「さて、五月蝿い蝙蝠どもより楽しませてくれるのだろう?さぁ、早く
コカビエルは楽しそうに笑い、ルシウスへ構えを取る。
その目は愉悦を浮かべ、これから始まるであろう戦いに心を踊らせる。
対するルシウスは先ほどとはなんら変わらずバルパーをその手で殺した時と同様、虫けらを見るかのような目でコカビエルを見据えている。
しかし、気がつけば──
「ほう、なかなかに早いな」
──コカビエルの背後から貫手を繰り出していた。
だが、コカビエルは見えていたのか余裕を持って躱す。
絶好のタイミングを逃したことにルシウスは舌打ちをする。
突き蹴りと追撃をするがコカビエルは全てを難なく受け流す。
ルシウスの目に侮蔑とは違う色が帯び始める。
コカビエルはルシウスの目は気に入らないがこれまでの経歴を考えればその様も納得がいくというもの。
何より久しく味わえなかった強敵との戦いの前にはそのような問題など些細な事だ、より口元を歪ませ防戦から攻勢に打って出た。
コカビエルは光の剣を形成すると腕を振り下ろす。
ルシウスは未だ無手、受ける止めることは悪手と判断し大きく後退することで対応する。
ルシウスは先ほどまでの数秒のやりとりにいまの出力では足りないと判断を下す。
いまのままなら千日手、どちらかの体力が尽きぬ限り勝敗が決することはないだろう。
ルシウスとしてはバルパーを殺った時と同じように初撃の貫手で心臓を穿ちたかったのだが腐っても堕天使の幹部、やはりうまくいかないものだなと、心の中で苦笑する。
──わたしを使いなさい、一瞬でケリをつけてあげる。
心の中での苦笑が聞こえていたのかルシウスの
けれどルシウスはその申し出を断った。
(使うまでの相手じゃねぇよ、面倒だが俺の愛剣を使うさ)
──そう、久々に
(そういうな。前も言ったがどうせこれでもかってくらいテメェを使う時が来るんだ。しばらくは寝てろ)
──約束よ。その為に貴方を
(あぁ、約束だ。……さて、と。始めるか)
神器の鼓動が消えるとルシウスは息を吐き、1度拳を握り締めると、右手を突き出して異空間へと接続する。
「……起きろ、アロンダイト」
異空間から右手に握られたのは一振りの黒き魔剣。
ルシウスが両親から継承したランスロット家に伝わる魔剣であり、元々は湖の貴婦人よりランスロットへ贈られた聖剣。
かの有名な太陽騎士ガウェインの弟たちを斬り殺したことで魔剣に堕ちたとされる聖なる魔剣。
派手な装飾は一切なく実用性のみを追求した無骨なバスターソード。
魔剣としての名も切れ味も魔帝剣グラムに劣るだろう、聖剣デュランダルのような空気が震えるような波動を放つこともない。
聖王剣コールブランドような空間に干渉するほどの能力もない。
しかしアロンダイトは決して折れず歪まず不変の剣。
その能力は不変、そして使用者への強化。
持ち主の力量次第では魔剣アロンダイトはこの世の聖剣、魔剣、王剣、名刀、妖刀全ての剣を凌ぐ。
アロンダイトの最初の使い手は円卓の騎士最強と謳われたサー・ランスロット。
現在の使い手は最初の使い手の子孫にして、人類を超越せし聖人。
ルシウスはアロンダイトの解号を唱え、その能力を発動させた。
アロンダイトに紅い光線が奔り、何処か近代的な起動音が聞こえる。
ルシウスの肉体に巡る聖痕から洩れ出る光は輝きを増し、ミチミチと身体から軋む音が鳴る。
「久々に使ってやるんだ、せいぜい楽しめアロンダイト。今宵の獲物はそこそこだぞ」
ルシウスの言に応えるようにアロンダイトは振動する。
「さて、コカビエル。テメェをぶっ殺させて貰うわ」
翼を削ぎ、腹を穿ち、手足を捥いでやる。
母さんと父さんのように、惨たらしくな。
コカビエルはルシウスから発せられる光力の波動に高らかに笑う。
「クハハハハッ!いいぞ聖人!これだ、これこそが俺が求めてきた闘争!なんと心地の良い殺気だ!」
先ほどまでと打って変わり今度はコカビエルが仕掛ける。
翼を羽ばたかせルシウスへ急降下、そして手にした光の剣を振り下ろす。
ルシウスはアロンダイトを右手に横に構え、相撃する。
両者の激突に大地は裂け、駒王学園の校舎は陥没し崩れていく。
リアスたちグレモリー眷属とゼノヴィアがその様に息を呑む中、その攻防は激しさを増してゆく。
どちらかが剣を振るえば空を裂き、片方が受け流し躱し反撃する。
剣から発生する衝撃波は崩れた学園を更に崩し、校舎も校庭も用務員さんたちが汗水垂らして整えたであろう花壇や学園を覆う木々さえも無残な姿へ変えていく。
「……これが、本当の戦いなのか?」
グレモリー眷属の中でも戦闘経験の少ない一誠はそんな言葉を漏らした。
握られた手からは血が流れ、歯を食いしばりルシウスとコカビエルの先頭から目を離さないその表情は悔しさに溢れていた。
その戦う姿に、本来であるならばルシウスの立っている場所には俺たちが立っていたはずだと。
なのに自身の力不足で見ていることしかできない。
堕天使レイナーレとの戦いの時も、上級悪魔ライザー・フェニックスとの戦いの時も、一誠は死力を尽くし打倒した。
常に格上との戦いだった。
けれどこれは。
これはっ!
どうしようもなく勝てない!
これまで何度も助けられた
片方はただの人間であるはずなのに。
「……俺は、あそこまで昇れるのか?」
「えぇ……。いつか、きっとイッセーなら」
リアスはそう答えるのが精一杯だった。
あまりにも自分たちとは違いすぎたから。
コカビエルはどうか分からないがルシウスはまだ全力を出していないのだ。
リアスは知っている。
過去に一度だけ出会った日にルシウスの神器を見たことがあるから。
まだルシウスはその力量の半分も出していないように思えてしまう。
だからイッセーへ曖昧な言葉しかかけることができなかった。
そしてもう1人、過去のルシウスを知る祐斗もまたその力量差に絶望する。
同じ想いを。
同じ復讐を達成せんと心に誓った2人。
示し合わせたわけではない、けれど確かに同じ復讐心を宿していた。
その復讐心が祐斗はルシウスに劣っているとは思わない、けれどこの差はなんだ!
確かに当時から差は存在した。
片や最年少
片や聖剣計画の被検者。
その差は確かに大きい。
だがこの数年祐斗は剣の腕をひたすら磨き続けた。
この、大っ嫌いだった
だというのに聖剣計画の成功者というフリードを倒しただけで、復讐の矛先のバルパーは死に、それを殺したのは天がひっくり返ろうと勝てない相手。
そんな相手と対等に戦えている同志の姿に祐斗は、◼︎◼︎◼︎◼︎は絶望する。
これまでの数年はなんだったのだと、血反吐に塗れながら足掻いたこの数年は、目の前の戦いに縋り付くことすら出来はしない。
同志たちに誓ったのだ。
もういいよ、と赦されたとしても。
これだけは果たすと。
バルパーを殺し、そのバルパーを使うコカビエルを殺すことで漸く前を向いて歩いていけると、そう思ったのだ。
だが、現実は無情なりや。
祐斗が幾ら望もうとそこに入り込む余地を与えない。
祐斗に出来るのはただ、見ていること。
自身の無力に苛まれながら見ていることのみだった。
グレモリー眷属が各々様々な思いで両者の戦いを見ている端でゼノヴィアは何とか正気を取り戻していた。
「……やっぱり、まだ遠いな」
これまで追い続けてきた背中は少しも近づくことはなく遠ざかっていくばかりだと、こんな時に思ってしまう。
アロンダイトをルシウスが使い始めてから戦況は動き出した。
先までその顔に笑みをたたえていたコカビエルが劣勢になり始めたのだ。
あれが、私が目指した
復讐のために研いだそのチカラは遂に堕天使の幹部すら嘲笑うかのような圧倒的なまでに変貌し、人類最強と言ってもいいのではないかと思えた。
いや、いまのみならずこれまで人類の転換点に現れてきたどの英雄よりも強いだろうと、ゼノヴィアは本気で思っている。
ドカン、とひときわ大きな音が駒王学園に響く。
校庭に蜘蛛の巣のような丸い亀裂が生まれ、その中央にはコカビエルが血を流して宙を睨んでいた。
「ハッ!これがかの有名なコカビエル?羽有りだからと警戒していたが、無駄だったな!此れでは羽無したちと何ら変わらねぇ!こんなことなら黒歌のヤツにでもやらせればよかったか?」
「フザケルナァァアアア!?俺が貴様ら人間と同じだと?この至高の堕天使たる俺がっ!?よりにもよって貴様らと!?ふざけるんじゃない!俺は、コカビ「黙れ」ガハッ!?」
コカビエルの叫びを遮りルシウスは空から急降下し、踵をコカビエルの脳天に振り降ろす。
コカビエルの頭が地面に叩きつけられ地面に埋もれ、身体がカエルの死体のようにビクンビクンと震える。
薄汚れた5対の黒翼を掴み、その生え際に足を乗せる。
聖力を込め、踏み抜いた。
☆☆☆☆☆
音が消えた。
誰もが動けなかった。
砂塵が舞い上がり、風が流されていく。
薄っすら見えてくるその戦場はもはや学園と呼べるものは何一つ残らない。
校庭だった場所の中央に影が見えた。
影は1つ。
純白の法衣を纏う聖職者。
地に這うは胸を踏み抜かれ大地を紅く汚す翼捥がれた烏。
聖職者の手には烏から捥ぎ取った翼10翼。
接合部からは赤い雫が流れ大地を染めていく。
誰が見ても明らかだった。
誰が見ても明らかだった。
誰が勝者なのか。
誰が敗者なのか。
誰が強者で、誰が弱者だったのか。
人が強者で、堕天使が弱者であることが。
誰もが思った。
これが化け物かと。
「……誰です、か?あの人は……?」
震える声が皆の耳に届く。
あれは誰か?
決まっている。
「──あれが、ルシウスだよ」
コカビエルの血で頬を紅く染めて愉悦に歪んだ顔をした男。
「あれが、私の知っているルシウス・ランスロットという男だ。悪魔、堕天使を憎み、滅することを生きがいとする教会の、神の使徒さ」
ゼノヴィアがアーシアへ告げた。
あれこそがルシウスだと。
でも、
「あれは、ルシウスなんかじゃ……ありません」
あれは……
最後までいう間も無くアーシアは体を揺らし、倒れた。
「アーシア!?」
一誠は倒れたアーシアに駆け寄り抱き起こすと身体は冷え切り、気を失っていた。
「イッセー!アーシアは!?」
「大丈夫です、気を失っているだけです!」
「そう、よかったわ。なら先にあっちの問題を……ッ!?」
アーシアの容態に胸を撫で下ろし、先に片付けるべき問題としてルシウスへ視線を向けると息を呑んだ。
天に向け、膨大な聖力を注ぎ込まれたアロンダイトは光り輝き、それはゼノヴィアの持つデュランダル以上の存在感を放っていた。
「『天を裂けアロンダイト』」
ルシウスの発した言と同時にアロンダイトから放たれた光の本流は結界を突き破り、天へ登っていく。
光が止むとその結界の斬痕は月と重なり月を斬り裂いたかように見るものを錯覚させる。
だがそれよりも、
「どうして結界を破壊したのか教えてくれるわよね、ルシウス?」
何故結界を破壊したのか。
確かにコカビエルという脅威は去った。
他ならぬルシウスのおかげで。
しかし、結界を無理やり破壊する理由にはならない。
無理やり破壊すれば結界を張っているソーナたちシトリー眷属たちへ影響を与える。
結界を解除したかったのならリアスなり誰かに言えば、それをソーナたちに伝え解除することもできたのだ。
それをせず破壊したことにリアスは疑問を投げた。
「やれやれ、相変わらずだなルシウス。キミは容赦を知らない」
それに応えたのはまた別の存在だった。
戦闘回であるはずなのに、戦闘シーンは殆どなし。難しい……。