていました。
その手には先に大量のボロ雑巾と化した犯罪者を括り付けた縄がありました。引き摺られる音が痛そうですね。
真の首領が『私だけ地の文無し…』等と嘆いていましたが少女達にとっては知った事ではありませんでした。
少女は天を仰ぎながら、溜息を1つ。
「長く苦しい戦いだった……」
「ふむ。これなら『誘爆戦隊クラナガン』の放送に間に合いそうですね」
「あ。マジで?急いだかいがあったねぇ」
「えぇ、朝御飯中に、『あ、そうだ悪の組織を滅ぼそう』等と言いだすものですから焦りましたよ」
「いやぁ、思い立ったら吉日っていうじゃん?」
あはは、と朗らかに笑う気紛れで悪の組織を滅ぼした少女。
相対していた縄の先の方々が涙を流しますが現実は無情です。慈悲はない。
「じゃ、帰ろうか」
「では転送ポート起動します」
転送ポートに鮨詰めにされた四天王とかキングが悲鳴を上げますが、トーレは蹴飛ばして押し込みました。
そしてポート横に備え付けられたパネルを操作して、起動。
そのまま犯罪者達を収容所に直接シュート!超エキサイティン!しました。豪快ですね。
「では私達も帰りましょう」
「うん。さーて、今週の『誘爆戦隊クラナガン』は誰が爆発に巻き込まれるんだろうねぇ」
「先週の次回予告から予想すると恐らくはまた司令官が基地ごと爆発するのでは?」
「あぁ、今度は次回予告で入院中の司令官が『良いから発破手術だ!』とか言ってたんだっけ」
「えぇ、その後病室が爆発したシーンも入りましたし、間違いないかと」
楽しみだねぇ、と少女とトーレは転送ポートに乗り込み、起動しました。
転送は一瞬です、そして転送を終えて窓の外を見ると、なんかでっかい船が浮いていました。
「……さぁて、帰って『誘爆戦隊クラナガン』見ようか」
「いえ、師匠。事件です。多分原因は妹ですが」
「貴方の妹が原因かよっ!?止めてよ!?私早く帰りたいよ!」
はいはい、とトーレは抗議してくる少女を宥めながら耳に手を当てます。
念話を目の前でふよふよしてる船に居ると思われる妹に飛ばしているのですが、返って来たのは雑音でした。
「……駄目ですね、連絡が取れません」
「あぁもう。とりあえずアレ何?」
「『ゆりかご』ですね。過去聖王が使っていたと言われるトンデモ戦艦との事です」
トンデモと聞いた瞬間少女が目をパチクリとさせました。
それからトーレに向かって前のめりになりながら、瞳を輝かせて問いを投げかけて来ます。
「凄いの?」
「そりゃあもう」
「硬いの?」
「そりゃあもう」
「殴っても壊れない?」
「そりゃあも――え?」
「マジで!?じゃあ、ちょっと行ってくる!」
窓のガラスをぶち破り、一瞬で少女は視界から消えて行きました。
とりあえずトーレは『やっちまったわい』と心の中で思いながら、目の前に1枚のウィンドウを展開。
多分あの『ゆりかご』の中に居るであろう妹へメールを送っておきました。妹想いですね。
ちなみに内容は、
『骨は拾ってやる』
でした。えぇ実に妹想いですね。クールですね。
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【03.Sts完!大団円!勝利の未来へレディーゴー!なんです?】
『ゆりかご』内部では現在、戦いが佳境に入っていました。
相対するのは管理局のエース、高町なのはと聖王の写し身たるヴィヴィオと呼ばれる少女でした。
彼女達は幾度と交差し、ぶつかり合い、そして遂に決着の時を迎えます。
「助けて、ママ……!」
「助けるよ、いつだって、どんな時だって!」
救いの願いを込めた桜色の極光がヴィヴィオを撃ち抜き、その身を縛っていた枷を打ち砕きます。
するとなんという事でしょうか。
大人の姿をとっていたヴィヴィオの姿がみるみる内に縮んでいくではありませんか。
子どもの姿となったヴィヴィオは己の力で立ち上がり、なのはへと歩み寄ろうとします。
そんな姿に胸を打たれたのか、なのはは涙を流しながら、ヴィヴィオを抱きしめました。
おお、まさに感動のエンディング。これで終わりならば誰もがハッピーエンドです。
然れどもそれを許さぬのが悪。
それを阻止するのが悪の本懐。
そんな悪が今、『ゆりかご』の下層部にて両手を振って慌てていました。
「ディ、ディエチちゃん!陛下がやられちゃったわどうしましょう!?」
「落ち着いて、クアットロ。ほら、まだ色々策が残ってるでしょ。頑張って、お姉ちゃん」
「ハッ!?そ、そうよね!お姉ちゃんなんだから私!頑張らないと!うん、頑張るわ、ディエチちゃん!」
眼鏡をかけたおさげの姉――クアットロの言葉にディエチと呼ばれた少女は額に手を当てて溜息を1つ。
「ドクターとウーノ、トーレが居なくなってから心労でこれだもんなぁ……」
「どうかしたの、ディエチちゃん?お姉ちゃん頑張ってるわよ!ほら、頑張った!」
ガションガションと音を立てて機械の兵隊達が聖王とその保護者を始末せんと王座へ向かい始めます。
このままではハッピーエンドどころかバッドエンド確実です。クアットロは心の中で拳を握りました。
「フフフ、これで私達の勝利は確定!どうかしら、ディエチちゃん!?」
「はいはい。頑張った頑張った」
「やふん」
頭を撫でて上げるとクアットロの表情が崩れて姉の威厳ゼロになりました。それでいいのでしょうか。
「あーもう、前はもっと冷徹策士キャラだったはずなのにどうしてこんな事に……」
「何か言ったかしら、ディエチちゃん?お姉ちゃんは今でも策士よ!バリバリよ!」
「そうだねー、バリバリ」
「マジックテーブを耳元でバリバリさせるのは止めて!」
耳を塞いでイヤイヤと顔を左右に振る姿からはどう見ても姉オーラを感じられません。
そんな頼りない姉を半目で見ながら、なんだかんだで見捨てられないディエチはまた溜息を1つ。
そしてマジックテープの残響に悶えるクアットロから視線を外して、船の状態を映すモニターを見ると、
「ねぇ、クアットロ。なんか『ゆりかご』上空に高速で接近する物体があるんだけど」
「うう、耳が……え?何?接近?フフフ、大丈夫よ!この『ゆりかご』が外部からの攻撃でなんとかなるわけ――」
ズドーンと音と衝撃が体を震わせると真横に馬鹿でかい穴が開きました。
えぇー、と2人して開いた穴から上空を覗くとそこには笑顔の小柄な少女の姿がありました。
「どうも、私です」
「「ゲェ―――ッ!?地上本部のォ――!?」」
彼女はヒマワリの髪留めに陽光を反射させながら、笑顔で、
「やー、本当に殴っても一発じゃ壊れなかったね!頑丈だね!素敵だね!次は本気で行って良いよね!?」
「やめてェ―――!?」
少女の『今のはメラゾーマではない。メラだ』的な発言に悪2人は戦慄します。
ちなみにそんなやりとりの間になのはと内部に潜り込んでいたはやて達は少女の開けた穴から脱出していました。
抜け目ありませんでした。
そして少女が笑顔で拳を振りかぶったのを見て、クアットロはその場に崩れ落ちます。
「うう、ごめんなさい、ディエチちゃん。あの子が居ない内に作戦を完遂する予定だったのに……」
「仕方ないよ、クアットロ……大丈夫、最後まで私が一緒にいてあげるからね……」
言いながらもディエチはその両手に巨大な砲を構えました。
なんと彼女はあの理不尽の塊である少女を迎撃するつもりなのです。
ただ家族を守る為に。己が身を危険に晒してでも。
なんという姉妹愛なのでしょうか。まあ無駄な努力なのですが。
「いっくよー」
「クアットロ、逃げて!」
「ディエチちゃん!?」
「ウオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
瞬間、世界に光が満ちました。
●
言うまでもなく『ゆりかご』は見事轟沈。
己の舟が一撃で真っ二つに折られて粉微塵になる様を見てヴィヴィオは『悪魔だ……』と呟いたそうな。
なお、クアットロとディエチ両名は瓦礫に頭から突っ込み、天地逆さまに下半身だけ出して犬神家しているところを救出されたとの事でした。
ボロボロでしたが命に別状はなく、彼女達はその後、
「もう二度とあんな事はしないよ」
と目から光を失った笑顔で誓い、管理局に下ったそうです。トラウマって怖いですね。
ちなみに他の妹は『ゆりかご』浮上前にチンクと名乗る少女達と共に既に投降済みでした。
クアットロが心配で残ったディエチの姉思いっぷりが伺えますね。
その後、ヴィヴィオがなのはの養子になったり、祝勝パーティに小柄な少女とトーレが乱入してフェイトが発狂したり、はやてが少女を『海側』に誘おうとしたりして六課全員から集中砲火を喰らった挙句病院送りになったのはまた別の話である。
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【04.そんなこんなで後日談なんです?】
ヒゲモジャーなおっさんことレジアスは事の顛末が記載された書類を片手に溜息を吐きました。
彼はとある大病院の個室に置かれたベッドの上で、隣に立つ眼鏡をかけた凛々しい女性へと目を向けながら、
「で、これで終わりなのか」
「えぇ、これで戦闘機人事件は終わり、ですね。スカリエッティも随分前に『海』に捕まっていますし」
「これ以上、何かが起こる事もない、か……最高評議会は?」
「相変わらず『ゲイズちゃんマジ天使』とか言いながらファンクラブの運営にのめり込んでいるようです」
「あの三馬鹿どもはアテにせん方が良いな……地上の復興の目途は?」
「それはもう。あの子も張り切って瓦礫撤去等をしてくれていますよ。今回はなかなか楽しめたそうで」
「そうか……アイツの殴った射線上にガイアの大穴みたいな物が出来たと聞いた時は胃に穴が増えたが……」
「今後はそこも観光名所として使えると、考えています」
そうか、とレジアスは天井を仰いだ。
「ゼスト達は?」
「彼等も今は復興の手伝いですね。犯罪者集団もまとめて退治されたせいで、暫くを息を潜めていそうですし」
「ふむ……アイツの気紛れな行動もたまには役に立ったという事か」
「素直に褒めてあげれば良いのでは?」
「ツケ上がるからしてやらん」
「お父さんらしい」
クスクスと凛々しい女性が楽しげに笑いを零しました。時折見せる柔らかい表情が実に可愛らしいですね。
「オーリス。今は仕事中だ」
「はいはい。それじゃあ、次は今後の予定ですが――まぁ、まずはさっさと体を治してください」
「む……うむ。そうだな……」
「それと、そろそろ来ますよ?」
「何がだ?」
オーリスと呼ばれた凛々しい女性はウィンクしながら片手の人差し指を立ててみせると、
「愛娘がですよ」
「レジアス中将、お見舞いに来ました―――ッ!」
「失礼します」
ガシャーン!と派手な音を立てて個室のドアが粉砕玉砕大喝采されました。粉微塵ですね。
「Oh...」
「中将、どうですか、調子は!?あ、フルーツ沢山買ってきましたよ!今剥きますからね、トーレが!」
「はい。お任せを、師匠」
「というわけで、私は仕事がまだ残っていますのでごゆっくり」
ちょっと待て、という言葉すら出す暇もなくそそくさとオーリスは病室を後にしました。
後に残るのはベッドに横たわるレジアスとその横に椅子を持って来て陣取る小柄な少女とトーレだけでした。
「レジアス中将、治ったらラーメン食べに行きましょうね!美味しいラーメン屋さん見つけたんですよ!」
「私も同伴しましたが、なかなかのものです」
「そうか……」
はぁと諦めた様にレジアスはまたもや溜息を吐き、しかし口元に小さく笑みを浮かべながら、
「まぁ、片時の平穏だ……少しぐらいならば良いだろう」
と、ほんの少しですが平和になったミッドチルダの空を眺め、呟くのでした。
わぁい、と後ろで笑顔の少女と無表情なトーレが両腕を上げて喜びます。
その声にレジアスは更に苦笑。
今日もミッドチルダは幸せな日々を送っていました。
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【ex.主人公がワンパンマンの世界に行ったら、なんです?】
小柄な少女とハゲた普通の感じの男性という地味な2人組がちゃぶ台を挟んで向き合っていました。
それぞれの後方には紫髪の女性と金の短髪を持ったイケメンサイボーグが控えていました。
少女とハゲた男性は苦虫を潰したような表情で同時に卓袱台を叩きます。
手加減したつもりが相乗効果のせいで卓袱台が木端微塵に砕け散りました。卓袱台は犠牲になったのだ……。
そして彼女達は表情を変えずに、そのまま悶絶するが如く声を零しました。
「「キャラが被ってる……!!!」」
「「ねーよ」」
なんか心で通じ合った2人組達でした。
ここまで読んでくださった方々に最大限の感謝を。
なんか終わる予定だったのにふと脳裏に浮かんだネタを思わず書き綴ってしまいました。
これにてSts編完!これでスッキリ完結出来るね!やったね、ころちゃん!
というわけで今度こそ完結ですとも。多分恐らくきっと。えぇきっと。(白目)
最後のはついカッとなってやりました。
なんだか似ているという意見があったので……つい……。
いや、確かに元ネタはあれなんですけどねっ。
あ、あと、魔法少女リリカルオリヴィエSacredという作品も連載しておりますので、
見て頂ければ幸いです。(宣伝話)
それと非ログインユーザでも感想を書けるように設定してみました。
使ってみてご感想やご指摘などを頂ければ、と思います。
それでは皆さん、また次回がありましたら、またいずれ。