ラブラIb〜太陽の笑顔が織りなす物語〜【完結】   作:名前はまだ無い♪

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猛 唇 注 意

 道を進むと十字路に着いた。

 

「イヴちゃん。どっちに行く?」

「んーと、こっち」

 

 イヴが右の通路に穂乃果を引っ張る。引っ張られながら穂乃果の視界にチラリと文字が映る。

 

『猛 唇 注 意』

 

「もう……くちびる……?」

 

 穂乃果が壁の文字に首を傾げる中、イヴに連れられた穂乃果は行き止まりに着いてしまう。

 

「これ、何かな?」

 

 穂乃果が先程の文字について考えていると、手を離したイヴが壁に描かれている二つの赤い線に近付く。

 

「お腹減った 何か食い物 よこせ」

「しゃ、しゃべった!?」

 

 いきなり言葉を発した線――唇に穂乃果は驚き数歩後ずさる。イヴはどうしたものかとその場で考えるも、食べ物になりそうなモノは何も持っていない。

 

「お前の持ってる 花 美味そう」

「花ってこれ?」

 

 イヴが赤い薔薇を見ながら聞き返す。しかし先程の穂乃果の事を思い出し、首を振る。

 

「ごめんなさい。これはとても大事なものだからあげる事は出来ないの」

「あ、じゃあ代わりに他のものを探してくるよ!」

 

 そう言うと穂乃果とイヴは唇の元から離れ、十字路まで戻ってくる。

 

「進めるのはこっちだけみたいだね」

「うん。早く見つけて唇さんの所に戻ろ」

 

 二人は入ってきた扉の正面の通路へと足を踏み出す。すると数歩も行かない内にイヴが足を止める。手を繋いでいた穂乃果も必然的に止まる。

 

「どうしたの?」

「……これ」

 

 イヴが壁を指差すと、そこには一言

 

『忘れた頃に』

 

 と書かれた貼り紙があった。

 

「忘れた頃っていつのかな」

 

 穂乃果は呟きながらも、この不思議な世界に来てからの事を思い出し、何があってもいい様に緊張の糸を張る。

 

「いつの事か分からないけど、今は進まないと、だね」

「気を付けてね」

「もちろん!」

 

 穂乃果は頷いて通路を歩き出す。その時、穂乃果のすぐ横の壁に罅が入る。

 

「っ!」

 

 穂乃果の脳裏に浮かんだのは緑の部屋での出来事。壁の中から突然伸びて薔薇の花弁を毟り取った、あの黒い腕。

 穂乃果はイヴを抱き寄せると、転がる様にその場を離れる。起き上がり先程までいた場所を確認すると、そこには既に黒い腕がうねうねと蠢いていた。

 

「忘れる訳、ないじゃん」

 

 穂乃果は腕を睨む様に見ると、そのままイヴを抱えて通路を駆け切る。途中二度程腕が壁を突き破って来るも、穂乃果は足を止めずに走り、突き当たりの壁にぶつかる様にして足を止める。

 

「ハァ……ハァ……ハァ……」

「お姉ちゃん。大丈夫?」

「ハァ……うん。大丈夫だよ」

 

 イヴの問いに穂乃果は息を整えて答える。

 それから少し休み穂乃果は立ち上がると左右を見てから正面に視線を戻す。正面にはキョトンとした表情のイヴ。穂乃果は思わず頭を撫でてしまう。

 

「わ、きゃー」

 

 突然の事にイヴは声を上げるも、それはどこか嬉しそうな声だった。表情も嫌がっていると言うより喜んでいた。

 

「お、お姉ちゃん。何するのー」

「あははは、ごめんね。可愛かったからつい……なるほど。お兄ちゃんが頭を撫でるのはこういう事だったのか」

「お兄ちゃん……?」

 

 穂乃果が撫でるのを止めながら呟くと、イヴは首を傾げて聞く。最初の部屋から出る時も穂乃果は同じ様に「兄」の事をチラッと話していたのを思い出しのだ。

 

「そうだよ。穂乃果にはね、なんでも出来るけどちょっと迷子になりやすい、とっても頼りになるお兄ちゃんがいるんだ」

 

 それを機に穂乃果は休憩を兼ねて兄である若葉の事を話し始めた。

 

「穂乃果のお兄ちゃんはね、穂乃果と双子なんだ」

「双子ってそっくりさん?」

「うん。穂乃果みたいに髪を結んだら分かる人が少ないんだよ」

「へぇ〜」

 

 穂乃果の話にイヴは目を輝かせて話を聞き入る。それから穂乃果は若葉の事を聞かれるままに話して聞かせた。

 

「へぇ〜一回でもいいから会ってみたいなぁ」

「じゃあここから出られたらウチに遊びにおいでよ」

「うん! 絶対行く!」

 

 イヴは穂乃果の誘いに間を置かずに笑顔で頷く。そんなイヴに微笑み返し、穂乃果はよし、と気合を入れて立ち上がる。

 

「そうと決まったら早くここから出よっか!」

「うん!」

「……どっちに行こう?」

 

 勢い込んだ次にこの発言。イヴも思わず苦笑いで返してしまう。そして取り敢えず、と左に続く通路を指して二人はそちらに歩を進めた。

 歩き出して暫く、行き止まりに着いた二人は今までと同じ様に辺りを見渡す。

 

『嘘つきの部屋』

 

「嘘つきの部屋?」

「嘘つきは泥棒の始まりって言うんだよね」

「そ、そうだね」

 

 穂乃果は頷くと嘘つきの部屋へと続く扉を開ける。部屋の中は円形になっており、入ってきた緑色の扉から時計回りに橙、白、青、赤、 黄、緑、桃、紫、水色の九色の額縁に入れられた肖像画があった。

 額縁の下には一枚の紙。後ろを向くと扉にも同様に一枚の紙とそこに文書が書かれていた。

 

『正直者が一人。大事なものはその中だよ』

 

「大事なものって何かな?」

「うーん。今までの事を考えると先に進む為のアイテムとか?」

 

 穂乃果が近くにある水色の額縁に触れて動かそうとするも、ビクともしない。それから全ての額縁を同じ様に動かそうとするも、水色の額縁同様全ての額縁ぎ動かなかった。

 

「ダメだ。全然動かない……」

「お姉ちゃん、あれ」

「……机?」

 

 イヴに言われ部屋の中央を見ると、そこには机と椅子が一式置かれていた。入って来た時にはなかったものに少し警戒しながらも近付く。

 机の上には二枚の紙とペンが置かれていた。一枚の紙は白紙、もう一枚には文章。穂乃果は椅子に座ると、側に立っていたイヴを膝の上に乗せ、文章を読む。

 

「えーと

『橙子「正直者じゃなくて嘘つきが一人なんだよ!」

 白子「橙子ちゃんの言う通りだよ」

 青子「いいえ。正直者は二人です。なぜなら私と黄子がそうだからです」

 赤子「違うわ。正直者は私だけよ」

 黄子「青子ちゃんの言う通りにゃ!」

 緑子「あ、赤子ちゃん。嘘はダメだよ」

 桃子「何言ってんのよ。皆が嘘ついてるじゃない」

 紫子「桃子っちこそ何言ってるん? 皆正直者やん」

 水子「紫子の言う通りね」

 答えるチャンスは一回きり』

 どういう事?」

「お姉ちゃん私にも見せて」

「うん。ちょっと待ってね」

 

 穂乃果は一言断ると、机に置かれたペンで漢字の部分にふりがなをふる。

 

「はい」

「ありがとう」

 

 イヴは笑顔で紙を受け取ると文章をジッと読み始める。穂乃果もイヴの頭越しに文章を読み、紙に色々と書いていく。

 

「うーん。分からないなぁ」

「……お姉ちゃん、ちょっとペン貸して」

「? はい」

 

 穂乃果は首を傾げながらイヴにペンを渡す。イヴはペンを受け取ると白紙の紙を手元に引き寄せると、問題文が書かれた紙を見ながら何かをメモするようにペンを走らせる。

 

「もしかしてイヴちゃん答え分かったの?」

「うんと、たぶん……」

「凄いね! 穂乃果全然分からないよ」

 

 穂乃果は笑いながらイヴが書いていく様子を見守る。数分後、イヴがふぅ、と息を吐くと振り返り穂乃果を見上げる。

 

「出来た。たぶん合ってると思う」

「大丈夫! きっと合ってるよ!」

 

 少し不安そうに言うイヴに穂乃果は笑いかけ、イヴから答えの描かれた紙を受け取り、答えまでの過程を見て改めてイヴの頭の回転の良さに舌を巻く。

 

「それじゃあ答え合わせしよっか」

「え、でも一回しか……」

「大丈夫! さ、一緒に正直者を指そう」

「う、うん!」

 

 そして二人は立ち上がると一つの肖像画の前に手を繋いで立つと、よくミステリーで探偵が犯人を指す時みたいに空いた手で指す。

 

「「正直者は、あなたです!」」

 

 そう言って二人が指した肖像画―――赤い額縁の中の人物がニコッと笑うと、胸ポケットから赤い鍵を取り出し手を放す。すると不思議な事に額縁の淵から赤い鍵が現れて床に落ちる。

 穂乃果が鍵を拾い、イヴにブイッと笑いかける。イヴもそれを見て嬉しそうに穂乃果に抱き着く。

 

「やったぁ!」

「イヴちゃん凄いよ! 正解だよ!」

「うん!」

 

 穂乃果は抱き付いて来たイヴを抱え、その場で回り始める。暫くすると落ち着いたのか、ゆっくりとイヴを床に下ろす。そして部屋から出る為に扉のノブを捻る。

 

「……あれ?」

「どうしたの?」

「扉が……開かない」

「……え!?」

 

 穂乃果の言葉に目を見開いて驚く。イヴは慌ててノブに飛び付くとガチャガチャと何度も捻る。しかしノブは上下するだけで扉は開かない。

 

「どうしよう……」

「……取り敢えず、じたばたしても仕方ないから椅子に座ろっか」

 

 穂乃果はイヴを連れて先程と同様にイヴを膝に乗せて座る。しかし向きは机ではなく、扉の方を向ける。

 

「う~ん。どうして開かなくなっちゃったのかな」

「もしかして答えが間違っていたのかな……?」

「それはないよ。だってこうして鍵を手に入れられたし」

 

 穂乃果がほら、と赤い鍵をイヴに見せながら言う。

 

「赤い、鍵……?」

「どうしたの?」

「あの扉って赤かったっけ?」

「……そう言われてみれば。入って来た時は赤じゃなかったね」

 

 イヴの疑問に穂乃果も入って来た時の事を思い出す。少しして確かにイヴの言う通り赤くなかった事を思い出す。

 

「じゃあこの鍵って」

「うん。たぶんここから出るのに使うんだと思う」

 

 イヴは頷きながら穂乃果から鍵を取ると、そのまま扉にの鍵穴に差し込み回す。

 

 ガチャリ パキッ

 

 イヴが開錠した途端、今までの青の鍵、緑の鍵同様に頭の部分だけが取れた。

 

「お姉ちゃん開いたよ」

 

 穂乃果はイヴの行動力に内心下を巻きつつ、イヴのあとに続いて部屋を出る。部屋を出てから新たな衝撃が二人を襲う。

 

「な、にこれ……」

「お人形……?」

 

 来た通路を戻ろうとすると、部屋に入るまでは何ともなかった通路。その通路の天井から十個近くの人形が足から吊るされていた。しかしその人形達は特に何をする事もなく、ただぶら下がって二人を見つめ続けた。

 

「なんだか不気味だね」

「うん。でも何もして来ないんだね」

「みたいだね」

 

 二人は人形を見ながら恐る恐るといった感じでその下を通って行く。そして人形群を抜けた先にあった黄色の扉の前で止まる。

 

「あれ? 鍵穴がない……」

「でも鍵は掛かってるよ?」

 

 再びドアノブをガチャガチャと鳴らすイヴ。その様子に穂乃果はマジマジと扉を観察する。すると穂乃果は赤青緑の三色の穴がある事に気付いた。

 

「ねえイヴちゃん。さっきの赤い鍵の破片ちょうだい」

「? はい」

 

 イヴは首を傾げながらも穂乃果に鍵の破片を渡す。穂乃果はそれとポケットから二つの破片を取り出すと、それぞれの色の穴へと入れる。

 

 ガチャ

 

「……開い、た?」

「たぶん……」

 

 ゆっくりと扉を開けて中を覗き込むと二人の目に入ったのは

 

「……木?」

「木……だね」

 

 部屋の中には八本の木と林檎が生った木が一本、それに奥の壁に一本の枝と林檎が一つ。題名は『木に生った林檎』

 

「この林檎、取れないかな……?」

「う~ん。う~ん……こうなったら!」

「お姉ちゃん?」

 

 イヴが木に生ってる林檎を見上げながら呟くと、穂乃果が手を伸ばして林檎を取ろうとする。しかし手は空を掴むばかりで林檎には届かない。そこで穂乃果は木から少し距離を置くとクラウチングスタートの体勢をとる。そんな穂乃果の行動をイヴは首を傾げて眺める。穂乃果は一度深呼吸をすると、林檎目掛けて走り出し

 

「とど、けぇー!!」

 

 木の手前で思い切り跳躍する。その結果

 

「「あ……」」

 

 林檎の高さには届いたものの、手が通り過ぎたのはちょうど林檎一個分横の何もない空間。

 

「あと少しだったのに……」

「お、お姉ちゃん諦めないで」

「イヴちゃん……そうだよね。大丈夫。まだ他にもアイディアはあるから!」

 

 イヴに慰められた穂乃果は元気よく立ち上がると、木の根元でしゃがみこむ。

 

「イヴちゃん、肩車だよ!」

「……肩、車?」

 

 イブが聞き返すと、穂乃果は頷く。イヴは遠慮気味に穂乃果の背中から器用に肩に跨る。

 

「それじゃあ立つよ~?」

「う、うん」

 

 イヴが返事を返すと、ゆっくりと視線が上がっていく。そして上がる動きが止まった時、林檎は手を伸ばせば届きそうな場所にあった。

 

「お姉ちゃん、もう少し左」

「左だね。しっかり掴まってて」

 

 イヴの指示の元、穂乃果がゆっくりと移動し修正する。イヴも身を乗り出さない範囲で林檎に手を伸ばす。そして

 

「取れ、た~!」

 

 イヴは取った林檎を大事そうに両手で包む。それから穂乃果に下ろしてもらい、林檎を見せる。その時のイヴの表情は笑っていた。

 

「イヴちゃんやったね!」

「うん!」

 

 二人はパチンと手を合わせると最初に訪れた十字路まで戻り、唇のあった道を進みだす。

 

「また来た 俺 腹減ってる」

 

 唇は二人が近付いたのに気付いたのか、先程と同じことを言う。

 

「あの、薔薇は上げられないけど……この林檎じゃ、ダメ?」

「林檎 俺 好き 林檎 よこせ」

 

 イヴが林檎を取り出した途端、唇が嬉しそうに言う。イヴが唇に近付き林檎を上げようとすると、穂乃果がそれを止める。不思議に思ったイヴが穂乃果を見ると、穂乃果はまっすぐ唇を見ていた。

 

「早く 林檎 よこせ」

「唇さん、でいいよね? あのね唇さん。人にお願いする時は「よこせ」じゃなくて「下さい」って言うんだよ? 穂乃果もよくお兄ちゃんや海未ちゃんに言われるから注意しないとダメだよ?」

「…… 林檎 ください」

 

 穂乃果の説教の後、唇は少し迷った様に間を置くと穂乃果の注意通り言葉を直してイヴにお願いした。

 

「はい、どうぞ」

「林檎 美味しい 気に入った ここ通す 気を付けてな」

 

 唇はそれだけ言うと上下に大きく開き、動かなくなる。穂乃果とイヴは顔を見合わせると頷き合い、穂乃果から唇を潜る。潜った先は通路になっており、一先ずは安全な事が分かる。

 

「イヴちゃんこっちは大丈夫だよ~」

「うん。分かった」

 

 そして穂乃果が出て来た場所からイヴが現れる。

 

「よし、じゃあ行こっか」

「うん!」

 

 二人は段々と刃が上がって行ってるギロチンの絵を横目に通路を進んでいく。

 

「あ、イヴちゃん。靴紐が解けてるよ?」

「あ、本当だ」

 

 穂乃果に注意され立ち止まるイヴ。その時

 

 ガガガガガガドォン!

 

 イヴ達の目の前に絵と同じギロチンが落ちて来たのだった。位置で言えば穂乃果がイヴの靴紐を注意しなければ二人に当たっていた場所。穂乃果は頬を流れる冷や汗を拭うと、隣で震えているイヴの頭を撫でながら恐る恐るギロチンの刃に近付く。

 

「……もう大丈夫みたい」

「危なかった……」

「うん。さっきの唇さんが言ってたのってこの事だったんだね」

 

 穂乃果はイヴの手を引きながらギロチンの横を通り、その先にある階段を下りて行った。

 

 




どうも皆さん、お久しぶりです。

さて、謝罪の言葉は終わりにしまして、今回は知り合いに挿絵を描いて頂きました。場面?見れば分かりますよ。



【挿絵表示】



♪♪♪
猛唇
未だになんて読むのか……この作品ではちょっとしたツンデレ?

『忘れた頃に』
実際に体験すると忘れられないと思う。特に穂乃果みたいに被害を被った場合はなおさら。

穂むら訪問フラグ
またの名を死亡フラグ

嘘つきの部屋
ちゃんと答えに行き着けるか不安でしかないオリジナル要素。挿絵は解けた瞬間の二人。
登場する色は掛け声の順番をお揃い。


それでは次の更新までごゆるりと当美術館をご堪能下さい。
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