第5話
初めてアイツを見たとき何も感じなかった。
容姿に嫉妬はしても教会に属する人たちからする嫌悪にも似た気配も、間に属する人たちからする危険な気配も、何も感じなかった。
2度3度会おうともそれは変わらない。
ただ、アーシアだけは。
アーシアだけは、アイツを見たとき明らかに他の人たちとは違う反応をした。
ゼノヴィアとイリナは再会を驚きながらも喜んでいたというのに、アーシアだけは。
と、血の気の引いた顔で聞いてきた。
あれは誰だ、と。
誰よりもアイツをよく知っているはずのアーシアが。
後になって思えば、アーシアだけがアイツの変貌に気づいていたんだろう。
もし、初めて出会ったとき。
俺が、俺以外の誰かが。
アイツの部下だったゼノヴィアやイリナが。
昔、1度会ったことがあるという部長が。
何よりずっと側にいたであろう小猫ちゃんのお姉さんである黒歌さんが気づくことができていたなら。
きっと。
きっと、あんな悲劇は起こらなかった。
☆☆☆☆☆
「ん〜」
黒歌と別れホテルを出たルシウスは陽を浴びて両手を天に向かって大きく伸びをした。
ーーー久方ぶりに機嫌が良さそうね。
(ああ、黒姉と久しぶりに一緒に寝たからかな)
そう頭の中に聞こえてきた声に応えると、ゼノヴィアとイリナを探しにゆっくりと歩き出す。
ーーーそう。私とは毎日寝ているのに機嫌が悪くて、黒歌と寝ると機嫌が良くなるのね。
(もともと機嫌が悪かったわけじゃないよ。ただ、本当に久しぶりだったから。それにーーー)
ーーーそれに、なに?
(やっと見つけたんだ……)
ーーーバルパー・ガリレイね。
(そうだ、漸く見つけた兄さんとルシアの仇だ)
これまでのルシウスの人生は復讐だった。
途中で、アーシアと出逢ってから復讐以外の道も生まれていたがそれでも仇を探すことを止めることなく続けた。
主犯であるバルパーを除き、バルパーに付き従った神父、悪魔祓い、聖剣使いその全てを殺し、ようやく最後の仇にたどり着いたのだ。
胸に手を当てれば、いつもよりも早く、強く脈を打つ心臓の鼓動が伝わる。
脳裏に浮かぶのはバルパーによって毒ガスを吸わされ事切れた
よほど苦しかったのだろう、その死に顔は到底穏やかと言えるものではなく頬には涙のあと、口元には吐血した血がべっとりと残っていた。
ルシウスは2人を抱きかかえて誓ったのだ。
必ず仇をとると。
(けど、気になることもある)
ーーー黒歌のことね。
(うん。黒姉は何か僕に隠し事をしている)
今朝報告したことの他に何かないかと聞いた時、黒歌はないと答えた。
けれどルシウスはそうは思わなかった。
この地にはグレモリー公爵家の次期当主、リアス・グレモリーがいる筈だ。
ということはリアス・グレモリーの眷属である黒歌の妹もいるということ。
ルシウスは黒歌のことを信頼しているが、妹、またそれに関係することを隠すことがある。
そして黒歌は自分に何か隠していると感じた。
だから話してもらわなければならない。
それが復讐やアーシアに関わるのなら尚更に。
さらに付け加えるなら今回この駒王町に黒歌を先に送り込んだ際、黒歌にお願いしていたことが2つある。
1つ目はルシウスの復讐対象であるバルパー・ガリレイの居場所、並びに情報を集めること。
2つ目は教会から追放されてしまったアーシアの捜索だ。
バルパーについては事前にこの極東の地で何かを始めるという情報をキャッチしていた為何をしでかそうとしているのか、その実験場となる土地を探させた。
駒王町を黒歌が拠点にしたのは妹がいるからであり、そこでバルパーを発見することが出来たのは偶然であった。
情報を頼りに来たとはいえ偽の情報も多く、過去も何度か偽情報を掴まされたことから今回も当てにしていなかった。
が、今回は偽情報を掴まされたわけではなく本当の情報だったことは僥倖だった。
アーシアについていえば手当たり次第にといったところだ。
ルシウスのところにはアーシアについて一切の情報が入ってくることはなく、日本にいるかどうかさえ分からない。
黒歌に探させたのは僅かながらいる可能性があるだろうと思ったからだ。
ルシウスは黒歌が隠していることはバルパーの情報では無いと思っている。
少なくともルシウスの復讐に対する思いには肯定的だったからだ。
かといってアーシアのことを隠す必要性もわからなかった。
ルシウスにとってアーシアが如何なる存在なのか黒歌は知っているからだ。
ならばアーシアのことでも無いと考えるべきだろう。
だとすれば考えられるのはやはりリアス・グレモリー率いるグレモリー眷属に関わることだろう。
例えば、父と母を殺した悪魔とつながっている可能性がある。
もしつながっているなら黒歌の妹だろうとルシウスは迷わず殺すだろう。
それならば隠すこともわかる。
(まぁ、黒姉が僕を裏切ることは無いだろうから話してくれるのを待つよ)
ーーーそう。貴方がそう云うのなら私から云うことは何もないわ。
それっきり聞こえてきた声が話しかけてくることはなく、ルシウスはゼノヴィアたちを探すために町の人の声を聴きながらゆっくりとファミレスに向かって歩みを進ませた。
☆☆☆☆☆
ゼノヴィアたちを見つけ、近くのファミレスで昼食を取りに来た一誠一行。
ゼノヴィアにとっては初めての、イリナにとっては10年ぶりとなる日本食。
2人はそれはもう凄まじい勢いで食べた。
一誠や小猫、匙も注文したがその食べっぷりに思わず、食欲を失う。
支払いの後の薄く軽くなった財布に一誠は涙したほどだ。
昼食がひと段落つくと漸く本題に入ることができた。
木場に聖剣を破壊するのを認めて欲しい、と。
それにゼノヴィアは、
「なるほどな。いいだろう。ただし、そちらの正体がバレないようにしてくれ。こちらもそちらと関わりを持っているように上にも敵にも思われたくはない」
一誠たちが協力するのを認める言葉を放った。
まさかこんなにあっさり認められるとは思っていなかった一誠一行は思わずポカンと間の抜けた顔になる。
「ちょっと、ゼノヴィア!いいの?悪魔と協力したなんて上に知られたら私たち……」
それに食ってかかったのはイリナ。
「よくて追放だろうな」
「それならっ!」
「だかイリナ、正直言って私たちだけで3本回収とコカビエルとの戦闘は辛い。ルシウスがいたならばなし得るだろうと確信できるが、私たちだけではよくて3割だ。そこに悪魔たちが協力するといってきているのだ。ならば利用しない手は無い」
「それはそうだけど……」
目の前で堂々と自分たちを利用すると言われた一誠一行は顔を引きつらせる。
「それにアーシア・アルジェントに宣戦布告したんだ。こんなところでは死ねんよ」
「……そうね。その通りだわ」
「決まりだな。待たせたね兵藤一誠、いや赤龍帝。伝説の通りならその力は最大まで高めると魔王並みになれると聞く。その力、存分に振るってくれ」
イリナを納得させたゼノヴィアは頷くと、一誠に手を差し出す。
「OK。商談成立だ」
差し出された手を取り、ここに秘密裏の同盟がなった。
同盟が成って一誠たちは木場を呼び出し同盟について伝えた。
ゼノヴィアたちがオカルト研究部に訪れてから来なくなった木場はひとり、エスクカリバーの捜索をしていたのだ。
木場はエスクカリバーと過去に因縁を持っている。
同盟の事を伝えると遺憾と言いながらも同盟に賛同してくれたのだ。
目の前にいる聖剣使いの2本、まだ木場以外は知らないがアーシアが悪魔になった件に関わっていた神父、フリード・セルゼンの持つ3本。
木場としては目の前のエスクカリバーも破壊したいところだが、いまは2人と協力して奪われた3本を破壊することを優先する。
同盟の話を進める中で一誠に無理やり連れてこられた匙は木場とエスクカリバーの関係を知らず、蚊帳の外だった。
そこで少し昔話をすることにした。
カトリック教会が秘密裏に計画した聖剣計画。
それは人工エスクカリバー使いを作り出すこと。
被験者には剣に関する才能と
来る日も来る日も非人道的な実験が繰り返され、被験者の子どもたちは日に日に減っていった。
それでも被験者の子どもたちは神を信じ、耐え続けた。
しかしある日、実験は終わった。
被験者は計画終了に伴い木場を残して総て始末され、木場自身も被験者たちに逃がされることで生き残った。
しかし、逃げ出したが毒ガスを浴び雪の積もった森の中で力尽きてしまった。
そこで出会ったのが木場の主であるリアス・グレモリー。
木場のエスクカリバー全てを破壊するまで死ねないという想いにリアス・グレモリーは木場を悪魔に転生させ生きながらえさせた。
そうして木場は今日までエスクカリバーへの憎しみを抱えながら生きてきたのだ。
そんな話を聞いて、匙は号泣する。
正直乗り気でなかった匙であるが、そういうことならと同盟協力を快諾。
そこで夢について語り出した。
匙の夢、それはーーー
「ーーーソーナ会長とデキちゃった結婚することだ!」
それに対抗するかのように一誠も夢を語る。
一誠の夢、それはーーー
「ーーー部長の乳を揉みーーーそして吸うことだ!」
そこから2人の夢についてのトークが始まり、それを木場が苦笑いしながら、小猫が蔑みの視線を差しながら、ゼノヴィアとイリナは赤面させトリップしながら聞いていた。
気持ちよく夢トークをしているとファミレス内がざわついている事に一誠は気が付いた。
「こんなとこで何語ってんのよ、この変態!」「マジでキモいんだけど……」と聞こえてきそうで、蔑みの視線を覚悟して冷や汗を浮かべながらゆっくりと周りの客たちを伺う。
しかし客たちは一誠たちを見ておらず、皆入口の方に視線を向けていた。
周りのざわつきに木場たちも気がついたようで(匙はまだ夢を語っているが)客たちが注目している入り口に意識を向ける。
そこには店員さんと話をしている長身の外人がいた。
ただの外人であるならばここまで騒がれることはない。
では何がここまで騒がれる原因となるのか。
それはまず服装であった。
なんとその外人は純白の司祭服を身に纏っていたのだ。
それもただの司祭服ではなく、適度に散りばめられた宝石は光を反射して輝き、その身分が相当であるろうことが窺える。
次にその顔立ちである。
白銀の髪を肩で切り揃え、切れ長の碧眼。
十分に伸びた鼻梁は顔立ちを整え、口元は引き締められている。
つまり言うなれば一誠の最も嫌いなイケメンである。
そしてさらには店員さんと日本語で流暢に話す様がここまでの注目をなしていた。
話がついたのか店員さんにありがとうと言うとその外人が一誠たちのいるテーブルの方に近づいてきた。
「(お、おい。あの神父近づいて来るぞ!お前らの知り合いか⁉︎)」
話しかけられ、帰ってきた2人は一誠の指差す先を見やる。
「「あっ……!」」
近づいて来る神父を見て思わず、立ち上がった。
その顔にはやはり驚きの色が大いに占めていたが、少し嬉しさも混じっていた。
「久しぶりゼノヴィア、イリナ。元気そうだね」
片手を上げて、声をかけた神父に2人は駆けて行く。
「久しぶり、じゃない!いったいどこ行ってたんだ!」
「そうよ!ルシウスくんがいなくなって心配してたんだから!」
「ごめんよ、僕にもいろいろあってね。ここ、座ってもいいかな?」
ゼノヴィアとイリナに問いかけながらも返事を待たず、一誠の正面になるソファに腰を下ろした。
ゼノヴィアもイリナも頬を膨らませながら腰を下ろす。
「それでここに何しに来たの?ルシウスくんーーー」
「その前に知らない
イリナの言葉を遮り、自己紹介をしてあまりに一方的に告げた。
「今回の件、キミたちには退いてもらおう。何もせず、ただ静観していてくれ。この件は僕が司る」