西暦2025年、ヨーロッパのとある港町にて……
「ローサ!これが終わったら昼飯にしよう!」
「ハーイ!パパ!」
ここはヨーロッパの片田舎にある港町。漁業を生業とする住人が多く、主な財政資源となっている。事件など酔っ払った男同士の喧嘩と浮気が原因の夫婦喧嘩、悪ガキどもの起こす非行問題くらいで
「よっしと!ん……?なんだあれは?」
漁師のエンリコが魚の入った
「霧か?しかし予報じゃ今日は快晴で 霧の注意報なんて出ちゃいないはずだが……」
まぁ海は気紛れだからな、と言ってエンリコは構わず作業を続ける。だが異変は突然にやって来た。
「おい!エンリコ!」
「どうしたぁ!!マリオ!」
急に大声で呼ばれて何事かと振り替える。彼を呼んだマリオは沖の方を指差して慌てている。
「船が……船が一隻物凄いスピードで突っ込んで来る!!」
「何!?」
エンリコが沖を見ると確かに一隻の漁船が猛スピードで漁港に向かってきている。
「あれは……トニオの船だ!」
漁港に向かってきているのは仲間のトニオの船だった。そしてトニオの船は一向に速度を落とさないまま漁港に直進してくる。ほぼ最高速度を出しているようだ。
「あいつ何をやってる!?このままじゃ突っ込むぞ!!マリオ!皆を避難させろ!」
エンリコは漁港で作業をしている者を避難させようとしたが、時既に遅し。トニオの船はそのまま停泊していた他の船に激突、更に衝撃で浮き上がり港の中へ侵入して加工場のプレハブに突っ込んだ。
「うわぁっ!ぐっ……そ、そんな………」
加工場からは爆音と共に火の手が上がる。どうやら船の燃料が漏れ出し加工場の機械電源に引火したようだ。プレハブの中からはまだ生きている人間が逃げ出してくる。その中には火が燃え移り火だるまになっている作業員の姿も。
「誰か!消防に連絡しろ!他は火を消せ!生き残ってる奴を助けろ!」
加工場の外にいた人間はあまりに唐突で衝撃的な出来事に半ば放心状態だったが、エンリコの声で我に返り消火や救助に当たる。
エンリコは船の燃えていない箇所から乗り込み、トニオの安否を確認する。
「トニオ!何処だトニオ!?」
必死の呼びかけにも反応は無い。エンリコは操舵室を探すとそこにはあり得ないものがあった。
「トニオ?トニオか!?待ってろ!今助け……!?」
操舵室にあった物を見てエンリコは絶句した。そこにはいたのはトニオではなく、ブヨブヨとした気色の悪いクラゲのような、しかしその色は肌色に近く、まるで浜に打ち上げられた巨大な深海鮫の腐乱死体のような得体の知れない物だった。
「な、何だコイツは!?トニオは!?トニオは何処だ!?」
「………リコ………」
「!?」
「まさか……トニオ、なのか?」
よく見るとそれには顔のようなものが見えた。その顔は判別こそしにくいもののトニオの面影があった。
「エン……リコ……」
「おい!おい!トニオ!何があったんだ!?」
エンリコはトニオに近づき問いただす。
「霧……」
「何?」
「霧……が………来る……」
「霧……?おい!どういうことだ!?」
霧が来る……そう言い残してトニオであった物体は動かなくなった。エンリコはトニオをその場に残して燃え盛る加工場から脱出した。
「エンリコ!大丈夫か!?」
「俺は大丈夫だ。だか、トニオは……」
「そうか……残念だ……」
「他の皆は無事か?」
「何人かは爆発や火に巻き込まれてダメだ。でももうすぐ消防車と救急車が来る。そうなれば安心だ」
「そうだな。だかそれまでの間に俺達は出来ることをしよう。幸いここは港だ。水なら幾らでも………ん?」
まだ燃えている加工場を少しでも消火しようとした矢先、辺りが暗くなり始めた。
「何だ?急に暗く……」
「すごい霧だ……何も見えない」
先程突如現れた濃い霧が今港へ到達したようだ。あまりの濃度に十メートル先も見えない。
「でもこれだけ濃いと火も消えそうだな」
「そんなに甘いもんじゃない。さぁ、さっさと火を……」
「どうしたエンリコ?」
さっさと火を消してしまおう、と言いかけた時エンリコの言葉が止まった。
ゴボッ……
「エ、エンリコ!?どうしたんだ!?大丈夫か!?」
突然エンリコが口から大量に吐血し、その場に倒れてしまった。
「ウグッ……ガハッ……!」
マリオの呼びかけにも全く答えることが出来ずエンリコは吐血し続ける。
「エンリコ!エンリコ!……えっ」
エンリコに声をかけ続けていたマリオだか一瞬周りを見て絶句する。その目には信じられない光景が映っていた。
なんと火災を逃れ救助や鎮火にあたっていた他の人間達も次々と倒れ始めていた。皆エンリコと同じく吐血している。
「一体どうなって……ウッ!」
急に吐き気が込み上げ何かを吐いてしまった。受け止めた手には、ドス黒い血が付いていた。
「嘘………俺も……」
2025年8月4日、『ヨーロッパの港町の住人全員死亡』のニュースは、世界中に衝撃を与えた。そしてこれが、西暦という人類の歴史の終わりの始まりだった。
この度は『霧の向こうへ……』を読んでいただき誠にありがとうございます。作者の阿湊瞭市です。今回は序章のみであまり書くとネタバレになってしまうので今回はこれくらいで失礼いたします。では次回から本編開始致しますので応援どうぞお願いします!