堕落の聖人〜最強のはぐれ悪魔祓い〜   作:赤嶺

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第1話

 昨日イッセーさんの家に二人組みの悪魔払い(エクソシスト)さんがいらっしゃってから、私はある悪魔払い(エクソシスト)がどうしているか気になっていました。

 

「はぁ……」

 

「大丈夫かアーシア?昨日イリナたちに会ってからため息ばかりついているけど」

 

「え?だ、大丈夫ですよ。イリナさんたちを見て昔お世話になった方がいまどうしているか気になってしまって」

 

 出て行くときには会えませんでしたし、怪我をしていないといいんですけど。

 

「どうしているかって、教会の人?」

 

「はい。五年くらい前から仲良くしていただいていた方のことを」

 

 イッセーさんが怖い顔をして恐る恐る聞いてきます。

 

「……そ、それって……男か?」

 

 どうして性別が気になったんでしょうか?

 

「?はい。そうですよ」

 

「うわぁぁぁ!まさかアーシアに男がぁぁぁ!!」

 

 私が答えたとたんイッセーさんは頭を抱え、叫びながら転げまわり始めました。

 

 だ、大丈夫でしょうか!?

 

 ど、どこか怪我をしていたら大変です!

 

 イッセーさんに駆け寄ると私の神器(セイクリッド・ギア)、『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』を出現させイッセーさんの背中に触りました。

 

 そこに意識を集中させ治ってくださいと念じると、淡い光が聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)から溢れ背中を包む。

 

 けれど、イッセーさんに変化はありません。

 

 聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)は怪我にしか効果がないので原因は怪我ではないみたいです。

 

 ではどうしてイッセーさんは転げまわって?

 

「……無様」

 

「ぐはぁっ!」

 

 小猫さんにボソッといわれた言葉で転げまわるのをやめて動かなくなってしまいました。

 

 動かなくなったイッセーさんに私はなにも出来ません。

 

「あらあら。もしかしてアーシアちゃん。その人のことが好きですの?」

 

「えっ!?ち、違いますよぉ!その人も悪魔払い(エクソシスト)だったからです!」

 

 朱乃さんの問いかけに大きな声を上げてしまいました。

 

 すぐに否定しましたけど、朱乃さんは私を見て笑っています。

 

 うぅ、恥ずかしいです。

 

 顔、赤くなってないでしょうか?

 

「アーシア。顔が赤いわよ」

 

 部長さんに赤いと言われてしまいました。

 

「うぅ、からかわないでくださいぃ!」

 

「ごめんなさいね。顔を赤くしているアーシアが可愛らしくて。それでその悪魔払い(エクソシスト)とは恋人なの?」

 

 部長さんが真剣な顔で聞いてきます。

 

 その表情に私は部長さんが言わんとしていることが分かりました。

 

「……大丈夫です。恋人ではありませんでしたから」

 

「……そう」

 

 私の表情に部長さんも朱乃さんも小猫さんも木場さんもいつの間にか復活していたイッセーさんもそれ以上はなにも聞いてきませんでした。

 

 コンコン

 

 部室の扉をノックする音が私にはどうしてか大きく聞こえました。

 

 

 

 部室を訪ねてきたのは昨日イッセーさんの家に来たイリナさんたちお二人です。

 

 茶色の髪をツインテールにしているイリナさんに青色の髪に緑色のメッシュの入った背の高い女の人です。

 

 ソファーに座っているお二人が話を切り出しました。

 

「この度は突然の訪問で申し訳ない」

 

「かまわないわ。それで交渉したいこととは?」

 

「先日、カトリック教会本部ヴァチカン及び、プロテスタント側、正教会側に保管、管理されていた聖剣エクスカリバーが奪われました」

 

 ……え?

 

 エクスカリバーが奪われた、ですか?

 

 あれは教会の深部に保管されていて使用者以外は近づくことさえ出来ないほどで、奪うなんてことは到底出来ないはずです。

 

 それが奪われてしまうなんて……。

 

 ふとイッセーさんを見ると何を言っているのか分からないようで首を傾げていました。

 

「聖剣エクスカリバーそのものはもう存在しないわ」

 

 部長さんがイッセーさんに説明していますがよく分からないみたいで頭の上に?が浮かんでいるのが見えました。

 

「イッセーくん、エクスカリバーは大昔の戦争で折れたの」

 

「いまはこのような姿さ」

 

 イリナさんの説明で青い髪をした女の人が布に巻かれていた長い物を取り出し、布を剥がしました。

 

 そこに現れたのは一振りの長剣。

 

「これがエクスカリバーだ」

 

 エクスカリバーを視界に入れた瞬間、私は恐怖、戦慄、畏怖といった負の感情に支配されました。

 

 人間にとってはエクスカリバーは聖なるもので私が感じたものとは真逆の感情を抱いたと思います。

 

 でも、私は悪魔。

 

 信者ではなく背信者。

 

 かつて見たかったものもほとんどはもう私にとって毒でしかないのでしょう。

 

「大昔の戦争で四散したエクスカリバー。折れた刃の破片を錬金術によって新たな姿になったものさ。これは七本作られたうちの一本、『破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)』だ」

 

「私のは『擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)』。形を自由自在に出来るわ」

 

 イリナさんが腕に着けていたシュシュが形を変えて一振りの刀になりました。

 

 この聖剣からも先ほど破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)同様の気配を感じました。

 

「イリナ……悪魔にわざわざエクスカリバーの能力を話す必要もないだろう?」

 

「あら、ゼノヴィア。いくら悪魔だからといっても信頼関係を築かなければ、この場ではしょうがないでしょう?それに私の聖剣は能力を知られてもこの悪魔の皆さんに遅れをとることなんてないわ。それはあなたも同じでしょ?」

 

「確かにな」

 

 イリナたちは私たちに勝てる自身があるんですね。

 

 いまの発言で部長さんたちがムッと顔をしかめてました。

 

 二人がエクスカリバーをしまってくれたので先ほどまで感じていたプレッシャーからは開放されました。

 

 でもまたすぐ近くからプレッシャーを感じました。

 

 木場さんです。

 

 木場さんがすごく怖い表情でエクスカリバーとお二人を睨んでいました。

 

 木場さんのそんな表情を見るのは初めてでどうしたいいでしょうか?

 

「……それで、奪われたエクスカリバーがどうしてこんな極東の国にある地方都市に関係があるのかしら?」

 

「各教会から一本ずつ奪われた。奪った連中は日本に逃れ、この地に持ち込んだって話なのさ」

 

「エクスカリバーを奪ったのは?」

 

「……『神の子を見張る者(グリゴリ)』だよ」

 

 部長さんたちが息を呑むのが分かりました。

 

 もちろん私も。

 

 だってそれはあまり裏の世界には関わっていなかった私でも知っているビックネームでしたから。

 

「堕天使の組織に聖剣を奪われるなんて失態どころではないわね」

 

「奪ったのは神の子を見張る者(グリゴリ)の幹部、コカビエルだ」

 

 ……。

 

 ……え?

 

 ……コ、コカビエルですか!?

 

 コカビエルといえば聖書にも記されている古の堕天使。

 

 先の大戦でも生き延びた古強者です。

 

 部長さんもコカビエルの名前を聞いて苦笑いをしています。

 

「私たちがここに来たのは、私たちと堕天使のエクスカリバー争奪の戦いに悪魔が一切介入しないこと。今回の事件に関わるなと言いに来た」

 

「それは牽制かしら?もしかして、私たちがその堕天使と手を組んで聖剣をどうにかすると思っているの?」

 

「本部は可能性がないわけではないと思っているのでね」

 

 部長さんの瞳に冷たいものが宿るのが分かりました。

 

 眉もピクピクしてますし相当怒っています!

 

 でも仕方ないかもしれません。

 

 部長さんの領地に勝手に入って来た者たちの行いに一切の関わりをするなといった挙句、共犯になっているかもと言ってきている訳ですから。

 

「上は悪魔と堕天使を信用していない。聖剣を神側から取り払うことが出来れば、悪魔も万々歳だろう?堕天使どもと同様のメリットがある。それゆえ、手を組んでもおかしくない。もし、堕天使コカビエルと手を組めば、我々はあなたたちを完全に消滅させる。たとえ、そちらが魔王の妹でもだよ」

 

「私は堕天使などと手を組まない。絶対によ。グレモリーの名にかけて。魔王の顔に泥を塗るような真似はしない!」

 

 部長さんの言葉を聞いて青い髪の女の人―――ゼノヴィアさんはフッと笑いました。

 

「それが聞けただけでもいいさ」

 

「あなたたち二人でエクスカリバーを奪還するの?無謀ね。死ぬつもり?」

 

 部長さんが呆れ声で聞くと、お二人は何かを決意の眼差しをして言い切りました。

 

「そうだ」

 

 と。

 

 もし、私がまだ『聖女』で主の信者であったならお二人のように断言できたでしょうか?

 

 それはもしもの話で意味のないことだと分かっていますが、もし、そこで断言できるような信者であったなら、私は追放されなかったかもしれません。

 

 でも、きっと私はお二人の立場になっても断言は出来なかったとも思いました。

 

 だって、私にはもう……。

 

「無論、ただで死ぬつもりはない。最低でも堕天使の手からエクスカリバーはなくすつもりだ」

 

「……二人だけでそれは可能なのかしら?秘密兵器でもあるの?」

 

「さてね。それはご想像にお任せするよ」

 

 それっきり部長さんとイリナさんたちは見つめあったまま、動きません。

 

 しばらくしてゼノヴィアさんが立ち上がりました。

 

「それでは、そろそろお暇させてもらおうかな。イリナ、帰るぞ」

 

「そう、お茶は飲んでいかないの?お菓子ぐらい振舞わせてもらうわ」

 

「いや、遠慮しておこう」

 

 部長さんのお誘いにゼノヴィアさんが手を振って断りました。

 

 イリナさんも立ち上がり、手でごめんなさいと断っていました。

 

 そのままお二人が出て行くのだろうと見ていると、私にお二人の視線が集まりました。

 

 その視線に私は冷たいものを感じました。

 

「―――兵藤一誠の家で出会ったとき、もしやと思ったが、『魔女』アーシア・アルジェントか?まさか、この地で会おうとは」

 

 私は『魔女』の単語を聞いて身体が震えだしました。

 

―――どうして?

 

 私の頭の中に教会で浴びた罵声の数々がフラッシュバックしました。

 

「ああ!確かにアーシアさんだわ。何度か見かけた『聖女』さんとそっくりだし。追放され、どこかに流れたって聞いていたけど、悪魔になっているとは思わなかったわ。これでは()が報われないわね」

 

 ……え?

 

 彼?

 

「……あ、あの……か、彼、って……?」

 

 もしかして……。

 

「それはアーシアさんを追いかけて出て行った元悪魔払い(エクソシスト)のことよ」

 

 私を追いかけて?

 

 そ、それって……。

 

「『ルシウス・ランスロット(・・・・・・・・・・・)』のことさ」

 

―――アーシア。僕は、キミが好きだ。

 

 その名を聞いて、彼の声が、私のたった一人の大切な人の声が、聞こえてきました。

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 あれは私がまだ『聖女』として教会に所属していて、『魔女』として追放される一月前のことでした。

 

「ねぇ、アーシア。アーシアは僕とずっと一緒にいてくれる?」

 

 久しぶりに休暇が取れた彼と近くの高台から街を眺めていたときに、彼が私にそう聞いてきました。

 

 そのときの私は『魔女』として追放されるとは思っても見ませんでしたから、特に考えもせずに、

 

「はい。私はルシウス、あなたとずっと一緒にいますよ」

 

 と、返しました。

 

 まだ、そのときは自分の気持ちにも気づいていなくて彼のことをただの友だちだと思っていて、彼の言葉も友達としてのものだと思っていたんです。

 

 でもそれが間違いだと、彼を見て気づきました。

 

「そっか……。アーシアは僕のそばにずっと、いてくれるんだ……」

 

 泣いていたんです、彼が。

 

 私の言葉を聞いて、幸せそうに。

 

「アーシア。僕は、アーシアが好きだ」

 

 突然の告白に私は彼を見ると彼は手すりに手を置き、街を眺めていました。

 

 白銀の髪は風が持ち上げてなびき、優しい碧い瞳は涙で潤み、私だけに見せてくれる彼の素の表情で街を眺めている姿はとても美しくて。

 

 私は告白されたことも忘れ、ただ彼に見惚れていました。

 

「僕は、アーシアといるとき、心がすごく落ち着くんだ。どんなにつらいことがあって心が乱されても、アーシアを見るだけで、考えるだけで、僕の心は穏やかになっていく。僕はね、アーシアに出逢うまでずっと死んでたんだ。お母さんとお父さんが殺されて、兄さんやルシアが殺されてから、ずっと、心が死んでたんだ。ただ言われたから悪魔を殺し、堕天使を殺す、人形だった。でも、アーシアに出逢って僕は、心に何かが満たされていくのを感じた。初めてだった。心が満たされるのは。生を感じるのは。それから、僕はアーシアに惹かれていった。アーシアが笑えば僕はうれしかった。僕を助けてくれたアーシアがときどき見せる悲しそうな表情に僕は悲しくなった。任務で離れたときもアーシアがいまどんなことをしているのかなって考えるだけで、幸せになれた。アーシアと一緒にいるうちに僕は、アーシアのことが好きになっていたんだ」

 

 彼は街を見つめながら、私に確かに伝わる声でそう言ってきて。

 

 私は涙を流しました。

 

 嬉しかったから。

 

 それほどまでに彼が―――ルシウスが想っていてくれたことに。

 

 ルシウスが、ルシウスだけが『聖女』としてのアーシア・アルジェントではなく、ただのアーシア・アルジェントを見てくれていたことがなによりも嬉しかったんです。

 

 私は教会にとって都合のいい『聖女』という人形としか見てもらえなかったから。

 

 そして私自身がいつも感じていた感情に気づきました。

 

 ルシウスと一緒にいるだけで嬉しくなりました。

 

 ルシウスが部下の女性と話しているのを見て、少し嫌だなと感じたこともありました。

 

 それもすべて私はルシウスのことが、好きだという気持ちだということに。

 

 自覚した途端に感じる暖かな感情。

 

 鼓動が早まり、ルシウスを見るだけで、ドキドキがとまりませんでした。

 

 でも、それから私はルシウスになんて返したか、覚えていません。

 

 ルシウスの気持ちに応えたのか、それとも……。

 

 ただ、ルシウスが好きだという気持ちに嘘はありません。

 

―――あなたは悪魔になった私をまだ好きだと言ってくれますか?

 

 あの高台で想いを告げてくれたあのときのように。

 

―――あなたはまだ私との約束を守ってくれますか?

 

 先に私が破ってしまった約束だけど。

 

―――私ともう一度逢ってくれますか?

 

 いつも任務が終わると逢いに来てくれたように。

 

 叶うことなら。

 

 私は―――

 

 これまでの思い出のように。

 

―――もう一度、あなたと一緒に笑い合いたいです。

 

 

 

 

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